フィリピン進出の法務

第1回 外資規制の内容と留意点

国際取引・海外進出

目次

  1. はじめに
  2. 外国投資法による規制
    1. 適用対象
    2. ネガティブリストの概要
  3. 土地保有規制
  4. 反ダミー法規制
  5. おわりに

はじめに

 フィリピンは、7100余の島々からなる約30万平方キロメートルの国土を有し、人口約1億10万人(2014年時点IMF調べ)で、ASEAN10か国の中で名目GDP第5位の位置にあります。

 フィリピンには、1500社超(2014年時点)の日系企業が進出しており、コールセンター等のIT・アウトソーシング事業や輸出志向型製造業を中心に投資が活発に行われており、英語能力の高い質や、安価な労働力等の点で、有望な投資国であると考えられています。
 本稿では、フィリピンへの進出を検討する日本企業が直面する法的問題点について、連載形式で解説します。連載第1回は、フィリピンにおける外資規制についてご説明します。
 本稿が、フィリピン進出を検討する日本企業および進出後の日系企業のビジネス発展の一助になれば幸いです。

外国投資法による規制

適用対象

 フィリピンでは、外資規制に関する法律として、1991年外国投資法(Foreign Investment Act of 1991)が制定されています。外国投資家は、原則として、外国投資法上のネガティブリストに該当する事業分野でない限り、フィリピン法人の100%の持分を取得することができます。

外国投資家とは

 まず、外国投資法上の外国投資家とは、「フィリピン国民(Philippine national)」以外の者をいい、「フィリピン国民」とは、①フィリピン市民、②フィリピン市民により組成される組合もしくは団体、③発行済株式および議決権の60%以上がフィリピン市民によって保有されるフィリピン法人、または④受益者の60%以上がフィリピン市民である年金、退職金等の信託ファンドをいいます(外国投資法3条(a)項)

フィリピン国民とは

  1. フィリピン市民
  2. フィリピン市民により組成される組合もしくは団体
  3. 発行済株式および議決権の60%以上がフィリピン市民によって保有されるフィリピン法人
  4. 受益者の60%以上がフィリピン市民である年金、退職金等の信託ファンド

投資が規制される事業分野—ネガティブリスト

 「2-2. ネガティブリストの概要」に述べるように、ネガティブリストに規定される事業分野については、外国投資家の持分比率が、40%以下に制限されることになります。この持分比率の上限は、事業分野ごとに設定されています。

 なお、持株比率については、2013年5月に証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)から発行された通達により、取締役選任の際の議決権付株式及び、議決権の有無は関係ない全ての株式の双方の保有比率が、外資比率の上限(たとえば40%以下であれば当該40%)を遵守していることが求められることが明確化されました。

フィリピン法人に対するコントロール

 規制業種に該当しないフィリピン法人を保有する場合には、日本国内における子会社と同様に、議決権付株式の過半数を保有することにより、そのフィリピン法人へのコントロールを及ぼすことができます。
 これに対し、規制業種の場合には、議決権付株式の保有を過半数未満とせざるを得ません。
 このように議決権付株式の保有が過半数未満となる場合には、信頼できるフィリピン人パートナーを選定すること、その他株主の持株数を分散し、各株主との間で株主間契約を締結すること等により、実質的にフィリピン法人に対するコントロールを及ぼすことが考えられます。

ネガティブリストの概要

 外国資本の投資が規制または禁止される業種については、1991年外国投資法のネガティブリストに記載され、このネガティブリストは定期的に改定されます。
 2016年2月時点における最新のネガティブリストは、2015年6月22日に発効された「第10次外国投資ネガティブリスト」で、概要は以下のとおりです。
 ネガティブリストには、リストA(外国人による投資・所有が、憲法および特別法により禁止・規制されている分野)リストB(安全保障、防衛、公衆衛生、中小企業保護の観点から外国人による投資・所有が規制されている分野)があります。

