ポストコロナに求められるグローバル人事労務戦略(世界各国の弁護士たちをワンストップで活用する秘訣)

人事労務

目次

  1. 「ポストコロナ」時代に人事労務担当者が直面する諸問題
  2. 日本企業の海外現地法人が抱える人事労務対応の構造的な問題
  3. いま海外で事業展開をする企業に求められる人事労務戦略とは
    1. 本社主導によるグループガバナンス
    2. 人事労務分野への「契約審査手法」の導入
    3. 人事労務の実務運用に見られる「残念な」実情
    4. 不確実な時代だからこそ、一貫性のある統一的なアプローチを
  4. 海外の多国籍企業におけるグループガバナンスの「常識」
  5. 「ポストコロナ」時代の海外事業展開を支える「グローバル人事労務戦略」
  6. 「グローバル人事労務戦略」の実現に向けて
    1. 日本の人事労務部門が感じるハードルの高さ
    2. 「グローバル人事労務戦略」の実践に求められるキーパーソンの役割とは
    3. Atsumi & Sakai × L&E Global

「ポストコロナ」時代に人事労務担当者が直面する諸問題

コロナ禍に収束の兆しが見えない昨今、多国籍企業や海外で事業展開を進める企業はもちろん、国際市場への参入を目指す新興企業においても、人事労務担当者の皆様は、以下のような場面に直面しているのではないでしょうか。

  • 移動制限により、人事異動に伴う赴任先への転勤時期を見直す必要が生じた
  • リモートワークをしている従業員から、外国に移住する計画を伝えられた
  • 外国籍の従業員から「コロナ禍を家族と過ごすため、しばらく母国に戻りたい」との申し出があった

    ・会社の経営陣や営業から「優秀な人材なので手放したくない」と言われている

  • 海外現地法人から、連日のように、現地での人事労務対応についての相談が舞い込んでくる

    ・会社の経営陣からは、各国規制に準拠しつつ、グループのポリシーに則った統一的な対応をするよう求められている

  • ポストコロナの事業展開を見据え、海外現地法人での新たな人材登用や、リモートワークを前提とした国外居住者の本社での採用について、検討を指示された
  • 海外現地法人の統合やリストラの計画が持ち上がっている


これらの問題に対して、あなたは人事労務担当者として、どのように対応しますか?
この答えが、下記のウェビナーで語られています。

【ウェビナー】

国境を越えたリモートワークへのアプローチ戦略

人事労務分野でトップレベルの評価を受ける国際ネットワークL&E Globalとの共催

日本企業の海外現地法人が抱える人事労務対応の構造的な問題

残念ながら、わが国の人事労務の分野は、グローバル化の面で諸外国に後れを取っています。長年にわたり海外で事業展開を行ってきた日本企業であっても、国境を越えるクロスボーダーな人事労務案件に関し、グループガバナンスが十分に効いていない例が散見されます。

人事労務の法律問題は、駐在員として日本本社から派遣された海外現地法人の社長や役員の指揮のもと、現地の顧問先の法律事務所に照会し、その結果をもとに、現場で個別に判断や対応をしているケースが少なくありません。

この場合、日本本社の人事労務担当者と海外現地法人の担当者との間に、理解の齟齬や温度差が生じやすくなります。また現地の法律事務所から得られる回答についても、日本本社の意向が反映されにくくなります。

人事労務分野の法規制は、国によってまちまちです。その実務運用に関しても、当局の方針や裁判所の判断に委ねられることが多く、一筋縄には行きません。加えて、日本本社から派遣された駐在員と、海外現地法人で現地採用された従業員とは、適用される雇用条件やルールが異なることも多く、言語の壁もあります。

ひとつの海外現地法人の社内において、同じフィールドのもとでのリエゾンがなかなか進まないケースを、筆者も多く見てきました。

コロナ禍の前までは、従来の日本的なやり方でも、それほど問題なく対処できていたかもしれません。しかしコロナ禍は、これまでの人事労務の手法や慣例、さらには常識を根底から覆すとともに、運用上の問題を浮き彫りにしました。そして皮肉にも、世界中の企業に対して、変革を余儀なくさせることとなったのです。

いま海外で事業展開をする企業に求められる人事労務戦略とは

日本企業の海外現地法人が抱える人事労務対応の構造的な問題を踏まえ、本稿では、「ポストコロナ」時代を勝ち抜く「グローバル人事労務戦略」として、①本社の人事労務部門の主導によるグループガバナンス体制強化、②人事労務分野に「契約審査手法」を導入する必要性を提唱します。

