令和6年改正金商法・投信法等の概要と実務対応

ファイナンス

目次

  1. 改正の背景
  2. 主な改正事項と施行期日
  3. 投資運用業者の参入促進
    1. 投資運用関係業務受託業に係る制度の導入
    2. 投資運用業を中心とする金融商品取引業に関する規定の整備
    3. 小括
  4. 非上場有価証券の流通活性化
    1. 非上場有価証券特例仲介等業務に係る特例の創設
    2. 私設取引システム(PTS)運営業務に関する規定の整備
    3. 小括
  5. 大量保有報告制度の見直し
    1. 共同保有者の対象範囲の見直し
    2. 現金決済型エクイティ・デリバティブ取引の取扱い
  6. 公開買付制度の見直し
    1. 対象取引の拡大
    2. 公開買付説明書における公開買付届出書の参照
    3. 小括

 2024年5月15日に、投資運用業者の参入促進のための制度改正や大量保有報告制度・公開買付制度の見直しなどを内容とする「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました。

 本稿では、主な改正事項の概要について解説します。なお、本稿で引用する条文番号は、いずれも本改正法に基づく改正後の条文番号を示しています。

改正の背景

 「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第32号)(以下「本改正法」といいます)が2024年5月15日に成立し、同月22日に公布されました。本改正法は、投資運用業、大量保有報告、公開買付などに関する制度を整備するために主に金融商品取引法(以下「金商法」といいます)の改正を行うものであり、投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」といいます)などの他の法律についても関連する事項の改正が行われています。

 改正内容の大半は、2023年12月12日に公表された「金融審議会 市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」(以下「資産運用TF報告」といいます)と同月25日に公表された「金融審議会 公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ報告」(以下「公開買付WG報告」といいます)という2つの報告書による提言を踏まえたものです。
 また、それらの改正内容のうちの一部は、新しい資本主義実現会議 資産運用立国分科会が2023年12月13日に取りまとめ、公表した「資産運用立国実現プラン」に掲げられた政策プランを実現するものでもあります。

 なお、筆者は金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」および「資産運用に関するタスクフォース」のメンバーを務めており、資産運用TF報告の取りまとめに参加していますが、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、これらの会議体やその他の組織の見解を示すものではないことを申し添えます。

主な改正事項と施行期日

 本改正法による主な改正内容を区分けすると、以下の4項目に整理することができます 1。これらのうちの①②は資産運用TF報告の提言を踏まえた改正であり、③④は公開買付WG報告の提言を踏まえた改正です。

改正項目 施行期日
① 投資運用業者の参入促進
  • 投資運用関係業務受託業に係る制度の導入
  • 投資運用業を中心とする金融商品取引業に関する規定の整備
公布日(2024年5月22日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日
② 非上場有価証券の流通活性化
  • 非上場有価証券特例仲介等業務に係る特例の創設
  • 私設取引システム(PTS)運営業務に関する規定の整備

③ 大量保有報告制度の見直し(対象明確化)

  • 共同保有者の対象範囲の見直し
  • 現金決済型エクイティ・デリバティブ取引の取扱い
公布日(2024年5月22日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日

④ 公開買付制度の見直し(対象取引の拡大)

  • 対象取引の拡大
  • 公開買付説明書における公開買付届出書の参照

 上記①②の項目の施行期日は、本改正法の公布の日(2024年5月22日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています(本改正法附則1条本文)。また、上記③④の項目の施行期日は、本改正法の公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とされています(本改正法附則1条3号)。

 以下、上記①〜④の項目ごとに概要を解説します。

投資運用業者の参入促進

投資運用関係業務受託業に係る制度の導入

(1)投資運用関係業務受託業制度

 資産運用TF報告では、後述する投資運用業の登録拒否要件の緩和との関連で、投資運用業のミドル・バックオフィス業務を受託する事業者の登録制度を導入することが提言されました。
 これを受けて、本改正法では、投資運用関係業務受託業」の登録制度を定めています。具体的には、投資運用業等 2 に関して行う次に掲げる業務を「投資運用関係業務」と定義し(金商法2条43項)、金商法の規定により投資運用業等を行うことができる者の委託を受けて、当該委託をした者のために以下の①および②の業務のいずれかを業として行うことを「投資運用関係業務受託業」と定義しています(同条44項)。

  1. 運用対象財産 3 を構成する有価証券その他の資産および当該資産から生ずる利息または配当金ならびに当該運用対象財産の運用に係る報酬その他の手数料を基礎とする当該運用対象財産の評価額の計算に関する業務
  2. 法令等 4 を遵守させるための指導に関する業務

