法務パーソンの目標設定

第2回 「成果」と「成長」の両輪で動かす法務の目標設定〜パーソルホールディングスの場合 法務パーソン目標設定アンケート①

法務部

目次

  1. 異なる評価軸の目標設定で成果と成長の二兎を追う
  2. 網羅的な目標化が難しい個人の重点課題、高難易度業務は評価も難しく
  3. コミュニケーションツールとしての目標管理
  4. 全社戦略を実現するための目標管理

人事評価と事業戦略達成のために多くの企業が採用する「目標管理制度」。スタッフのモチベーション向上、業務スキルの向上のためにもうまく活用したいところです。
 しかし、業務が多岐にわたるうえ、事業部門などからの突発的なリクエストにも柔軟に対応しなければならない法務部門では、とりわけ評価軸の定め方が曖昧になりがちです。その結果、「上司の評価が主観的すぎて納得できない」「法務の仕事は定量化できない」などと、目標管理制度そのものに抵抗感を示す法務パーソンも少なくありません。

 この「難題」に対する他社の法務部の取り組みから改善のヒントを探るため、編集部では3名の現役法務パーソンに「法務の目標設定アンケート」を実施。初回は、パーソルホールディングス株式会社の林大介 執行役員の回答を紹介します。


回答者①
・氏名(役職):林大介さん(執行役員)
・社名(業種/従業員数):パーソルホールディングス株式会社(サービス業/38,954名※)
※2019年3月31日現在

異なる評価軸の目標設定で成果と成長の二兎を追う

Q1:御社ではどのような人事評価制度を採用していますか。

当社では「Pay for performance」を報酬制度の基本思想とし、評価制度としてはMBO(Management By Objectives:目標管理制度/第1回:人事エキスパートが推奨 組織と個人の力を引き出す法務部門の目標設定参照)を採用しています。各従業員は、半期ごとに、その期間中に達成することを目指す成果目標と中長期的な成果を導く行動目標の2種類の目標を設定します。

四半期ごとに管理職と担当者との間で中間レビューを行い、目標の進捗状況の確認と目標の見直しの要否を話し合います。

半期が終わったタイミングで、当該半期における成果と発揮された行動を管理職と担当者が評価面談で話し合ったうえで、評価を行っています。期間成果の評価は主として賞与の支給額に反映し、行動目標の評価は基本給の昇給に反映しています。

パーソルホールディングス法務部門の目標管理制度

パーソルホールディングス法務部門の目標管理制度

網羅的な目標化が難しい個人の重点課題、高難易度業務は評価も難しく

Q2:法務部門の目標設定に関して、難しいと感じることはありますか。どのような点に難しさを感じますか。

法務部門は、経営陣や事業部門からのリクエストに応じて柔軟に法務サービスを提供することが求められるため、1人ひとりの担当者について、事前に当該期間に重点的に行うべき仕事を網羅的に目標として定めることは難しいと感じています。

期初には想定していなかったM&A案件が複数生じた場合には、担当者が設定した成果目標と実際に行った仕事の成果が大きく乖離することもあり、その場合には目標設定に過度にとらわれず、担当者の等級と実際に行った仕事の成果を考慮して、人事評価を行うようにしています。

また、当社では半期ごとに達成すべき成果目標を担当者個人ごとに設定する仕組みとなっているため、会社全体や法務部門全体として重点的に取り組むべき目標との整合性を取ることが難しいという課題もあります。
Q3:法務部門の仕事は評価が難しいと感じることがありますか。評価が難しいと感じる業務にはどのようなものがありますか。

法務部門の仕事のなかでもM&Aや戦略提携、法改正対応といった非定型的かつ難易度の高いものについては、評価が難しいと感じています。

契約審査や紛争処理といった業務については、処理件数や処理時間などである程度は定量的な評価は可能であるものの、事業部門の担当者とのコミュニケーションや外部専門家の起用方法など定性的にしか評価できない面もあるため、結局は総合的な評価にならざるを得ないのが現状です。

コミュニケーションツールとしての目標管理

Q4:自社の目標管理・評価手法が「うまくいっている」と感じる点はありますか。

目標設定を半期ごとに行い、かつ中間レビューを四半期ごとに担当者と管理職との面談形式で行うことで、目標のすりあわせや進捗確認を頻繁に行っており、目標設定や評価に関するコミュニケーション機会が多い点は良いと感じています。

また、毎年の目標設定と並行して、キャリアプランに関する話し合いを担当者と管理職との間で行うことで、長期的なキャリアプランから逆算して、現時点で取り組むべき課題について認識のすりあわせを行う機会がある点も良いと思います。

全社戦略を実現するための目標管理

Q5:あなたにとって理想の目標管理制度とはどのようなものですか。

会社全体の戦略や目標が明確に定められ、共有されていることを前提にして、年度の初めに法務部門のメンバー全員での対話を経て、法務部門が達成すべき具体的かつチャレンジングな目標と評価指標(KPI)を設定します。

法務部門の各担当者は、部門全体の目標を認識したうえで、その達成に役立つ個人ごとの目標とKPIを設定します。目標とKPIの達成状況については、毎月その進捗状況を部門全体で確認していきます。

一方、個人ごとの成果に関する評価については、設定した目標の達成度合いではなく、評価期間中の仕事上の貢献を文書化したうえで、文書化されている等級ごとに期待されるパフォーマンス・レベルに照らして、絶対評価を行います。なお、報酬については定期的に比較対象となる他社とのベンチマークを行い、全体としては競争力のある報酬体系を維持していきます。
Q6:他社の法務部門がどのような目標管理を行っているかについて興味がありますか。

企業・業種・規模にかかわらず、従業員のエンゲージメント向上に着目した新しい目標設定や人事評価の取り組みがあれば、知りたいと思います。

 パーソルホールディングス株式会社グループGRC本部 法務ガバナンス部では、個々のスタッフの重点課題と「全社戦略」との整合に一定の課題意識を持ちながらも、密なコミュニケーションにより、目標設定は管理職と一般スタッフとの「納得感」を醸成する役割を果たしているようです。

 「経営陣や事業部門からのリクエストに応じて柔軟に法務サービスを提供することが求められる」ゆえに、定性的な評価が難しい法務部門の目標設定ですが、「成果目標」と「行動目標」の2種類の個人目標を設定する手法は、他社の法務部門でも大いに参考になりそうです。

 どのような目標管理制度であっても、上司と部下の良好なコミュニケーションは不可欠。その「大前提」に課題を抱えている場合は、目標管理制度を単なる人事評価ツールとしてだけでなく、部下が仕事について学び、成長する機会を得るためのコミュニケーションツールとして活用してみる、という考え方が改善への糸口となるかもしれません。

 次回は、目標設定を懐疑的にとらえている、国内メーカー法務部門のスタッフ・Aさんの回答をご紹介します。

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