本社主導によるグループガバナンス

急速に押し寄せる新たなグローバル化やデジタル化の波を前に、日本の多国籍企業や海外で事業を展開する企業に求められるものは、「日本本社の主導によるグループガバナンス体制の強化」です。

なかでも人事労務は、企業の活動の源泉となる「人」の処遇に直結する活動領域であり、日本本社によるリーダーシップとガバナンスが最も期待される分野のひとつです。

日本本社から派遣された駐在員を介して、間接的かつ遠隔でコントロールするだけでは、海外現地法人のガバナンスを十分にグリップできません。「ポストコロナ」時代には、グループ内において、バラバラなスタンダードが乱立してしまう可能性があります。

仕事のやり方やスタイルが大きく変わる今こそ、日本本社の主導により、統一的な人事労務のスタンダードを策定し、グループ全体に浸透させることが必要です。

本社が主導して、海外拠点に統一的なスタンダードを策定する必要がある

本社が主導して、海外拠点に統一的なスタンダードを策定する必要がある

人事労務分野への「契約審査手法」の導入

「ポストコロナ」時代を迎えるにあたり、人事労務の実務運用にも変革が求められます。この点に関して、筆者は人事労務分野への「契約審査手法」の導入を提唱しています。

会社の組織上、人事労務部門は、法務部門とは切り離されて扱われることが通例です。それゆえに、人事労務の問題は、労働法規をベースとした法律マターであるにもかかわらず、法務とは異なる理屈と方法で対処されることが多いようです。しかし、この方法はもはや時代遅れといえます。

これまでの人事労務の実務では、退職時や雇用継続時の諸問題に対して、問題勃発後に事後的に対処するのが一般的でした。これでは根本的な解決は望めません。

企業の制度や前提、ルールと従業員の意識との間にミスマッチが解消されないためです。

「ポストコロナ」時代には、リモートワークやテレワークの浸透、終身雇用制度からの脱却の動きが加速し、柔軟な働き方が広まると予想されます。その場合、従業員と企業の認識のズレが大きくなることは避けられず、紛争・トラブルが増えるでしょう。

この状況に対応するには、契約審査等で当たり前に行われているリスク管理の手法を、人事労務分野においても実践していくことが肝要です。

人事労務の実務運用に見られる「残念な」実情

なぜ「グローバル人事労務戦略」の実現が求められるのか。それは、以下に挙げるような、日本企業の海外現地法人における「残念な」実情の数々からも、裏付けられます。

(1)業規則や社規則の改正

たとえば、就業規則や社規則では下記のような「受け身」の対応に終始しているケースが散見されます。

  • 海外現地法人の担当者が現地の顧問先法律事務所に丸投げをしている
  • 法改正の都度、十分な検討をしないまま、修正の継ぎ接ぎを重ねている
  • コロナ禍への対応に迫られて、緊急避難的に条項を加えている

日本法のもとでは、一度従業員に有利な制度を導入すれば、事後にそれを不利益に変更することは困難です。労働条件変更問題は、各国において理論的にも実際的にも大きな問題となっています。

制度変更にあたっては、会社全体の人事戦略上正しいのか否かを常に検討することが必要となります。そのためには、日本本社の人事労務部門が「積極的に」関与し、グループのポリシーに則った一貫性のある方向性を打ち出さなければなりません。

(2)従業員の採用の場面

従業員を新たに採用する際、下記の光景をよく目にします。

  • 当該従業員の採用スペック等に注意を払わず、オファーをする際に既存のテンプレートを流用し、リーガルレビューを経ることなく条件を通知する
  • 試用期間中のレビューを怠った結果、いざ当該従業員を解雇しようとしたときに、会社として採り得る方策が限られる

最悪のシナリオを想定してリスク回避策を契約書に書き込むことは「契約審査」の常識です。雇用契約の締結時にも当てはまるはずですが、契約書で当事者を拘束する意識の薄いわが国では、性善説のもとで運用することが多いようです。

しかし、柔軟な働き方が広まる「ポストコロナ」時代には、これまでの手法や慣例では太刀打ちできない場面が頻発する可能性が高まるでしょう。海外現地法人であれば、なおさらです。事前に積極的な姿勢でリスクを管理し、紛争化を事前に回避する「契約審査手法」を人事労務分野にも導入することは解決策のひとつです。

