信頼のV字回復を実現する 不祥事対応トレーニング

第2回 模擬危機対応訓練と模擬記者会見の実施プロセス

危機管理・内部統制

目次

  1. 模擬危機対応訓練
    1. 模擬危機対応訓練のススメ
    2. 模擬危機対応訓練の手順
    3. 訓練への参加者
    4. 模擬危機対応訓練の狙い
  2. 模擬記者会見
    1. 模擬記者会見の実施のススメ
    2. 模擬記者会見の進め方
  3. まとめ ~経営トップにスイッチを入れる

 不祥事が起こった時、自社のレピュテーション低下を最小限にとどめ、信頼のV字回復を実現するために、企業にはどのような備えが求められるのでしょうか。危機発生時の対応理論を解説した前回(第1回『危機対応時の基本行動と危機管理委員会の設計のポイント』)に引き続き、本稿では、危機対応トレーニングとして高い効果が期待される「模擬危機対応訓練」「模擬記者会見」の進め方について、企業の危機管理対応に詳しいプロアクト法律事務所の渡邉 宙志 弁護士が解説します。

模擬危機対応訓練

模擬危機対応訓練のススメ

 実際に自社が危機に直面した時、前回(第1回『危機対応時の基本行動と危機管理委員会の設計のポイント』)で説明した基本行動を貫徹することができるでしょうか。事前にシミュレーションした対応を漏れなく実行できるでしょうか。少なくとも、何の準備もせずに危機に直面した場合は、それは、ほとんど不可能であろうと思われます。防災・減災において避難訓練や消火訓練などが重要であることと同じく、企業の不祥事・危機対応についても訓練が必要なのです。

 もっとも、会社に起こり得る不祥事を事前に予測して完璧にシミュレーションしておくことはできません。また、危機発生時に各メンバーの全行動を事前に決定しておくこともできません。
 いざという時に、危機管理体制を十分に機能させ、参加メンバーに危機対応の基本行動に沿って動いてもらうためには、机上で体制を決定するだけでなく、危機管理体制(危機管理委員会)の試運転をしておくことが望まれます。

模擬危機対応訓練の手順

 危機対応訓練は、以下の三段階で進めるとよいでしょう。

危機対応訓練の進め方

危機対応訓練の進め方

① 想定シナリオの作成

 まず、想定シナリオの作成について説明します。
 最初に、危機対応チームのコアメンバーとなるべき人員(たとえば、危機管理委員会の事務局となることが予想される人材が適任でしょう)で構成する検討チームを作り、その会社で実際に起こりそうな危機事案を、できる限り具体的に想定してシナリオを作成します。このシナリオは、事故や不祥事の発生、発覚までの経緯、事態の進展、その都度生じるステークホルダーからの反応なども想定して、詳細に、時系列で整理しておきます。もちろん、事案がリアルであればあるほど、訓練の効果は上がります。

 検討チームには、社外の危機管理の専門家、PR会社や弁護士などの第三者にも参加してもらうことが必要でしょう。外部の意見を入れることによりシナリオに深みを加える効果が期待できます。また、後述するように、実際の訓練では、第三者の目から見たシビアな講評が必要となります。そのため、シナリオ作成時から社外の専門家に参加してもらうことが望まれます。

② 危機対応訓練の実行

 シナリオができ上がったら、次は訓練実行のフェーズへと移ります。
 参加者にシナリオの内容を伏せた状態で訓練を開始し、危機が発覚した瞬間から、危機対応チームの組成、その後の事態の推移、そして、次々と発生または発覚する事実関係やステークホルダーからの問い合わせの状況等を1枚のスライドにまとめて次々と提示していきます。議論に参加するメンバーは、場面ごとに次々と切り替わっていく事案の進展と、その場面に応じた設問に合わせて、ディスカッションと方針決定を繰り返していきます。

③ 講評

 最後は、訓練の振り返りと講評のフェーズです。
 局面における議論の過程や判断について、参加者の自己評価を行い、参加者が感じた悩み、発見した制度の不備などについて議論を深めます。
 その後、これらに対して、外部専門家による厳しい講評を行います。危機対応訓練は、万が一の場合に、企業のレピュテーションに対するダメージを最小限に食い止め、回復までの期間を短縮するという目的のために実行するものです。そして、レピュテーションは、企業内部の者ではなく、外部のステークホルダーの評価で形成されています。そのため、自らの行動を検証するためには、外部の厳しい意見を活用するのです。

