コロナ禍の債権管理・回収の再点検ポイント - 相殺の活用を中心に

取引・契約・債権回収

目次

  1. はじめに - コロナ禍の過剰債務企業の増加と債権管理の重要性
  2. 債権回収の方法
    1. 法的手段による債権回収
    2. 債権回収会社(サービサー)への債権譲渡
    3. 相殺による債権回収
  3. さいごに

はじめに - コロナ禍の過剰債務企業の増加と債権管理の重要性

新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した2020年4月頃は、企業の倒産件数が大幅に増加するのではないか、という予測が少なからず見受けられました。

しかしながら、実際の企業倒産は予想に反して大きく減少しました。2020年は破産 1・民事再生ともに2019年比で減少しており、特に民事再生(通常再生)の案件数は民事再生法施行(2000年)以降で最小となりました 2。その要因としては、公的支援、金融機関等による柔軟なリスケ対応、納税猶予などがあげられています。

法的倒産手続が減少した反面、増加したのが金融機関による既存債務のリスケジュール(いわゆるリスケ)です。近年、中小企業の金融債務の調整場面で活用が進んできたのが、中小企業再生支援協議会(以下「協議会」といいます)の再生手続(協議会が第三者的な立場で、債務者企業と金融機関の間に入り、金融債務の調整を行う私的整理手続)ですが、コロナ禍において、この協議会への相談件数が大きく増加しています。具体的には、2020年度は5,580件となり、創設以来最多となっています 3

この5,580件のうち約80%は「特例リスケ 4」に関する相談とされます。リスケする企業の増加は、コロナ禍で過剰債務を抱える企業の増加につながりやすく、滞留債権が多くなり、かつ、滞留期間が長くなる懸念があるため、企業における債権管理の重要性が増していると考えられます 5
そこで、本稿では、滞留債権・不良債権の回収方法を概観したうえで、コロナ禍で有効な債権回収手法となりうる「相殺」について詳しく説明します。

債権回収の方法

法的手段による債権回収

(1)通常の民事訴訟

ア 概要
債務者が任意の交渉では支払に応じない場合、訴訟提起して裁判所の判決を得て強制的な回収を図ることが考えられます。

イ 法務担当者向けの実務解説
もっとも、通常の民事訴訟手続を取ると、弁護士費用は自ら負担しないといけませんし、判決が確定するまでに時間を要する、さらには判決を得ても任意に相手方が支払わない場合には強制執行の手続を取らなくてはならない、といったデメリットがあります。参考までに、近年、民事訴訟の第1審の平均審理期間には長期化傾向がみられ、コロナ禍の2020年は9.9か月となっています(2019年は9.5か月)6

(2)支払督促

ア 概要
上記のとおり時間と費用のかかる民事訴訟手続ですが、簡易裁判所の支払督促(民事訴訟法382条以下)を用いると、通常訴訟に比べて、簡易かつ迅速に、判決と同様の効果を得て、強制的に金銭債権の回収を図れることがあります。

イ 法務担当者向けの実務解説
支払督促には、次のようなメリットがあります。

  1. 債務者の言い分を聞かずに、申立人(債権者)が提出した書類のみにより審査される(裁判所に出向く必要はない)こと
  2. 相手方が支払督促を受領してから2週間以内に異議申立てをしない場合には仮執行宣言の申立てを行って強制執行できること
  3. 裁判所に支払う印紙代が通常訴訟の半分であること

相手方との間で金銭債権の存否に争いがない場合に、たとえば、金銭債権が消滅時効にかかることを回避する、あるいは債務名義を取得する目的で、支払督促を使うことは効果的です。
デメリットとしては、支払督促を使うことでかえって時間がかかるケースもある点です。

具体的には、支払督促に対して相手方から異議が出ると、通常の訴訟に移行しますので、支払督促に要した期間分、余計な時間がかかります。支払督促を効果的に活用できる場面かどうかは予想される相手方の対応なども踏まえた検討が必要です。
なお、支払督促を受けた側の立場からすると、支払督促は法的に重要な効果を持ちます。たとえ支払督促の内容が荒唐無稽なものであっても無視してしまうと強制執行されるおそれがあることから、適切な対応を取る必要があります 7

