要点解説 改正産業競争力強化法(2)- ベンチャー支援、事業再編、事業再生を中心に

コーポレート・M&A 公開 更新

目次

  1. ベンチャー企業の成長支援
    1. 投資事業有限責任組合(LPS)に関する海外投資規制の特例
    2. 大型ベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度の創設
  2. 事業再編の推進(株式対価M&Aにおける株式買取請求の適用除外)
  3. 事業再生の円滑化
    1. 監督委員の選任に関する特例
    2. 簡易再生の申立てに関する特例
    3. 金融機関の事業再生ADR参加の努力義務
  4. さいごに

今国会に提出されていた産業競争力強化法等の一部を改正する法案が、2021年6月9日、可決成立し、6月16日に公布されました。

今回の産業競争力強化法等の改正は多岐にわたりますが、改正の概観を説明した前回(「要点解説 改正産業競争力強化法(1)- 規制改革・バーチャルオンリー株主総会を中心に」)に続き、本稿では、ベンチャー企業の成長支援、事業再編の推進(株式対価M&Aにおける株式買取請求の適用除外)、事業再生ADRを念頭に置いた事業再編の円滑化について、ポイントを絞って解説します。なお、本稿では改正後の産業競争力強化法を「法」と略しています。

ベンチャー企業の成長支援

投資事業有限責任組合(LPS)に関する海外投資規制の特例

主にベンチャー企業への投資を目的とするファンド(ベンチャーキャピタルファンド)のビークルとして利用される投資事業有限責任組合(LPS)については、投資事業有限責任組合に関する法律(LPS法)上、外国法人への投資を、組合員の総出資額の50%未満としなければならないという制限があります(LPS法3条1項11号、同法施行令3条。以下「海外投資規制」といいます)。

しかし、ベンチャーキャピタルファンド等LPSを利用するファンドの中には、投資先の国籍を日本国内に限定することなく投資を行うものもあり、そのようなファンドでは、海外投資規制に抵触することなく投資を行わなければならない点で、投資活動に制約を受けます。また、投資ファンドの中には、投資対象を特定の諸外国・地域の事業者に限定するようなファンドも存在するところ、そのようなファンドでは、そもそもLPSをファンドのビークルとして選択できないといった問題もあります(その場合、①ケイマン籍等の海外籍のリミテッドパートナーシップ等を組成したり、②民法上の組合を利用したりすることが考えられますが、①については設立・運用コストが高く、小規模のファンドでは選択が難しく、他方で、②については、投資者の有限責任性が担保できない等といった難点があります)。

こうした状況を改善するため、改正法では、「外部経営資源活用促進投資事業計画」について経済産業大臣の認定を受けたLPSについては、LPS法上の海外投資規制の範囲を超えて外国法人に対して投資を行うことができるものとされました。もっとも、当該外国法人に対する個別の投資に際しては、当該投資が認定を受けた事業計画に従って行われることについて経済産業大臣の確認を受けることが必要とされています(以上について、法17条の2および17条の4)。事業計画の認定申請書、個別投資の確認申請書の要領や様式については、経済産業省のウェブサイト に掲載されています。

本制度の活⽤により、LPSを利⽤したベンチャーキャピタルファンド等による海外投資が積極的に⾏われ、国内企業と海外企業のグローバルオープンイノベーションを促進する可能性等があるといえます。しかし、他⽅で、当該制度の利⽤のためには、事前の事業計画の認定に加えて、個別投資についても当局の確認を受けなければならないところ、多数の投資案件に対して迅速な投資決定が⾏われるベンチャーキャピタルファンド等の実情に合わないようにも思われます。したがって、本制度がどの程度利⽤価値があるかについては、実際の事業計画の認定・個別投資の確認におけるプロセスにおけるファンド事業者側の負担の程度や、当局における判断の迅速さ次第であるものと思われます(なお、本制度に係るスケジュールイメージを経済産業省が公表している資料として、「産業競争力強化法における 外部経営資源活用促進投資事業計画について」(令和3年7月)の5ページ参照)。

大型ベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度の創設

大規模研究開発型(ディープテック)のベンチャー企業は、事業化までには多額の資金が必要となるところ、既存株主の株式を希薄化させないデットによる大規模資金調達を行うニーズがあります。これに対し、金融機関は、このような事業見通しが不安定なベンチャー企業向けの融資に対するノウハウが少なく、実績が積み上がらないという状況にあります。

そこで、今回の改正では、「革新的技術研究成果活用事業活動」(法2条11項)を実施する新事業開拓事業者について、経済産業大臣からその事業活動に関する計画の認定を受けることにより、同事業者が当該計画に従って実施する指定金融機関等を相手方とする社債発行や借入れによる資金調達に対し、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が債務保証をする制度を創設しました(法21条の3および21条の5)。申請の要領や様式については、経済産業省のウェブサイトに掲載されています。

事業再編の推進(株式対価M&Aにおける株式買取請求の適用除外)

株式対価M&Aとは、買収会社が自社の株式を買収対価として実施するM&Aのことをいい、株式対価M&Aのメリットの1つは、買収の対価として自社株式を用いるため、買収資金の全部または一部を調達せずに買収できるという点にあります(詳細は、「株式対価M&Aの利用は広がるか、産業競争力強化法の改正と法整備の動向」参照)。このような株式対価M&Aを促進するため、改正前の産業競争力強化法では、認定を受けた事業再編計画に従って譲渡により他の株式を取得する場合であって、その対価として自社株式を用いる場合には、会社法上の現物出資規制と有利発行規制の適用が除外されるという特例が用意されていました。しかし、改正前の産業競争力強化法に基づく特例では、買収会社の株主保護の観点から、買収会社の反対株主に株式買取請求権が認められていました(改正前の法32条3項・会社法797条)。

