NFTと法

第2回 【弁護士が解説】 NFTは金融規制上どのような法的位置付けになる?

IT・情報セキュリティ
片山 智晶弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業 奥田 美希弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業 鈴川 大路弁護士 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業

目次

  1. NFTと金融規制上の法的分類
  2. 暗号資産
  3. 前払式支払手段
  4. 為替取引
  5. ポイント
  6. 有価証券

NFTと金融規制上の法的分類

 第1回【弁護士が解説】 NFTとは? 法規制と実務上の留意点で解説した通り、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を含め、ブロックチェーン上で発行されるデジタルトークンの機能や用途は様々であり、デジタルトークンの金融規制上の法的位置付けはそれらの機能等に応じて分類されます。

 たとえば、決済手段としての経済的機能を有し、ブロックチェーン等のネットワークを通じて不特定の者の間で移転可能な仕組みを有しているデジタルトークンであれば暗号資産として資金決済法で規制される可能性が高いと考えられる一方、デジタルトークンに株式や社債、ファンド持分などに係る権利を表章したものは、有価証券として金商法で規制される可能性が高いと考えられます。

 このように、デジタルトークンの機能等を踏まえて金融規制上の法的分類を行う場合、概要、以下のフローチャートのように整理することができます。

NFTを含むデジタルトークンの金融規制上の法的分類フローチャート

 このように、NFTを含むデジタルトークンは、以下の観点に基づき、その機能等に応じて、①暗号資産、②前払式支払手段、③為替取引、④ポイント、⑤有価証券に分類することが考えられます。「NFT」と呼称しても、必ずしも暗号資産その他の金融規制の対象から外れるわけではありません。

( i )保有者に対する利益分配の有無
( ii )有償発行か否か
( iii )通貨建資産に該当するか
( iv )不特定の者に対して使用および売買・交換ができるか
( v )金銭への払戻しが可能か

 以下、①暗号資産、②前払式支払手段、③為替取引、④ポイント、⑤有価証券、それぞれの定義および要件について解説します。

暗号資産

 暗号資産とは、以下の( i )ないし( iii )の要件をすべて満たすもの(「1号暗号資産」)または、不特定の者との間で、1号暗号資産と相互に交換できるものであって、( ii )および( iii )の要件を満たすものをいいます(「2号暗号資産」)(資金決済法2条5項)。

( i )物品・役務提供の代価の弁済として不特定の者に対して使用でき、かつ不特定の者との間で購入・売却をすることができること

( ii )電子的に記録された財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができること

( iii )本邦通貨、外国通貨および通貨建資産に該当しないこと

 上記要件( i )・( ii )に関して、ビットコインなどの暗号資産には特定の発行者が存在しない場合があり、発行者等の特定の者に対してのみ使用することを想定しているものではありません。そのため、発行者や加盟店など、特定の者のみに対する使用を想定しているSuica等の電子マネーに代表される前払式支払手段は暗号資産には該当しないものと考えられます(金融庁「事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係16 暗号資産交換業者関係」I-1-1②(注)参照))。

 また、上記要件( iii )に関して、通貨または通貨建資産に該当するものは暗号資産に該当しません。ここで、「通貨建資産」とは、本邦通貨もしくは外国通貨をもって表示され、または本邦通貨もしくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるものが行われることとされている資産をいいます(資金決済法2条6項)。

 たとえば、電子マネーのうち、円やドル建てのものは通貨建資産に該当するため、暗号資産には該当しません。

 デジタルトークンが暗号資産に該当する場合、その売買または交換、他人のために暗号資産の管理等を業として行う者は、暗号資産交換業者としての登録が必要となります(資金決済法63条の2)。

 NFTの暗号資産該当性については、第1回「3−2 NFTと暗号資産該当性」をご参照ください。

前払式支払手段

 前払式支払手段とは、以下の( i )ないし( iii )の要件をすべて満たすものをいいます(資金決済法3条1項各号)。

( i )金額等の財産的価値が記載または記録されること(価値情報の保存)

( ii )金額または数量等に応ずる対価を得て発行される証票等、番号、記号その他の符号であること
(対価発行)

( iii )発行者または発行者の指定する者に対する代価の弁済に使用することができるもの(権利行使)

 暗号資産と前払式支払手段は、いずれも物品・役務提供の代価の弁済に使用することができる点で共通しますが、暗号資産は「不特定の者」に対して使用することができるのに対し、前払式支払手段は、発行者や加盟店等の特定の者に対してしか使用することができないという点で異なります。

 また、後述する為替取引(の手段)としてのデジタルトークンと前払式支払手段としてのデジタルトークンについては、前者は金銭による払戻しが可能である一方、後者は原則として金銭による払戻しが禁止されている点で異なります(金融庁2010年2月23日付「資金決済に関する法律の施行に伴う政令案・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等」20頁66番)。

 デジタルトークンが前払式支払手段に該当する場合、当該デジタルトークンを支払手段として使用することができる範囲によって、自家型前払式支払手段(資金決済法3条4項)または第三者型前払式支払手段(同法3条5項)の2種類に分類されます。