危機対応訓練の例

危機対応訓練の例

訓練への参加者

 原則として、訓練には、取締役や執行役員などの上級経営層には全員参加してもらう必要があります。また、危機管理委員会の事務局となるコアメンバーや、訓練の際に対応チームに参加する従業員らについてはもちろん、その他、リスク管理に関わる可能性のある中間管理層もできる限り訓練に参加してもらうことが好ましいでしょう。
 これらの参加者のうち、設問の議論に参加するメンバーは一部のみで問題ありません。大人数で実質的な議論を行うことは不可能だからです。
 しかし、議論に参加しなくとも、上記のような参加者には、立場上、危機対応の仕組みを知ってもらう必要があります。また、後日、危機管理の担当者に任命される者がいるとも考えられます。議論の過程をつぶさに観察してもらい、意見を求めることとすれば、参加者自身にとっても、会社にとっても、日々のリスク管理のための重要な経験が得られるはずです。

模擬危機対応訓練の狙い

 模擬危機対応訓練は、危機管理体制の試運転と不備の確認・改善を目的として実施するものですが、同時に、以下のような2つの効果を狙うことができます。

 まず1つ目は、シナリオ作成と訓練の運営に携わるスタッフのスキルアップです。シナリオ作成チームは、社内の様々なリスク要因を洗い出し、現実に起こり得る危機と、そこから続いていく事態の推移を検討していくこととなります。その過程において、危機管理体制の不備に気付き、修正を図らざるを得ないことも少なくありません。その他にも、訓練の準備から実施までの過程で得られた「気付き」は、リスク管理のセンスとスキルを磨くための貴重な経験をもたらします。それらが、企業全体の平時のリスク管理へと還元されることになるのです。

 2つ目は、危機に直面した際の経営陣の「決断力」の養成です。
 訓練においては、刻々と変化していく状況に応じて、「即時に正しい決断を下す能力」を養うための設問を設定します。参加者は、危機発生時には様々な問題とそれに対する「決断」の必要性が波のように押し寄せてくることを実感できるでしょう。
 もちろん、訓練と現実の危機とでは、危機のスケールが違います。また、現実の危機では、事案や事態の推移がより複雑になります。さらに、現実の緊張感のなかでの、待ったなしの決断は、訓練とはまったく違った意味を持ちます。しかし、このような事実の一端を訓練で体感し、即時に正しい決断を下し続けていくことの難しさと重要性に気付くことができれば、訓練の効果は十分に出ているといえるでしょう。その気付き自体が、平時のリスク管理においても、現実に危機が発生してしまった場合の対応においても有用なものとなります。

模擬記者会見

模擬記者会見の実施のススメ

 不祥事による危機に直面した企業は、会社が望む、望まないにかかわらず、記者会見を実施することが避けられない場合があります。
 記者会見は、企業への良い印象と悪い印象のどちらをも、最も効果的に伝達します。記者会見を成功させることができれば、レピュテーションを回復させるための重要なターニングポイントを作り出すことができますが、もし失敗すれば、レピュテーションを加速度的に落としていくこととなります。そのため、平時に訓練しておくことが必須です。

 近年、経営トップへのメディアトレーニングを実施している企業は増えています。メディアトレーニングの一環として、模擬記者会見が実施される場合も多いようです。しかし、もし、模擬記者会見の内容が、登壇者への体験の提供という意味合いに留まっているなら、これほどもったいないことはありません。せっかくの機会ですから、さらに一歩踏み込んで、危機対応チーム全体の総合力を鍛える機会として活用することを検討したいものです。

模擬記者会見の進め方

 模擬記者会見は、以下の三段階に分けて実施するとよいでしょう。

  1. 具体的な想定事例をベースに基本方針を決定するフェーズ
  2. 記者会見で利用する各種ツールを作成するフェーズ
  3. 模擬記者会見実施のフェーズ

 想定事例については、模擬危機対応訓練のシナリオを利用し、連続して両訓練を実施できると効率的です。

①具体的な想定事例をベースに基本方針を決定するフェーズ

 まず、会社の基本方針を決定するフェーズから説明します。
 たとえば、謝罪会見の実施にあたって、「謝罪」という形式だけを重視し、会社として伝達したいメッセージを明確にしないまま会見に臨めば、その会見はたちまち失敗に終わるでしょう。記者会見を行う際は、会社のメッセージを明確に、そして、可能な限り簡潔に定めるべきです。

