環境ファンド・自然エネルギーファンドと事業型ファンドの組成において留意すべきポイント(後編)

資源・エネルギー

目次

  1. 集団投資スキーム規制
    1. 集団投資スキーム規制
    2. 例外として第二種金融商品取引業の登録が不要な場合
    3. 事業型ファンドに関する規制
  2. 組成するファンドのスキーム(組合型ファンド)
    1. 民法上の任意組合
    2. 商法上の匿名組合(TK)
    3. 有限責任事業組合(LLP)
    4. 投資事業有限責任組合(LPS)
  3. さいごに

 近時、環境・エコロジーへの意識の高まりから、国内外において、同対策に力を入れている企業への投資や風力発電・太陽光発電等の自然エネルギー事業に対する投資を行う、いわゆる環境ファンドが数多く見られるところです。

 環境ファンド・自然エネルギーファンドについて説明した前編に続き、後編では、集団投資スキーム規制と各種組合型ファンドについて解説します。

 なお、本稿における規制内容の解説においては、組合スキームを用いた事業型ファンドについて取り上げることとします。
 事業型ファンドとは、ざっくりとしたイメージで言えば、ファンドが太陽光発電事業を営んでいる会社に対して有価証券投資(単なる金銭出資のみ)をするのではなく、ファンド自らが太陽光発電設備を運営して利益を分配する事業を行うようなファンドをイメージするといいように思います。当該ファンドにおいて、有価証券・デリバティブ取引に対する投資が運用財産の50%以下のものをいうものと説明されています(一般社団法人第二種金融商品取引業協会「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」に関するQ&A」6頁)。
 以下では、その前提として、まずファンド規制(集団投資スキーム規制)全般について説明したうえで、当該規制のなかにおける事業型ファンドの位置付け・関係について説明します。

集団投資スキーム規制

 組合が他事業ファンドを用いてファンドビジネスを展開する場合には、金融商品取引法(以下「金商法」といいます)における集団投資スキームに関する規制が問題となります。
 以下、日本におけるファンド規制について解説します。

集団投資スキーム規制

 集団投資スキームとは、他者から金銭などの出資・拠出を集め、その金銭を用いて事業・投資を行い、事業から生じる収益等を出資者に分配するような仕組み(いわゆるファンド)のことをいいます。集団投資スキームに関する権利(集団投資スキーム持分)1 については、金商法の規制対象である「有価証券」とみなされます(金商法2条2項5号、金商法施行令1条の3))。
 なお、法律上、複数の者によって出資・拠出がなされることは集団投資スキームの要件とはされていないため、単数の者(たとえば一人)が出資・拠出を行う場合であっても、集団投資スキームの定義に該当し得ます 2

 金商法では、いわゆる集団投資スキーム(ファンド)持分の自己募集や出資・拠出を受けた財産の自己運用(有価証券等投資)を業としている者に対して、金融商品取引業の登録を受けることを義務付けているうえ、各種の規制がかかります 3
 具体的には、ファンド(集団投資スキーム持分)の「募集又は私募」(自己募集)を行う場合には、原則として第二種金融商品取引業の登録が必要となります(金商法2条8項7号、28条2項1号、29条)。他の業者が組成したファンドの販売(募集または私募の取扱い等)についても同様です(金商法2条8項9号)。

 なお、集団投資スキーム規制においては、出資・拠出を受けた財産の自己運用(有価証券等投資)についても、投資運用業の登録が必要となりますが(金商法29条)、その詳細については本稿では割愛いたします(以下で述べる例外についても同様です)。

例外として第二種金融商品取引業の登録が不要な場合

 集団投資スキームの自己募集等を行っているとみられるようなケースにおいても、当該事業者において第二種金融商品取引業の登録が不要となる場合があります。

(1)業務を第三者へ委託した場合

 まず、自己募集等の業務を完全に他の業者に委託した場合には、当該業者において登録は不要となります。つまり、その取得勧誘を第三者に委託して自らはまったく行わない場合には、「有価証券の自己募集(私募)」(金商法2条8項第7号)を行っているとは認められず、「有価証券の自己募集(私募)」に係る金融商品取引業の登録を受ける必要はないとされています。裏を返せば、取得勧誘を第三者に委託した場合には、自らは募集に関与することができないことになります。なお、当該発行者が「取得勧誘をまったく行わない」かどうかは、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断されるべきものと考えられますので留意が必要です 4

