〔立案担当者が解説〕セキュリティトークン・STOの法律実務

第1回 2020年5月1日施行 改正金商法上のセキュリティトークンとは

ファイナンス

目次

  1. はじめに:法改正の背景
  2. 一般的な意味でのセキュリティトークン
  3. 法令上のセキュリティトークン
  4. 「トークン化有価証券」の定義
  5. 適用除外電子記録移転権利となる要件
仮想通貨・ブロックチェーンにかかわる法改正として注目を集めた昨年の資金決済法や金融商品取引法の改正は、2020年5月1日に施行を迎えた。同改正は、仮想通貨の名称の「暗号資産」への変更、暗号資産デリバティブ取引に関する規制導入など様々な改正事項を含むものであったが、中でも「セキュリティトークン」と呼ばれる証券的なデジタルトークンを利用した取引や資金調達(STO)にかかわる改正については、今後の実務の動向が注目されるところである。

そこで連載企画として、金融庁で同改正法の立案を担当した増田雅史弁護士による実務的な解説を順次掲載する。

はじめに:法改正の背景

 ビットコインの原型となる論文がSatoshi Nakamotoの名義で2009年に発表されて以来、全世界的に、ブロックチェーン技術等の分散型台帳技術を活用した多くの仮想通貨(暗号資産)が出現しました。

 日本国内では、2017年4月に施行された改正資金決済法において「仮想通貨」や「仮想通貨交換業」が法的に位置づけられたのと前後して、仮想通貨やそのデリバティブ取引が活発化し、ビットコイン価格が急騰するとともに、仮想通貨の発行により資金を調達する仕組みであるICO(Initial Coin Offering)が急速にトレンド化しました。他方、詐欺的なICOの多発、交換業者からの仮想通貨の流出といった情勢の変化を受け、仮想通貨に対する法規制そのものを見直す機運も高まりました。

 金融庁はこのような背景から、2018年3月、仮想通貨交換業等をめぐる諸問題について制度的な対応を検討することを目的として「仮想通貨交換業等に関する研究会」を設置し、特に同年9月から12月にかけて有識者による集中的な議論が行われました。中でもICOについては、これを「投資性ICO」とそれ以外に分けて、前者を金融商品取引法(以下「金商法」といいます)で、後者を資金決済法で規制するとの方向性が確認されました。

 また、この動きと並行して、海外でもICOに対する懐疑的な見方が広がり、それに代わるものとして、証券規制に従う形で行われる資金調達、すなわちSTO(Security Token Offering)への注目が高まりました。

 このような動きを受け2019年5月に成立したのが、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)です(以下「改正法」といいます)。これは主に資金決済法と金商法を改正するものであって、おおまかな改正項目は下記のとおりです。

  • 「仮想通貨」という名称の「暗号資産」への変更
  • 暗号資産交換業規制の強化
  • 暗号資産デリバティブ取引に対する規制の導入
  • セキュリティトークンに関する規制の整備

 本連載では、改正法やその下位法令(以下「本改正」と総称します)を踏まえたセキュリティトークン・STO規制の全体像を、実務的観点から解説していきます。

一般的な意味でのセキュリティトークン

 セキュリティトークンとは何でしょうか。

 本改正は「セキュリティトークン」や「STO」を定義しているわけではありませんし、セキュリティトークンの定義として広くコンセンサスを得ているものもありませんが、金商法上の認定協会である一般社団法人日本STO協会はそのホームページにおいて、次のように説明しています。

有価証券は紙から始まり、電子化を経て、Tokenと呼ばれるデジタルな形態による発行・流通への進化を遂げつつあります。

・・・(中略)・・・

伝統的なエクイティファイナンス・デットファイナンスに代わる新しい資金調達方法、株式や社債に代わる新しい金融商品の提供、これらのニーズをテクノロジーの進化を通じて、法令に準拠した形でサービス提供する仕組みがSTOと呼ばれる仕組みであり、日本では「電子記録移転権利」と呼ばれます。

 本連載では後述のとおり、上記「電子記録移転権利」よりも広い概念のものを「セキュリティトークン」に含めて考えるのですが、さしあたり上記の説明を借りて、次のようにざっくり理解したうえで議論を深めていきましょう。

セキュリティトークン = トークンという形でデジタル化された証券

STO(Security Token Offering) = その技術を活用した資金調達の方法

法令上のセキュリティトークン

 本改正は前記のとおり、「セキュリティトークン」や「STO」を直接定義しているわけではありません。

 まず法律上の規定から見ていきます。改正法は、以前から有価証券としての規制対象であった一部権利に関して、ブロックチェーン技術に代表される分散型台帳技術を用いた「トークン」に表示される(すなわち「トークン化」された)ものを次のように「電子記録移転権利」と定義したうえで(金商法2条3項)、その発行や取扱いに関する所要の規定整備を行いました。

「[金商法2条2]項各号に掲げる権利(電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)に限る。以下「電子記録移転権利」という。)」(下線部は筆者)