 このフェーズでは、まず、想定事例への対応について、会社の基本方針は何であるのか、誰に対してどのようなメッセージを伝えたいのか、記者会見で実現しようとする目標は何であるかを議論して決定します(たとえば、「被害者の救済を会社の最優先事項とする、という強いメッセージを一般消費者に伝達することが目標」、など)。
 ここでは、模擬危機対応訓練に引き続き、危機対応時の決断力を養うことを目指します。

 

②記者会見で利用する各種ツールを作成するフェーズ

 次に、各種ツール作成のフェーズです。
 現実の記者会見においては、事前に、事実関係を整理するための「ポジションペーパー」と呼ばれる書面や、会見の進行シナリオ、冒頭で発表する会社のステートメント、質疑応答のQ&A等を作成しておくのが一般的です。また、会見と前後して、会社からのプレスリリースを作成してマスコミに配付したり、ホームページに公表したりすることが多く行われています。

 訓練では、これらのツールを実際に作成してみます。もっとも、これらのすべてを訓練の場で作成することは現実的ではありません。そのため、たとえば、これらのツールのうち、会社からのコアメッセージに相当する重要部分や、Q&Aのうちの重要な質問への回答を虫食い的にして作成しておき、あとは訓練の場でディスカッションして埋めてもらう方法が考えられます

 ここでは、危機対応チーム・広報チームのスキルアップと、参加者において記者会見の準備手順や必要な検討事項を学んでもらうことの他、ここから平時の自らの業務に還元できる様々な「気付き」を得てもらうことを目指します。

③ 模擬記者会見実施のフェーズ

 最後に、③模擬記者会見実施のフェーズです。
 ここでは、シナリオに従って、以下の流れを一通り実施していきます。

  • 司会者による呼び込み
  • 登壇者の記者会見場への入場
  • 冒頭のステートメント発表
  • 質疑応答
  • 登壇者の退場

 特に重要なのは、質疑応答を「真剣勝負」で実施することです。これを社内関係者のみで実施すると、自ずと社長や上司への遠慮が出てきます。そのため、外部の専門家などを起用し、遠慮のない厳しい質問をしてもらいましょう。また、記者会見の様子はビデオカメラに収め、その様子をのちほど確認できるようにしておきます。
 この場合、一般に、登壇者に記者会見における所作(謝罪の方法や言葉づかい)などを学んでもらうことが目的であると考える方も多いでしょう。もちろん、それも重要なことですが、記者役からの厳しい質問を登壇者に体感してもらうことには、さらに大きな価値があります。
 その後、参加した第三者からの講評をもらいます。
 登壇者には、「現実には、絶対にこんな目には遭いたくない。これが訓練で良かった」と思ってもらうことを目指します。

模擬記者会見の進行例

模擬記者会見の進行例

まとめ ~経営トップにスイッチを入れる

 模擬危機対応訓練では、次々と襲い掛かってくる危機的な状況に対して、会社としてどのような対応が取れるか、参加メンバーには、次々と厳しい判断を迫っていくことになります。経営トップは、「最悪の事態」を想定せざるを得なくなり、自社の体制に危機感を持つかもしれません

 模擬記者会見では、事前に作成したシナリオやQ&Aなどを用い、会見場への入場から冒頭のステートメント発表、質疑応答までのすべてを登壇者(多くの場合は社長等の経営トップ)に体験してもらうことになります。
 その際には、外部の専門家(危機管理の専門家、PR会社、弁護士など)の協力も得て、登壇者が思わず怒り出してしまうほどの辛辣な質問や、回答が難しい質問、用意したQ&Aに載っていない質問などを、矢継ぎ早に浴びせることが重要です。厳しい質問を正面から受け止めて適切な回答ができるように訓練することは非常に有益です。しかし、それ以上に、「万が一の時は、これよりはるかに厳しい状況になるかもしれない。このままではまずい」という危機感を経営トップが抱くかもしれません。

 このような危機感を持たせることができれば、訓練は大成功です。
 その結果、経営トップの合理的判断として、まずは平時のリスク管理、リスクの早期察知に、社をあげて注力するようになるでしょう。これで会社の危機管理体制を数段ステップアップさせることができます。

 このように、経営トップのリスク管理のスイッチを入れることが、模擬危機対応、模擬記者会見を実施することの最大の目標といえるでしょう。

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