展望 2021年の企業法務

第2回 2021年のスタートアップ法務の展望(前編) 2020年の法務トレンドと2021年施行予定の法改正

ベンチャー
植田 貴之弁護士 法律事務所LAB-01/ウォンテッドリー株式会社

目次

  1. 2020年の法務トレンドの振り返り
    1. ダイナミックな規制緩和と行政解釈の変更
    2. リーガルテックサービスの躍進
  2. スタートアップへの影響が大きい2021年施行の法改正
    1. 著作権法
    2. 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(DPF法)
    3. 会社法
    4. パートタイム・有期雇用労働法
    5. 消費税に関する特別措置法
    6. 個人情報保護法
    7. 資金決済法
    8. プロバイダ責任制限法

本記事では、2020年の法務トレンドのうち筆者が個人的に印象的だったトピックを振り返ったうえで、スタートアップに影響が大きいと思われる2021年施行の法改正を紹介。さらにリーガルテック時代におけるスタートアップの法務組織について筆者なりの展望を述べます。

前編では2020年の法務トレンドを振り返るとともに、スタートアップへの影響が大きい2021年施行の法改正を解説します。

2020年の法務トレンドの振り返り

ダイナミックな規制緩和と行政解釈の変更

新型コロナウイルスの感染拡大は、私達の生活様式を一変させただけではなく、ダイナミックな規制緩和や行政解釈の変更をもたらすこととなりました。

最たる例は、やはり電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)関連の行政解釈の変更や規制緩和でしょう。緊急事態宣言発出後の4月下旬頃から、規制改革推進会議を中心とした電子署名関連の議論が活発化しましたが、そこからわずか数か月の間に電子署名法2条・3条に関する新解釈 1 2 が発出され、登記のオンライン申請実務においても新しい運用が開始されたことは記憶に新しいところです。こうした動きは、ベンダー事業者による懸命な働きかけの賜物であることはもちろんですが、リモートワークの拡大といった生活様式の変容が追い風になったこともまた事実でしょう。

株主総会の規模縮小や株主に対する来場自粛要請などに関し、経済産業省および法務省が、個別の解釈を公表 3 したことも、異例の事態だったかと思います。政府による突然の外出自粛要請により、各企業が、株主総会の開催方式の変更を迫られるなかで 4、行政側が、株主に対する来場自粛要請や総会時間の短縮に関して柔軟かつ現実的な法解釈を示したことは、企業の総会運営の混乱を軽減する一助になったことでしょう。最近では、これまで認められなかった完全オンラインの株主総会を法改正によって実現する動きが出てきており、2021年以降もその動向に注目が必要です。

その他、これまで実施が認められてこなかったオンラインでの初診医療についても、2020年4月以降時限的に解禁され、本記事執筆時点では、恒久的な解禁に向けた議論 5 も進められているところです。

リーガルテックサービスの躍進

各種リーガルテックサービスも、新型コロナウイルスに伴うリモートワーク拡大という後押しを受け、すっかり多くの企業に浸透した感があります。市場に目を移すと、2015年頃から、主に電子締結、契約書レビュー、契約管理といった分野で新規サービスが次々と誕生してきましたが、ここ1、2年で一旦そのフェーズは落ち着いた印象です。市場全体のユーザー層も、トレンドに敏感なアーリーアダプター層からユーザー数などの利用実績を重視するマジョリティ層の割合が増え始め、新たなユーザー層に応えるための機能改善やサービス間の提携が一気に進み始めているように感じます。

リーガルテックの導入を検討するスタートアップ企業においては、まずは自社の課題をしっかりと把握したうえで、課題解決に資するサービスを冷静に見極める必要があります。また、市場競争の激化により、次々と新機能がリリースされたり、提携によって急激な市場の変化が起こったりする可能性もあり、常にサービスや市場の動向を注視する必要があると言えます。

スタートアップへの影響が大きい2021年施行の法改正

2021年に施行が予定されている法改正のうち、スタートアップ法務に影響が大きいと思われるものをピックアップして説明します。改正の詳細については他の論稿に譲ることとし、ここでは改正の背景や概要を述べるにとどめます。

2021年施行予定の法改正一覧

法律 施行予定日 概要
著作権法 2021年1月1日 違法アップロードコンテンツのダウンロード規制の対象範囲の拡大
特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(DPF法) 2021年2月1日 取引の透明化・公正化を目的とした、特定デジタルプラットフォームに対する各種運営上の規制の導入
会社法 2021年3月1日 取締役の報酬に関する規律の見直し、会社補償や役員賠償責任保険(いわゆるD&O保険)に関する規律の整備等
パートタイム・有期雇用労働法 2021年4月1日 同一労働・同一賃金規定の中小企業への適用
消費税に関する特別措置法 2021年4月1日 toC向け取引における消費税総額表示の義務化
個人情報保護法 2021年中 オプトアウト規制の強化
資金決済法 2021年中 送金金額に応じた資金移動業者の3類型への整理等
プロバイダ責任制限法 未定 発信者情報の開示対象の拡大、迅速な被害者救済を実現するための新たな裁判手続きの創設等