上記のとおり、株式対価M&Aのメリットの1つは、買収資金の全部または一部を調達せずに買収できるという点にありますが、株式買取請求権が行使されると、買収会社は、これに応じるための金銭が必要となるため、株式対価M&Aのメリットが減少することになります。そこで、今回の改正では、買収会社が上場会社である場合には、株主が保有する株式を市場で容易に売却できることを踏まえ、認定を受けた事業再編計画に従って株式対価M&Aを行う場合であって、かつ、買収会社が上場会社である場合は、株式買取請求権の適用が除外されることになりました(改正後の法30条3項)。

事業再生の円滑化

事業再生の円滑化のための産業競争力強化法の改正は、事業再生ADR 1 に関するものです。事業再生ADRは、法的事業再生手続(会社更生、民事再生)によらない、企業の私的な事業再生手続のうちADR法 2および産業競争力強化法等に基づいて制度化された準則型私的整理手続のことをいい、比較的規模の大きな会社の事業再生に用いられる手続です(事業再生ADRの詳細は「事業再生ADRとはどのような手続きか」参照)。

事業再生ADRの特徴としては、①手続実施者(中立的な立場で債権者と債務者企業の権利関係の調整にあたる者で、事業再生に精通している)が選任されること、②債務者企業が策定した事業再生計画案の成立に全対象債権者の同意が必要であることがあげられます。事業再生ADRが一部の対象債権者の反対により手続が途中で頓挫したものの、引き続き事業再生を模索しようとする場合には、債務者企業が裁判所に法的事業再生手続を申し立てる必要があります。

コロナ禍において今後の見通しが難しい中、予防的な意味合いも含め、迅速な事業再生を可能とすべく、事業再生ADRから法的事業再生手続への移行を円滑にするための規定等が、今回、設けられました。

監督委員の選任に関する特例

事業再生ADRから民事再生および会社更生に移行する際に、裁判所が、事業再生ADRにおいて手続実施者が和解の仲介を実施していたことを考慮したうえで、監督委員の選任をするとの規定が設けられています(法49条および50条)。

この規定は、事業再生ADRに携わり債務者企業の状況を把握している手続実施者が、その後の法的事業再生手続において監督委員として選任されやすくすることで、円滑な手続移行を図ろうとするものです。

簡易再生の申立てに関する特例

事業再生ADRにおいて債権総額の5分の3以上に当たる債権を有する債権者が事業再生計画に同意した場合、債務者企業は、当該計画に基づき行う債権の減額が「事業再生に欠くことができないものとして経済産業省令で定める基準に適合するものであること」の「確認」を求めることができることになりました(法65条の3)。

この「確認」を得た債務者企業の事業再生ADRが頓挫して、裁判所に対し、民事再生の申立てをし、その中でさらに簡易再生の申立てをした場合、裁判所は、この確認がなされていることを考慮して、対象事業者の再生計画案について「再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法174条2項4号)に該当する事由があるかどうかを判断するものとされています(法65条の4)。

簡易再生手続は、民事再生の中で時間と労力を要する再生債権の調査や確定の手続きを省略して簡易迅速に再生計画を成立させることのできる手続きです(民事再生法211条以下)。簡易再生の活用には、債権総額の5分の3以上を有する債権者が、①債務者企業等の提出した再生計画案、および②債権の調査・確定手続の省略の双方に同意していることが要件となります(民事再生法211条1項)。

簡易再生でも再生計画の成立には、裁判所による再生計画認可の手続きが必要ですが、今回の改正は、裁判所が、再生計画を認可する要件の1つである、「再生債権者の一般の利益」に反しないかどうかを判断する際に、上記の法65条の3の「確認」がなされていることを考慮要素の1つとすることで、再生計画が裁判所に認可されやすくしたものです。

これまでも、事業再生ADRを含む私的整理が一部の債権者の反対でとん挫した場合に、簡易再生の利用が提唱されることがありましたが、民事再生は、実務上、再生計画の認可まで約5か月という短いスケジュールでの運用がなされていることもあり、簡易再生はさほど活用されてきませんでした 3

上記の改正は、一部の債権者の反対で事業再生ADRがとん挫しても、事業再生ADRで作成された事業再生計画案がそのまま簡易再生でも再生計画として成立することの予見可能性を高めることで、法的事業再生手続への移行を抑止しつつ事業再生ADRでの迅速な事業再生を図ろうとするものです。

金融機関の事業再生ADR参加の努力義務

事業再生ADRは私的整理手続の一種であり、金融機関等の対象債権者が事業再生ADRに参加するかどうかはあくまで任意ですが、今般、事業再生の円滑化の観点から、事業再生ADR実施機関から手続きに参加するよう要請された場合、金融機関は手続参加に協力することが義務付けられました(法65条の5)。この義務は、手続参加への努力義務であり、義務の程度としては決して強いものではありませんが、努力義務とはいえ、明文化されたことで、金融機関に事業再生ADRへの参加を促すものとして、事業再生ADRの円滑化に資するものと考えられます。

さいごに

今回の改正には、ポストコロナにおける「新たな日常」に向け、事業者に対して、古い経済社会システムから脱却し、事業構造の変化を図るインセンティブを与えるものが含まれており、事業者によっては大いに活用の余地があるように思われます。本稿が、ポストコロナを見据えた事業環境の整備を検討する際に少しでも役立つこととなれば幸いです。


  1. Alternative Dispute Resolution(裁判外紛争解決手続) ↩︎

  2. 正式な法律の名称は裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律です。 ↩︎

  3. 東京地裁での簡易再生の活用実績は2001年から2020年までの間で2件とされる(永谷典雄ほか編『破産・個人再生の実務【第4版】民事再生・個人再生編』375頁(きんざい、2020)。 ↩︎

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