医療法人の事業承継の法務(前編)- 医療法人制度と機関の概要

コーポレート・M&A

目次

  1. はじめに
  2. 医療法人の事業承継対策の必要性
    1. 医療機関の事業承継の必要性
    2. 医療法人が事業承継対策を講じる必要性
  3. 医療法人制度の概要
    1. 医療法人の類型
    2. 医療法人の非営利性
    3. 医療法人のガバナンス(機関)
  4. 医療法人の事業承継スキーム

はじめに

 近年、医療機関経営者の高齢化が進んでおり、厚生労働省の統計によると、2018年の病院の開設者または医療法人の代表者の平均年齢は64.3歳でした。このように、医療機関にとっては、病院等の医療機関経営者に係る相続対策や事業承継対策は、今や喫緊な経営課題といえます。2019年10月1日現在、病院は8,300施設あります。そのうち医療法人が開設する施設は5,720施設と全体の68.9%を占めており(厚生労働省「令和元(2019)年医療施設(動態)調査」)、特に医療法人の事業承継対策が重要な課題となっています。しかしながら、医療法人は株式会社とは異なる点が多く、特に持分の定めのある医療法人においては法律面、税制面において留意すべき点が少なくありません。

 本稿では、前編と後編にわたり、通常の株式会社と異なる医療法人についてその制度の概要を解説するとともに、医療法人の中で大半を占める持分の定めのある医療法人に係る事業承継対策の法務について解説します。

 なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する法律事務所の見解ではない点をご了承下さい。

医療法人の事業承継対策の必要性

医療機関の事業承継の必要性

 冒頭で述べたとおり、近年、医療機関経営者の高齢化が進んでおり、以下の図表の通り、医療機関経営者の平均年齢は、年々増加傾向にあります。

医療施設開設者・法人の代表者の平均年齢の推移

医療施設開設者・法人の代表者の平均年齢の推移

 医療法人は、地域医療を支えている社会的公器であり、医療機関が廃業すると当該医療機関の患者に大きな影響を与えることはもとより、地域の医療提供体制にも影響を与えかねません。そのため医療機関においては、株式会社以上に、その事業を次世代に承継するということが強く求められています。また、医療機関が廃業すると、当該医療機関で働く従業員の雇用も失われ、医療機器や医薬品等の販売業者などの取引先にも影響を与えます。

医療法人が事業承継対策を講じる必要性

 医療法人は、非営利法人であるため、剰余金の配当が禁止されています(医療法(以下、単に「法」といいます)54条)。そのため、医療法人は剰余金が留保され、下図のとおり、出資持分の価値が高額になる傾向があります。

「持分の定めのない医療法人への移行認定制度の概要」

出所:厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行認定制度の概要

 そのため、医療法人の出資者が死亡した場合、当該出資者の相続人に多額の相続税が課せられる場合があります。その場合、出資者の相続人が相続税の納税資金を確保するために出資持分の払戻請求をし、医療機関の経営を困難にするおそれがあります。

 そこで、医療法人の出資者が出資持分を放棄することが考えられますが、問題はそう簡単ではありません。出資者が出資持分を放棄すると、その分他の出資者の出資持分の割合が増えるため、出資持分を放棄した出資者から他の出資者に贈与があったとみなされ、他の出資者に贈与税が生じてしまいます。また、すべての出資者が出資持分を放棄すると、医療法人は出資持分の払戻しの義務を免れることから、出資者から医療法人に贈与があったとみなされ、医療法人に贈与税が生じてしまいます。

  • 出資者が死亡し、相続が開始した場合⇒相続人に多額な相続税が生じるリスク
                     ⇒相続人の医療法人に対する高額な払戻請求のリスク
  • 出資者が持分を放棄した場合    ⇒他の出資者に贈与税が生じるリスク
  • すべての出資者が持分を放棄した場合⇒医療法人に贈与税が生じるリスク

 2007年4月に全面施行された第5次医療法改正により、2007年4月1日以後に設立申請された医療法人は、すべて持分の定めのない医療法人(以下「持分なし医療法人」という)となり、既存の持分あり医療法人は持分なし医療法人への任意の移行が求められました。2021年3月31日現在、5万5,931の社団医療法人のうち、いまだ約7割の3万3,083の社団医療法人が持分あり医療法人です。しかしながら、持分あり医療法人においては、上記のようなリスクが生じるおそれがあるため、医療法人の経営に支障が生じることがないよう、事業承継対策を講じておく必要性があります。

医療法人制度の概要

 医療法人の事業承継を検討するにあたり、医療法人制度の基本的な仕組みを理解しておく必要があります。以下では、医療法人制度の概要を解説します。

医療法人の類型

 医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設または介護医療院を開設することを目的とした社団または財団であり、医療法の規定に基づき設立された法人をいいます(法39条)。