債権回収会社(サービサー)への債権譲渡

ア 概要
かつては、弁護士法上の規制により、弁護士または弁護士法人以外のものが債権回収業務を行うことは禁じられていました。しかし、不良債権の処理等を促進するための「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」(1999年2月施行)により、「特定金銭債権」(サービサー法2条)については、法務大臣の許可を得た民間の債権回収会社(サービサー)が債権を譲り受けて回収業務を行うことができるようになっています。

そこで、債権回収会社に債権譲渡(売却)することも、滞留債権の回収手法の1つといえます。
主な「特定金銭債権」としては、次の4つがあげられます。

  1. 金融機関・貸金業者等が有する貸付債権
  2. リース・クレジット債権
  3. 資産の流動化に関する金銭債権
  4. 法的倒産手続中の者が有する金銭債権

イ 法務担当者向けの実務解説
譲渡価格を含め、買取条件は債権回収会社によってまちまちなのが実情です。そのため、債権回収会社への譲渡の検討に際しては相見積を取得するなどして比較検討してみるとよいように思います。

相殺による債権回収

相殺は、2当事者間で相互に同種の債権を有する場合に、対当な額の範囲でお互いの債権を消滅させる行為です(民法505条1項)。

通常の相殺のイメージ

通常の相殺のイメージ

相殺は、弁済の次に重要な債務の消滅原因といわれており、簡易かつ効果的に債権を回収することができます。つまり、相殺は要件を満たしさえすれば、意思表示のみ、通常は内容証明郵便1通(立証さえできれば電子メール等でもよい)で完結します。また、相殺には他の債権者に優先して債権回収を図れる「担保的機能」があり、この点も相殺が有用な理由です。

相殺の効力は、倒産手続下において問題となりやすく、相殺が有効かどうかで実質100%回収かゼロか、という違いが生じることも少なくありません。倒産手続下での相殺の効力をめぐっては、近年、重要な判例が出ていますので、(1)で紹介します。

(1)複数契約間の債権債務の一括清算(相殺)- 最高裁令和2年9月8日判決・民集74巻6号1643頁

ア 事案の概要 8
Y県とA社は、Y県を注文者、A社を請負人として4件の請負契約を締結しました。
A社は4件のうち3件の工事を完成できずに破産となり、A社の破産管財人XがY県に対し、4件の工事の出来高部分の報酬の支払を求めました。これに対し、Y県は未完成の3件の工事について個別請負契約に基づき違約金債権約2,200万円を取得したとして、違約金と報酬との相殺を主張してXの請求を拒みました。Y県は同一の請負契約に基づく債権債務だけでなく、異なる請負契約に基づく債権債務間の相殺も主張し、この相殺の有効性が重要な争点となりました。つまり、Y県としては、違約金債権が破産債権となり、実質的な回収が見込めないことから、異なる請負契約間の違約金債権と報酬債権の相殺により違約金債権の実質的な100%回収を図ろうとしたものです。

最高裁令和2年9月8日判決・民集74巻6号1643頁 イメージ図

最高裁令和2年9月8日判決・民集74巻6号1643頁 イメージ図

争点を法的に整理すると、各違約金債権の取得が、破産法72条2項2号の「支払の停止…前に生じた原因」に基づく場合に当たるかどうか(当たるのであれば相殺が許容される)になります。過去の判例(最高裁平成26年6月5日判決・民集68巻5号462頁)は「支払の停止…前に生じた原因」に基づくかどうかを、「相殺の合理的期待」の有無によって判断していました。
本件でも、原審(福岡高判平成30年9月21日・金法2117号62頁)は「支払の停止…前に生じた原因」の有無を、相殺の合理的な期待があるかどうか、という観点から検討のうえ、別個の請負契約に基づく報酬債権を受働債権とする相殺の期待は合理的なものとはいえないとして、複数契約にまたがる債権債務の相殺を否定しました。

イ 最高裁判決要旨
これに対して、最高裁は以下のとおり判示して、複数契約にまたがる債権債務の相殺を認め、原判決を破棄し自判しました。

  • 各違約金債権は、各請負契約に共通して規定され、①A社の帰責事由により工期内に工事が完成しないことおよび②Y県の解除の意思表示のみによりY県が一定額の違約金債権を取得するものであり、A社が支払停止に陥った際には違約金債権を自働債権、A社の報酬債権を受働債権として一括清算することが予定されていた。
  • Y県は、請負契約締結時点において自働債権と受働債権とが同一の請負契約に基づいて発生するか否かにかかわらず、違約金債権をもってする相殺の担保的機能に対し合理的な期待を有しており、この相殺を許すことは破産手続の趣旨に反しない。

