改正資金決済法・金商法等によりブロックチェーン業界はどう変わるか
第1回 資金決済法・金商法等における改正の経緯と暗号資産交換業の登録申請等に関する留意点
ファイナンス
シリーズ一覧全4件
目次
はじめに - ブロックチェーン業界のルールに一定の解
平成29年はビットコインバブルとICOの年、平成30年は仮想通貨流出の年、令和元年はLibraの年(日本ブロックチェーン協会(JBA)では「ブロックチェーン元年」を標語に盛り上がりました)、令和2年はルールメイキングの成熟と本丸のブロックチェーン企業の成長期といったところでしょうか。3年前は過剰に加熱していた業界も、今は冷静さを持ち、地に足をつけて進んでいるという感覚があります。
激動の中を走っているブロックチェーン業界はいつも足らないルールと隣合わせで発展してきました。仮想通貨、仮想通貨デリバティブ、マイニング、カストディ、ICO、STO、ステーブルコイン、ブロックチェーンゲーム等々については、既存の法律をもとに多くの工夫に基づいて発展してきたように思います 1。
令和2年5月1日施行の改正資金決済法・金商法等と政令・内閣府令等は、ブロックチェーン業界において議論されてきた様々な事象・ビジネスモデルについて一定の解を与えるルールメイキングの集大成であり、大きな意味を持ちます。まだ明確な解が出ていないステーブルコインの論点等、実務の中での解釈に委ねられる部分があるものの大きな枠は示されたといってよいと思います。
この連載では、改正の全体像を、①法令等改正までの経緯、②法令等の概要と留意点、③ブロックチェーン業界に与える影響にわけて、少しずつブレイクダウンしながら、なるべくわかりやすく解説します。
本稿では、今般の法令等改正に至るまでの経緯と、暗号資産交換業の登録の申請等における変更点などについて説明します。
令和2年5月1日法令等改正までの経緯
平成29年4月1日施行の資金決済法および犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正により、仮想通貨の売買・交換等が規制の対象となりました。仮想通貨交換業者の登録制を通じて、利用者保護に関する一定の制度的枠組みを整備するとともに、登録業者に本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与対策に係る義務を課すものです。
その後、仮想通貨取引所への不正アクセスにより、仮想通貨交換業者が管理する利用者の仮想通貨が流出する事案が複数発生し、仮想通貨交換業者の態勢整備が不十分であることが明らかになりました。また、仮想通貨が決済手段として用いられるよりも、むしろ、投機的な取引に用いられることが多くなり、それにあわせて適切な規制がどのようなものかが議論されるようになりました。
このような流れから、金融庁は有識者からなる「仮想通貨交換業等に関する研究会」(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)を組成し、平成30年4月より、計11回にわたり、仮想通貨交換業等をめぐる諸問題について、制度的な対応の検討を行いました。そして、同研究会は、平成30年12月21日に報告書を公表しています(下記表No1)。
この報告書を基盤にしながら、法律、金融庁ガイドライン、政令・内閣府令、自主規制団体である一般社団法人日本暗号資産取引業協会(令和2年5月1日に一般社団法人日本仮想通貨交換業協会から名称変更。以下「JVCEA」といいます)の自主規制規則、パブリックコメント等が作られ、適用または施行されるに至っています(下記表No2~12参照)。
これだけ多くのルールがあるとこれらを追っていくことが難しいですが、以下に時系列にあわせて制定されたルールの状況等や公表資料を整理していますのでご参照ください。
No. | 時期 | 種類 | 名称 | 状況 | URL・備考 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 平成30年12月21日 | 報告書 | 「仮想通貨交換業等に関する研究会」報告書 | 公表 | URL |
2 | 令和元年5月31日 | 法律 | 「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号) | 成立 | URL |
3 | 令和元年6月7日 | 法律 | 「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号) | 公布 | URL |
4 | 令和元年9月3日 | 金融庁ガイドライン | 「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果(以下「金融庁事務ガイドラインパブコメ」といいます) | 公表 | URL |
5 | 令和元年9月3日 | 金融庁ガイドライン | 「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(以下「金融庁事務ガイドライン」といいます) | 適用 | URL |
6 | 令和元年9月27日 | JVCEA自主規制規則 |
|
公表・適用 | URL |
7 | 令和2年1月14日 | 政令・内閣府令等 | 令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の公表(パブリックコメントの募集開始) | 公表 | URL |