(2)適格機関投資家等特例業務の届出をした場合

 また、適格機関投資家(証券会社その他の「有価証券に対する投資に係る専門的知識および経験を有する者として内閣府令で定める者」(金商法2条3項1号))および49名以下の非適格機関投資家にのみファンドを販売する場合(適格機関投資家等特例業者)には、登録の必要がなく、商号や主たる営業所の所在地、適格機関投資家の名称等の事項についての「届出」をすれば足りることになります(金商法63条1項1号、金商法施行令17条の12第3項)。
 多くのファンドがこの例外を利用しています。

 もっとも、この特例が悪用されたこともあり、平成28年3月1日以降は、適格機関投資家以外の出資者の範囲を原則として国・地方公共団体、金融商品取引業者、上場会社等に限定し、一般個人の出資が禁止されるなど(なお、個人であっても、投資性金融資産(有価証券等)の合計額が1億円以上であり、かつ証券口座開設後1年を経過している者などは、出資者の範囲に含まれる)、規制が厳格化されています 5
 なお、適格機関投資家等特例業務の届出については、①二層型ファンド(たとえば有限責任事業組合(LLP)が投資事業有限責任組合(LPS)等に対して組合員として出資するるようなケース)において、一層目のファンド(LLP)自体が届出の主体となれるのか、当該LLPの組合員が連名で届け出る必要があるのか、②実質的な運営者のみが適格機関投資家である場合にも特例が適用されるのか、など実務上留意すべき問題が多くあるため、注意が必要です。詳細については本稿では割愛します。

(3)出資者の全員が出資対象事業に関与する場合

 さらに、「出資者の全員が出資対象事業に関与する場合」(金商法2条2項5号イ)には、集団投資スキーム規制は適用除外となります。
 具体的には、以下の要件を満たすことが必要となります。

( i )業務執行の決定が全出資者の同意により行われ 6、かつ、
( ii )①全出資者が当該事業に常時従事していること(金商法施行令1条の3の2第1号および第2号イ)、または、②全出資者が特に専門的な能力であって出資対象事業の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該出資対象事業に従事すること(金商法施行令1条の3の2第2号ロ)

 上記( i )について、意思表示は業務執行決定ごとに個別に行われる必要があると解されおり、同意が必要となる業務執行の範囲については、軽微な日常的に反復して行われるような事務は基本的に含まれないものの、重要な業務執行に限定されるものではないと解されています 7。また、同意の取得については、一定期間内に同意・不同意の意思を表示しない場合に黙示の同意があったものとみなして全員の同意があったとすることは認められないと解されています 8
 そのため、かかる要件を満たすには相当のハードルがあると言えます。

事業型ファンドに関する規制

 上記のとおり、集団投資スキーム規制においては、出資・拠出を受けた財産の自己運用(有価証券等投資)を業としている者に対して、金融商品取引業の登録を受けることを義務付けています(金商法28条4項3号・2条8項15号ハ、29条)。
 これに対して、前述の事業型ファンドなど、有価証券等投資以外の自己運用を行うために集団投資スキームを利用する場合には、投資運用業登録は必要とはなりません 9

 たとえば、前述のイメージ例で言えば、ファンドが太陽光発電事業を営んでいる会社に対して有価証券投資のみをする場合は、投資型ファンドとして投資運用業登録が必要となるのに対して、ファンド自らが太陽光発電設備を運営して利益を分配する事業を行う場合は、事業型ファンドとして投資運用業登録が不要となります。

 事業型ファンドに関しては、一般社団法人第二種金融商品取引業協会が、平成29年6月に「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」を制定しており(平成30年1月施行)、「「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」に関するQ&A」も平成29年9月に公表されています。

組成するファンドのスキーム(組合型ファンド)

 集団投資スキームにおいてファンドを組成する際に用いることができる形態には複数の選択肢がありますが(民法上の組合(民法667条)、匿名組合(商法535条)、投資事業有限責任組合(投資事業有限責任組合契約に関する法律3条1項)、有限責任事業組合(有限責任事業組合契約に関する法律3条1項)等)、組合型ファンドは、一般に少人数の投資家を募る場合に多く用いられており、匿名組合によるスキームが用いられることが比較的多いように思われます。

 前述したとおり、予定している事業型ファンドにはどのスキームを採用できるのか、どのスキームがベストなのかの選択をすることも容易ではありません。
 以下においては、各種組合型ファンドの特徴について説明します。

