新型コロナウイルス問題と債務不履行への対応 - 不可抗力の判断ポイントと民法改正の影響

取引・契約・債権回収 公開 更新

目次

  1. はじめに
  2. 債務不履行となった場合の契約責任
    1. 債務不履行の要件
    2. 不可抗力免責条項の位置づけ
    3. 不可抗力と帰責事由
    4. 帰責事由(過失)の有無の判断枠組み
    5. 裁判例
    6. 自粛要請に伴う債務不履行と帰責事由
    7. 立証責任の問題
  3. 金銭債務の不履行
  4. 因果関係
  5. 契約の解除
  6. 準拠法の確認
  7. 民法改正との関連
    1. 2020年4月1日以降の契約
    2. 契約の解除
    3. 帰責事由の判断枠組みの明確化
  8. まとめ

はじめに

 中国に端を発した新型コロナウイルス(COVID−19)(以下「コロナウイルス」といいます)の感染は東アジアから世界に広がり、世界保健機関(WHO)が2020年3月11日に「パンデミック」(世界的大流行)、同月23日には「パンデミックの加速」と表明するなど、感染拡大が続いています(以下「コロナウイルス問題」ないし「コロナ問題」といいます)。コロナウイルス問題に起因あるいは関連してこれまで想定されていなかったような規制(外国人渡航者への入国禁止措置や待機措置など)が、世界各地で行われ、国内外で人やモノの移動への影響が顕在化しており、企業の経済活動に大きな影響を及ぼしています。日本国内については、緊急事態宣言が、4月7日に東京都を含む7都府県、同月16日には日本全国を対象として発令され、不要不急の外出の自粛要請、在宅勤務の推奨などが行われています。その後、5月25日に緊急事態宣言は解除されましたが、コロナウイルス問題の影響は色濃く残っており、今後も当面はこの状況が続くことが想定されます。
 本稿では、コロナウイルス問題に起因して取引先や自社の債務の履行が困難になった場合、どのような責任が生じうるのか、2020年4月1日に施行された改正民法の影響などにも触れながら説明します。

 また、別稿(「新型コロナウイルス問題により経営難となった企業に対する支援策と債権管理」)では、コロナウイルス問題に起因して資金難に陥った企業にどのような支援策が用意されているのか、コロナウイルス問題に起因して取引先が倒産した場合、取引先から債権を回収するにはどのような選択肢があり、どのような点に留意しなければならないのか等について解説します。

凡例

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法(2020年4月1日施行)
  • 民法ないし改正前民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

債務不履行となった場合の契約責任

 コロナウイルスの感染拡大によって人やモノの移動が制限され、契約上予定された商品やサービスの提供ができなくなるケースが想定されます(金銭債務については3参照)。こうした場合でも、商品等の供給義務を負う企業は契約違反に基づく損害賠償責任(債務不履行責任)を負うのでしょうか。債務不履行責任を負うかどうかを検討するにあたり、不可抗力免責条項の適用と帰責事由の有無が問題となりえますので、以下、見ていきます。

債務不履行の要件

 まず、債権者が債務者に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求めるための民法上の要件は以下の4つです(民法415条1項。なお、④帰責事由の立証責任については後述 2−7参照)。

  1. 債務の不履行(債務の本旨に従った履行がなされないこと)
  2. 因果関係(債務不履行と損害の間)
  3. 損害
  4. 帰責事由

不可抗力免責条項の位置づけ

 日本企業が締結している契約書には、地震・水害等の不可抗力によって債務不履行が生じた場合、損害賠償責任を負わない旨の不可抗力免責条項が置かれていることが少なくありません。不可抗力の典型例として地震や水害等の災害をあげている契約をよく見かけますが、感染症の感染拡大を例にあげる契約は少数であり、不可抗力免責条項を置いていない契約も珍しくはありません。

 こうした不可抗力免責をめぐる契約問題を場合分けすると、以下のとおり整理することが可能です。

ケース1 契約上、感染症の拡大が免責事由とされている場合

 当該条項が適用されることを前提に感染症拡大と損害との因果関係(要件②・後述4)が問題

ケース2 契約上「地震及び⽔害等の不可抗⼒によって債務を履⾏できない場合は免責される」と規定され、コロナウイルスのような感染症拡⼤が免責事由として例⽰されていない場合