 その上で、投資運用関係業務受託業を行う者は、登録を受けることが「できる」とされています(金商法66条の71)。この登録については、金融商品取引業の登録などと同様に、登録拒否要件が定められており(金商法66条の74)、登録を受けるためには体制整備などの一定の要件を満たす必要があります。

 この登録を受けた者(投資運用関係業務受託業者)には、誠実義務、忠実義務、業務管理体制の整備義務、禁止行為その他の業務に関する規制が適用されます(金商法66条の76~66条の81)。さらに、投資運用関係業務受託業者に対する業務改善命令、業務停止命令、登録取消処分、報告徴取および検査その他の監督に関する規定も設けられています(金商法66条の82~66条の89)。

 なお、衆議院・参議院両院で附帯決議として、次の事項に配慮すべきことが決議されています。

投資運用関係業務受託業者の業務品質の向上を図るため、受託業務量が過大となることや委託元である投資運用業者から不当な圧力を受けることを防ぐとともに、委託元に対し業務上必要な情報提供を随時求めることができるよう必要な措置を講じること。

(2)投資運用関係業務受託業の登録を受ける意義

 この登録は任意の登録制度であり、本改正法による改正の後も、金商法に基づく登録を受けなくても投資運用関係業務受託業を営むことが認められます(現行法では、信用格付業の登録(金商法66条の27)が同様の建付を採用しています)。そのため、投資運用関係業務受託業制度だけを見る限り、事業者にとって登録を受けることは規制の負担ばかりでメリットがないことになります。
 もっとも、投資運用関係業務受託業の登録を受けた場合には、金商法に基づく規制・監督に服することが必要になるものの、投資運用業を行おうとする者がこの登録業者に投資運用関係業務を委託する場合には、3-2で述べるとおり、金融商品取引業の登録の要件が緩和されることになります。そこで、登録を受けて投資運用関係業務受託業を営むことにより、登録要件の緩和を企図する投資運用業者からの業務を受託するというビジネス機会が広がることになると考えられます。

投資運用業を中心とする金融商品取引業に関する規定の整備

(1)登録拒否要件の見直し

 金融商品取引業を行おうとする者は金商法に従った登録を受けることが必要となりますが(金商法29条)、金融商品取引業の登録を受けた投資運用業者数は大きく伸びていない状況にあると評価されています。
 そのような状況も踏まえ、本改正法では、金融商品取引業の登録拒否要件について見直しが行われており、その主な内容は以下のとおりです(金商法29条の4第1項)。

  1. 暴力団または暴力団員との関係その他の事情に照らし、金融商品取引業の信用を失墜させるおそれがあると認められる者が登録拒否要件となることを明文化(1号ホ(1))。
  2. 人的構成要件の内容を明確化し、登録申請者が法人である場合においては、登録申請の対象となる金融商品取引業に係る業務のそれぞれにつき、その執行について必要となる十分な知識および経験を有する役員または使用人を確保していないと認められる者が登録拒否要件となることを規定(1号の2本文) 5
  3. ②の例外として、登録申請者が投資運用関係業務を投資運用関係業務受託業者に委託する場合における当該投資運用関係業務については、その業務の監督を適切に行う能力を有する役員または使用人を確保していれば足りる(1号の2但書)。

 このうち、上記③については、資産運用TF報告において、「適切な業務の質が確保された外部委託先へミドル・バックオフィス業務を委託した場合」には、体制整備などの登録要件を緩和することが提言されたことを踏まえた改正と考えられます。

 なお、登録を受けた金融商品取引業者が登録拒否要件に該当する場合には登録取消命令や業務停止命令の対象となり得るところ(金商法52条1項1号~5号)、上記③の特例については、新たに投資運用業を行おうとする者が登録を行う場合だけでなく、既存の投資運用業者が変更登録を行うことで業務体制を見直すことにも利用可能であると考えられます。

 あわせて、投資運用業を行おうとする場合の登録申請書の記載事項として、以下の項目が追加されています(金商法29条の2第1項)。

(ア)その行おうとする投資運用業に関して、顧客から金銭または有価証券の預託を受けず、かつ、自己と密接な関係を有する者として政令で定める者に顧客の金銭または有価証券を預託させないときにあっては、その旨(5号の2)

(イ)投資運用関係業務を委託する場合においては、その旨ならびに委託先の商号、名称または氏名および当該委託先に委託する投資運用関係業務の内容その他内閣府令で定める事項(12号)