著作権法

2020年6月5日に「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年10月に、いわゆるリーチサイト対策に関する規定や映り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大等の規定が施行されました。また、2021年1月1日には、違法アップロードコンテンツのダウンロード規制に関する改正規定が施行されました

違法コンテンツのダウンロードについては、2009年および2012年の著作権法改正により、違法な録音・録画コンテンツを対象とするダウンロードについて、民事上・刑事上いずれも違法とする規定が導入されています。今回の改正は、これまで規制対象となっていた録音・録画コンテンツに加えて、漫画・書籍・論文・コンピュータプログラムといったこれまで規制対象となっていなかった違法コンテンツのダウンロードについても、民事上・刑事上違法とするものです。ただし、今回拡大対象となった著作物については、録音・録画コンテンツとは違法性要件が異なっており、数コマの漫画のような軽微なもののダウンロードや二次創作・パロディコンテンツのダウンロードといった、著作権者の利益を不当に害しないいくつかの類型は違法行為の対象から除外されています。

今回の改正は、もともと2019年の通常国会での改正が予定されていました。しかし、規制の対象範囲をめぐって多くの有識者、クリエイター等からの反対があったため、「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会」 6 で改めて内容の検討が行われ、法案の修正を行ったうえで2020年に成立したという経緯があります。上記の違法対象の範囲の限定は、今回の法案の修正により生み出されたものです。

コンテンツプラットフォームを提供するスタートアップにおいては、違法コンテンツの取り締まりをどの程度強化するのか、難しい判断が求められそうです。また、それ以外のスタートアップにとっても、不適切なコンテンツ利用による炎上を防止する意味で、SNS等におけるコンテンツ利用の正しいルール(何ができて、何ができないのか)を改めて従業員に啓蒙することが重要になってくるものと思われます。

特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(DPF法)

近年のデジタルプラットフォームの巨大化により利便性が高まる一方で、オンラインモールやアプリストアといった一部の市場において、当該プラットフォーム事業者による一方的な規約の変更による手数料の引き上げや、利用事業者の取引データを利用したプラットフォーム事業者による直接販売といった、不透明・不公正な取引がなされる懸念が従来から示されてきました 7。こうした実情を踏まえて、公正かつ透明性の高い取引基盤を整備することを目的として、2020年5月27日に「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(DPF法)が成立し、2021年2月1日に施行されました。

今後は、2021年春頃を目処に、経済産業大臣によって特定デジタルプラットフォームの指定がなされることとなります。また、指定された事業者(特定デジタルプラットフォーム)には、プラットフォーム利用者等に対する取引条件等の開示、公正取引実現のための手続整備、運営状況に関するレポート提出といった義務が課せられることになります。

当初の指定の対象は、国内売上額3,000億円以上の物販総合オンラインモールおよび国内売上額2,000億円以上のアプリストアとされることが政令で決まっており、直接的な影響を受けるスタートアップはあまり多くない予定です。しかし、指定を受けない事業者であっても、今後の指定状況等や指定事業者の運営状況の動向を注視する必要はありそうです。

会社法

コーポレート・ガバナンスの一層の強化を図るため、2019年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」が成立しました。今回の改正では、株主総会資料の電子提供制度の創設、株主提案権の濫用的行使の制限、取締役の報酬に関する規律の見直し、会社補償や役員賠償責任保険(いわゆるD&O保険)に関する規律の整備などが盛り込まれており、株主総会資料の電子提供制度などの一部の規定 8 を除き、2021年3月1日に施行されます 9

上場企業を念頭においた改正点が多いものの、非上場のスタートアップにおいても、取締役に対する株式報酬・ストックオプションの付与に関する議案の決議事項が従来よりも明確化された点や、会社役員賠償責任保険(いわゆるD&O保険)加入時における手続規定が新設された点などは、従来の対応からの修正が必要なケースもあるため、注意が必要です。

パートタイム・有期雇用労働法

2019年4月以降、いわゆる働き方改革関連法が随時施行されています。2020年4月には、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者)との間の均等待遇を確保し、同一労働・同一賃金を実現することを目的として、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム・有期雇用労働法)が施行されました。

同一労働・同一賃金は、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違や差別的取扱の解消を目指したものです。経過規定によって、中小企業に対する同一労働・同一賃金についての規定の適用は2021年3月31日まで見送られていましたが、4月1日からいよいよ全面適用となります。具体的な基準や取組方法については、「同一労働・同一賃金ガイドライン」(厚生労働省告示第430号)や「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」(厚生労働省 都道府県労働局)等に示されていますので、既存の待遇の状況を早めに確認し、必要に応じて基本給、賞与、各種手当、福利厚生等を見直すことが必要となります 10。昨今のリモートワーク拡大の影響により、在宅勤務手当を支給したり、通勤手当の支給方法を変更したスタートアップも多いかと思いますので、不合理な待遇格差が生じないよう注意する必要があります。