 主に免責条項の解釈・適用、帰責事由(要件④)、因果関係(要件②・後述4)が問題

ケース3 契約上、不可抗力免責条項がない場合

 帰責事由(要件④)、因果関係(要件②・後述4)が問題

不可抗力と帰責事由

 不可抗力免責条項の適用は、帰責事由(要件④)との関係で問題となるものです。
 帰責事由とは、一般的に債務者の故意・過失または信義則上これと同視される事由を指すと考えられています。コロナウイルス問題では通常、故意は問題となりませんので、帰責事由の有無は「債務者の過失」の有無、という観点で検討することになります。
 民法の解釈上「不可抗力」とは、「外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないもの」、「大地震・大水害などの災害や、戦争・動乱などが代表的な例」1 とされ、「単に過失がないというだけでなく、よりいっそう外部的な事情」 2 とも言われており、理論的には不可抗力は帰責事由がないこと(つまり「無過失」)よりも狭い概念と考えられます。
 しかしながら、不可抗力と無過失は、実務上、しばしば厳密に区別されずに用いられており、不可抗力と無過失の関係は必ずしも明確でないとされます 3。そして、不可抗力でも債務者の無過失でも、債務者には帰責事由がなく債務者が免責される(要件④を満たさず債務不履行責任を負わない)という効果は同じですので、不可抗力のみを深く掘り下げて論じる実質的な意味はないと考えられます。
 そこで、上記ケース2、ケース3の場合には、コロナウイルス問題によって生じた契約違反について債務者に帰責事由があるか(債務者に過失があるか)という観点で検討することになります。

帰責事由(過失)の有無の判断枠組み

 帰責事由の有無は「問題となった債務に係る給付の内容や不履行の態様から一律に定まるのではなく、個々の取引関係に即して、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯等の債務の発生原因となった契約に関する諸事情を考慮し、併せて取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断」4することになると考えられています。
 この考え方によると、コロナウイルス問題を理由として一律に抽象的に帰責事由(過失)の有無が判断されるわけではなく、個別具体的な契約関係の諸事情に応じて判断が異なってくることになります。

裁判例

 これまでのところ日本の裁判例で、コロナウイルスのような感染症の拡大に起因した債務不履行について、不可抗力かどうかあるいは帰責事由があるかどうかを判断した例は見当たりませんが、不可抗力の典型例としてあげられる地震等について帰責事由の有無が問題となった裁判例はありますので、以下ご紹介します。

(1)東京地裁平成11年6月22日判決・判タ1008号288頁

 阪神淡路大震災によって倉庫内の化学薬品が荷崩れを起こすなどして火災となり貨物が消失した場合に、倉庫会社等に過失があったのかどうかが問題となりました。
 裁判所は、(抽象的な地震の発生ではなく)大地震発生の具体的な予見可能性の問題と捉えたうえで、阪神淡路大震災は震度7の未曽有の大震災であり、このような規模の大地震が発生することを具体的に予見することはできなかった(予見可能性がない)ことを理由に過失を否定し、倉庫会社等の債務不履行責任ないし不法行為責任を否定しました。

(2)福岡高裁昭和50年3月26日判決・判タ326号232頁

 韓国産の種子の日本への輸入取引について、日本の防疫検査で不合格となったため、売主が履行期に引渡義務を履行できなかった場合に、売主の履行遅滞による債務不履行責任が問われ、売主の帰責事由の有無が問題となりました。
裁判所は、

  1. 売主の永い経験の中で防疫検査が問題になった例はないこと
  2. 売主は韓国政府発行の検査合格証明書、及び輸出業者発行の(日本の)防疫検査より厳しい検査を経たものであることの証明書を予め入手していたこと等

からすれば、売主が、日本の防疫検査の不合格を予測できなかったからといってこれを売主の過失と見ることはできず、売主に履行遅滞についての帰責事由はないとして、買主の売主に対する損害賠償請求を否定しました。

(3)小括

 いずれの裁判例でも、過失(帰責事由)があるといえるためにはその事象の発生についての予見可能性が必要とされ、予見可能性がないことを理由に過失が否定されています。
 こうした裁判例の判断枠組みを前提とすれば、コロナウイルス問題も未曽有の事象であり具体的に予見することは困難といえます。そのため、コロナウイルス問題に起因する債務不履行についても帰責事由がない、と判断される場合はあると思われます。他方で、過去にはスペインインフルエンザ(1918-1919)、アジアインフルエンザ(1957-1958)、香港インフルエンザ(1968-1969)5、SARS(重症急性呼吸器症候群)(2002年11月から2003年7月まで)6など、感染症の世界的な流行の例はあることから、過失の前提として必要とされる予見可能性を具体的にどの程度要求するかによっては結論が異なってくる可能性もあるように思われます。このあたりの考え方については裁判例の集積が待たれるところです。

