バイオマス発電・廃棄物発電事業に関する法規制(概論)- 第3回 環境規制として問題となる規制(立上げ時、運用時共通)

資源・エネルギー
上田 朱音弁護士 牛島総合法律事務所 加藤 浩太弁護士 牛島総合法律事務所

目次

  1. はじめに
    1. バイオマスとは
    2. バイオマス発電事業に関する関連法令
  2. 環境規制として問題となる規制(立上げ時、運用時共通)
    1. ダイオキシン類対策特別措置法
    2. 大気汚染防止法
    3. 騒音規制法
    4. 振動規制法
    5. 特定工場における公害防止組織の整備に関する法律
    6. 水質汚濁防止法
    7. 悪臭防止法
    8. 下水道法
  3. さいごに

はじめに

バイオマスとは

 カーボンニュートラル(脱炭素化)との関係などからバイオマス発電が話題を集めています。
 バイオマスとはなにか、その概要については、以下をご覧ください。

バイオマス発電事業に関する関連法令

 バイオマス発電事業その他の再生可能エネルギーによる発電事業を行ううえで押さえておくべき関連法令は、たとえば以下のとおりであり、極めて多岐に及びます。

1. 環境基本法
2. 循環型社会形成推進基本法
3. 環境影響評価法
4. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
5. 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律
6. 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律
7. 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律
8. 電気事業法
9. 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法
10. ガス事業法
11. 熱供給事業法
12. 高圧ガス保安法
13. 電波法
14. エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律
15. 大気汚染防止法
16. 騒音規制法
17. 振動規制法
18. 特定工場における公害防止組織の整備に関する法律
19. 海岸法
20. 河川法
21. 港湾法
22. 砂防法
23. 森林法
24. 地すべり等防止法
25. 都市計画法
26. 建築基準法
27. 国土利用計画法
28. 工場立地法
29. 農地法
30. 農業振興地域の整備に関する法律
31. 自然環境保全法
32. 道路法
33. 道路交通法
34. 電波法
35. 文化財保護法
36. 労働安全衛生法
37. 消防法
38. 熱供給事業法
39. 水質汚濁防止法
40. 下水道法
41. 悪臭防止法
42. 肥料の品質の確保等に関する法律
43. 揮発油税法及び地方揮発油税法
44. 地方税法(軽油引取税)
45. 改正揮発油等の品質の確保等に関する法律
46. 飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律
47. 環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律
48. ダイオキシン類対策特別措置法

 また、規則・通知・ガイドライン等も数多く存在し、さらに自治体ごとに条例・規則・指導要綱などが存在するなど、理解しなければならない規制の内容(許認可・登録・届出、定期報告義務等)も多く、その範囲が極めて広範でありかつ複雑です。

 特に各自治体が定める条例は、環境やまちづくりに関連するものだけでも、廃棄物対策やリサイクル、プラスチックの資源循環のほか、カーボンニュートラル(省エネルギー・温室効果ガス対策)や太陽光発電設備の規制、再生可能エネルギーの利用促進に関する条例、埋土や景観、土壌汚染、地下水、アスベストその他の大気汚染の環境基準に関する条例など、さまざまです。条例管理の難しさは、都道府県だけでなく市区町村でも独自に条例(基準)が定められており、施行規則や指導要綱等まで網羅しなければならないという点にあります。

 さらにいえば、国内のみならず子会社を有する海外での規制についての検討も必要不可欠となり、世界各国において各規制・定期報告義務の対象となるのかといったことについても把握しなければなりません。しかも、これらの規制内容は日々改正・アップデートされていくことから、適時適切なアップデートがなされないと、少し前までは適法であった行為であっても、ある時点を境に、知らないままに法令違反となってしまうことも少なくありません。

 多岐にわたる環境関連法令については「環境リスクと企業のサステナビリティ(SDGs・ESG)」(牛島総合法律事務所 特集記事、2022年3月29日)、新規ビジネスの立ち上げ時における行政対応については「新規ビジネスの可能性を拡げる行政・自治体対応 ~事業上生じる廃棄物の他ビジネス転用・再利用を例に~」(牛島総合法律事務所 特集記事、2023年1月25日)も参照してください。

 また、多岐にわたる環境関連条例とその把握が容易ではないことについては「条例改正対応におけるリスクや留意点と、条例管理をサポートする『条例アラート』(PR)」(BUSINESS LAWYERS、2022年7月14日)も参照してください。

環境規制として問題となる規制(立上げ時、運用時共通)

