法務パーソンの目標設定
第3回 法務の目標設定と「減点主義」のジレンマ〜メーカー勤務・Aさんの場合 法務パーソン目標設定アンケート②
法務部
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人事評価と事業戦略達成のために多くの企業が採用する「目標管理制度」。スタッフのモチベーション向上、業務スキルの向上のためにもうまく活用したいところです。
しかし、業務が多岐にわたるうえ、事業部門などからの突発的なリクエストにも柔軟に対応しなければならない法務部門では、とりわけ評価軸の定め方が曖昧になりがちです。その結果、「上司の評価が主観的すぎて納得できない」「法務の仕事は定量化できない」などと、目標管理制度そのものに抵抗感を示す法務パーソンも少なくありません。
この「難題」に対する他社の法務部の取り組みから改善のヒントを探るため、編集部では3名の現役法務パーソンに「法務の目標設定アンケート」を実施。今回は、目標設定を懐疑的にとらえている、国内メーカー法務部門勤務・Aさんの回答をご紹介します。
回答者②
・氏名(役職):Aさん(スタッフ)
・社名(業種/従業員数):非公表(ITおよび製造業/約3万人(連結))
給与はオーナーの「裁量」で決まる
賞与については目標設定、基本給は主に360度評価(「第1回 人事エキスパートが推奨 組織と個人の力を引き出す法務部門の目標設定」を参照)と定量、定性目標(会社の方針にあっているか)に連動しています。給与の比重は主に賞与で決まっており、事業部の業績で決まっていきます。当社は中途入社の社員が多いため、それ以外の給与に対する評価要素はあまりありません。
基本的に賞与は「事業部の利益にどれだけ貢献したか」がメインで評価されます。去年と同じ業務にとどまる場合には給与は容赦なく下がります。
評価の基準は上記のとおりですが、オーナー企業であることもあり、最終的に給与はオーナーの裁量に左右されることがあります。
法務の仕事は目標設定をすることが難しいと感じています。法務の仕事はそもそも定性、定量で測れないためです。トラブルや契約に対するスタンスの変更などで、すぐ目標とのズレが発生してしまいます。
たとえば、当初は契約締結をすることが重要だったが、途中で「締結しない方が良い」という判断に変わるケースも多いです。
また、「目標設定は柔軟に対応する」と言われていても、現実的には目標設定をしたことにより緊急案件などで柔軟な対応ができなくなることも多いです。目標設定自体は、法務の仕事と合わないことが多いと感じています。
法務は「減点主義」、目標設定は保守的にならざるを得ない
法務部門の仕事を定性・定量で評価することが難しいと感じるのは、どの基準で何を達成しても、それ自体が本当に会社の方針に適合しているかどうかがわからないことです。
次に評価が難しい点として、たとえば契約内容や法解釈があげられます。これについては、契約内容として「何が正解か」の答えは基本的に出ません。仮に法務の観点からリスクを最小限にして行おうとすると、ビジネスは進められません。
会社や現場からすると「法務は『できて当たり前』で何か問題が起こった時点で問題」と言われることが多いです。そのため「法務は減点主義」と言われます。この点で、目標設定や評価で特に悩ましい業務は、契約審査とクレーム処理です。
定性・定量という意味では、契約審査の件数や質問への回答数で能力を判断できるようにも見えますが、形式的に「数」で判断されると、ヒアリング不足や現場への説明不足などを招き、結果的に現場の成長を阻害します。その結果、契約内容やクレーム処理の難易度の把握と理解、それに合った適切な判断ができなくなり、会社としての不利益が多いように見受けられます。
たとえば、少額ではない債権回収案件が発生し、すでに回収困難な状況で法務に相談が来るケースがあります。債権回収の件数としては「1件」です。しかし、会社や上司に適切な案件理解がない場合、この手の案件に関わって回収に失敗すると、自身や上司の評価がより下がりやすい傾向にあります。逆に、リスクを背負って債権回収を成功させても、それが法務の「当たり前」とされ、一切評価されないこともあります。
本来なら、どちらの場合でも積極的に対応することがより良い経験となり、それがひいては会社の利益につながるものだと思います。しかし、「減点主義」という考えがベースにあると、困難な債権回収には積極的に関わらず確実な債権回収しか行わない、あるいは判断しないようになります。
上記はわかりやすいケースですが、このような「法務は減点主義」という考えが根底にあるなかでは、法務としては確実に行えることを目標に設定することに重きを置き、設定する目標自体が保守的になりやすいと感じています。
ほとんど感じません。業績の連動で年収はほとんど決まり、基本給は部下がいるかどうかで決まるためです。「法務は減点主義」という上司の考え方もあり、経営層や将来経営層になる方に法務業務についての誤解が生じていて、会社として悪循環に陥っていると感じています。
目標管理制度の功罪
目標管理は、法務部や課全体の定例的なタスク管理のために限れば、それなりに理想的なものかと思います。一方で、評価項目にうまく「寄せている」ように見せる上司が多いとも感じています。目標管理制度そのものが法務部門に適しているのか、個人的に疑問です。
今のところはありませんが、目標設定をしないで評価をする方法があれば教えてほしいです。自分自身は、法務や管理部門を目標設定で評価すべきではないと考えていますので、代案としてどのようなものがあるか知りたいと思っています。なお、弊社の業務関係上、他社における管理部門主導の業務改革を拝見することがありますが、管理部門の目標達成のために余計なコストが多くかかっている日本企業が多いと感じています。
「法務の仕事はそもそも定性、定量で測れない」と考えるAさんにとって、目標管理制度は、現時点では納得感を持って取り組める仕組みではありませんでした。
「どの基準で何を達成しても、それ自体が本当に会社の方針に適合しているかどうかがわから」ず、給与額がオーナーの裁量に左右されるという状況では、目標設定に対してAさんが悲観的な考え方を持つのもうなずけます。
「減点主義」ベースの評価では「設定する目標自体が保守的になりやすい」というAさんの言葉は、法務部門のミッションを定義できない経営層の理解不足の裏返しと言えるかもしれません。
次回は、Aさんと同じくメーカーの法務部で課長を務める「一人法務」Bさんのアンケート回答をご紹介します。
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