民法上の任意組合

 民法上の任意組合は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを内容とするものであり(民法667条1項)、労務による出資も可能とされています(民法667条2項)。
 各組合員の出資その他の組合財産は、全組合員の共有に属し、組合財産は共有財産となります(民法668条)。
 原則として、組合の業務の執行は、組合員の過半数で決しますが(民法670条1項)、実務的には業務執行者を選任して業務執行を委任し(民法670条2項)、その他の組合員は非業務執行組合員として業務執行を行わないのが一般的です。

 任意組合の最大の特徴は、組合員全員が無限責任組合員である点です。組合内部で各組合員の負担割合を定めることはできますが、対外的には組合員全員が無限責任を負うことになります。
 もっとも、想定される責任が限定的な場合や、借入れその他によるリスクがなく、損失の限度が一定程度にとどまると想定される場合であれば、責任を負うとしても任意組合を選択する場合はあるものと思われます。

 任意組合は、登記制度が採用されていないことから、組合員の氏名・名称や住所・所在地等が公示されることはありません。もっとも、組合員同士は全員の連名により1つの組合契約を締結することから、他の組合員を認識することができます。

 民法上の任意組合は、法人格を有していないため課税対象にはならず、任意組合の各組合員が課税対象となるとされています。いわゆる「パススルー税制」においては、組合の損益状況を組合員が自らの損益計算のなかに取り込む方法や、損失の取込限度額が規定されている点など税務上留意すべき点があるため、税理士などの専門家等と相談のうえで慎重に判断をすることが必要となります。

商法上の匿名組合(TK)

 匿名組合契約は、商法535条に基づく契約形態の1つであり、「組合」という名称ではあるものの、民法上の任意組合や後述の有限責任事業組合(LLP)や投資事業有限責任組合(LPS)とは異なり、「匿名組合」という団体を生じさせるものではありません

 匿名組合は、1つの匿名組合事業に組合員が多数参加していたとしても、あくまで営業者と個々の匿名組合員の間の1対1の契約によって個別の匿名組合が組成されるのであり、当該個々の匿名組合員同士は契約関係にありません。そのため、匿名組合員同士がお互いを認識することなく1つの事業に参加するということもあり得ます。
 また、組合財産について民法上の任意組合のように組合員の共有名義の登記がされることはなく、また有限責任事業組合(LLP)や投資事業有限責任組合(LPS)のように法律上登記が必要とされているわけでもないことから、組合員の氏名・名称や住所・所在地等が公示されることもありません。

 匿名組合においては、対外的な取引その他の事業活動を行うのは営業者であり、組合員は営業に関与(業務を執行し、または営業者を代表すること)はできません。また、営業者の行った事業活動について、第三者に対して権利・義務を負うこともありません(商法536条3項、4項)。
 匿名組合契約において、組合員は出資額を上回る損失の配分を受けないとの特約がなされる場合には、有限責任となります。

 匿名組合の場合、他の組合とは異なりパススルー税制は採用されていないものの、匿名組合員に分配された利益・損失は、営業者の課税所得の計算上、損金・益金として算入することが認められるとされています。この点についても、税理士などの専門家等と相談のうえで慎重に判断をすることが必要となります。

有限責任事業組合(LLP)

 有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)は、有限責任事業組合契約に関する法律に基づく組合です。
 有限責任事業組合は、民法上の任意組合と同様に法人格を有しておらず、また、各組合員の出資その他の組合財産は、全組合員の共有に属し、組合財産は共有財産となります(有限責任事業組合法56条、民法668条)。

 組合員は、全員がその出資の価額を限度として、組合の債務を弁済する責任を負います(有限責任事業組合法15条)。
 組合の業務執行を決定するには原則として全組合員の同意が必要となり、また、重要な財産の処分・譲受け、多額の借財については、特約がなされたとしても必ず全組合員の同意を要します(有限責任事業組合法12条)。

 その他、組合員は、業務執行の一部を委任することはできますが、全部を委任することは認められていない(有限責任事業組合法13条2項)など、全組合員が一定程度主体的にその運用に関与する必要があります
 有限責任事業組合は、登記の必要があるため(有限責任事業組合法57条)、組合員の氏名または名称および住所が公示されることになります。
 「パススルー税制」が採用されることは、民法上の任意組合や投資事業有限責任組合(LPS)と同様です。

投資事業有限責任組合(LPS)

