フィリピン進出の法務

第2回 会社設立・進出形態と当局との手続における注意点

国際取引・海外進出

目次

  1. フィリピンへの進出形態の種類と特徴
    1. 進出形態その1 法人
    2. 進出形態その2 支店
    3. 進出形態その3 駐在員事務所
  2. 証券取引委員会への登録手続き
  3. 事業許可証の取得
  4. 内国歳入局(Bureau of Internal Revenue(“BIR”))の手続き
  5. 日本企業が多く利用している優遇措置は
    1. フィリピン経済特区庁(Philippine Economic Zone Authority(“PEZA”))
    2. フィリピン投資委員会(Board of Investment(“BOI”))
  6. おわりに

フィリピンへの進出形態の種類と特徴

 本稿はフィリピンへの進出を検討する日本企業が直面する法的問題点について、連載形式で解説する第2回目となります。今回はフィリピンにおける会社設立について、その進出形態と当局との手続関係についてご説明します。

 日本からフィリピンへの進出形態としては、主に法人(日本企業がフィリピンに現地子会社を設立する場合)、支店駐在員事務所による方法が利用されています。以下、それぞれの進出形態の特徴について解説します。

進出形態その1 法人

法人の特徴

 外国企業は、フィリピンに100%子会社の法人を設立することにより、フィリピンで事業を行うことができます。この100%子会社は、フィリピン会社法に基づき組織された法人で、次項でご説明するフィリピンの証券取引委員会Securities and Exchange Commission)への登録が必要です。

 フィリピンの法人には、「株式会社」と「非株式会社」の2つの形態がありますが、日本企業がフィリピンに100%の子会社を設立する場合、通常は株式会社の形態をとります。
 株式会社は、日本における株式会社と同様の概念で、資本金を株式として一定の額面金額に分割して発行し、会社の利益を株主に対して各々の保有株式に比例した配当金を支払うことにより還元します
 他方、非株式会社は、原則的に、慈善、教育、文化などの公共の目的のために組織された会社で、出資者に対して株式の発行はありません。

 法人には、株主とは別の法人格が認められますので、出資者の責任は、出資額を上限とした有限責任となります。フィリピン子会社に対する親会社である日本企業の責任は、株式の引受額として出資した投資額に限定されるため、法務リスクを限定する観点から、望ましい進出形態であるといえます。

 外国企業の100%子会社はフィリピンで幅広い事業活動を行うことができますが、連載第1回(外資規制の内容と留意点)でご説明しましたとおり、外国資本100%の法人は、外国投資法の下で規制されている一定の事業活動を行うことはできません。したがって、日本企業が100%子会社をフィリピンに設立する場合には、その法人がフィリピンで行う事業が外国投資法の規制に抵触しないかについての確認が必要となります。

設立時の役員の要件は

 また、株式会社設立にあたっては、以下のとおり取締役の要件がありますので、取締役を少なくとも5名選任し、そのうち少なくとも3名はフィリピンに居住している者とし、各自に最低1株ずつ法人の株式を保有させるという対応が必要となります。

株式会社の取締役の要件
  • 取締役の人数:最低5名~15名(会社法10条)
  • 取締役は各自最低1株を保有しなければならない(会社法23条)
  • 取締役の過半数はフィリピンに居住している者でなければならない

資本金に関する規制は

 会社法上、株式会社の最低払込資本金は5,000ペソですが、外国資本が40%以上の国内市場向け事業や各種外資規制に服する事業については個別に最低資本金に関する規制があります(「2証券取引委員会の登録手続き」をご参照)。
 会社法上、株式会社の授権資本金額に関する規制はありませんが、少なくとも定款で定める授権資本金の25%について、会社設立時に発行済資本とする必要があり、発行済資本のうちの25%の資本金の払込みが必要となります(会社法13条)。

進出形態その2 支店

支店の特徴は

 支店は、外国企業が、フィリピン国内に設置する外国本社の延長であり、通常、外国投資法の規制に従い、親会社である外国企業の事業活動を行うことになります。そのため、後述する駐在員事務所とは異なり、フィリピンにおいて所得を得ることができます

