要点解説 改正産業競争力強化法(1)- 規制改革・バーチャルオンリー株主総会を中心に

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目次

  1. 産業競争力強化法改正の概観
    1. 産業競争力強化法とは
    2. 産業競争力強化法改正の趣旨
    3. 税制措置
    4. 施行時期
  2. 規制改革の推進
    1. バーチャルオンリー株主総会
    2. 規制のサンドボックス制度の恒久化
    3. 債権譲渡の第三者対抗要件の特例(SMSによる債権譲渡通知)

今国会に提出されていた産業競争力強化法等の一部を改正する法案が、2021年6月9日、可決成立し、6月16日に公布されました。

今回の産業競争力強化法等の改正は多岐にわたりますが、本稿では、今回の改正の概観を説明した後に、ポストコロナにおける「新たな日常」に向けた事業環境の整備のための規制改革の一環である諸施策について2回にわたって解説していきます。本稿ではまず、産業競争力強化法の改正の背景と趣旨、税制措置や施行スケジュールを概観した後、バーチャルオンリー株主総会や規制のサンドボックス制度の恒久化、債権譲渡の第三者対抗要件の特例(SMSによる債権譲渡通知)などの、規制改革に関連する施策のポイントを説明します。なお、本稿では改正後の産業競争力強化法を「法」と略しています。

産業競争力強化法改正の概観 1

産業競争力強化法とは

産業競争力強化法とは、バブル崩壊後の日本経済の低迷を解消し、中長期的な経済成長を図るべく、以下の措置等を講じるための法律です。

( i ) 産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するための体制の整備

( ⅱ ) 規制の特例措置の整備

( ⅲ )規制改革を通じた産業活動の新陳代謝の活性化を促進するための措置

( iv )中小企業の活力の再生の円滑化のための措置等

産業競争力強化法の前身の法律は、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法であり、「産活法」と呼ばれていました。

産業競争力強化法改正の趣旨

今回の産業競争力強化法等の改正は、新型コロナウイルス感染症の影響や急激な人口の減少といった短期および中長期の経済社会情勢の変化に適切に対応しながら、「新たな日常」に向けた取組みを先取りし、長期視点に立って企業の変革を後押しすることを目指しています。さらに、ポストコロナにおける成長の源泉となる以下の4つのポイントを促進するための措置を講じるものです。

  1. 「グリーン社会」への転換
  2. 「デジタル化」への対応
  3. 「新たな日常」に向けた事業再構築
  4. 中小企業の足腰強化等

税制措置

税制面では、地球温暖化対策やデジタル化に取り組む企業を税制面で優遇し、投資を促進するための各種の措置が盛り込まれています。

具体的には、①事業者のカーボンニュートラル実現に向けた計画が認定され、脱炭素効果の高い製品の生産設備を導入する場合に、設備投資額の10%の税額控除または50%の特別償却が認められる、②事業者のデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革(DX)の計画が認定され、クラウド技術を活用したデジタル関連投資に対して最大5%の税額控除または30%の特別償却が認められる、といったものです。

また、ポストコロナにおける事業再構築を促すべく、カーボンニュートラル、DX、事業再構築等に取り組む企業(事業適応計画の認定を受けた青色申告法人であり、特定認定事業適応事業者であることが必要)に対する繰越欠損金の控除の上限を最大5年間にわたり現行の50%から最大100%に引き上げる、といった措置も盛り込まれています。

施行時期

本稿で解説する改正法のうち、「2-1バーチャルオンリー株主総会」、「2-2 規制のサンドボックス制度の恒久化」については、公布日(2021年6月16日)付で施行されています 2その他の制度については、公布⽇から3か⽉以内に施⾏することとされていたところ(改正法附則1条)、2021年8月2日に施行されています 3

規制改革の推進

バーチャルオンリー株主総会

バーチャルオンリー株主総会とは、物理的な会場を設けずに、株主がインターネットなどの手段により出席する株主総会です。会社法では、株主総会の招集に際して「場所」を定めることとされているため(会社法298条1項1号)、物理的な「場所」を定めないバーチャルオンリー株主総会を行うことは現行の会社法の解釈では難しいとの見解が国会の政府参考人答弁において示されていました 4

しかし、バーチャルオンリー株主総会には、遠隔地の株主を含む多くの株主が出席しやすい、物理的な会場の確保が不要で運営コストの低減を図ることができる、株主や取締役等が一堂に会する必要がなく感染症等のリスク低減を図ることができるというメリットもあることから、今回の法改正で、以下の要件を満たすことを条件に、バーチャルオンリー株主総会を開催することが可能となりました(法66条)。

  1. 上場会社であること
  2. 経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて経済産業省および法務大臣の確認を受けること
  3. 株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨の定款の定めがあること(ただし、改正法の施行日(2021年6月16日)から2年間は、上記②の確認を受けた上場会社は定款の定めがあるものとみなすことができます)
  4. 招集の決定時点において上記②の経済産業省令・法務省令で定める要件を満たすこと

