展望 2021年の企業法務

第3回 2021年のスタートアップ法務の展望(後編) リーガルテック時代のスタートアップ法務

ベンチャー
植田 貴之弁護士 法律事務所LAB-01/ウォンテッドリー株式会社

目次

  1. リーガルテック時代のスタートアップ法務
    1. 事業の推進力を高める法務組織の設計
    2. 法律事務所の役割の変化
    3. まとめ

本記事では、2020年の法務トレンドのうち筆者が個人的に印象的だったトピックを振り返ったうえで、スタートアップに影響が大きいと思われる2021年施行の法改正を紹介。さらにこれからのスタートアップ法務組織について筆者なりの展望を述べます。

後編では、テクノロジーを活かしたスタートアップの法務組織の在り方やスタートアップ法務を支える法律事務所の今後の役割について説明します。

リーガルテック時代のスタートアップ法務

事業の推進力を高める法務組織の設計

(1)伴走型法務組織の実現

2019年に発表された「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」(令和報告書)を皮切りに、各所でビジネスパートナーとしての法務機能の重要性が叫ばれてきました。ビジネスパートナーとしての価値の発揮方法については様々な考え方があると思いますが、ビジネススピードが早く、変化も激しいスタートアップの世界においては、法務組織がビジネスの一連のサイクルと伴走し、業務オペレーションの迅速性を維持したり、プロダクトやサービスの改善に主体的に取り組んだりしながら、事業の推進力を高めることが重要な価値の1つであると考えます。昨今では、リーガルテックを含めたテクノロジーの活用により、こうした機能の実装が従来よりも容易になってきています。

そこで、以下では、ビジネスの一連のプロセスを、サービス開発、サービス提供、パフォーマンス分析の各フェーズに分けたうえで 1、①法務組織が各フェーズでどのように事業側にタッチし、価値を発揮できるか、②各フェーズにタッチポイントを有するために、現在のテクノロジーをどう活用できるかを、筆者なりに考えてみたいと思います。さらに、③テクノロジー活用のために法務人材に求められるスキルの変化についても触れたいと思います。

伴走型法務組織として携わる一連のビジネスプロセスイメージ

伴走型法務組織として携わる一連のビジネスプロセスイメージ

(2)サービス開発フェーズ

法務組織が発揮できる価値

まずは、企業がプロダクトやサービスを開発する場面を想定してみます。
法務組織は、日頃から事業部と連携し、新規プロダクト、新規ビジネス、新規取引等に関する情報を能動的にフォローすることが望ましいのは言うまでもありません。こうした機能は、情報を受動的に取得することが通常である外部弁護士の役割とは大きく異なるところであり、社内法務の大きな価値の1つといえます。社内法務による早期の情報把握が、未知のプロダクトやビジネスモデルに潜むリーガルリスクの早期発見や、柔軟な契約交渉の主導に繋がり、リスクを最小化しつつも事業インパクトを最大化できるオプションを実現することになります。

テクノロジー活用アイデア

事業部に新規で発生する情報を、法務が先回りしてフォローすることは容易なことではありません。令和報告書に記載があるように、組織改革や事業部との人的交流によりアンテナを強化することは1つの解決策となり得ますし 2、従来からよく使われてきた手法だと思います。

しかし、効率的かつスケーラブルな情報収集体制を構築するためには、テクノロジーを用いて新規のプロジェクトの発生やアップデートを自動的にウォッチできる仕組みを構築することがより重要です。社内で利用しているシステムによって実現方法は千差万別ではありますが、たとえば、CRMツールや進捗管理ツール上で新規案件発生時には法務メンバーが必ず自動でアサインされる仕組みにする、社内のコミュニケーションツール上で新規事業関連のチャネルやコミュニティを必ずフォローできる仕組みにする、新規ビジネスやプロダクトに関する特定のワードをキャッチできる仕組みを構築するといったように、ビジネスの上流部分をモニタリングできる工夫をすることで、人脈や個人技に頼らない能動的な情報のフォローが実現できます。近年は、リーガルテックサービスのなかにも、業務進捗機能やワークフロー機能を簡単に実装できるサービスが登場してきており、こうした仕組みの導入・運用ハードルは年々下がっている印象を受けます。