8 | 令和2年3月31日 | 政令・内閣府令等 | 令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等 | 閣議決定 | − |
9 | 令和2年4月3日 | 政令・内閣府令等 |
|
公布 | URL |
10 | 令和2年4月24日 | JVCEA自主規制規則 |
|
公表・適用 | URL |
11 | 令和2年5月1日 | 金融庁ガイドライン | 「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」の一部改正(以下「金融庁事務ガイドライン」といいます) | 適用 | URL |
12 | 令和2年5月1日 | 法律・政令・内閣府令等 |
|
施行 | − |
令和2年5月1日法令等の概要と留意点
令和2年5月1日より、改正資金決済法や金商法等の法律とそれに伴う政令や内閣府令等が施行されました(上記表No12)。仮想通貨の呼称も「暗号資産」に変更されています。
暗号資産に関するルールは、上記のとおり、法律、金融庁事務ガイドライン、政令・内閣府令、自主規制規則、パブリックコメント等が入り組んで複雑なものになっていますが、今回の記事では、令和2年5月1日施行の政令・内閣府令等にあたって金融庁が公表した概要項目をもとに(上記表No12、下記参照)、既に適用されている金融庁事務ガイドライン(上記表No5)や自主規制規則(上記表No10)にも触れながら、法令等の改正の全体像を把握できるようにその概要と留意点を説明したいと思います。
「令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」より引用
(1)暗号資産交換業に係る制度整備
- 暗号資産交換業の登録の申請、取り扱う暗号資産の名称又は業務の内容及び方法の変更に係る事前届出等に関する規定を整備する。
- 暗号資産交換業者の広告の表示方法、禁止行為、利用者に対する情報の提供その他利用者保護を図るための措置、利用者の金銭・暗号資産の管理方法等、暗号資産交換業者の業務に関する規定を整備する。
- 取引時確認が必要となる取引の敷居値の引下げを行う。
(2)暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引に関する規制の整備
- 暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引を業として行う場合における金融商品取引業の登録の申請、業務の内容及び方法の変更に係る事前届出等に関する規定を整備する。
- 金融商品取引業者等の業務管理体制の整備、広告の表示方法、顧客に対する情報の提供、禁止行為、顧客の電子記録移転権利等の管理方法等、暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引を業として行う金融商品取引業者等の業務に関する規定を整備する。
- 電子記録移転権利等に係る私募の要件、有価証券報告書の提出要件・免除要件、有価証券届出書等の開示内容等に関する規定を整備する。
(3)その他
- 「暗号資産」に関する用語の整理等のほか、投資信託の投資対象、金融機関の業務範囲等について、所要の規定の整備を行う。
- 金融商品取引業者の自己資本規制における暗号資産の取扱い等に関する規定を整備する。
- 暗号資産や電子記録移転権利等に関する監督上の着眼点や法令等の適用に当たり留意すべき事項等について明確化を図る。
暗号資産交換業に係る制度整備 - 暗号資産交換業の登録の申請、取り扱う暗号資産の名称又は業務の内容及び方法の変更に係る事前届出等に関する規定を整備する
改正資金決済法において、「仮想通貨」から「暗号資産」へ呼称が変更されたうえで(「第3回 暗号資産を用いたデリバティブ取引や資金調達取引における規制に関する留意点」 2−1.)、暗号資産交換業の登録の申請等に関して、主として以下のとおりの変更がされています。
- 暗号資産カストディ業務に対する規制
- 暗号資産交換業の登録拒否事由
- 取り扱う暗号資産の名称等の変更に係る事前届出制
暗号資産カストディ業務に対する規制
改正資金決済法においては、暗号資産カストディ業務が暗号資産交換業に該当するとされています。
改正前の資金決済法においては、①仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換、②これらの行為の媒介、取次ぎまたは代理、③これらの行為に関して、利用者の金銭または仮想通貨の管理をすることが仮想通貨交換業とされていました。改正資金決済法においては、これらの行為に加えて、暗号資産交換業に「他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)」(改正資金決済法2条7項4号)が追加されました。
本規定が想定しているのは、暗号資産の売買等を伴わずに、利用者の暗号資産を管理し、利用者の指示に基づいて利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させる、いわゆる暗号資産カストディ業務です。
本規定の「他人のために暗号資産の管理をすること」の意義について、金融庁事務ガイドラインによれば、「法第2条第7項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、利用者の関与なく、単独又は関係事業者と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。」(金融庁事務ガイドラインⅠ-1-2-2③)とされています。