 投資事業有限責任組合(Investment Limited Partnership)は、投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく組合です。
 投資事業有限責任組合は、民法上の任意組合と同様に法人格を有しておらず、また、各組合員の出資その他の組合財産は、全組合員の共有に属し、組合財産は共有財産となります(投資事業有限責任組合法16条、民法668条)。

 もっとも、民法上の任意組合と異なり、対外的な無限責任を負う組合員が無限責任組合員(General Partner(GP))に限定されており、出資者は有限責任組合員(Limited Partner(LP))として出資金を限度とする有限責任を負うことになります。

 投資事業有限責任組合は、投資することができる対象が限定されているため(投資対象は主に有価証券や金銭債権といった金融商品、著作権等であり、不動産などに直接投資することはできません)、それ以外の事業を投資目的とすることはできません(投資事業有限責任組合法3条1項における限定列挙)。
 また、無限責任組合員は、毎事業年度、貸借対照表、損益計算書および業務報告書ならびにこれらの附属明細書を作成する必要があり(投資事業有限責任組合法8条1項)、これに対して公認会計士・監査法人の意見書を取得する必要があります。

 投資事業有限責任組合は、登記の必要があるため、組合の事業・名称・組合契約の効力発生日・存続期間、無限責任組合員の名称および住所等について公示されることになります(投資事業有限責任組合法17条)。
 「パススルー税制」が採用されることは、民法上の任意組合や有限責任事業組合(LLP)と同様です

さいごに

 集団投資スキーム規制は、他者から金銭などの出資・拠出を集め、その金銭を用いて事業・投資を行い、事業から生じる収益等を出資者に分配することを内容とする限り規制対象となることから、様々なビジネススキームにおいて(思いもよらないような場面で)適用されることがよくみられます
 そのため、検討しているビジネススキームが規制対象とならないかどうかについて、専門家等にも確認のうえで慎重に検討することが必要となります


  1. 金商法の適用を受ける集団投資スキーム(金商法2条2項5号)とは、法形式を問わず、次の3つの要素からなります(花水康「集団投資スキームの規制」(旬刊商事法務1778号(2006年9月))16頁、神田秀樹・黒沼悦郎・松尾直彦編著『金融商品取引法コンメンタール1−定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018)64頁)。
    ① 権利を有する者(出資者)が金銭等を出資又は拠出すること。
    ② 出資又は拠出された金銭等を充てて事業(出資対象事業)が行われること。
    ③ 出資者が出資対象事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利を得ること。 ↩︎

  2. 神田秀樹・黒沼悦郎・松尾直彦編著『金融商品取引法コンメンタール1−定義・開示制度〔第2版〕』(商事法務、2018)63~64頁 ↩︎

  3. 金融庁ウェブサイト「いわゆるファンド形態での販売・勧誘等業務について」(平成28年3月1日更新)参照 ↩︎

  4. 「金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等」のパブリックコメントに対する金融庁の考え方(平成19年7月31日)58頁(103番)等。なお、運用の委託につき、金商法施行令1条の8の6第1項4号、定義府令16条1項10号。 ↩︎

  5. 他方で、いわゆるベンチャーファンドに関しては、特例が設けられており、所定の要件(金商法施行令17条の12第2項、業府令233条の4、239条の2第1項に定める要件)を満たすファンドは、投資家の範囲が①上場会社の役員、②過去5年以内に上場会社の役員であった者、③通算1年以上の期間、会社の役職員またはアドバイザーとして会社の運営に関する一定の業務に従事し、かつ、最後に従事してから5年以内の者、④経営革新等支援機関として認定されている公認会計士、弁護士、司法書士、行政書士、税理士等も含むよう拡大されています(金商法施行令17条の12第2項、業府令233条の3)。 ↩︎

  6. すべての出資者の同意を要しない旨の合意がされている場合において、当該業務執行の決定についてすべての出資者が同意をするか否かの意思を表示してその執行が行われるものであることを含む。 ↩︎

  7. 「金融商品取引法制に関する政令案・内閣府令案等」のパブリックコメントに対する金融庁の考え方(平成19年7月31日)5頁(No.15)、9頁(No.28) ↩︎

  8. 松下美帆ら「金融商品取引法の対象商品・取引」(旬刊商事法務1809号、2007年9月)23頁 ↩︎

  9. 事業型ファンドは、集団投資スキーム持分のうち、有価証券・デリバティブ取引に対する投資が運用財産の50%以下のものが該当するとされています(一般社団法人第二種金融商品取引業協会「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」に関するQ&A」6頁)。 ↩︎

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