物流施設の開発と投資スキームに関する法的留意点
ファイナンス
物流は国民生活や我が国経済を支える社会インフラであり、新型コロナウイルス禍で拡大したEC(電子商取引)需要が高い水準にあることもあり、引き続き高い需要が続いています。他方で、近年種々の課題も取り上げられ、たとえば、物流の効率化については、即効性のある設備投資の促進や「物流DX」の推進等が注目されるとともに、その一部は現実に運用されており、これに伴い、物流施設の開発も専門化・複雑化してきています。
このような状況の下、物流施設の開発案件は増えており、地方圏でも数万~数十万㎡単位の開発案件が多数みられますが、①用地取得の問題(対象不動産の広域性や土地の筆数の多さ、許認可、地権者との契約)、②周辺住民との利害調整、③投資スキームの適法性・合理性など、法的課題が複雑に絡み合っています。
本稿では、こうした物流施設の開発に関する法的留意点を解説したうえで、物流施設に対する投資スキームについても解説します。
物流施設の開発に関する法的留意点
用地取得に関するリスクと検討事項
(1)地権者からの土地取得、権利関係の把握等
近時、物流施設の開発は大規模化しており、広大な用地を取得する場合、多数の地権者からの買取りが必要なケースも珍しくありません。その場合、多数かつ広範な土地のデューデリジェンス(DD)が必要となります。
対象土地には、相続不明または未登記のもの、共有地や農地などが混在しています。相続人の確定や相続の登記手続において、所在不明者や海外在住者がいると、手続が難航することもあります。また境界確定や地積更正を要する場合もあります。さらに、一部の地権者の同意が得られないと、開発に必要な敷地全体が取得できず、開発計画が遅れ、費用が増加し、頓挫するリスクもあります。
多数の地権者からの買取りが必要なケース以外でも、たとえば、土地区画整理事業により用地を取得する場合もあります。この場合、換地や保留地を取得することになりますが、事業の進行中は登記がなされず、売買の方法や対抗力具備の方法などについて対応が必要になります。また、工場跡地などの広大な用地を取得する場合には、土壌汚染や地中障害物などの調査も必要になります。
(2)許認可、行政対応
対象土地のDDにおいては、都市計画法や農地法等を含む行政上の規制・制約等についても確認していく必要があります。
特に農地等の開発においては、実務上、全体開発スケジュールに対して農地転用許可等の許認可取得や行政対応によるタイムラグが大きく影響することから、スケジュールの延期、コスト増加の場合の対応策を検討しておく必要があります。さらに、国土利用計画法や公有地の拡大の推進に関する法律に基づく届出の要否の検討も必要になります。
(3)地権者との契約
多数の地権者がいる場合、一部の用地のみを取得できても事業の遂行はできないため、用地の売買契約では、全体(一体)取得が条件となる条項などを設け、リスクを最小限とする手当てをしていくなどの対応を検討する必要があります。契約不適合責任や表明保証事項に関する内容の検討が必要になることは通常の不動産売買と同様ですが、その他にも、用地の売買契約において取引の実行(決済)まで解決できない問題に関するポスクロ条項 ※ や留保金の設定等を盛り込むかなども検討対象となります。
※ ポスクロ条項とは、ポスト・クロージング(Post-Closing)条項の略であり、クロージング(売買取引の実行日)後に当事者が履行すべき義務や約束事項を定めた条項のことを指します。
周辺住民との利害調整
大規模な土地開発においては、隣地所有者を含めた多数の周辺住民との関係も問題となります。
大型トラックの通行や騒音、開発による景観悪化等の懸念から、周辺住民の反対運動により開発が進まないこともあります。これら周辺住民の懸念に対しては、住民説明会の開催や交通動線の整備・工夫、緑地・池沼の設置、自治会対応など、計画段階からの配慮が求められ、地権者との売買契約上の手当てや、行政庁や関係当事者も含めた各種覚書・協定書の締結などの検討も必要になります。
物流施設に対する投資スキームと法的留意点
物流施設を投資対象とする場合、用地取得→建築→運用→出口(売却)という各段階を想定したスキームの設計が必要となります。スキームの検討は、対象土地の数や権利関係、投資家の属性、投資期間、リスク許容度、出口戦略等の複合的観点から行うことになります。
投資スキームの適法性・合理性・遵法性等
