法務パーソンの目標設定

第5回 法務の目標設定が「うまく回らない」と感じたときに行うべきこと 評価者・被評価者双方に有意義な目標設定のヒント

法務部
片岡 玄一

目次

  1. はじめに
  2. 目標設定の3つの目的
    1. 被評価者の成長支援
    2. 被評価者の給与決定
    3. 組織目標の達成
  3. 「法務部門に定量的な目標設定は向かない」は本当か
  4. 360度評価の活用方法
  5. さいごに

 様々な角度から法務部門に適した目標設定のあり方を考えてきた「連載 法務パーソンの目標設定」。
 最終回となる今回は、目標設定に関する3名の法務パーソンへのアンケート結果から浮かび上がってきた各社の取り組みと課題を、法務部門での豊富な実務経験、マネジメント経験を有する株式会社ロコガイドの片岡玄一氏が分析します。
 法務部門の目標設定の意義と効果を高めるための実務のポイントとはどのようなものでしょうか。

はじめに

 法務部門は目標設定が難しいと言われることが多く、実際にアンケートのQ2「法務部門の目標設定に関して、難しいと感じることはありますか。どのような点に難しさを感じますか。」への回答でも林さんAさんBさんのそれぞれ異なる角度から悩みが寄せられています。

 そこで本稿では、私自身の法務部門におけるマネージャー経験を元に、アンケートを参照しつつ、評価者と被評価者の双方にとって目標設定が有意義なものになるためのヒントを探ってみようと思います。

目標設定の3つの目的

 評価者にとって目標設定を行う目的は、大きく以下の3つに分けることができます。

被評価者の成長支援

 被評価者の成長のためにはより良い方向への行動変容が必要になるので、この観点では目標設定と評価を通じて被評価者の行動を変えられるかがポイントになります。
 そして、半期、または年に一度のフィードバックでは行動変容を促す効果が極めて薄くなってしまうので、できるかぎり即時に、かつ高頻度でフィードバックを行う必要があります。

 また、被評価者のグレードによっては、単にストレッチした目標(ゴール)を示すだけでは具体的な行動変更まで結びつけられないこともあります。その場合には、どのようにしてその目標を達成すればよいかという具体的なプロセスについても助言をしなければなりません。

被評価者の給与決定

 給与決定において最も留意が必要なのは被評価者の納得感であり、納得感のためには被評価者の期待と給与決定とのギャップを最小化できるかがポイントになります。
 このギャップを生まないようにするためには、目標を検討するタイミングで、(1)どのような目標が給与増につながるのか(またはつながらないのか)と、(2)設定した⽬標を達成したときに給与がどう変動する⾒込みなのかの2点を明らかにすることが重要です。また、突発案件の発生等で目標設定の前提が大きく変化した際に随時目標を見直すこと、グレード等の会社が設けている制度と整合させることも、納得感の醸成のために重要になります。

組織目標の達成

 法務部門が組織目標を設定した場合、目標設定の際に組織目標をメンバーへ分担しなければその達成はおぼつきません。そして、その分担においては、評価者がメンバーのキャリアプラン、適性、現在の役割などの多種多様な要素を考慮して適切に組織目標を割り振る必要があります。
 特にMBO(Management By Objectives:目標管理制度/「第1回 人事エキスパートが推奨 組織と個人の力を引き出す法務部門の目標設定」を参照)ベースの評価制度においては被評価者が自ら達成を目指したいゴールを目標として設定することが多いためより一層組織目標の共有とその達成をメンバーに意識させる必要性が高くなります

 なお、この3つの目的はそれぞれ完全に独立したものではなく、相互に関連しあっているものです。たとえば、法務部が対外的に掲げた組織目標を達成できたことは、各メンバーの給与決定にもある程度影響するものですし、また被評価者個人の成長が組織目標の達成のために必須であることも少なくありません。

 そして、目標設定に難しさを感じたときは、その原因がこの3つの目的のうち、どれに関連するのかを考えることで、解決の糸口を見つけやすくなります

 たとえば、林さんの「経営陣や事業部門からのリクエストに応じて柔軟に法務サービスを提供することが求められるため、一人ひとりの担当者について、事前に当該期間に重点的に行うべき仕事を網羅的に目標として定めることは難しい」や、Aさんの「トラブルや契約に対するスタンスの変更などで、すぐ目標とのズレが発生してしまいます」といったお悩みは、組織目標の達成という軸である程度解決できる面もあるのではないかと思います。この点は、林さんによる「法務部門が達成すべき具体的かつチャレンジングな目標と評価指標(KPI)を設定」する。「法務部門の各担当者は、部門全体の目標を認識したうえで、その達成に役立つ個人毎の目標とKPIを設定」する、という理想の目標管理制度に関するご指摘のとおりです。

 具体例としては、ファーストレスポンスまでの平均期間を法務部としての目標として設定し、その達成を各メンバーに求める、といったことがあげられます。このような目標に対しては、「レスポンスまでの期間のみによって法務部門の業務の質を正確に測ることはできない」というご批判もあるかもしれませんし、またそれは事実であると私も思います。しかし、他方で、一旦それを組織目標として掲げた以上、仮に予定外のM&Aなどの突発案件が発生したような場合も、それを理由に組織目標の達成を放棄して良いわけではないことが明確になり、なんとか目標を達成する工夫、たとえばメンバー間で業務をやりくりできる体制や、法律事務所から支援を受けられる仕組みなどを構築する試みを引き出すことにつながるという意味で、明確な効果を得られる良い目標設定の1つなのではないかと思います。

