〔立案担当者が解説〕セキュリティトークン・STOの法律実務

第2回 2020年5月1日施行 改正金商法上のセキュリティトークンとは(続)

ファイナンス

目次

  1. セキュリティトークンと暗号資産との関係
  2. 「財産的価値に表示される」とは(トークン化)
  3. 振替法上の振替社債等はトークン化有価証券に該当しないのか

 前回に引き続き、2020年5月1日に施行された「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)(以下「改正法」といいます)において、セキュリティトークンがどのように位置づけられ、その外縁がどこにあるのかを検討していきます。

セキュリティトークンと暗号資産との関係

 第1回「2020年5月1日施行 改正金商法上のセキュリティトークンとは」では、法令上のセキュリティトークンが下記の3つに大きく分類されることを述べました。

  1. トークン化された有価証券表示権利
  2. 電子記録移転権利
  3. 適用除外電子記録移転権利

 そして、これらは一括して「電子記録移転有価証券表示権利等」(トークン化有価証券)とされ、下記のように定義されていることに触れました。

要件① 金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利であって

要件② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示されるもの

 このうち②は、下記にあげる資金決済法上の暗号資産の定義のうち、下線部とかなり似た表現となっています。これは、暗号資産とトークン化有価証券がいずれも、ブロックチェーン技術に代表される分散型台帳技術の利用を念頭に置いているためです。

資金決済法2条(定義)

5 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。

一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

 暗号資産は分散型台帳上の残高記録(これが「トークン」と称されることがあります)そのものを指すのに対し、トークン化有価証券はそのトークンが何らかの権利を表章する場合であって、そのため「(トークン)に表示されるもの」という定義になっている点が異なっています。しかし、捉えようとしている基本的な技術的要素自体に違いはありません。

 

※ 一般的な用語法としては、トークンが表章する権利自体もあわせて「セキュリティトークン」と称する例が多いですが、法令上の概念である「電子記録移転権利」等は、トークンに表示される「権利」を指すものであるため、厳密にいうとセキュリティ「トークン」自体ではありません。

もっとも、金商法は後述するとおり、トークンの移転と権利の移転とが一連として行われる実態があるものをトークン化有価証券としての規制対象としており、トークンと権利との区別は通常、あまり意識されません。本連載では第1回で述べたとおり、法令上の規制対象を「セキュリティトークン」ではなく「トークン化有価証券」と称することで曖昧さを回避しています。


 このように両者の概念が重複していることで、資金決済法上の暗号資産規制と、金商法上の有価証券規制との調整を図る必要が生じました。

 まず法令上、暗号資産の定義から電子記録移転権利を表示する財産的価値(トークン)が明示的に除外されています(資金決済法2条5項ただし書:上記参照)。これに対し、電子記録移転権利に該当しない権利(冒頭で述べた①トークン化された有価証券表示権利と、③適用除外電子記録移転権利)を表示するものは、「通貨建資産」に該当しない限り(同項1号、同条6項)、暗号資産の定義から明確に除外されているとは言えません。

 しかし当局は、事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係「16.暗号資産交換業者関係」のうち「ICOへの対応」について述べるなかで、「トークンの発行者による将来的な事業収益等の分配を受ける権利が当該トークンに表示されているなど、ICOが投資としての性格を有する場合は、当該トークンは金融商品取引法の規制対象となり、法の規制対象とはならない点に留意する。」と述べています(同ガイドラインII−2−2−8−1注2)。加えて、「電子記録移転有価証券表示権利等は、この場合に該当するものと考えられます。」との見解も示しました(金融庁パブコメ回答1~3)。

 こうして、トークン化有価証券として金商法上の規制を受けるセキュリティトークンについては資金決済法上の暗号資産として扱わないという当局の立場が明確になったことで、両者間の重複という問題は回避されています。

「財産的価値に表示される」とは(トークン化)

 トークン化有価証券に共通する要素は、権利が電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示されることです(前記要件②)。このうち「財産的価値」が主に想定しているのが、ブロックチェーン上のトークンであることは、前記の通りです。

 では、どのような場合に権利が財産的価値に「表示される」といえるでしょうか。これについては法令上では具体化されておらず、解釈の問題となります。ブロックチェーン上のトランザクションと権利の移転とを当然に結び付け、また対抗要件を具備させる直接の根拠となる規定は、現在のところ、どの有価証券類型についても整備されていないためです。

 本改正は、セキュリティトークンの実態にあわせて規制法として求められる対応をしたものであって、民法などの実体法の内容や解釈・適用に踏み込むものではありませんでした。実際、改正金商法は(元からそうですが)有価証券に表示されるべき権利の発生や移転についての根拠を定めていませんので、実際に財産的価値への「表示」(すなわちトークン化)が許容されるかは、有価証券類型ごとの根拠法等により規律されることとなります(金融庁パブコメ回答152参照)。このトークン化の可否は、次回のトピックとする予定です。