 これが本改正におけるセキュリティトークンだと説明されることがあり、日本STO協会における前記説明もそのようなニュアンスです。もっとも、これは後述するとおり、同協会が金商法上の自主規制団体として所掌する範囲が基本的に電子記録移転権利であることによると思われます。

 他方、改正法よりも下位に属する法令、つまり金商法施行令や各種内閣府令の改正内容まで読み進めていくと、本改正の全体像としては、実際はもっと広い範囲がセキュリティトークンとして捉えられていることがわかります。具体的には、一部の内閣府令は「電子記録移転有価証券表示権利等」としてトークン化された有価証券全般を取り込み、電子記録移転権利よりも広い範囲について規制を強化しています。

 「電子記録移転有価証券表示権利等」は用語としては少し長く複雑です。また、その範囲が一般的に言われているセキュリティトークンに一致するとも限りません。そこで本連載では、これを「トークン化有価証券と総称することとします(日本証券取引業協会の自主規制案でも、同じ定義語が使われています)。

※ 本連載ではわかりやすさのために、権利を表示する「財産的価値」のことを「トークン」と、権利を財産的価値に「表示」することを「トークン化」と記載することがあります。


 以下、法令上の概念を整理していきます。有価証券の定義や分類は、かねてから使用されている「第一項有価証券」や「第二項有価証券」という用語も相まって誤解が生じやすい部分ですので、少し丁寧に見ていきましょう。

「トークン化有価証券」の定義

 トークン化有価証券は大要、次のように定義されています(金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業府令」といいます)1条4項17号、6条の3)。

要件① 金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利であって

要件② 電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示されるもの

 要件①を理解する前提として、金商法2条が規定する有価証券(みなし有価証券を含む)の範囲を知っておく必要があります。おおよそ次のように整理することができます。

金商法上の伝統的な有価証券の分類

金商法2条1項各号に掲げる有価証券 国債証券(1号)
地方債証券(2号)
社債券(5号)
株券(9号)
投資信託の受益証券(10号)など
金商法2条2項に基づく「みなし有価証券」 2項柱書の
「有価証券表示権利」
1項各号に掲げる有価証券(一部のものは対象外)に表示されるべき権利であって、有価証券が発行されていないもの(つまり電子化されているもの)
2項柱書の
「特定電子記録債権」
電子記録債権のうち、政令で定めるもの
(しかし対応する政令の定めはない)
2項各号に掲げる権利 持分会社の社員権(1号)
信託受益権(3号)
集団投資スキーム持分(5号)など

 要件①は、「金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利」として2項全体を対象としていますから、同項各号に掲げる権利だけではなく、同項柱書に基づき有価証券とみなされるもの、すなわち「有価証券表示権利」も含むことを示しています。

 次に要件②は、いわゆる「トークン化」されていることを指すものですが、これは改正法の時点で金商法2条3項に置かれた「電子記録移転権利」の定義(下記・再掲)の下線部分と同じ事項を定めているものです。

「[金商法2条2]項各号に掲げる権利(電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合を除く。)に限る。以下「電子記録移転権利」という。)」(下線部は筆者)

 この「財産的価値に表示される場合」の意義については次回解説予定ですが、ここで読み取れるのは、電子記録移転権利は金商法2条2項「各号」の権利のみを対象としているのに対し、トークン化有価証券は前記要件①のとおり、2条2項柱書の有価証券表示権利をも対象としていることです。また、電子記録移転権利は「流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定める場合」を含まないこととしていますが、トークン化有価証券にはこれも含まれることとなります。

※ 以下、当該除外される部分を「適用除外電子記録移転権利」といいます。日本STO協会の定款その他諸規則でも同じ定義語が使われています。


 ここまでの議論を要約してみます。まず、権利の種類からみると、トークン化有価証券は次のとおり大きく2つに分かれることとなります。

権利の種類からみたトークン化有価証券の分類

権利の種類は? 権利をトークン化した場合
何に該当するか?
金商法2条1項各号に掲げる有価証券に表示されるべき権利
(国債、社債、株式など)
トークン化された有価証券表示権利
金商法2条2項各号に掲げる権利
(集団投資スキーム持分など)
電子記録移転権利
or
適用除外電子記録移転権利

 そして、今後の議論の先取りともなりますが、どのような規制を受けるかという観点からトークン化有価証券の範囲を整理すると、次のようになります。

トークン化有価証券の分類とそれに対応する規制の概要

発行者に対する規制 取扱者に対する規制 自主規制機関
トークン化された
有価証券表示権利
第一項有価証券
原則として発行・継続開示の義務あり
第一種金融商品取引業
登録時の最低資本金5,000万円、自己資本比率の継続的なモニタリングなど、高水準の規制を受ける
日本証券業協会
本改正前から引き続き所掌
電子記録移転権利 第一項有価証券
改正前は第二項有価証券であった(改正の主目的)
第一種金融商品取引業
改正前は第二種金融商品取引業であった(改正の主目的)
日本STO協会
本改正を受けて新たに設立(本改正の施行日前日に認定)
適用除外
電子記録移転権利
第二項有価証券
原則として発行・継続開示の義務なし
第二種金融商品取引業
最低資本金は1,000万円でよく、自己資本規制も受けない