不確実な時代だからこそ、一貫性のある統一的なアプローチを

先の見通せない「ポストコロナ」時代に海外で事業を展開する際、事前に不確実性を排除することと、トラブルが発生した後も一貫性をもった対応が可能な体制を構築することが急務です。

海外現地法人における人事労務の諸問題に関し、派遣された駐在員を介して、間接的かつ遠隔でコントロールするのではなく、日本本社の人事労務部門の主導により、統一的なアプローチを採ること、すなわち「グローバル人事労務戦略」の実現が求められます。

海外の多国籍企業におけるグループガバナンスの「常識」

日本企業とは異なり、海外の多国籍企業の多くは、本国本社で策定されたグローバルポリシーを前提に、統一的なアプローチを行い、海外現地法人に対するグループガバナンスを効かせています。人事労務の諸問題への対応も含め、本国本社の主導により、迅速に意思決定を行っているのです。

たとえば、下記のような対応がよく見られます。

社規則 本国本社から提示された全世界共通「従業員向けハンドブック」を前提に、各国の労働法規に照らして、過不足の生じる部分につき修正を施し、それを各海外現地法人で適用する
細かい労働条件等 各国の労働法規に合致する方式により作成された雇用契約書や労働条件通知書(オファーレター)に記し、各従業員と取り交わす

昨今のコロナ禍では、健康状態、休暇時の居場所、ワクチンステータス等の申告制度といった情報管理のポリシーの策定や、リモートワーク、リストラ計画といった諸問題がホットなトピックとして採り上げられます。

筆者の経験上、海外の多国籍企業は、本国本社の強いリーダーシップのもとで検討を進めていました。

本国本社の主導により全世界のガバナンスの方針に関する経営判断を行うため、本国本社あるいはAPAC地域統括の人事労務部門がワンストップで依頼できるハブとなる法律事務所を起用します。

その法律事務所をハブとして、世界各国の提携先法律事務所に照会し、コメントやアドバイスを集約、あるいは自ら直接、現地法律事務所とやり取りをし、現地子会社の担当者も巻き込みながら、スピーディーに対応しています。

退職勧奨や紛争等の個別案件についても、本国本社は積極的に関与します。

そのため、海外の多国籍企業は現地の実務慣行や個別事情にも配慮しつつ、能動的なアクションが可能となり、短時間のうちに、柔軟でありながらブレない解決を実現しています。

このようなやり方は、日本においても、いくつかの多国籍企業の「法務」の現場では、インハウス弁護士や留学経験者の起用、法務機能の強化により、ある程度進んできています。

しかし、海外で事業を展開する日本企業の多くでは、法務部門であっても、システマチックな統一的アプローチを確立できていることは稀です。

人事労務部門に関しては、先に述べたとおり、海外現地法人の駐在員を介した間接的かつ遠隔でのコントロールという「受け身」の対応にとどまっているのが大半です。

「ポストコロナ」時代の海外事業展開を支える「グローバル人事労務戦略」

ワクチン接種が進み、コロナ禍の収束の兆しが見えれば、世界中の企業は一斉に動き出します。「ポストコロナ」時代には、新事業への積極的な投資や新たな市場への参入、あるいは既存の事業方針の転換といった動きが急ピッチで進められると予想されます。

海外で事業を展開する企業の人事労務部門では、こうしたグローバル展開に即応して対応していくことが求められるでしょう。

海外での事業展開には、制度も文化も異なる現地での人材活用の成否が大きな影響を及ぼします。「グローバル人事労務戦略」は、海外での人材活用にかかるリスク管理手法とも言い換えられます。

すでに本国本社主導によるグループガバナンスの体制を確立している海外の多国籍企業は、グローバル化やデジタル化の波に対応可能な体制を持ち合わせており、不確実性に満ちた「ポストコロナ」時代にあっても、的確なリスク管理とともに、より積極的な人事労務戦略を展開することでしょう。

海外で事業を展開する日本企業は、急速に押し寄せる新たな潮流を前に、人事労務分野に求められる然るべきリスク管理を、日本本社主導でタイムリーに実現することができるでしょうか。