 また、Bさんのご回答にある「業績が振るわない昨今、成果を出し、評価が良くても、報酬への影響がない」という状況下においては、目標設定を成長支援や組織目標達成のためのツールとして捉える割り切りをすることが有用です。実際にBさんも「『本人のスキルが上がる=他社に転職しやすい経験』をしてもらうことを可能な限り目標にしてもらえるように自分のところで調整していました」とおっしゃっており、これは目標設定の目的を成長支援に振り向けている好例です。評価と給与が合理的に関連しない会社においては、被評価者の立場からしても、期末評価や半期評価で取って付けたような給与決定の理由を聞かされるより、このような割り切りをしてもらえたほうがまだ目標とその評価に対する納得を得やすいのではないかと思います。

 このように、目標設定を通じてどんな目的を達成しようとしているのかという観点を持つことで、各評価者が目標設定に関して感じている課題をどのようなアプローチで解決すればよいかが見えてくるのです。

「法務部門に定量的な目標設定は向かない」は本当か

 法務部門における目標設定の難しさの原因の1つとして、成果を定量的に測定することが難しいということがよく言われます。実際にAさんも「法務の仕事はそもそも定性、定量で測れない」とご指摘されており、Bさんからも処理件数、相談に人が来る件数などの定量的な項目だけで評価を正当化することは難しいといった趣旨のご指摘があります。

 この点は、直感的には納得できるものの、前述の3つの目的に照らすと、実はそうとも言い切れない面もあります。たとえば、ジュニアメンバーに対して処理件数などの数値目標を課すことは、目指す基準が明確であることから行動変容を得やすいという意味で、効果的な成長支援策になりえます。また、定量的な目標は客観性が高いため、給与決定の基準として設定した際は被評価者の納得は比較的得やすい傾向にあります。さらに、定量的な目標は評価者によるブレが少なくなるので、特に不達成時において評価結果に対する納得度を得やすいというメリットもあります。

 なお、定量的な指標だけで業務品質を測れないのは、実のところ法務部門に限った話ではありません。法務に近い財務、経営管理、労務といった管理系業務だけでなく、営業や採用といった定量的なKPIが設定されることが多い職種においても、「売上目標の達成」「採用計画を満たす人数の採用」といったシンプルな定量指標だけでその業務品質を測ることができないことは明らかです。そう考えると、目標設定は業務の品質を測ることが目的ではないと割り切ったうえで、前述のメリットを享受するために法務部門においても定量目標を採用することも積極的に検討すべきではないかと思います。

360度評価の活用方法

 Bさんからも興味があるとのご指摘を頂いている360度評価(「第1回 人事エキスパートが推奨 組織と個人の力を引き出す法務部門の目標設定」を参照)ですが、これも前述の3つの目的に照らすと活用方法が見えてきます。

 360度評価は、評価スキルや保有している前提情報がまちまちな評価者が評価すること、および遠慮や同情、交渉、取引、人としての好き嫌いといった評価に際しては本来排除すべき要素で大きくぶれてしまいがちなものであることから、給与決定のツールとして用いる際は慎重になる必要があります。その意味で、基本給決定の要素とされているAさんの企業での運用については、私自身もどのような形で給与決定に360度評価を反映させているのか、とても興味があるところです。

 他方で、360度評価は法務部内では見えていなかった組織や担当者の課題を浮き彫りにするという観点では非常に有用です。内容を噛み砕き、わかりやすさに配慮して作成した回答に対して「メールが冗長で、読みづらい」といった評価が返ってきたり、際どい事例についても事業を停滞させないよう事業に寄り添ったアドバイスを心がけていたところ「ビジネスジャッジはこちらでするので法的なリスクをもっと明確に示してほしい」といった苦言が返ってきたりすることは、良かれと思って対応しているだけになかなか法務部内では予測できないものです。なお、このような効果は、法務部に対する他部門の目を取り入れることで初めて得られるものです。そのため、部下から上司を評価するという意味での360度評価ではなく、依頼者から法務部または法務担当者を評価するという意味での360度評価を行うことをお勧めします。

 そして、このような結果得られたフィードバックは、成長支援や組織目標設定の道標として格好の材料になるのではないかと私は考えています。

さいごに

 これまで目標設定の3つの目的、すなわち「被評価者の成長支援」「被評価者の給与決定」「組織目標の達成」を軸に、目標設定を有意義なものにするための考え方を検討しましたが、もう1つ重要な視点として見逃せない要素があります。それは、「被評価者から信頼されていない限り、評価者の声は、どんなに工夫をしてもまったく響かない」ということです。信頼していない評価者から受けたアドバイスは、それがどんなに的を射たものであっても被評価者の心に残りづらいものですし、信頼していない評価者から組織目標の達成を促されたとしても、それを達成するモチベーションはなかなか高まらないでしょう。つまり、被評価者から信頼されていない状態では、どんなにテクニックを弄しても、目標設定の効果を高めることはできないのではないかと思うのです。

 そのため、もし、工夫を凝らしているにもかかわらず目標設定や評価がうまく回らないと感じている場合には、目標設定や評価のやり方を見直す前に、メンバーとの信頼関係が十分に構築できているかに目を向けることが解決の糸口になるかもしれません。メンバーのポテンシャルを信じ、任せること、悩んでいるようであれば壁を乗り越えるための手助けすること、日々励まし、良いチャレンジを見逃さずに褒めること。そういった目標設定とは直接関係しなさそうなことにこそ、むしろ目標設定の効果を高めるポイントがあるのだと、私は考えています。

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