 医療法人は、大きく財団と社団があり、社団医療法人は、持分なし社団法人と持分あり医療法人に分けられます。さらに持分あり医療法人は、出資額限度法人とそれ以外に分けられます。

 また、公益性の高い医療法人として社会医療法人および特定医療法人という医療法人があります。これらの医療法人は財団形態と社団形態のものがあり得ますが、いずれも持分の定めはない医療法人になります。

医療法人の非営利性

 前述のとおり、医療法人は非営利法人であり、剰余金の配当が禁止されています(法54条)。「配当」には、事実上の利益の分配とみなされる行為も含みますので、医療法人の役員やその親族が株主となっている会社に対し、第三者と取引する場合に比べて著しく高額な取引価格で取引することなども禁止されますので注意が必要です。

 また、病院等の医療施設の開設には、都道府県知事の許可が必要ですが(法7条1項)、営利を目的として医療施設を開設することは不許可事由とされています(法7条6項)。

 さらに、営利法人は、医療法人の社員または役員になることはできません(平成3年1月17日付け東京弁護士会会長宛厚生労働省健康政策局指導課長回答)。

ポイント
  • 剰余金の配当が禁止
  • 病院等の営利目的の開設は不許可事由
  • 営利法人は医療法人の社員・役員になれない

医療法人のガバナンス(機関)

 医療法人の事業承継やM&Aを行うにあたっては、医療法人のガバナンスを理解する必要があります。

(1)社団医療法人のガバナンス

 社団医療法人は、機関として、社員総会理事理事会および監事を置かなければならないと規定されています(法第46条の2第1項)。

① 社員総会

 社員総会は、医療法人の最高意思決定機関であり、役員である理事および監事の選任解任や報酬の決定、貸借対照表・損益計算書の承認などを行います(法46条の5第2項、46条の5の2第1項、51条の2第3項)。

 株式会社における株主とは異なり、出資者でなくても社員になることが可能です。この点を誤解されている方が多いため、注意が必要です。社員は、自然人に限らず法人もなることができますが(平成28年3月25日医政発第0325第3号厚生労働省医政局長通知)、3−2で前述したとおり、医療法人の非営利性から、株式会社などの営利法人は医療法人の社員になることはできません。

 株式会社の株主の議決権は、持株割合に応じますが、医療法人の社員総会における社員の議決権は、出資額や出資持分の割合にかかわらず1人1個です(法46条の3の3第1項)。

② 理事・理事会・理事長

 医療法人は、原則3名以上の理事を置く必要があります(法46条の5第1項)。理事は、社員総会によって選任されます(同条第2項)。

 理事会は、理事を構成員とする業務執行機関であり、医療法人の業務執行を決定し、理事の職務執行を監督し、理事長を選出します。

 理事のうち1人は理事長とし、原則として、医師または歯科医師である理事でなければなりません(法46条の6第1項本文)。理事長は、医療法人を代表し、医療法人の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(法46条の6の2第1項)。

③ 監事

 医療法人は、1名以上の監事を置く必要があります(法46条の5第1項)。監事は、社員総会によって選任され(同条2項)、医療法人の業務や財産状況の監査を行います(法46条の8第1号、同第2号)。

(2)財団医療法人のガバナンス

 財団医療法人は、機関として、評議員評議員会理事理事会および監事を置かなければならないと規定されています(法46条の2第2項)。

① 評議員会

 評議員会は、医療法人の最高意思決定機関であり、役員である理事および監事の選任解任や報酬の決定、貸借対照表・損益計算書の承認などを行います(法46条の5第3項、46条の5の2第4項、51条の2第3項、第5項)。また、理事長は重要な行為を行う場合には評議員会の意見を聞かなければならないとされています(法46条の4の5第1項)。評議員は、理事や職員との兼任はできません(法46条の4第3項)。

② 理事・理事会・理事長

 財団医療法人の場合、理事は、評議員会によって選任されます(法46条の5第3項)。その他は、基本的に社団医療法人と同様です。

③ 監事

 財団医療法人の場合、監事は、評議員会によって選任されます(法46条の5第3項)。その他は、基本的に社団医療法人と同様です。

医療法人の事業承継スキーム

 医療法人の事業承継の手法は、大きく以下の手法があります。

親族間承継
  • 出資持分の移転
  • 持分の払戻し(社員の入退社)
  • 認定医療法人の活用

第三者承継(M&A)
  • 出資持分の譲渡
  • 持分の払戻し(社員の入退社)
  • 合併
  • 事業譲渡

 医療法人の事業承継対策は、相続税などの税制面、他の相続人との関係、医療法人の経営面など、様々な側面を考慮し、検証する必要があります。

 以上、本編では、医療法人における事業承継の必要性や医療法人の基本的な仕組みについて解説しました。後編では、医療法人の事業承継対策のスキームについて解説します。

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