上記の「経済産業省令・法務省令で定める要件」とは、( i )通信の方法に関する事務の責任者の設置、( ⅱ )通信の方法に係る障害に関する対策についての方針の策定、( ⅲ )通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針の策定、( ⅳ )株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であること、というものです。上記要件に該当するかの確認に係る審査基準 5 や確認の手続きに関する資料は、経済産業省のウェブページ 6 で公表されています。

規制のサンドボックス制度の恒久化

新技術等実証制度(一般的に「規制のサンドボックス制度」と表現されていますので、以下、そのように表現します)とは、新しい技術やビジネスモデルの実施が現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術等の実現に向けて、事業者の申請に基づき所管官庁の認定を受けて、期間や参加者を限定した実証を行い、実証のデータを用いて規制の見直しにつなげていく制度です。イメージのつきやすい説明をすると、小さなこどもが砂場(サンドボックス)で遊ぶ際に、試行錯誤を繰り返しながら、自由に砂をいろいろな形にするように、自治体や民間事業者が新たな商品・サービスを生み出すための近未来技術の実証実験を迅速に行えるよう、安全性に十分配慮した限定された空間で、事前規制や手続きを抜本的に見直すための制度ともいうことができ、諸外国でも導入されています。

この規制のサンドボックス制度は、2018年5月に成立した生産性向上特別措置法(3年の時限立法)において創設されたものであり、これまでに21件 7 のプロジェクトが認定を受け、活用されてきました 8。最近では、ロボットを用いた無人カフェの営業の実証が認証されています。

ロボットを用いた無人カフェの営業の実証の様子

ロボットを用いた無人カフェの営業の実証の様子

利用者はアプリを通じて時間指定で注文し、商品はアプリによって開けることのできるロッカーに保管される。
指定時間を10分経過すると商品は自動的に廃棄される。(出典)首相官邸資料

今般、規制のサンドボックス制度の根拠である生産性向上特別措置法が施行から3年の期限を迎えることから、同制度を産業競争力強化法に移管して存続させることとしたものであり、今後は産業競争力強化法の下でのサンドボックス制度のさらなる活用が期待されます。

債権譲渡の第三者対抗要件の特例(SMSによる債権譲渡通知)

これまで債権譲渡の第三者対抗要件の具備には、①内容証明郵便あるいは公証役場での確定日付の取得(民法467条、民法施行法5条)、②債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記(債権譲渡特例法4条1項、14条1項)の方法による必要があり、実務的には①の内容証明郵便の方法が多く用いられています。

今回の特例措置は、この①②に加えて、ペーパーレス化・デジタル化を推進すべく、電子的システムを用いた、債権譲渡の第三者対応要件の具備の新たな方法を認めるものです。具体的には、法6条に基づく特例措置として、規制のサンドボックス制度を活用した認定新事業活動実施者が提供するシステム(ただし、以下の( i )( ii )の要件を充足する必要あり)を利用して行われた債権譲渡通知等を、確定日付のある通知等とみなすものです(法11条の2第1項)。

( i )債権譲渡通知等をした者及び通知等を受けた者が、当該債権譲渡通知等がされた日時及びその内容を容易に確認できること。

( ii )債権譲渡通知等がされた日時及びその内容の記録を保存し、その改変を防止するために必要な措置として主務省令で定める措置が講じられていること。

2021年7月30日付法務省・経済産業省令第2号の(同年8月2日施行)では、債権譲渡通知の記録を5年間保存すること(同令2条1号)、譲渡通知をした者の求めがあった場合に債権譲渡通知に関する書面または電磁的記録を提供すること(同条2号)、情報システムにおいて日時を記録するために用いられる時刻を信頼できる期間提供する時刻に同期させること(同条3号)、技術的な安全管理に関する措置を講じること(同条4号)等が定められています。

これに関連して、今回の改正の前から、規制のサンドボックス制度を活用して「SMSを利用した債権譲渡通知に関する実証」(認定日:2020年6月26日)が進められています 9。この実証を行っている事業者は、SMAPS(Short Message Accelerate Platform Service)という、SMS(Short Message Service)を利用して、確実に目的の通信端末へメッセージを届け、メッセージに記載されたショートURLから重要な情報に誘導できるクラウドサービスを提供しています。この実証は、内容証明郵便など既存の方法による債権譲渡通知を行うとともに、それと併用する形で、SMAPSを利用したSMSによる同一内容の通知を行うことでその利便性等を検証するものであり、SMS通知によって第三者対抗要件具備といった独自の法的効果は生じません。

本実証におけるデータ授受の概要

本実証におけるデータ授受の概要

(出典)首相官邸ウェブサイト

しかしながら、今後、事業者が新たに認定を受けることとなれば、将来的にはSMSによる債権譲渡通知のみで、第三者対抗要件を具備できることとなりますので、現在行われている実証の結果と併せて、今後の動向が注目されます。

本稿では、多岐にわたる今回の産業競争力強化法等の改正点のうち、バーチャルオンリー株主総会をはじめとする規制改革について解説しました。
次回 は、ベンチャー企業の成長支援、事業再編の推進(株式対価M&Aにおける株式買取請求の適用除外)、事業再生ADRを念頭に置いた事業再編の円滑化について、ポイントを絞って解説します。

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