 以下本稿においては、バイオマス発電に関わる環境規制として問題となる規制(立上げ時、運用時共通)ごとにその概要、規制対象、規制内容(概要)を概説します。なお、紙幅の都合上、規制内容については重要なポイントのみ指摘しています。

ダイオキシン類対策特別措置法

(1)法律の概要

 ダイオキシン類による環境の汚染防止およびその除去等をするため、必要な規制、汚染土壌に係る措置を定めることを内容とする法律

(2)規制対象

 廃棄物焼却炉であって、火床面積合計が0.5㎡以上または焼却能力合計が50kg/h以上

(3)規制内容(概要)

焼却炉設置の60日前までに届出

排出基準の遵守
・大気排出基準、水質排出基準、都道府県が定める排出基準があり、特定施設の種類および構造ごとに設定
・違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
・排出基準不適合に対する改善命令違反の場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金

排出ガス、排出水、ばいじんおよび焼却灰その他の燃え殻について、ダイオキシン類による汚染状況の年1回以上の測定)

大気汚染防止法

(1)法律の概要

 工場および事業場における事業活動に伴うばい煙、揮発性有機化合物および粉じんの排出等を規制すること等により、大気汚染に関し、人の健康に係る被害が生じた場合における事業者の損害賠償の責任について定めることを内容とする法律

(2)規制対象

ばい煙発生施設を有する事業
・ガスタービンまたはディーゼル機関:燃料の燃焼能力が50L/h(重油換算)以上
・廃棄物焼却炉:火格子面積2㎡以上、または焼却能力200kg/h以上

規制対象物質は、いおう酸化物、ばいじん(スス)、有害物質(窒素酸化物)など

(3)規制内容(概要)

ばい煙発生施設の設置にあたり届出
・違反した場合には、3月以下の懲役または30万円以下の罰金

以下の場合は、ばい煙排出基準の遵守が必要

○ ガスエンジンで燃料を35L/h(重油換算)以上利用する場合
○ ガスタービンで燃料を50L/h(重油換算)以上利用する場合
○ ディーゼル機関で燃料を50L/h(重油換算)以上利用する場合
○ ボイラーで燃料の伝熱面積が10㎡以上または燃焼能力が50L/h(重油換算)以上の場合

・ばい煙排出の規制量は、各自治体の条例による上乗せ規制・総量規制あり
・違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金

排気ガス濃度規制の遵守
・バイオガスの施設の場合は、窒素酸化物濃度、硫黄濃度の規制がかかる場合あり

粉じんが発生する施設では、原動機の定格出力が75kW以上の場合は、届出および施設基準への適合が必要
・規制対象物質ではない場合でもかかる義務あり
・基準適合命令に違反した場合は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金

騒音規制法

(1)法律の概要

 工場および事業場における事業活動ならびに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行うこと等を内容とする法律

(2)規制対象

著しい騒音を発生する施設を有する事業
・発電設備に付帯する補機で、空気圧縮機および送風機の原動機について定格出力7.5kW以上のものなどが対象

(3)規制内容(概要)

指定地域内の特定施設(新設の場合)に該当する場合、設置の届出
・違反した場合は、5万円以下の罰金

以下の場合には、「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」1 をもとに自治体が定めた規制基準の遵守
○ 圧縮機、送風機等の定格容量が7.5kW以上の場合
○ チッパーの定格出力が2.2kW以上の場合、砕木機を有する場合

・改善命令に違反した場合には、5万円以下の罰金

振動規制法

(1)法律の概要

 工場および事業場における事業活動ならびに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる振動について必要な規制を行うこと等を内容とする法律

(2)規制対象

著しい振動を発生する施設を有する事業
・発電設備に付帯する補機で空気圧圧縮機の原動機について定格出力7.5kW以上のものなどが対象
・発電施設自体を含むかは自治体により異なる

(3)規制内容(概要)

指定地域内の特定工場(新設の場合)に該当する場合、設置の届出
・違反した場合、30万円以下の罰金

以下の場合には、「特定工場等において発生する振動の規制に関する基準」2 をもとに自治体が定めた規制基準の遵守が必要
○ 圧縮機、送風機等の定格容量が7.5kW以上の場合
○ チッパーの定格出力が2.2kW以上の場合
・違反した場合、30万円以下の罰金