自粛要請に伴う債務不履行と帰責事由

 コロナウイルス感染拡大防止のための都道府県知事による外出自粛要請や休業要請により、サービスや商品の供給が滞り、債務の履行がなされない事態が想定されます。こうした自粛要請や休業要請に伴って生じた債務不履行について、債務者に帰責事由はあるのでしょうか。
 諸外国の罰則を伴う外出禁止令(stay-at-home order)と異なり、日本における新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく都道府県知事の外出自粛要請や休業要請には法的な強制力はなく、要請に違反しても罰則はありません。
 そのため、自粛要請に従った結果として債務を履行できなかった、あるいは履行が遅滞したとしても、帰責事由があると判断される可能性はあります。しかしながら、罰則はなくとも、休業要請に応じなかった場合にはその事実が公表 7 されることが予定され事実上の強制力を伴うともいえること、また、感染拡大防止という社会的利益があるともいえることからすれば、帰責事由なしと判断される可能性もあるように思われます。

 このあたりは、自粛要請下でも、契約に従った履行を強いることが当事者の契約の趣旨に沿うのかどうか、当事者がどのような意図で契約をしたのか等を踏まえながら、ケースバイケースでの判断になってくるものと考えられます。

立証責任の問題

 契約書の建付けにもよりますが、通常、不可抗力免責条項の適用の可否や帰責事由の有無が裁判で争われた場合、免責を主張する当事者(債務者)が不可抗力・無過失 8 を主張立証しなければなりません。これを立証責任といい、債務者が不可抗力・無過失を立証できない場合(不可抗力・無過失であるかどうか不明の場合を含みます)には債務者は免責されなくなります。

 大多数の企業は、コロナウイルス問題に起因する契約上の問題を協議により任意に解決しようとしていると考えられます。任意の交渉で解決しようとしている場合であっても、裁判が想定される場合、とりわけ、和解的な解決が見込めず判決に至ることが想定される場合には、立証責任をどちらが負うかによって判決の結論が左右されることがありますので、立証責任の所在には留意が必要です

金銭債務の不履行

 コロナウイルス問題に起因して売上が大きく減少して資金繰りが苦しくなり、取引先や銀行に対する支払(金銭債務の支払)が困難となった場合、上記2で述べたのと同じように、不可抗力・無過失を理由に損害賠償責任を負わない旨の主張ができるでしょうか。

 金銭債務の不履行については民法419条3項に特則が定められており、不可抗力をもって抗弁とすることができない(つまり、不可抗力をもってしても支払えないことを正当化できない)とされており、契約書等でも免責事由がないことが多いものと思われます。
 よって、金銭債務については、コロナウイルス問題によりどのような資金繰りの影響が生じようとも、不可抗力による免責等を主張できないことになります 9
 コロナウイルス問題に起因して資金難に陥っている企業が、金銭債務(買掛金や借入金等の返済)の不履行を避けるには、取引先や銀行に対して返済期限の猶予を求める、あるいは資金を調達して期限どおり返済するなどの対応が必要となります(後日掲載する「新型コロナウイルス問題により経営難となった企業に対する支援策と債権管理」参照)。

因果関係

 仮に、コロナウイルス問題そのものが不可抗力にあたるとしても、債務を履行できない原因が別にある場合には、不可抗力による免責を主張することはできません。コロナウイルスの感染拡大により、債務を履行できない理由として、コロナウイルスがあげられることが増えることも想定されますが、債務を履行できない原因がコロナウイルスに起因するものなのか、その因果関係を適切に見極める必要があります。

 グローバルでサプライチェーンが構築されている今日、チェーンがいったん切断されると、間接的なものを含めその影響は際限なく拡がりえます。判例 10 上は、債務不履行と損害との間には「相当な因果関係」の存在が必要とされていますので、不可抗力による免責が認められるかどうかは、不可抗力による不履行と損害との間に相当な因果関係があるかどうかを判断していくことになると考えられます。