 フィリピンへの投資を検討する場合には、ネガティブリストに記載がある規制または禁止業種に該当しないかについての事前確認が必要です。

ネガティブリストA

外資比率の上限 事業分野
0%
(外国資本の参入が認められない分野)
1. レコーディングを除くマスメディア
2. 専門職,薬剤師、放射線・X線技師、犯罪学、林業、法律家
3. 払込資本金額が250万米ドル以下の小売業
4. 生活協同組合
5. 民間警備保障会社
6. 小規模鉱業
7. 群島内・領海内・排他的経済海域内の海洋資源の利用、河川・湖・湾・潟での天然資源の小規模利用
8. 闘鶏場の所有、運営、経営
9. 核兵器の製造、修理、貯蔵、流通
10. 生物・化学・放射線兵器の製造、修理、貯蔵、流通
11. 爆竹その他花火製品の製造
20%以下 12. 民間ラジオ通信網
25%以下 13. 雇用斡旋(国内・国外のいずれかで雇用されるかを問わない)
14. 国内で資金供与される公共事業の建設、修理契約。ただし、以下を除く。
a)共和国法第7718号に基づくインフラ開発プロジェクト
b)外国の資金供与・援助を受け、国際競争入札を条件とするプロジェクト
15. 防衛関連施設の建設契約
30%以下 16. 広告業
40%以下 17. 天然資源の探査、開発、利用(大統領が承認する資金・技術援助契約に基づく場合、外国資本100%参入可)
18. 私有地の所有
19. 公共事業の管理、運営
20. 教育機関の所有、設立、運営
21. 米、トウモロコシ産業
22. 国有・公営・市営企業への材料、商品供給契約
23. 公益事業免許を必要とするインフラ開発プロジェクトの提案、施設運営
24. 深海漁船の運営
25. 損害査定会社,
26. コンドミニアムユニットの所有

ネガティブリストB

外資比率の上限 事業分野
40%以下 1. フィリピン国家警察(Philippine National Police)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通(火器、火器の部品及び弾薬、火器の使用もしくは製造に必要な器具もしくは道具)、火薬、ダイナマイト、起爆剤、爆薬製造時に使用する材料、望遠鏡、赤外線照準器など)
2. 国家防衛省(Department of National Defense)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通(戦闘用の銃、弾薬、軍用兵器及び部品、砲撃・爆撃・射撃統制システム及び部品、誘導ミサイル、ミサイルシステム及び部品、戦闘機及び部品、宇宙ロケット及び部品、軍艦及び補助艦艇、兵器修理・メンテナンス機材、軍用通信機器、暗視装置・機器、放射線装置及び部品、軍事訓練装置、その他国家防衛省が定める品目)
3. 危機薬物の製造、流通
4. サウナ、スチーム風呂、マッサージクリニックなど、公共の保健及び道徳に影響を及ぼす危険性があるため、法により規制されているもの
5. レース場の運営など、全ての賭博行為。ただし、フィリピン娯楽賭博公社と投資契約が結ばれており、かつフィリピン経済区庁の認定を受けている事業は除く。
6. 払込資本金額20万米ドル未満の国内市場向け企業,先端技術を有するか、50人以上を直接雇用し、払込資本金額10万米ドル未満の国内市場向け企業

土地保有規制

 上記ネガティブリストAの18項に記載のとおり、フィリピンにおいては、外資比率40%以下のフィリピン法人のみに土地保有が認められており、フィリピン法人の資本の40%超が外国資本の場合、その外国資本のフィリピン法人は土地を保有することができません

 たとえば、外国投資法上の規制業種ではない製造業について、日本企業がフィリピンに進出する場合、外資100%の製造会社を設立することは可能ですが、その会社がフィリピンに工場用地を保有することはできません。 そのため、製造業であっても、その事業のために工場用地が必要な場合には、フィリピンの工業団地の土地所有者との間で長期の賃貸借契約を締結する必要があります。

 また、製造会社とは別に、外資比率40%以下の土地保有会社を新たに設立し、同会社に土地を保有させ、外資100%の製造会社は、土地保有会社から土地の賃借を受ける等のスキームも利用されています。

反ダミー法規制

 フィリピンでは、前述の外国投資法等の法令に基づく国籍要件及び外資規制の実効性を確保するために、反ダミー法(Anti-Dummy Law, Commonwealth Act No.108)が制定されており、反ダミー法では、外資規制の潜脱を行った個人または法人に対する制裁措置が規定されています。

 制裁措置には、以下のものがあります。

  • 懲役刑
  • 潜脱された権利の価値に相当する額の罰金刑
  • 潜脱行為により取得した資産の没収
  • 会社の裁判手続きによる解散

 したがって、前述の外資比率の上限がある規制業種について、フィリピン人パートナーと共同出資の形態をとる場合や、土地保有規制に対応するために土地保有会社を別途設立する等の対応を行う場合には、その行為が、実質的に反ダミー法における外資規制の潜脱だと解釈されることがないよう注意する必要があります。
 反ダミー法については、過去に日系企業が土地保有をめぐって違反容疑で起訴勧告を受けた事案等もありますので、スキームの構築にあたっては、事前に専門家に相談し、慎重に行うことが望ましいと考えられます。

おわりに

 フィリピン進出法務の連載第1回では、日本企業がフィリピンに進出する際に前提として検討すべき外資規制について基本事項をご説明しました。外資規制については、ネガティブリストをはじめ、内容が定期的に改定されますので、進出を検討される場合には、常に最新の法律、通達の内容をご確認ください。

 次回は、実際にフィリピンに進出する際の進出形態、必要となる監督官庁における手続きの概要についてご説明します。

今後の連載予定
 第2回 会社設立(進出形態、当局との手続関係)
 第3回 M&A
 第4回 労働法
 第5回 知的財産権
 第6回 紛争解決手段、その他

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