(3)サービス提供フェーズ

法務組織が発揮できる価値

次に、開発したプロダクトやサービスを、ユーザーやクライアントに提供する場面を想定してみます。このフェーズにおいて、法務組織は、取引内容を契約書や利用規約に素早く落とし込み、かつ迅速に契約締結を完了することで、ビジネスや取引スピードの迅速性を維持することができます。本質的なレビュー業務そのものに一定の時間を要することは避けられないですが、レビューのための準備作業コストは極力削減していきたいものです。

テクノロジー活用アイデア

従来、契約書レビューのプロセスにおいては、レビューに必要な書籍や雑誌情報をすぐに取り出せない、レビューに必要な雛形情報が標準化されていないためにレビューのタイミングや担当者によってレビュー内容が異なるといった課題が指摘されていました。しかし、昨今のオンラインリサーチツールやAIを使った契約書レビューツールにより、レビューに必要な法律知識の検索やベースとなる契約書・契約条項の標準化が容易にできるようになりました。これにより、レビュー時間の短縮(特にレビューの前提となる情報探索時間の削減)や精緻性の向上(特に標準化した情報との差分の抽出)を図ることができる時代になっています

契約締結プロセスについては、すでに多くの企業が紙の契約書による実務から脱却し、電子契約サービスを導入しまたは導入を検討しているかと思います。もはや電子契約サービスの導入自体はそこまでハードルの高いものではなくなった印象ですが、多くの企業にとっては、契約稟議や押印稟議といった契約前のフローと一体となった契約締結プロセスの構築が課題となっています。

そこで、法務組織としては、契約法務や内部統制の観点から既存のフローと整合的、迅速的かつ実効的な締結フローを設計したうえで、各サービスが提供している連携機能やAPI機能を利用してサービス同士を繋ぎ込む必要があります。近年では、稟議フロー機能を有する契約締結プラットフォームを提供するサービスも登場しており、企業としては自社の課題にあわせて柔軟にサービスを選択することが可能となっています。

また、多くの電子締結サービスが誕生している昨今においては、複数の異なるサービスプラットフォーム上に契約データが散逸してしまうという新たな課題が指摘されています。しかし、近年では、異なるプラットフォーム上で締結した契約データを、1つのデータベース上に集約し管理することのできるサービスが誕生しています。また、各電子締結サービスが提供しているAPI機能を使うことで、各種クラウドストレージサービスに契約データを自動でエクスポートし一元管理することも可能になっています。こうしたサービスの活用により、契約データの散逸を防ぐことができるのみならず、取引先企業に対し、ニーズに応じた多様な電子締結オプションを提供することができるようになります

(4)パフォーマンス分析フェーズ

法務組織が発揮できる価値

最後に、クライアントに提供したプロダクトやサービスを提供する際の契約取引データを、法務の観点から管理し分析する場面を想定してみます。
現在、各企業は、締結した契約書上に現れている取引相手、取引金額、有効期間、特約条項といった情報を中心にデータ化し、契約データとして管理していることが多いように思います。こうした情報は、主に既存契約の条件確認が必要となった際のデータベースとして活用され、たとえばライセンス契約や賃貸借契約といった継続的契約における更新期限の把握や、各種契約における代金の確認といった目的で使われることが多いかと思います 3

一方で、法務組織が事業側の推進力を高める機能を発揮するためには、契約書上に現れる情報のみならず、契約に至るプロセスや契約締結後のパフォーマンスを分析し、法的な観点でプロダクトやサービス内容を改善したり、次回以降の契約条件の改善をしていくことも重要かと思います。たとえば、契約交渉の場面における契約相手との交渉過程を分析することで、契約更新時や新規顧客獲得の際により合理的・理想的な契約条件を提示できる場合があります。また、契約締結後の場面において契約条件やプロダクトに関する取引相手のリアクションを収集することで 4、プライバシー懸念のようなプロダクト上の仕様の改善ができたり、顧客に不満が発生しやすい利用規約の条件を改定することができます。こうした改善が、次の契約ライフサイクルのスタートをスムーズにし、事業の推進力を向上させることに繋がるでしょう。

テクノロジー活用アイデア

契約書上のデータの管理は、契約書上の情報をサービス上やスプレッドシート上に手動で入力して行うということが一般的でした。しかし、近年は、OCR技術を用いて、電子締結した契約データやスキャンした紙の契約書データから、当事者情報や契約期間といった特定の情報を自動で抽出できるサービスが登場してきています。こうしたサービスを活用していくことで、人の手を介することなく、契約書上の情報を手間なく管理・分析することが可能になってきています。