 支店は日本の本社と法的には同一人格であるため、フィリピン支店の債務は日本の本社が負うことになりますし、フィリピンでの事業リスクを本社が全て負担する形になるので、株式会社として現地法人を設立する場合に比べると、親会社である日本企業の法的リスクが高まるともいえます
 また、他方で、支店の売上は、日本の本社の売上として親会社の単独決算に取り込むことができます。

設立時の役員の要件は

 設立時の役員については、株式会社と異なり、取締役の選任は必要なく、証券取引委員会が連絡をとるための居住代理人1名を登録すれば良いことになります。

 そのため、日本の本社の取締役が支店の役員としての立場も兼ねることになります。フィリピンでは事業行為を行う際に、取締役会議事録の当局への提出が必要となることがありますが、支店の場合には、フィリピンで取締役会の決定を求められると、日本の本社の取締役会の議事録を提出することが必要になります。
 この場合、日本の書面のフィリピン当局への提出には、公証やフィリピン領事館での認証が必要となることがあり、手続きが煩雑となることがある点に留意が必要です。

進出形態その3 駐在員事務所

駐在員事務所の特徴は

 駐在員事務所は、一般に、外国企業が、外国の本社とフィリピンの顧客との連絡事務所として設置するものです。駐在員事務所の機能は、通常、本社の製品およびサービスの情報宣伝と販売促進、市場調査の実施、フィリピンにおける情報収集、製品の品質管理等の機能に限定され、営業行為と捉えられる取引交渉等を行うことはできません
 また、フィリピンで所得を得ることもできません

 駐在員事務所を設立する場合には、運転資金を確保するため、以下の表の初期送金額記載のとおり、設立準備金として親会社から3万ドル以上の送金を受ける必要があります。

設立時の役員の要件は

 支店の場合同様、居住代理人1名の登録が必要です。

証券取引委員会への登録手続き

 フィリピンに進出する場合には、まず、フィリピン当局である証券取引委員会への登録が必要となります。この登録については、前述の進出形態を問わず、必ず行わなければなりません
 証券取引委員会への登録を行い、必要な税務手続きを終了すると、いわゆる法人設立が完了し、法人として各種契約を行うことが可能となります。証券取引委員会が登録時に要求する要件は進出形態により異なり、証券取引委員会への登録手続きに関する概要は、以下の表のとおりです。

 登録に必要となる書類や要件は、変更となる可能性がありますので、進出をご検討の場合には、証券取引委員会に最新の情報を確認の上、専門家へのご相談をお勧めします。

 Ÿ  
法人 支店 駐在員事務所
証券取引委員会への登録 必要 必要 必要
主な登録必要書類
  • 事業開始申請書(SEC書式番号F-100)
  • 社名確認書
  • 定款
  • Ÿ附属定款
  • 送金証明書、預金証明書
  • 登録情報シート
  • 財務役宣誓書
  • 支店設立申請書(SEC書式番号F-103)
  • 社名確認書
  • 本社取締役会議決書
  • 本社の直近の監査済財務諸表Ÿ
  • 本社の定款
  • 送金証明書、預金証明書
  • 居住代理人の宣誓供述書
  • 登録情報シート
  • 駐在員事務所設立申請書(SEC書式番号F-104 )
  • 社名確認書
  • 本社取締役会議決書
  • 本社の直近の監査済財務諸表
  • 本社の定款
  • 送金証明書、預金証明書
  • 居住代理人の宣誓供述書
  • 登録情報シート
登録手数料 授権資本額の1%の1/10にその20%を加えた金額 初期送金額の1%の1/10または1,000ペソのいずれか多い方の金額 初期送金額の1%の1/10または1,000ペソのいずれか多い方の金額
初期送金額
(最低資本金額)
Ÿ
  • 外資国内市場向企業(※1):200,000ドル
  • 但し、先端技術(※2)に従事する場合、または50人以上の従業員を直接雇用する場合:100,000ドル
  • Ÿフィリピン企業国内市場向企業(※3):5,000ペソ
  • 輸出企業(※4):5,000ペソ
 