改正法の下では、非正規雇用労働者の雇用時や非正規雇用労働者からの求めがあった際に、待遇の違い等に関する説明義務が発生することにも留意が必要です。

消費税に関する特別措置法

消費税法では、toC向け取引における価格表示を行う際に、消費税を総額表示(税込価格表示)することが義務付けられています。しかし、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(消費税転嫁対策特別措置法)では、「現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置」(誤認防止措置)を講じることを条件として、2021年3月31日までの間、当該総額表示義務を事業者に課さないとしています 11。この特例措置は、2014年以降に段階的に行われた消費税の引き上げに際して、事業者による値札の張り替えの事務負担等に配慮して行われたものです。

しかし、2021年4月1日以降は、当該特例措置が終了するため、toCサービスを提供するスタートアップにおいては、ウェブサイト、営業資料等における価格表示において総額による表示がされているか確認する必要があります

なお、事業者間の取引(いわゆるBtoBサービス)は、消費税法において総額表示義務の対象とはされていないため、依然として外税方式による価格表示を継続することが可能ですが、混乱を防止するための最低限の配慮はこれまでどおり必要となるでしょう。

個人情報保護法

2020年6月5日に「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しています。全面施行は2022年春頃に予定(本記事執筆時点)されている(ガイドラインやQ&Aの公表は2021年の後半頃を予定)一方、オプトアウト規制の強化に関する規定については2021年内に施行が予定されています。オプトアウトによる個人データの第三者提供を行っている企業または新規での提供を予定している企業においては注意が必要です。

出典:個人情報保護委員会「令和2年 改正個人情報保護法について」

出典:個人情報保護委員会「令和2年 改正個人情報保護法について

特に、個人情報保護委員会による執行強化を目的として、第三者提供時において本人および個人情報保護委員会に通知する項目が従来より増えているため、必要に応じて通知情報やウェブサイトの掲載情報の修正を行うべきでしょう。その他にも、オプトアウトにより第三者提供できる個人データの範囲が縮小されているといった変更もあるため、対象データを改めて確認する必要があります。

資金決済法

2020年6月5日に「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、2021年中の施行が予定されています。資金決済法では、これまで100万円以下の送金に対して一律に資金移動業としての規制がなされていましたが、今回の改正により、送金金額に応じて3類型に整理され、類型ごとに規制されることとなりました。

ここ10年で様々な金融サービスが登場し、資金移動業者による送金件数は爆発的に増加している一方で、総金額の約9割は5万円未満となっており、資金移動業者に一律に課される資金保全の規制が重荷であることが指摘されていました 12。今回の改正は、送金金額に応じた柔軟な規制を導入するものであり、特に少額送金サービスを展開するスタートアップにとっては注目に値します

プロバイダ責任制限法

近年インターネット上の誹謗中傷問題が深刻化しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」にて、プロバイダ責任制限法の改正議論が進められてきました。同研究会の最終とりまとめ 13 では、発信者情報の開示対象の拡大のみならず、より迅速な被害者救済および通信ログ等の保全をするための新たな裁判手続きの創設が検討されており、2021年の通常国会にて改正案の提出が予定されています。

プラットフォームを運営しているスタートアップにおいては、今後の情報開示の在り方に影響を及ぼす可能性が高いため、注視が必要です。

後編では、リーガルテック時代におけるスタートアップの法務組織の在り方やそれを支える法律事務所の今後の役割について説明します。


  1. 総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法2条1項に関するQ&A)」(令和2年7月17日発出) ↩︎

  2. 総務省・法務省・経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)」(令和2年9月4日発出) ↩︎

  3. 経済産業省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」(令和2年4月2日発出、令和2年4月28日最終更新) ↩︎

  4. 2019年の6月総会では、いわゆるハイブリッド型バーチャル株主総会は、5社の上場企業が実施するのみでしたが、2020年の6月総会においては、122社もの上場企業が実施をしています(経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集(案)」(2020年12月23日発表))。 ↩︎

  5. 議論の詳細については、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」の議事録等をご確認ください。 ↩︎

  6. 議論の詳細については、文化庁「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計に関する検討会」の議事録等をご確認ください。 ↩︎

  7. 公正取引委員会「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)
    (令和元年10月)等 ↩︎

  8. これらの規定については2022年中の施行が予定されています。 ↩︎

  9. 2020年11月27日には、改正会社法施行規則および改正会社計算規則が公布されています。 ↩︎

  10. 2020年には、非正規社員に対する賞与、退職金、各種手当ての支払いに関して、下記の最高裁判決でそれぞれ判断が示されています。
    ・大阪医科薬科大学事件最高裁判決(最高裁令和2年10月13日判決・裁判所ウェブサイト)
    ・メトロコマース事件最高裁判決(最高裁令和2年10月13日判決・裁判所ウェブサイト)
    ・日本郵便事件最高裁判決(最高裁令和2年10月15日判決・裁判所ウェブサイト) ↩︎

  11. 国税庁タックスアンサーNo.6902「「総額表示」の義務付け」 ↩︎

  12. 金融庁「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料
    (2020年3月) ↩︎

  13. 発信者情報開示の在り方に関する研究会「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」(2020年12月) ↩︎

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