ウ 法務担当者向けの実務解説
倒産局面で、2当事者間の相殺がどこまで許容されるかについて、判例は相殺の合理的期待の有無によって判断する傾向にあるところ(最高裁平成26年6月5日判決・民集68巻5号462頁)、どのような場面で合理的期待が認められるのかは、ケースバイケースの側面があり、あらかじめ裁判所の判断を見通しにくいのが実情です(実際、上記の最高裁令和2年9月8日判決と最高裁平成26年6月5日判決はいずれも原判決を破棄しています)。
この令和2年最判の射程がどこまで及ぶのかは議論がありうるものの、複数の請負契約にまたがる債権債務の相殺(清算)を認めた事例として、倒産局面での相殺による効果的な債権回収の一例を示したといえます。

(2)通常時の三者間相殺

民法上の相殺は、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において…」(民法505条1項)行われるものであり、2当事者間の債権債務の清算を前提としています。
これに対し、三者間相殺は、下図のように、X社のY社に対する債権(受働債権)とB社のX社に対する債権(自働債権)とを相殺する場合のように、3当事者にまたがる債権債務の清算方法であり、B社、Y社のようにグループ会社として取引先(下図でいうX社)に対するリスクをコントロールし、X社からの回収リスクを平準化するために用いられることがあり、実務上も時折見受けられます。

通常時の三者間相殺のイメージ

通常時の三者間相殺のイメージ

もっとも、このような合意自体はできるとしても、その相殺が常に有効かというとそうではなく、倒産局面において三者間相殺の効力を否定した判例がありますので、(3)で紹介します。

(3)倒産局面での三者間相殺をめぐる問題 - 最高裁平成28年7月8日判決・民集70巻6号1611頁

ア 事案の概要 9
X社は、Y社との間で基本契約(ISDAマスター契約)を締結してデリバティブ取引をしており、この契約には、①一方当事者の信用保証提供者(X社の場合は米リーマン社)が倒産した場合、期限の利益喪失事由となり、当事者間のすべての取引が終了する、②同事由が生じた場合、他方の当事者(Y社)が、Y社の関係会社が持つX社に対する債権と、X社が持つY社に対する債権とを相殺できるとする条項(「本件相殺条項」)がありました。
その後、米リーマン社のChapter 11申請により、X社Y社間の取引が終了し、X社はY社に対し基本契約に基づく清算金債権(「本件清算金債権」)を取得しました。他方、Y社の兄弟会社であるB社も、X社との間で同様の基本契約に基づく取引が終了し、こちらはB社がX社に対し清算金債権(「B清算金債権」)を取得しました。
Y社は、X社の日本での民事再生申立後、本件相殺条項に基づき、Y社のX社に対するB清算金債権(再生債権)と、X社のY社に対する本件清算金債権とを相殺したので、本件清算金の支払義務はないと主張しました。

最高裁平成28年7月8日判決・民集70巻6号1611頁 イメージ図

最高裁平成27年7月8日判決・民集70巻6号1611頁 イメージ図

争点は、X社に対して債務を負担する者(Y社)が自らと同じグループ会社(B社)がX社に対して有する倒産債権を自働債権として行う相殺が、民事再生法上許容されるかという点です。この相殺が認められれば、A社グループとしてX社から債権を回収でき、X社の民事再生による損失を最小化できます。

イ 最高裁判決要旨

  • 再生債務者(※上図のX社)に対して債務を負担する者(※Y社)が他人(※B社)の有する再生債権をもって相殺できるとすることは、互いに債務を負担する関係にない者の間における相殺を許すものであり、民事再生法92条1項の文言に反し、再生債権者間の公平、平等な扱いという基本原則を没却し相当ではない。
  • このことは、完全親会社を同じくする複数の会社がそれぞれ再生債務者に対して債権を有し、または債務を負担するときには、これらの当事者間において当該債権及び債務をもって相殺できる旨の合意が予めされていた場合でも異ならない(結論として民事再生手続下における三者間相殺の効力を否定)。