Ÿ
  • 国内市場向企業:200,000ドル
  • 但し、先端技術(※2)に従事する場合、または50人以上の直接雇用をする場合:100,000ドル
  • 輸出企業:5,000ペソ
 
30,000ドル相当

(※1) 発行済株式総数及び議決権の40%超が外国資本の国内市場向企業
(※2) 科学技術庁が定める先端技術に従事する場合
(※3) 発行済株式総数及び議決権の40%以下が外国資本の国内市場向企業
(※4) 外資企業もフィリピン企業も含む

事業許可証の取得

 前述のいずれの進出形態をとったとしても、証券取引委員会への登録後には、設立地を管轄する地方自治体が発行する事業許可証(Mayor’s permit)を取得することが必要です。

事業許可証取得の主な必要書類
  • 所定の申請書および申請手数料
  • 証券取引委員会の登録証書
  • 定款・付属定款
  • バランガイ・クリアランス(※)
  • 事務所の賃貸借契約書

※バランガイとは、フィリピンの最小の地方自治単位であり、村、地区または区を表す独自のフィリピン語です。事業許可証の取得の前に、法人の所在地を管轄するバランガイに証券取引委員会の登録証と事務所の賃貸借契約書を提出し、許可証(バランガイ・クリアランス)を取得することになります。

内国歳入局(Bureau of Internal Revenue(“BIR”))の手続き

 フィリピンで事業を行う場合には、税務当局であるBIRとの関係が重要となります。
 設立所在地を管轄する税務署(Revenue District Office)から納税者識別番号(Taxpayer Identification Number)を取得し、納税者登録をする必要があります。
 納税者登録の申請時には、登録申請書(BIR書式番号1903)に、事業許可証、事務所の賃貸借契約書、証券取引委員会の登録証書、会計帳簿、定款・付属定款、登録手数料を添えて提出することになり、申請が承認されると登録証明書が発行されることになります。

日本企業が多く利用している優遇措置は

 最後に、フィリピンの投資優遇措置の中で、日本企業が多く利用している優遇措置の概要をご紹介します。フィリピンに進出する際には、投資優遇措置を利用することで、法人税その他各種税の優遇を受けることができます。

フィリピン経済特区庁(Philippine Economic Zone Authority(“PEZA”))

 PEZAは、フィリピン貿易産業省の法的機関であり、PEZAにより経済特区(Economic Zone)と認定された地区において、PEZAが定めるいずれかのタイプの事業者として登録され、当該事業を行う場合に、PEZAの優遇措置を受けることができます。主な優遇措置の内容は、法人所得税免除、特別優遇税率、関税等の免除、付加価値税(VAT)の免除等があります。

フィリピン投資委員会(Board of Investment(“BOI”))

 BOIから発表される投資優先計画(Investment Priority Plan(“IPP”))で指定された分野に投資する企業に対し、各種優遇措置が与えられています。本稿執筆時点で最新の投資優先計画は、2014年度版のIPPであり、当該IPPでは、以下の4つのカテゴリーで優遇措置の対象となる投資奨励分野を定めています。

  1. 投資奨励分野(BOIによる優遇措置の対象)
  2. 輸出関連事業
  3. 特殊な法律により優遇措置の対象となる分野
  4. ミンダナオ島イスラム教徒自治区での各種指定事業(ARMMリスト指定の事業)

おわりに

 フィリピン進出法務連載第2回では、進出形態の特徴とフィリピン当局への登録手続きの概要についてご説明しました。フィリピンへの進出をご検討の際には、進出形態による長所・短所を踏まえ、最新の登録要件や優遇措置の内容をご確認の上で設立手続きを行う必要があります。

 次回は、フィリピンの株式会社の機関設計について概要を述べ、株式譲渡、資産譲渡を中心に、フィリピン法人のM&Aについてご説明します。

今後の連載予定
 第3回 M&A
 第4回 労働法
 第5回 知的財産権
 第6回 紛争解決手段、その他

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