投資対象としての物流施設の開発・運用においては、投資スキームの適法性・合理性等の検討が必須です。
複数投資家が関与する場合には、収益分配、費用負担、重要事項の意思決定方法、投資終了時(出口)における売却方法等に関して調整する必要もあります。開発や運用が途中で頓挫した場合に備えた解除条項、違約金の定め等も必要となります。
典型的な投資スキーム
投資形態としては、投資家が物流施設に直接投資することも考えられますが、多数の投資家が参加したり、運用を専門業者に任せる場合もあるため、特別目的会社(SPC)等を用いるスキームも多くみられます。以下、SPCを用いるスキームとして典型的なものを紹介します。
(1)合同会社と匿名組合出資を利用するスキーム(いわゆるGK-TKスキーム)
典型的に利用が想定されるのは、合同会社(GK)を設立し、投資家が匿名組合契約(TK)により出資するスキームです。流通税の観点や不動産特定共同事業法(不特法)の適用を避ける観点から、対象不動産に信託を設定し、GKが信託契約に基づく信託受益権を取得し、運用します。
このスキームでは、信託受益権や匿名組合出資持分は金融商品取引法上の有価証券となるため、同法の規制を遵守する必要があります。また、対象土地が多数の場合、すべての土地に対し信託を設定し、信託登記を経て受益権化を行うと、実務的負担が大きくなります。特に地権者数が多い案件では、信託報酬や信託財産の管理等の点で地権者ごとに信託を設定することが困難であるといった問題もあります。
(2)特定目的会社(TMK)を利用するスキーム
典型的なスキームの2つ目は、資産の流動化に関する法律(資産流動化法)に基づく特定目的会社(TMK)を設立するスキームです。TMKにおいては、現物不動産の保有も可能であるため、信託受益権化が難しい案件でも採用可能です。
もっとも、TMKを利用するスキームは、資産流動化法に基づき資産流動化計画を作成し、業務開始のための届出をする必要があります。また資産流動化計画を変更する場合、届出等の手続が必要になります。その他、税務上のメリットを受けるための租税特別措置法等の要件(たとえば、機関投資家による特定社債の保有等)を充足する必要もあり、GK-TKスキームと比較して手続的な負担は多いといえます。
(3)合同会社と匿名組合出資を利用するスキーム(特例事業者・特例投資家型)
典型的なスキームの3つ目は、不動産特定共同事業法(不特法)上の特例事業を用いたスキームです。合同会社と匿名組合出資を利用する点では2-2(1)の「合同会社と匿名組合出資を利用するスキーム(いわゆるGK-TKスキーム)」と同じですが、対象となる不動産を信託受益権化することなく現物不動産のまま合同会社が取得する点が異なります。特例事業者としての合同会社は、不特法の定めに従い、不動産取引に係る業務を不動産特定共同事業者に委託することになります。
不特法上、投資家保護のため、投資家との間で、同法が定める許可等に係る約款に従った不動産特定共同事業契約(任意組合型、匿名組合型)を締結することが原則となりますが、プロの投資家である特例投資家のみの投資に限定すると約款規制等が及びません。また、特定目的会社と異なり、特例事業者は宅地建物取引業者とみなされ、宅地建物取引業法3条(免許)、35条(重要事項の説明等)等一部の規定を除き同法が適用されます。他方で、特例事業者としての合同会社が買主となり、売主が宅地建物取引業者の場合、同法上、宅地建物取引業者間の売買の場合に適用のない条項については適用がないものと考えられます。なお、本スキームを利用する場合、税務上のメリット(流通税の軽減措置)を受けることができますが、そのためには、租税特別措置法等の一定の要件を満たす必要があります。
また、特例事業の開始にあたっては供託金(1,000万円)の納付が必要です。不動産保証協会または全国宅地建物取引業保証協会に入会して、低額の弁済業務保証金分担金(60万円)を納付する形での対応も可能ですが、直近で確認する限り、各協会の運用上、不動産取引に係る業務を受託した不動産特定共同事業者が当該保証協会に加入していない場合、特例事業者としての合同会社において保証協会に加入することはできないことに注意が必要です。

牛島総合法律事務所
- コーポレート・M&A
- ファイナンス
- 訴訟・争訟
- 不動産

牛島総合法律事務所
- コーポレート・M&A
- IT・情報セキュリティ
- ファイナンス
- 訴訟・争訟
- 不動産