金融庁内閣府令案等パブコメによれば、「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵を一切保有していない場合には、当該事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられますので、基本的には、…「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられます。」(金融庁内閣府令案等パブコメNo9)とされています。
また、「事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵の一部を保有するにとどまり、事業者の保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合」や「事業者が利用者の暗号資産を移転することができ得る数の秘密鍵を保有する場合であっても、その保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者は当該暗号化された秘密鍵を復号するために必要な情報を保有していないなど、当該事業者の保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合」(金融庁内閣府令案等パブコメNo11~12)は、他人のために暗号資産の管理をすること」に該当しないと考えられるとされています。
したがって、事業者が、秘密鍵を保有していない、マルチシグの一部しか保有してしない等のため、暗号資産を移転できない場合には、本規定に該当せず、暗号資産交換業に該当しないと考えられます。
暗号資産交換業の登録拒否事由
(1)認定資金決済事業者協会への加入等
改正資金決済法においては、「暗号資産交換業者をその会員…とする認定資金決済事業者協会に加入しない法人であって、当該認定資金決済事業者協会の定款その他の規則…に準ずる内容の社内規則を作成していないもの又は当該社内規則を遵守するための体制を整備していないもの」(改正資金決済法63条の5第1項6号)が暗号資産交換業者の登録拒否事由として追加されています。
改正前の資金決済法においては、仮想通貨交換業者の登録の要件として、認定資金決済事業者協会への加入は義務付けられていませんでした。しかし、平成29年4月施行の資金決済法において仮想通貨交換業者の登録制が導入されて以降、平成30年10月にJVCEAが仮想通貨交換業に係る認定資金決済事業者協会として認定を受け、それ以降は事実上、仮想通貨交換業者においては、JVCEAに加入し、JVCEAの自主規制規則に準じて社内規則を作成する等の対応が取られていました。改正資金決済法においては上記のとおり登録拒否事由が追加されたことから、JVCEAへの加入および自主規制規則の準ずる社内規則の作成等は法律上の義務になったといえます。
(2)財産的要件に関する改正
改正前の資金決済法においても、「仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有しない法人」(改正前資金決済法63条の5第1項3号)は仮想通貨交換業者の登録拒否事由とされていました。今回の改正に伴い「仮想通貨交換業者に関する内閣府令」が改正され、上記の内閣府令で定める財産的要件について、以下の下線部分が追加されました(暗号資産交換業者に関する内閣府令9条1項)。すなわち、後述(「第2回 暗号資産交換業者による広告の表示方法や禁止行為、利用者への情報提供、経過措置に関する留意点」1−3.)の履行保証暗号資産がある場合には、履行保証暗号資産の金額を加えずに純資産の額が負の値でないことが求められます。
- 資本金の額が一千万円以上であること。
- 純資産の額…が負の値でないこと(暗号資産の管理を行う者にあっては、履行保証暗号資産の数量を本邦通貨に換算した金額以上であること。)。
取り扱う暗号資産の名称等の変更に係る事前届出制
改正前の資金決済法においては、登録申請書記載事項を変更する場合は事後の届出が必要とされていましたが、改正資金決済法においては、登録申請書記載事項のうち「取り扱う暗号資産の名称」または「暗号資産交換業の内容及び方法」のいずれかを変更する場合、原則として、事前の届出が必要とされることとなりました(改正資金決済法63条の6第1項、63条の3第1項7号、8号)。
なお、「取り扱う暗号資産の名称」または「暗号資産交換業の内容及び方法」のいずれかを変更する場合であっても、「暗号資産交換業の利用者の保護に欠け、又は暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれが少ない場合として内閣府令で定める場合」(改正資金決済法63条の6第1項)は除外されています。これを受けて内閣府令においては、取り扱う暗号資産についてその取扱いをやめようとする場合、取り扱う暗号資産において用いられている技術または仕様の変更を理由として当該暗号資産の保有者に対して新たな暗号資産が付与される場合、暗号資産交換業の内容または方法のうち所定の事項以外の事項を変更しようとする場合(暗号資産交換業者に関する内閣府令11条)は事前の届出を要しないとされています。
-
今般の法改正前の一定の整理として弊所拙書である『ブロックチェーンビジネスとICOのフィジビリティスタディ』(商事法務、2018)参照 ↩︎
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