 すなわち、発行者に対してのみ権利行使することができる場合、当該デジタルトークンは自家型前払式支払手段に該当し、原則として毎年3月末日または9月末日の基準日における発行済み未使用残高が1,000万円を超えるときに届出が必要となります(同法5条1項、4条)。

 これに対して、発行者以外にも支払手段として使用することができる場合、当該デジタルトークンは第三者型前払式支払手段に該当し、原則としてその発行者は第三者型前払式支払手段発行者としての登録が必要となります(同法7条、4条)。

 トレーディングカードやゲーム内アイテムを表章したNFTについては、金額等の財産的価値が記録されており(要件( i ))、日本円等をあらかじめ支払って購入されるものの(要件( ii ))、通常は支払手段としての経済的機能が認められないことから、「発行者または発行者の指定する者に対する代価の弁済等に使用することができる」(要件( iii ))を充足せず、前払式支払手段には該当しないケースが多いと考えられます。

 これに対して、NFTであっても、発行者等の特定の者に対する支払手段としての経済的機能が認められる場合には、前払式支払手段に該当しないか、慎重な検討が必要となります。

為替取引

 為替取引の意義について、これを業の一類型として規定する銀行法および資金決済法においても定義されていませんが、最高裁平成13年3月12日決定・刑集55巻2号97頁は、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」と判示しています。

 上記のとおり、為替取引(の手段)としてのデジタルトークンと前払式支払手段としてのデジタルトークンについては、前者は金銭による払戻しが可能である一方、後者は原則として金銭による払戻しが禁止されている点で異なります。

 デジタルトークンが為替取引(の手段)に該当する場合、その発行者は銀行業の免許(銀行法4条1項、2条2項2号)または資金移動業者としての登録(資金決済法37条、2条2項)を取得することが必要となる可能性があります。

 たとえば、デジタルトークンが自由に譲渡でき、かつ、自由に金銭への払戻しも行うことができる場合には、当該デジタルトークンを利用して隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを構築することが可能となります。したがって、このようなデジタルトークンを用いた金銭の移動が為替取引に該当しないか、慎重な検討が必要となります。

ポイント

 ポイントとは、一般に、商品を購入した際または役務の提供を受けたときに無償で付与され、次回以降の買い物等の際に代価の弁済の一部に充当することができるものをいいます。ポイントの意義について、資金決済法その他の法律において規定されてはいません。

 ポイントは、通常、商品等の購入にあわせて無償で付与されるものであることから、前払式支払手段の要件である「金額または数量等に応ずる対価を得て発行される証票等、番号、記号その他の符号であること」(対価発行)の要件を満たさず、特段の金融規制の対象とはならないと考えられます。

 ただし、他の電子マネーや暗号資産を支払ってポイントの付与を受ける場合など、対価を得てポイントを付与していると認められるときは、対価発行の要件を満たし、当該ポイントは前払式支払手段に該当するものと考えられます。

 また、ポイントは、通常、当該ポイントの発行者およびその加盟店等の特定の者に対してのみ使用することができるため、「不特定の者」に対する使用可能性を欠き、1号暗号資産には該当しないものと考えられます。ただし、ポイントとして発行したデジタルトークンが、ブロックチェーン上で不特定の者との間で1号暗号資産であるビットコインやイーサなどと相互に交換することができる場合は、2号暗号資産に該当する可能性があることに注意が必要です。

 NFTは、一定の対価を支払って購入するものが通常であり、無償で発行するケースは多くはないと思われますが、別途提供する商品またはサービスの「おまけ」としてNFTを提供する場合には、ポイントとして整理することができないか検討する余地があります。

有価証券

 金商法上の有価証券の定義は同法2条1項、2項に定められており、1項では紙である証券が発行されるタイプの有価証券(「一項有価証券」)が列挙され、2項では証券が発行されることもあるものの発行されていない状態の権利や、証券が発行されないタイプの権利(「二項有価証券」)が列挙されています。

 金商法上、これらの有価証券をブロックチェーン上で発行されるデジタルトークンに化体することをもって、有価証券の定義から除外されることとはされていません。

 むしろ、本来、二項有価証券に該当する集団投資スキーム持分に係る権利をデジタルトークンに表章する場合など、金商法2条2項に規定する権利のうち「電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値・・・に表示される」ものについては、「電子記録移転権利」に該当することとされています。

 そして、電子記録移転権利に該当する場合、原則として開示規制の適用を受けない二項有価証券ではなく、より厳格な開示規制および業規制に服する一項有価証券として扱われることとなります(金商法2条3項柱書)。

 なお、資金決済法2条5項ただし書において、暗号資産の定義から電子記録移転権利が除外されていることから、電子記録移転権利に該当するデジタルトークンについて、同時に暗号資産に該当するものではありません。

 電子記録移転権利は、その保有者に対して事業収益の配分が行われる金商法上の有価証券であることから、決済手段の1つとして位置づけられ資金決済法で規制される暗号資産や前払式支払手段等とは大きく異なるものといえます。

 現状でのNFTのユースケースに鑑みると、NFTが電子記録移転権利に該当するケースは多くはないと思われますが、NFT保有者に対して保有にかかるインセンティブとして別のデジタルトークンを付与する場合などにおいては、電子記録移転権利その他の有価証券に該当しないか、個別の検討が必要となるものと考えられます。

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