環境ファンド・自然エネルギーファンドと事業型ファンドの組成において留意すべきポイント(前編)
資源・エネルギー
はじめに
近時、環境・エコロジーへの意識の高まりから、国内外において、同対策に力を入れている企業への投資や風力発電・太陽光発電等の自然エネルギー事業に対する投資を行う、いわゆる環境ファンドが数多く見られるところです。
ファンドには、組合型、信託型、併用型、いろいろな形態があります。
そのなかでも、ファンドに対する規制である金融商品取引法(以下「金商法」といいます)の集団投資スキーム規制については、その規制内容が複雑で明確な基準もないことから、法令に適合しているのかどうかの判断に苦慮することも少なくありません。
また、ファンドのスキームも様々であり、予定している事業型ファンドににはどのスキームを採用できるのか、どのスキームがベストなのかの選択をすることも容易ではありません。
本稿においては、環境ファンド・自然エネルギーファンドについてその概要を説明します。事業型ファンドの組成において留意すべき実務上の注意点(集団投資スキーム規制、組成する組合型ファンドのスキーム)については後編で解説します 1。
環境ファンド・自然エネルギーファンド
環境ファンドとは
環境ファンドは、一般に、特定の環境テーマに関連する銘柄のみを選定して投資するファンドをいいます。1990年代始めに欧米で環境意識が高まったことにより誕生した「グリーンファンド」と同様の流れを有していると言われています。
環境ファンドは、ESG投資 2 の1つとしても位置づけられていますが、企業の収益性だけではなく環境問題や社会問題への取り組み等も考慮したうえで投資を決めるESG投資は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標に世界各国が本格的に取り組むようになったことで活発化しています。
なお、環境事業や社会貢献事業などに資金使途を絞った「ESG債」の発行が急増しており、世界での累計発行額は1兆ドル(約100兆円)に迫り、債券市場全体の1%の規模に成長していると言われています。
日本国内においても2019年には、ESG債の発行額が1兆円を突破するなど、大企業を中心に幅広い業種において、ESG投資を意識する企業が増えています。
環境ファンドなどのESG投資は、通常の財務情報に加えて、環境・社会・企業統治の影響などの非財務情報(企業の温暖化ガス排出量など)も踏まえた投資判断を行うことになります。もし投資対象が環境汚染をしていた場合には莫大な損害賠償が発生するなどのリスクが高まりますが、その場合の信頼回復は容易ではありません。
そのため、投資判断においては、いわゆるネガティブスクリーニング(リスクのある企業の除外)が求められますが、その一方で、環境問題への対策を高く意識している企業に積極的に投資するいわゆるポジティブスクリーニングによって、投資家に対してESGに積極的なことをアピールできるということも指摘できます。
広い意味の環境ファンド・自然エネルギーファンドは多様に存在していますが、たとえば、以下のような事業に取り組む企業に対して投資するファンドが見られます(参考として、海外のファンドも含めて紹介します)。
- 地球温暖化対策ファンド
- 海洋プラごみ削減ファンド
- 廃棄物処理、再生リサイクルファンド
- 自然エネルギーファンド
なお、環境ファンドにおいては、その調達資金がグリーンプロジェクトのために使われますが、グリーンプロジェクトの事業区分としては以下があげられます 3。
- 再生可能エネルギー(発電、送電、装置、商品を含む)
- エネルギー効率(新築・リフォーム済建物、エネルギー貯蔵、地域暖房、スマートグリッド、装置、商品など)
- 汚染防止および抑制(大気排出の削減、温室効果ガス管理、土壌浄化、廃棄物の発生抑制、廃棄物の削減、廃棄物のリサイクルおよび省エネ・省排出型の廃棄物発電)生物自然資源および土地利用に係る環境持続型管理
- 陸上および水生生物の多様性の保全(沿岸・海洋・河川流域環境の保護を含む)
- クリーン輸送(電気自動車、ハイブリッド自動車、公共交通、鉄道、非自動車式輸送、マルチモーダル輸送、クリーンエネルギー車両と有害物質の排出削減のためのインフラなど)
- 持続可能な水資源および廃水管理(清潔な水や飲料水の確保のための持続可能なインフラ、廃水処理、持続可能な都市排水システム、河川改修やその他方法による洪水緩和対策を含む)
- 気候変動への適応(気候観測および早期警戒システムといった情報サポートシステムを含む)
- 高環境効率商品、環境適応商品、環境に配慮した生産技術およびプロセス(エコラベルや環境認証、資源効率的な包装および配送といった環境持続可能型商品の開発および導入)
- 地域、国または国際的に認知された標準や認証を受けたグリーンビルディング
自然エネルギーファンド(風力・太陽光発電等)
環境ファンドのなかでもよく見られるのが、風力発電や太陽光発電事業への投資を行ういわゆる自然エネルギーファンドです。
たとえば、東京都は、2019年に国内の再生可能エネルギー発電設備に分散投資を行う「東京版ESGファンド」を創設しました 4。
ESG投資が世界的に拡大するなかで、「国際金融都市・東京」を目指す都は自らファンドを立ち上げ、国際水準の投資環境を整えることを目的としているとのことです。東京都は2017年に「国際金融都市・東京」構想を策定して、ESG投資やグリーンファイナンス(環境金融)の普及・促進を掲げていますが、同年に自治体初のグリーンボンド(環境債)を発行したのに続き、今回のファンド創設で国際水準の投資環境に一歩近づくものと考えられています 5。
ファンドスキーム図
ただし、風力発電や太陽光発電においては、発電量が必ずしも安定しないだけでなく、発電機に障害が発生する可能性もあることから、利益分配金の減少や元本割れのリスクなどもあります。
しかしながら、その社会的テーマからして、出資者は必ずしも収益性のみを重要課題ととらえているのではなく、環境や地域貢献などを重視しているという側面もあると思われます。
以上、本稿では、環境ファンド・自然エネルギーファンドについて概観しました。後編では、集団投資スキーム規制と各種組合型ファンドの規制内容と実務上の留意点について解説します。
規制内容の解説においては、組合スキームを用いた事業型ファンドについて取り上げることとします。なお、事業型ファンドとは、ざっくりとしたイメージで言えば、ファンドが太陽光発電事業を営んでいる会社に対して有価証券投資(単なる金銭出資のみ)をするのではなく、ファンド自らが太陽光発電設備を運営して利益を分配する事業を行うようなファンドをイメージするといいように思います。当該ファンドにおいて、有価証券・デリバティブ取引に対する投資が運用財産の50%以下のものをいうものと説明されています(一般社団法人第二種金融商品取引業協会「事業型ファンドの私募の取扱い等に関する規則」に関するQ&A」6頁)。
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事業会社による仮想通貨を利用したFinTechビジネスの展開と金融法規制(ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)、クラウドファンディング、ソーシャルレンディング等の規制)については、影島広泰・猿倉健司「仮想通貨をめぐる法的なポイント 第3回 仮想通貨交換業者の登録開始、事業会社による仮想通貨を利用したFinTechビジネスの展開と金融法規制」も参照してください。 ↩︎
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「ESG投資」とは、E(Environment=環境)、S(Social=社会)、G(Governance=ガバナンス)を基準に企業に投資することをいいます。 ↩︎
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日経新聞電子版「都の社会貢献型ファンド、国際水準の投資環境整備」(2019年10月4日、2020年11月17日最終閲覧) ↩︎

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