 このうちの(イ)については、上記③の登録拒否要件の特例との関係で記載が求められるものと考えられます。
 また、(ア)については、資産運用TF報告において「原則として自らが金銭等の預託を受けない場合」には、資本金などの投資運用業の登録要件を緩和することが適当である旨の提言がなされており、今後、(ア)の場合には資本金要件などを緩和する旨の政令の改正が行われるのではないかと予想されます。

(2)投資運用業者の運用権限の委託の範囲の見直し

 資産運用TF報告では、投資運用業者の運用の指図に係る権限のすべてを外部委託することはできないとされている現行法について、委託先の管理について必要な制度等の整備を行った上で、見直しを行うことが提言されました。この提言は、欧州において、ファンドの運営業務を担う管理会社が、運用業務を資産運用会社に委託し、ファンドの運営機能に集中できる環境を整えて業務を行っていることを踏まえ、我が国においてもそのようなビジネスモデルを可能とすることを企図したものです。

 これを受けて、本改正法では、投資運用業者がすべての運用財産につき運用に係る権限の全部を委託することを禁止している現行の金商法42条の3第2項の規律を廃止しています。その上で、新たに同項に以下の規定を設けています。

金融商品取引業者等は、金商法42条の3第1項の規定により委託をする場合においては、当該委託を受ける者に対し、運用の対象および方針を示し、かつ、内閣府令で定めるところにより、運用状況の管理その他の当該委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じなければならない。

 あわせて、投資信託委託会社および投資法人の資産運用会社の運用の委託に関する投信法の規定も、金商法42条の3第2項の改正に即して見直されています(投信法12条、202条、204条、214条)。

 この改正により、投資運用業者は、運用の対象および方針を決定する権限を委託することはできないものの、それ以外の運用を行う権限の全部を委託することができることになると考えられます。他方、運用権限の一部のみを委託する場合を含めて、投資運用業者は、委託に係る業務の適正な実施を確保するための措置を講じる必要があることが、法律上、明記されることになります。

小括

 以上のとおり、本改正法では、投資運用関係業務を投資運用関係業務受託業者に委託する場合に登録要件を緩和したり、運用の対象および方針を決定する権限を除く投資運用権限のすべてを外部委託することを認めたりするなど、投資運用業を柔軟化するための規制整備が図られています。
 このような見直しにより、投資運用業に参入しようとする事業者が増えることに加えて、投資運用業者のビジネスモデルの多様化が進み、従来とは異なる資産運用サービスも提供されるようになることが期待されます。

 一方で、ミドル・バックオフィス業務(投資運用関係業務)を外部委託することを前提として投資運用業を営むことが認められることにより、コンプライアンス意識が希薄化した投資運用業者が現れることにならないかなど、実務動向に注視が必要となると思われます。この点、国会での審議においても、衆議院・参議院両院で附帯決議として、次の事項に配慮すべきことが決議されました。

投資運用業者によるコンプライアンスなどミドル・バックオフィス業務の投資運用関係業務受託業者への委託により、当該業務の執行について必要となる十分な知識及び経験を有する役員又は使用人が不要となる結果、コンプライアンス管理等の態勢が弱体化して顧客に不利益が及ぶことのないよう、当該業務の監督を適切に行う能力を有する役員又は使用人が備えるべき資質を監督指針などで明確に定めること。

 このような問題意識を持ちつつも、委託先の監督について過度に厳格な対応を求めることにより投資運用業への参入が進まないといったことにならないよう、監督当局によりバランスのとれた規制運用がなされることが望まれます。

非上場有価証券の流通活性化

非上場有価証券特例仲介等業務に係る特例の創設

 資産運用TF報告では、非上場株式のセカンダリー取引の活性化および外国籍投資信託や外国投資証券の販売促進の観点から、プロを対象とした非上場有価証券の仲介を行う金融商品取引業者の参入要件を緩和することが提言されました。

 これを受けて、本改正法では、第一種金融商品取引業のうち、以下の行為のいずれかを業として行うことを「非上場有価証券特例仲介等業務」と定義し(金商法29条の4の4第8項)、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う第一種金融商品取引業者について、自己資本規制比率に関する規制、兼業規制および金融商品取引責任準備金の積立に関する規制の適用を除外することとし、規制を緩和する特例が設けられています(同条1項~6項)。

  1. 有価証券(金融商品取引所に上場されていないものに限り、政令で定めるものを除く)に係る次に掲げる行為

    (ア)売付けの媒介または金商法2条8項9号に掲げる行為(一般投資家 6 を相手方として行うものおよび一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家のために行うものを除く)