「グローバル人事労務戦略」の実現に向けて

日本の人事労務部門が感じるハードルの高さ

「グローバル人事労務戦略」の実現の必要性については、ご理解いただけたことと思います。

しかし、数多くの法域にわたって法律事務所からサポートを得ることは、容易ではありません。本稿をお読みの人事労務部門の担当者の中には「必要性は理解できるが、実現は難しい」という感想を持たれた方も多いことでしょう。

たとえば、意思疎通もままならないまま、各国の法律事務所にメールで質問を送ったところ、「帯に短し襷に長し」な回答が各国弁護士から五月雨式に届き、その整理や更問に苦慮し、時間と労力が想定以上にかかった挙句、見積超過した請求書が山積みになった、という声もよく聞かれます。

なぜこのような「失敗」に陥るのか。

それは、世界各国の法律事務所に照会し、コメントやアドバイスを集約するには、法律や実務の知見に加え、プロジェクトマネジメントのスキル、そして何といっても英語力が必須となるからです。

「グローバル人事労務戦略」に必要なスキル
  • 法律や実務の知見
  • プロジェクトマネジメントの経験
  • 英語によるコミュニケーション力
  • 弁護士費用のコントロール

「グローバル人事労務戦略」の実践に求められるキーパーソンの役割とは

理想を言えば、「グローバル人事労務戦略」を具体的に実践するにあたっては、以下の役割を担うキーパーソンが必要となります。その役割は、単なる連絡窓口や仲介者としての機能にとどまりません。

  • 世界各国の法律事務所から「簡にして要を得た回答」を収集すべく、企業としての依頼や指示を事前にカスタマイズし、英文で内容を整理する。
  • 24時間動き続ける世界各国の法律事務所との間で、必要に応じて、メールやオンライン会議等でコミュニケーションを行い、論点の明確化や日本側の要望伝達等を行う。
  • 世界各国の法律事務所から集約されたコメントやアドバイスについて、企業のニーズに応じ、日本語ベースで実務的なアドバイスやサポートを提供する。社内向けに報告用サマリー資料の作成・起案を行う。
  • 案件ハンドリングを効率的に進めることで、世界各国で起用する法律事務所の費用も含めた弁護士費用の総額のコントロールを行う。

このように、ハブとしての役割を担うキーパーソンが、よりアクティブに動くことで、各国弁護士から集約したコメントやアドバイスは、より実務的に踏み込んだ情報として簡潔に整理され、経営判断の資料や材料として社内で活用できるようになります。

また、ひと手間かけて工夫を施すことにより、各国弁護士における検討のポイントが絞られ、無駄な作業や工数が削減されるため、トータルで要する弁護士費用の圧縮も見込めます。

とはいえ、やはり悩ましいのは、このような役割を担う人材が、海外で事業を展開する日本企業の人事労務部門に実在しないことが多い、という問題でしょう。

Atsumi & Sakai × L&E Global

この悩みに応えるべく、このたび筆者および弊所のチームは、人事労務分野の国際ネットワークL&E Globalとの協働により「多国籍展開の日本企業向け人事労務のワンストップサービス」という新たなプロジェクトを始動させました。

L&E Globalは、国境を越えた人事労務分野の法的サービスを牽引する世界的リーダーとして定評を得ている国際ネットワークで、弊所はそのメンバーファームの一員です。世界6大陸にわたって事業展開をし、アジア太平洋地域を含め、世界80か国以上をカバーしています。このネットワークに属する弁護士たちは、グローバル人事労務案件に長けており、文化や作業プロセスを共有しているため、互いの信頼関係をベースとして、良質でシームレスなサービスを確実にお届けできる体制を整えています。

今回のプロジェクトでは、筆者および弊所のチームが、各企業の窓口かつハブとして機能し、「グローバル人事労務戦略」の実践に求められるキーパーソンの役割を、あなたの会社の人事労務部門の代わりに担うことにより、人事労務分野でトップレベルにある世界各国の法律事務所のサービスをワンストップでお届けすることが可能となりました。

弊所のような法律事務所とタッグを組めば、海外で事業を展開する日本企業は、たとえ「グローバル人事労務戦略」に必要なスキルを持ち合わせていなくても、海外の多国籍企業が「常識」とするグローバルガバナンスのツールを手に入れることができ、これを武器として、今後の海外事業展開において、世界で伍していけるはずです。

いまこそ世界各国の人事労務に強い弁護士たちをワンストップで活用し、「ポストコロナ」時代を勝ち抜くための「グローバル人事労務戦略」の体制づくりを進めてみてはいかがでしょうか?

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