※ 投資運用業や投資助言・代理業は、一般社団法人日本投資顧問業協会が引き続き担っています。


 改正法の眼目は、これまで第二項有価証券として扱われ、その取扱業務が第二種金融商品取引業と整理されてきた権利のうち、トークン化されたものを電子記録移転権利として定義し、その規制を上記のように強化することにありました(上記紺色文字部分)。

 他方、その規制強化の対象外となった適用除外電子記録移転権利については、基本的には改正前と同様に扱われることとなります。では、どのような場合にこれに該当するでしょうか。

適用除外電子記録移転権利となる要件

 適用除外電子記録移転権利、つまり電子記録移転権利の定義から内閣府令により除外されるものの範囲は、金融庁によれば、「投資者保護とイノベーションのバランスにも配意しつつ、流通性等を勘案したもの」として定められました(金融庁パブコメ回答137~140)。

令和2年4月3日付金融庁「令和元年資金決済法改正等に係る政令・内閣府令等に対するパブリックコメントの結果等について」における、各質問番号に対する「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」のことを指します(以下同じ)。


 具体的には、そのトークン(権利自体ではない)の移転に関し、次の措置がいずれも講じられているものとして定義されています(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」といいます)9条の2)。

要件①:取得者制限 適格機関投資家または適格機関投資家特例業務(金商法63条:いわゆる “ロクサン業務” )の対象投資家(特例業務対象投資家)に類する範囲の投資家以外の者には、トークンを取得させ、移転することができないようにする技術的措置

要件②:譲渡制限 その都度、権利の保有者の申出と、発行者の承諾が無ければ、トークンを移転できないようにする技術的措置

上記「技術的措置」が財産的価値自体に内在するよう設計されていることは必須ではない。例えば、アカウント保有者を一定の者に限定し、トークンをそのような者以外に移転できないような設計とする方法も考えられる(パブコメ回答150番参照)。

 特に関心を集めているのは、このうち要件①の取得者制限です。

 「特例業務対象投資家」には、金融商品取引業者、登録金融機関、ファンド運用業者、上場会社、外国法人など様々な者が含まれますが、個人に関しては、投資性金融資産が1億円以上であり、かつ証券口座の開設後1年が経過している者だけが対象となります。ただ、要件①では投資性金融資産の保有額には保有する暗号資産も加味され(定義府令9条の2第2項)、その点は特例業務対象投資家とは異なります。

 この範囲は、適格機関投資家や特定投資家といったカテゴリに比べれば広いものの、一定以上の資産と投資経験を持つ層以外は含まれないことを考えると、適用除外電子記録移転権利をマス層に販売することはそもそも難しいといえそうです。

 なお、要件①は権利の保有者が常に資産要件を満たしていることまで求めているわけではなく(よって資産状況を常にモニタリングすることまでは要求されておらず)、発行とその後の移転の各時点において当該要件を満たしていない者が当該取得・移転の対象とならないよう措置されていれば足りると考えられます(金融庁パブコメ回答142~144)。

 ところで、このような金商法上の投資家区分に関しては、政府が日本経済再生本部のもとに設置した「未来投資会議」において、「プロ投資家」(金商法上の特定投資家)の範囲を取引履歴データ等のビッグデータを活用することで見直すという方向性が打ち出されたことにより、今後、金融庁の主導によって実証実験が進められる見通しです。この検討の結果、特定投資家の基準(現在は個人の場合、投資性金融資産3億円以上であること等が必要)が柔軟化されるのであれば、上記要件①を含む他の投資家区分にも規制緩和が及ぶ可能性があり、その動向が注目されます。

 関連して、米国の証券規制が参照されることがあります。すなわち、米国連邦証券法上の証券登録を経ない投資勧誘を認める「レギュレーションD Rule 506(c)」について、勧誘可能な「適格投資家」(accredited investor)に該当する個人投資家の範囲には、一定の資産(配偶者分を含み、居宅を除いた純資産が100万ドル超)をもつ個人に限られず、一定の収入(直近2年の年収が20万ドル超または配偶者を含めて30万ドル超であり、本年も同等の収入が合理的に期待できる)をもつ個人も含まれます。今後、我が国において「プロ投資家」区分の柔軟化が検討される際には、金商法上の投資家区分では現在考慮されていない年収要件も検討の俎上にのぼると予想されます。

※ たとえば新経済連盟は、改正法の成立を受けた提言(2019年7月30日公表)の中で、米国の規制を参考にしつつ投資家属性等に応じたきめ細やかなルール導入を検討するよう要望を表明しました。パブリックコメント手続においても、収入要件や米国の証券規制との平仄に触れるコメントが複数見られます(金融庁パブコメ回答138、140)。


 次回は、トークン化有価証券と資金決済法上の「暗号資産」との関係や、どのような場合に権利を「トークン化」(財産的価値に表示)したと評価されるのか等、セキュリティトークン規制の入り口となる論点に更に踏み込んでいきます。(第2回につづく)

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