    (イ)買付けの媒介(一般投資家のために行うものおよび一般投資家に対する勧誘に基づき当該一般投資家を相手方として行うものを除く)

  2. ①に掲げる行為に関して顧客から金銭の預託を受けること(①に掲げる行為による取引の決済のために必要なものであって、当該預託の期間が政令で定める期間を超えないものに限る)

私設取引システム(PTS)運営業務に関する規定の整備

 資産運用TF報告では、認可を受けることが必要とされており、参入要件が厳格な私設取引システム(PTS)運営業務(金商法2条8項10号、30条1項)に関して、非上場有価証券のみを扱うPTSであって、流動性や取引規模等が限定的なものについては、認可を要さず第一種金融商品取引業の登録制の下で参入可能とすることが提言されました。

 これを受けて、本改正法では、PTS運営業務を以下の有価証券のみについて行う場合であって、PTS運営業務に係る有価証券の売買高の合計額が政令で定める基準以下のときは、認可を要さず、第一種金融商品取引業の登録により行うことができることを定めています(金商法30条1項但書)。

  1. 株券または新株予約権証券(金融商品取引所に上場されている有価証券、店頭売買有価証券その他政令で定める有価証券を除く)
  2. 受益証券発行信託の受益証券(金融商品取引所に上場されている有価証券、店頭売買有価証券および①の政令で定める有価証券を除く)
  3. ①および②に掲げる有価証券に表示されるべき権利であって、金商法2条2項の規定により有価証券とみなされるもの
  4. ①~③に掲げるもののほか、当該行為を安定的に行うことが困難となった場合であっても多数の者に影響を及ぼすおそれが少ないと認められる有価証券として政令で定めるもの

 その上で、以上の特例によりPTS運営業務を行う場合において、金融商品取引業者がPTS運営業務に関する業務の内容および方法のうち公益または投資者保護の観点から特に必要がある事項を変更する場合は、変更の30日前までに内閣総理大臣に届け出なければならないこととされています(金商法31条7項)。

小括

 非上場有価証券の仲介のみを執り行う金融商品取引業や非上場有価証券のみを対象とするPTS運営業務の規制負担が軽減されることにより、このような業務に参入する金融商品取引業者が増加すると、非上場株式などの非上場有価証券のセカンダリー取引が行いやすくなるものと考えられます。
 そのような流れは、投資家にとって証券取引の利便性の向上や投資機会の拡大に資するとともに、特に非上場株式のセカンダリー取引の活性化はスタートアップ企業に対する成長資金の供給を促進することにもつながると考えられますので、本改正法の施行後に新たな制度を利用した取組みが進むことが期待されます。

 なお、本改正法による改正内容は非上場有価証券の取引を想定したものですが、衆議院・参議院両院の附帯決議では、以下の事項に配慮すべきことが決議されており、今後の上場制度の動向にも注視が必要です。

いわゆる小粒上場がその後の成長停滞の原因となっている現在の株式市場を改革し、上場を果たした企業に更なる成長資金を供給するという本来の株式市場の機能を向上させるため、必要な措置を検討すること。

大量保有報告制度の見直し

共同保有者の対象範囲の見直し

 資産運用TF報告では、機関投資家によるスチュワードシップ活動の実質化に向けた取組みとして、複数の投資家が協働して企業に対して対話を行う協働エンゲージメントの有用性が指摘されていました。そして、公開買付WG報告では、機関投資家による協働エンゲージメントを促進する観点から、複数の機関投資家が一定の合意を行わない限り、大量保有報告制度上の共同保有者として保有割合を合算する必要がないこととすべきことが提言されました。

 これを受けて、本改正法では、株券等の保有者が、当該株券等の発行者が発行する株券等の他の保有者と共同して当該株券等を取得し、もしくは譲渡し、または当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している場合であっても、以下の要件のすべてに該当する場合には共同保有者に該当しないことを定めています(金商法27条の23第5項)。

  1. 当該保有者および他の保有者が金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者または投資運用業を行う者に限る)、銀行その他の内閣府令で定める者であること
  2. 共同して重要提案行為等(金商法27条の26第1項)を行うことを合意の目的としないこと
  3. 共同して当該発行者の株主としての議決権その他の権利を行使することの合意(個別の権利の行使ごとの合意として政令で定めるものに限る)であること