契約の解除

 天災等の不可抗力や当事者に帰責事由がないにもかかわらず債務の履行の目途がたたない場合、債権者としては契約を解除したうえで、代替取引先と契約を締結することを考えます。
 しかしながら、民法の解釈上、債務者に帰責事由がない場合、債権者は契約の解除をすることができないと一般に解されています。そのため、債務者に帰責事由なく履行不能となった場合、債権者は合意解除等の方法を模索する必要がありました。もっとも、このような不都合を回避するため、実務上は、特約を置くことで対処しているケースが多いように思われ、特約がある場合には、債権者は不可抗力や帰責事由の有無にかかわらず契約を解除したうえで代替取引先と契約を締結することができます

準拠法の確認

 以上の議論は、契約書の準拠法が日本法であることを前提とするものです。準拠法が日本法以外である場合には、同様の議論が妥当するとは限りませんので、まずは契約書の準拠法が何法であるかを確認することが重要となります。

民法改正との関連

 上記のとおりコロナウイルス問題に関連して生じうる法的論点について説明をしましたが、2020年4月1日に施行された改正民法はどのような影響を持つでしょうか。

2020年4月1日以降の契約

 改正民法が適用されるのは、施行日(2020年4月1日)以降に締結された契約であるため、以下7−2、7−3の点は2020年4月1日以降に締結された契約に当てはまるという点をまずご理解ください。

契約の解除

 上記のとおり改正前民法では、債務者に帰責事由がない場合、特約がない限り、債権者は契約を解除できないと一般に解されていました。しかしながら、前述したような不都合(合意解除まで代替取引先との契約を躊躇する等)を回避すべく、改正民法541条ないし543条は、債務不履行があれば債務者に帰責事由がなくとも、(債権者に帰責事由がない限り)債権者は契約を解除できることとしました。

帰責事由の判断枠組みの明確化

 415条は改正民法により次のとおり改正されました(下線部分が改正点です)。

(改正前民法415条)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(改正民法415条1項 ※下線が変更点)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない

 改正前民法415条では、債務者の帰責事由の有無の判断枠組みや立証責任の所在が明確でなかったところ、改正により明確化されました。上記 2−2で述べた帰責事由の有無の判断枠組みを実質的に変更するものではないと考えられていますが、今後はこの条文をより意識した検討が求められてくると考えられます。

まとめ

 以上、コロナウイルス問題に起因した債務不履行についてご説明いたしましたが、コロナウイルス問題を取り巻く状況は日々動いており、その時々における状況を前提にした個別具体的な検討・判断が求められてくると考えられます。本稿がその検討の際の一助となれば幸いです。また、コロナウイルス問題の影響が拡大していることを踏まえ、コロナ問題で経営難の企業への支援策、債権管理について、別稿「新型コロナウイルス問題により経営難となった企業に対する支援策と債権管理」にて解説します。そちらも併せてご参照いただければと思います。

<追記>
2020年6月3日:新型コロナウイルス感染拡大と5月25日の緊急事態宣言解除等に伴い、記事の一部に加筆を行いました。

  1. 我妻榮ほか「我妻・有泉コンメンタール民法-総則・物権・債権[第6版]」(日本評論社、2019)792頁 ↩︎

  2. 前掲注1 ↩︎

  3. 内田貴「民法III[第3版]債権総論・担保物権」(東京大学出版会、2008)141頁 ↩︎

  4. 筒井健夫=松村秀樹編「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務、2018)74頁 ↩︎

  5. 以上の流行年については、国立感染症研究所 感染症情報センター「インフルエンザ・パンデミックに関するQ&A」(2020年4月6日最終閲覧)を参照 ↩︎

  6. 国立感染症研究所 感染症情報センターウェブサイト ↩︎

  7. 新型インフルエンザ等対策特別措置法45条4項 ↩︎

  8. 無過失の立証責任については大審院大正14年2月27日判決・民集4巻97頁、最高裁昭和34年9月17日判決・民集13巻11号1412頁参照 ↩︎

  9. もっとも、双務契約について、当事者の責に帰すことができない事由によって一方の債務が履行できなくなった場合、その反対給付に係る債務は原則として消滅するとされています(民法536条1項。危険負担といわれます)。そこで、金銭債務に係る反対給付の履行が当事者に帰責事由なく履行不能となった場合には、債務者は危険負担の観点から金銭債務の支払義務を負わないと主張することはありえます。 ↩︎

  10. 大審院大正15年5月22日判決・民集5巻386頁等 ↩︎

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