 「表示される」要件の解釈にあたっては、本改正の背景や経緯もさることながら、とりわけ金融商品取引法等ガイドラインに新設された、電子記録移転権利の該当性に関する下記記述が参考となります(下線部は筆者による)。

(電子記録移転権利に該当する場合)
2−2−2 金商法第2条第3項に規定する電子記録移転権利は、電子的な方法によって事実上多くの投資者間で流通する可能性が生じることから、同項に規定する第一項有価証券とされている。電子記録移転権利に該当するか否かは、このような趣旨も踏まえ、個別具体的に判断する必要があるが、契約上又は実態上、発行者等が管理する権利者や権利数を電子的に記録した帳簿(当該帳簿と連動した帳簿を含む。以下2−2−2において「電子帳簿」という。)の書換え(財産的価値の移転)と権利の移転が一連として行われる場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当することに留意する。例えば、あるアドレスから他のアドレスに移転されたトークン数量が記録されているブロックチェーンを利用する場合には、この記録されたトークン数量が財産的価値に該当する。ただし、電子帳簿の書換え(財産的価値の移転)と権利の移転が一連として行われる場合であっても、その電子帳簿が発行者等の内部で事務的に作成されているものにすぎず、取引の当事者又は媒介者が当該電子帳簿を参照することができないなど売主の権利保有状況を知り得る状態にない場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当しないことに留意する。

※ 電子記録移転権利に該当しないトークン化有価証券についても、基本的には同様に考えることができます(金融庁パブコメ回答174~176)。


 この記述を分解して検討してみましょう。

(1)契約上又は実態上、帳簿の書換え(トークンの移転)と権利の移転とが一連として行われる場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当する

 上記のなかで、特にポイントとなるのが「実態上」、「一連として」という表現です。

 まずはわかりやすい例として、ある取引システムを利用するすべての取引参加者が、当該システムにおけるトークンの取引によって権利を移転させる旨の約款にあらかじめ同意している場合を考えます。このケースでは、トークンと権利とが同時に移転する仕組みであることは明らかであり、電子記録移転権利への該当性は比較的明確だと言えます。

 

※ 第三者対抗要件を具備していない場合であっても、権利移転に第三者対抗要件の具備まで要求されるものを除けば、電子記録移転権利への該当性は否定されません(金融庁パブコメ回答177)。


 たとえば、集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)に含まれる匿名組合持分(いわゆるTK持分)の譲渡は実体法上、匿名組合契約(商法535条)の組合員としての地位、つまり契約上の地位の移転(民法539条の2)と解されるところ、その第三者対抗要件を具備するためには、債権譲渡に準じ確定日付のある通知または承諾を要すると考えられます(福田匠『プライベート・エクイティ・ファンドの法務』(中央経済社、2017)235頁参照)。しかし、その具備の仕組みが備わっていないものであっても、電子記録移転権利には該当し得るということです。


 本年4月に施行された改正民法のもとでは、譲渡禁止特約に反する債権譲渡も有効であり(民法467条2項)、二重譲渡等によりブロックチェーン上の記録と実体法上の権利の帰属とが一致しなくなるリスクが顕在化し得ることから、そのような場合の処理や取引の安定化策は、実務上の大きな課題といえます。


 これに対し、実際にはトークンと権利の移転との牽連性や、その同時性が上記と違って明確でないスキームの組成も考えられるところです。しかし、そのようなケースについて、実態としてトークンの移転により権利が移転されているのに規制が及ばなかったり、トークンの移転と権利の移転との間にタイムラグがあるからといって規制が及ばなかったりすると、本改正により強化された規制の潜脱となりかねません。

 そのため当局は、トークンと権利の移転との牽連性や同時性を厳密に求めず、これが「実態上」、「一連として」行われるものは、基本的には電子記録移転権利に該当するとの判断を示したと考えられます。

(2)取引の当事者又は媒介者が売主の権利保有状況を知り得る状態にない場合には、基本的に、電子記録移転権利に該当しない

 これは、要するに取引記録の方式としてブロックチェーン等を採用するだけで当然に電子記録移転権利に該当するわけではない、ということを言っているものです。

 いわゆる店頭取引(OTC取引)として行われる有価証券の売買や各投資家の保有残高を、その取引を扱う証券会社等のシステムで記録し管理することは、これまでも行われてきたことです。そして、そのようなバックエンドの仕組みに、新たにブロックチェーン等が採用されたとしても、本改正に基づく新たな規制を課す必要性が当然に生じるわけではないことは明らかです。