 この見直しにより、投資家が投資先企業に対して他の投資家と何らかの協調行為をしようとする場合に、どのような行為まですると共同保有者として保有割合を合算して大量保有報告制度の適用を受けることになるか、従来よりも基準が明確になるものと考えられます。
 そのため、機関投資家同士がスチュワードシップ活動を実質化するため協働して投資先の上場企業に対するエンゲージメントやモニタリングを行うことがやりやすくなるものと考えられます。同時に、アクティビストが投資先企業に対する具体的な提案を行う前段階で他の投資家と連携を行う動きなどが増える可能性もあるのではないかと思われます。このような投資家の活動の変化を踏まえて、上場企業のSR活動にも影響を与える改正事項であると考えられます。

現金決済型エクイティ・デリバティブ取引の取扱い

 公開買付WG報告では、一定の現金決済型エクイティ・デリバティブ取引について、大量保有報告制度の対象とすべきことが提言されました。この提言は、現金決済型エクイティ・デリバティブ取引であっても、現物決済型エクイティ・デリバティブ取引に変更することを前提としている事例や、そのようなポジションを有することをもって発行会社にエンゲージメントを行う事例なども存在し、これらの事例については大量保有報告制度に基づく情報開示を求めるべきとの指摘があることを踏まえたものです。

 これを受けて、本改正法では、大量保有報告制度上、株券等に係るデリバティブ取引に係る権利を有する者であって、当該デリバティブ取引の相手方から当該株券等を取得する目的その他の政令で定める目的を有する者は、当該株券等の保有者とみなされることを定めています(金商法27条の23第3項3号)。
 なお、この場合の株券等の数を算出する方法については、内閣府令に委ねられています。

公開買付制度の見直し

対象取引の拡大

 公開買付WG報告では、市場内取引を通じて企業支配権に重大な影響を与える場合にも、公開買付けの実施を義務付けるべきことや、公開買付けの実施が義務付けられる議決権割合の基準について現行の3分の1から30%に引き下げるべきことが提言されました。

 これを受けて、本改正法では、公開買付けの実施が義務付けられる場合に関する規定を整理した上で、①金融商品取引所における競売買の方法による取引を公開買付規制の対象に追加することおよび②公開買付けの実施が義務付けられる議決権割合の基準を3分の1から30%に引き下げることという改正が行われており、公開買付けが義務付けられる取引の範囲が拡大されています(金商法27条の2第1項)。

 本改正法が施行された後は、上場企業の株式などを買い付けることについて、公開買付けが強制される場面が増えることを踏まえて実務対応を行うことが求められます。

公開買付説明書における公開買付届出書の参照

 本改正法では、公開買付者が、公開買付説明書に記載すべき事項のうち、公開買付届出書に記載された事項(公開買付開始公告に記載すべき事項を除きます)について、公開買付届出書を参照すべき旨および投資者が当該公開買付届出書に記載された事項を閲覧するために必要な事項として内閣府令に定める事項を公開買付説明書に記載した場合には、公開買付説明書に当該公開買付届出書に記載された事項の記載をしたものとみなすことを定めています(金商法27条の9第2項)。
 これは、公開買付WG報告において、公開買付説明書の交付・訂正に関する事務が負担となっているという課題があることを踏まえ、公開買付説明書の内容の簡素化を可能とすることが提言されたことを踏まえた改正と考えられます。

小括

 参議院の附帯決議では、以下の事項に配慮すべきことが決議されており、公開買付制度および大量保有報告制度については今後も制度改正の動向に注視が必要と考えられます。

公開買付制度及び大量保有報告制度については、本法による改正が、市場の透明性・公正性の確保や、企業と投資家の建設的な対話の促進にもたらす効果を検証するとともに、市場環境の変化等を踏まえ、必要に応じて適時適切に制度の見直しを行うこと。

  1. 金融庁が2024年3月15日に公表した「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案の概要」参照。 ↩︎

  2. 投資運用業、適格機関投資家等特例業務または海外投資家等特例業務をいいます。 ↩︎

  3. 金商法の規定により投資運用業等を行うことができる者が金商法42条1項に規定する権利者のため運用を行う金銭その他の財産をいいます。 ↩︎

  4. 法令、法令に基づく行政官庁の処分または定款その他の規則をいいます。 ↩︎

  5. 登録申請者が個人の場合も同様の規定が設けられています(金商法29条の4第1項3号イ)。 ↩︎

  6. 特定投資家等(金商法2条3項2号ロ(2))、当該有価証券の発行者その他内閣府令で定める者以外の者をいいます。 ↩︎

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