また、契約締結プロセスについても、契約書のドラフティングの編集過程を記録し、変更履歴を可視化することができるサービスや機能が登場してきています。法務組織は、こうしたサービスにより得られる情報をもとに、取引相手からの修正のリクエストが多い条項などを抽出し、契約書の雛形や利用規約の改善に役立てることが可能です。

さらに、契約締結中のパフォーマンスについても、カスタマーサクセス領域を中心にプロダクトやサービスの顧客体験を収集し、分析するサービスが次々と登場しています。こうしたサービスをクライアントによる法的な懸念事項やサービス解約理由の収集・分析にも活用することで、法務組織が主体となってプロダクトや取引に関する顧客体験を改善していくことが可能と考えています

(5)テクノロジー時代に求められる法務人材のスキル

前述のように法務組織にビジネスパートナーとしての役割が求められるようになり、事業部側との綿密なコミュニケーションや業務効率の改善が求められる昨今においては、社内システムや利用ツールに精通し、業務改善や仕組み構築を得意とする人材を法務組織でも活用することが非常に重要になってきています 5

たとえば、契約締結プロセスや契約管理プロセスの整備の場面では、複数のサービスやツールを繋ぎ込んでフロー設計をすることが通常であるため、サービス間のAPIによる連携やアプリケーション連携ソフトウェア(RPAやノーコードアプリなど)の活用に精通している人材が必要となります。また、契約締結後における取引の分析をする場面においては、データの抽出や分析を得意とする人材によるサポートが求められます。

テクノロジーの最大活用を目論む法務組織においては、法的素養をもった人材とテクノロジーに精通した人材が組織の両輪となって、事業の推進力を高める組織を構築していくことが求められるように思います

法律事務所の役割の変化

スタートアップのような法務組織が比較的コンパクトな企業においては、外部の弁護士を積極的かつ効果的に活用して自社のリソースを補う必要があります。一方で、社内法務の役割や求められるスキルが多岐に広がっていくのに伴い、企業が外部弁護士に求める役割も多様化していくため、タスクに応じた外部弁護士の使い分けが重要です

たとえば、複雑な法律が絡むサービス開発の場面やM&Aのような高度に専門的な知識を要する場面においては、該当領域の専門知識・経験を持った弁護士へのサポート依頼が必要になるでしょう。また、日常的に発生する契約書レビューについては、クオリティの高いレビューを効率的かつクイックに提供してくれる弁護士が必要です。

近年の業務フローの電子化に伴って、契約締結プロセスをはじめとする社内フローの整備に関するアドバイスを外部弁護士に求めるケースも増えてきています。こうしたケースでは、弁護士が単に契約上や内部統制上のリスクを指摘するだけでなく、実際のフローの設計や社内課題に即したツール選択をサポートする場合もあります。

最近は弁護士のキャリアも多様化しているため、その専門性やスキルも人によって様々になってきています。効率的な事業運営やコストの最適化が特に求められるスタートアップにおいては、依頼タスクに合わせて外部弁護士をうまく使い分けていくことが重要になるでしょう。

まとめ

テクノロジーの活用により、法務組織が事業の推進に貢献できる可能性は格段に広がるものと思います。リーガルテック業界の盛り上がりが著しい今だからこそ、こうしたテクノロジーのメリットを最大限に活用し、効率的かつ効果的な法務組織の構築を推し進めてみてはいかがでしょうか。


  1. ビジネスモデルや組織規模により、ビジネスプロセスの整理方法や事業部との理想的なタッチポイントは異なるため、ここで示すのはあくまでも1つのアイデアです。 ↩︎

  2. 令和報告書25ページ以下においても部門を超えた情報収集能力を強化するための取り組み例が言及されています。 ↩︎

  3. その他、電子帳簿保存法上のデータ保存要件を充足するためのデータベースとして利用することもあるでしょう。 ↩︎

  4. カスタマーサポートやカスタマーサクセスといった部門と共同して収集するのが一般的にはスムーズなように思います。 ↩︎

  5. 自らそのようなITスキルを身につけている法務人材の割合も少しずつ増えているように思います。 ↩︎

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