 そのため当局は、外部から参照されない単なる社内記録とそうでない場合との間に一定の線引きを設ける意図で、上記の判断を示したと考えられます。

 たとえば、取引システムに参加する投資家や取引の媒介者(投資家との間に立って取引を執行する証券会社)から、当該システムの取引記録方式として用いられているブロックチェーン上のデータが参照できない形となっていれば、その保有や取引の状態が外部からは可視化されず、取引の実態に何ら影響を与えないと考えられるため、そのようなケースまでトークン化有価証券として規制する必要はない、と言えそうです。

※ 「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書は、規制強化の根拠として、投資性を有するICO(トークン表示権利)の特徴を下記のとおりあげていたところ(22頁)、そのいずれも、主に投資家や取引の媒介者に可視化される形でブロックチェーンが用いられている場合に妥当するものと言えます。


・トークン表示権利は、トークンとともに電子的に移転するものと考えられており、事実上の流通性が高い。

・設計の自由度が高く、トークンの発行時・発行後ともに、発行者と投資家との間の情報の非対称性が大きい。

・対面によらずに、インターネットを通じて投資家を募るため、トークンの発行者や販売者による投資家へのアプローチが容易である一方、投資家が詐欺的な事案等を判別しづらい。

振替法上の振替社債等はトークン化有価証券に該当しないのか

 社債等振替法は、社債や株式など、有価証券に表示されるべき権利の流通の円滑化を図ることを目的として、かつて株券などの紙面の存在を前提として行われてきた権利の発生・移転・消滅を電子化する仕組みを定めたものです。2009年の同法施行により、上場株式等の券面が廃止され、株主権の管理や譲渡が電子化されています。

 同法は具体的には、証券会社等の「口座管理機関」における権利の管理と、「振替機関」である証券保管振替機構(ほふり)による「振替」とを組み合わせた仕組みとなっています。同法が対象とする有価証券類型により仕組みは異なりますが、基本的なコンセプトは、権利の帰属が振替口座簿の記録により定まり、その移転も振替口座簿に記録することにより効力を生じるというものです(たとえば振替社債について、同法73条)。

振替株式の譲渡のイメージ図(A証券の顧客aが、B証券の顧客bに100株譲渡)

振替株式の譲渡のイメージ図(A証券の顧客aが、B証券の顧客bに100株譲渡)

 これは非常に強力な仕組みです。社債券や株券の譲渡のみならず、無券面の社債や株式の譲渡も原則として会社法や民法により規律されますが、社債等振替法上の振替社債等となった場合にはその原則が上書きされ、振替口座簿の記録が正、となるからです。

 この仕組みが「電子化」であることは、本項の冒頭で述べました。そうすると、振替口座簿が電子的に管理され、かつ、権利の発生・移転・消滅がネットワーク上で管理された振替口座簿上の記録と一致することとなる点で、その振替社債等は、まさにトークン化有価証券の定義(下記に再掲)に該当するようにも見えます(特に要件②)。

要件① 金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利であって

要件② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示されるもの

 この点は、振替口座簿がブロックチェーンを利用して管理される(たとえば証券保管振替機構と各口座管理機関によるコンソーシアム型ブロックチェーン)という仮想事例を想定すると、より一層そのように言えそうです。

※ 同法上、振替口座簿は「備えなければならない」とされているだけであって(同法12条3項、45条2項)、その具体的な存在形態は決まっていません(そもそも振替口座簿には「記載又は記録」をすることになっているため、紙に「記載」する形態すら排除されていません)。そのため、振替口座簿の形式を分散型台帳とする可能性も排除されないことになります。


 しかし、パブリックコメント手続でこの点について問われた当局は、「社債等振替法の規定を踏まえると、電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない」と述べ、上記要件のうちどの部分が否定されるかを明確にせずに、その該当性を否定しています(金融庁パブコメ回答164・165)。

 この整理は、(文言の素直な解釈には沿わないように思いつつも、)結論としては妥当と思われます。振替社債等は、そもそも社債等振替法により本改正の前から存在していたものですし、同法の規律(たとえば振替機関は同法上の指定を受ける必要があるし、振替口座簿の記載事項や振替手続も有価証券類型に応じて具体的に規定されている)が及ぶ点や、権利の帰属・移転の記録との一致という実体法の上書き効果が及ぶ点でも、手続や取引の安定が十分に図られていて追加の規制を要しないと言えるからです。

 他方、私の知る限り、振替機関を経由せずに類似の形で権利を電子取引したいというニーズ自体は多く存在していますが、同法の適用を受けない仕組みについては、たとえ振替の仕組みに似せる形でシステムが構築されていたとしても、トークン化有価証券への該当性は否定されないでしょう。

 次回は、権利のトークン化のケーススタディや、有価証券類型に応じたトークン化の可否といったトピックを扱います。(第3回につづく)

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