ウ 法務担当者向けの実務解説
この平成28年最判は、相互性を欠く三者間での相殺は、民事再生手続においては許容されないとの一般論を示したうえで、グループ企業同士で総体的にリスク管理をしていた場合であっても相互性を欠く三者間での相殺は同様に許容されないとしたものであり、この考え方は破産手続や会社更生手続にも及ぶと考えられています 10。他方で、本判例は、あくまで倒産手続における三者間相殺の効力を否定したものであり、平常時における三者間相殺には射程は及ばないと考えられています。
本判決は上記の判断に加えて、補足意見 11 が付されたこともあり、本判決の意義や実務への影響、補足意見の位置付けなどについて、様々な議論がなされています 12

さいごに

新型株といった不確定要素はありますが、日本国内のコロナ禍は落ち着いており収束の兆しもみえることから、今後、過剰債務の整理を図るために、企業の事業再生・倒産が進む可能性があります。そうした過程で、本稿で述べた債権回収方法、特に相殺の活用を検討する機会が増えることも予想されます。
中小企業の過剰債務問題については政府も大きな関心を持っており、政府が2021年6月に公表した成長戦略実行計画でも検討課題としてあげられました。今般、この実行計画を踏まえて、全銀協を中心として、中小企業版私的整理ガイドラインの策定が進められており、2022年1月にも「事業再生ガイドライン」策定、同年4月から施行、といった報道もなされています 13
この中小企業版私的整理ガイドラインは、過剰債務を抱える中小企業の過剰債務解消の出口の1つとして位置付けられる可能性もあることから、どのようなガイドラインが策定されるか、企業の債権管理の側面からも注目されるところです。


  1. 竹下慶「東京地方裁判所における破産事件の運用状況」法曹時報73巻8号1451頁 ↩︎

  2. 第一東京弁護士会総合法律研究所倒産法研究部会編『中小企業のための再生手続活用ハンドブック』31、521頁(きんざい、2021) ↩︎

  3. 横田直忠=高橋佳裕「『特例リスケ支援』の総括とこれからの中小企業支援」事業再生と債権管理173号110頁 ↩︎

  4. 既存の金融債務の負担軽減のため、協議会が事業改善の可能性の検討を待たずに主要債権者の支援姿勢を確認のうえで、最大1年間、一括して元金の返済猶予を行うこと。 ↩︎

  5. 具体的な数字としても、コロナ禍で、「日本企業の債務残高は、2019年12月末の570.5兆円から、2020年12月末に622.5兆円となり、52.0兆円増加した」「コロナ禍の中で債務の過剰感があると感じる企業は、2021年4月に大企業14.5%、中小企業34.5%となっている」との報告があります(令和3年6月18日付け政府「成長戦略実行計画」)。 ↩︎

  6. 最高裁判所事務総局「第9回 裁判の迅速化に係る検証結果について」(NBL1204号22頁)。2020年の平均審理期間の長期化についてはコロナ禍の影響もあると考えられています。 ↩︎

  7. 支払督促を悪用した事例も報告されています(法務省ウェブサイト。2021年11月29日最終確認) ↩︎

  8. 事実関係を簡略化しています ↩︎

  9. 事実関係を簡略化しています ↩︎

  10. 岡田紀彦「判解」最判解民事編平成28年度203頁 ↩︎

  11. 補足意見は、概要、相殺が形式的には相互性を欠くとしても、実質的には相互性の要件を満たしていると評価できる場合、民事再生法92条の類推適用等によって再生手続下でも効力が認められるとの解釈の余地ありとするものです。 ↩︎

  12. 松尾博憲ほか「≪新春座談会≫三者間相殺判決を読み解く―最二小判平28.7.8の意義と影響―」(金融法務事情2057号6頁)、山本和彦「三者間相殺の再生手続における効力―最二小判平28.7.8を手掛りに-」(金融法務事情2053号6頁)、内田貴『民法III 債権総論・担保物権[第4版]』330頁(東京大学出版会、2020)など。 ↩︎

  13. 「全銀協、中小の私的整理に新指針 弁護士ら「行司役に」」(日本経済新聞2021年11月5日 5:05更新) ↩︎

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