特定工場における公害防止組織の整備に関する法律

(1)法律の概要

 公害防止統括者等の制度を設けることにより、特定工場における公害防止組織の整備を図ることを内容とする法律

(2)規制対象

 電気供給業、ガス供給業、熱供給業などで、特定工場(ばい煙、汚水等、粉じん、ダイオキシン類を発生する施設)を有する事業

 規制対象となる工場(特定工場)3 は、以下のとおり

 ○ 大気汚染防止法で規定するばい煙発生施設
 ○ 工場の排出ガス量が10,000N㎥/h以上の施設
 ○ 水質汚濁防止法で規定する施設
 ○ 工場の排出水量が合計1,000㎥/日以上の施設

(3)規制内容(概要)

特定工場に該当すると、常時使用する従業員数が20人超の場合、規模に応じて、公害防止統括者、公害防止管理者、公害防止主任管理者の設置
・従業員数、排出ガス量および施設の区分によって設置の必要性が異なる
・公害防止統括者のみ資格取得が不要
・違反した場合、50万円以下の罰金

水質汚濁防止法

(1)法律の概要

 工場および事業場から公共用水域に排出される水の排出および地下への浸透を規制することを内容とする法律

(2)規制対象

一般廃棄物処理施設および一定の産業廃棄物処理施設(特定施設)が対象

・排水のある木質バイオマスエネルギー施設、メタン発酵施設、およびその関連施設(公共用水域へ排出する場合)など

・カドミウム、鉛などの特定有害物質、または水素イオン濃度等が一定を超える汚水を特定施設から公共用水域に排出する事業


 ※下水道は含まない

(3)規制内容(概要)

設置時・変更時における特定施設の届出
・事前申請のうえで、届出受理日から60日経過後に設置・変更
・無届出または虚偽届出の場合、3月以下の懲役または30万円以下の罰金

排水基準に適合しない水の排水の制限
・排水量=平均50r㎡/日以上の場合に適用
・有害物質による排出水については、排水量に関わらず排水制限あり
・自治体・エリアごとに上乗せ基準、総量規制基準、地下浸透基準等が存在する場合もあり
・違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金

公害防止管理者の選出と届出
・相当する特定工場、公害防止管理者選任の条件は、特定工場における公害防止組織への整備に関する法律による
・違反した場合、50万円以下の罰金

汚染状況の測定・記録
・記録は3年保管
・違反した場合、30万円以下の罰金

汚染地下水の浄化命令
・違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金

事故時の措置
・応急措置、都道府県知事への届出等
・違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金

悪臭防止法

(1)法律の概要

 工場その他の事業場における事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行うことを内容とする法律

(2)規制対象

・都道府県が指定する規制地域内における事業場
・特定悪臭物質を発生する事業(畜産バイオマスなどの収集・運搬、メタン発酵施設、およびその関連施設)

(3)規制内容(概要)

アンモニア等の特定悪臭物質を一定の濃度以上排出しないように規制

・事業場の敷地境界線の地表における規制基準、および事業場排出口における規制基準、および排出水の規制基準の遵守

 ① 敷地境界線の地表濃度について悪臭物質濃度基準を遵守
 ② 悪臭物質濃度基準では十分でない場合には臭気指数による規制を遵守

・基準違反の是正を求める改善命令に違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金

下水道法

(1)法律の概要

 公共下水道、流域下水道および都市下水路の設置その他の管理の基準等を定めることを内容とする法律

(2)規制対象

 工場または事業場から継続して下水を排除して公共下水道を使用する事業

(3)規制内容(概要)

工場または事業場に下記の施設(特定施設)を設置するときは、公共下水道管理者に届出
○ 継続して下水を排除して公共下水道を使用しようとする水質汚濁防止法上の特定施設
○ ダイオキシン類対策特別措置法上の水質基準対象施設

・違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金

下水道への汚水の排出には、水質基準への適合
・違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金

さいごに

 以上、バイオマス発電事業に関して環境規制として問題となる法規制(立上げ時、運用時共通)ごとにその概要、規制対象、規制内容(概要)を解説しました。

 なお、本稿は、公開時点までに入手した情報をもとに執筆したものであり、また具体的な案件についての法的助言を行うものではないことに留意してください。本稿中の意見にわたる部分は、執筆担当者個人の見解を示すにとどまり、当事務所の見解ではありません。

 発電事業の立上げと施設の設置時に問題となる法規制、発電施設運用時に問題となる法規制については、別稿で解説します。


  1. 厚生省・農林省・通商産業省・運輸省告示1号「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」(昭和43年11月27日) ↩︎

  2. 環境庁告示90号「特定工場等において発生する振動の規制に関する基準」(昭和51年11月10日) ↩︎

  3. 電気供給業が規制対象として含まれているため、発電施設は工場に入るものと思われる。 ↩︎

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