退職にはどのような種類があるか

人事労務
  1. 退職にはどのような種類があるのでしょうか。
  2. 退職届と言ったり、退職願と言ったりしますが、両者に何か違いがあるのでしょうか。
  1. 退職には、期間満了、辞職、合意解約があります。
  2. 言葉の上では退職届と退職願には差がありますが、実際には、あまり相違がありません。

解説

目次

  1. 期間満了
  2. 辞職
    1. 解約告知
    2. 就労の意思の喪失等による黙示の解約告知等による雇用関係の喪失
  3. 合意解約
    1. 一般の退職
    2. 退職願の受理権限の有無
    3. 離職票の交付や、退職金の異議無き受領と合意解約

期間満了

 民法上では、期間の定めのある労働契約の期間の満了をもって同契約が終了すること自体には制限がありませんが、雇止め法理を明文化した労働契約法19条が有期労働契約の雇止めに制限を加えています。
 しかし、同条の適用を受けず、労使に争いがなければ、期間満了をもって退職となります(本問に関する裁判例の紹介は、岩出誠「労働法実務大系」579頁以下(民事法研究会、2015)参照)。  

辞職

解約告知

 後述3-1のとおり、通常、一般の退職届は労働契約の合意解約の申込みと解されやすいですが、「退職願」でも、民法627条に基づく解約告知の場合があります(たとえば北港観光バス(出勤停止処分等)事件・大阪地裁平成25年1月18日判決・労判1079号165頁)。
 すなわち、従業員の「退職届」は、例外的に、それが会社の都合など関係なく、退職願に記載された退職日付に「なりふり構わず退職するという強引な態度」である場合などを典型として、退職の意思が固い場合、労働者による一方的な解約とされます。この場合は、就業規則に特別な定めのない限り、通常は民法627条に従い、2週間前などの必要な予告期間をおけば労働契約は終了することになります。

就労の意思の喪失等による黙示の解約告知等による雇用関係の喪失

 解約告知の意思表示は黙示の意思表示でもなされることがあり得ます。そこで、一定の事情から就労の意思の喪失による黙示の解約告知(退職)の意思表示を認める例があります。
 旭東広告社事件(東京地裁平成21年6月16日判決・労判991号55頁)では懲戒解雇無効を認めながら、出社しようとした事実が認められないこと等から就労の意思を失っていたとして、当事者の主張に現れていない黙示の退職を認めたり、ニュース証券事件(東京高裁平成21年9月15日判決・労判991号153頁)でも、解雇後の他社入社以降は解雇を承認したものと認められるとしています。ただし、解雇無効係争中の就労による中間収入の控除を認める判例法理との関係では、疑問があり、少なくとも、かかる認定は慎重になされるべきです。  

合意解約

一般の退職

 裁判例は、雇用を維持する配慮から、一般の退職願を、原則として、前述2の一方的な解約告知たる辞職ではなく、会社に対する労働契約の解約に関する申込みの意思表示であると解し、会社の承認(承諾)がなされるまでの間は撤回できると考えられています(白頭学院事件・大阪地裁平成9年8月29日判決・労判725号40頁)。
 そうすると、どんな場合に退職願への承認があったとされることになるかが問題となります。この点について、大隈鉄工所事件(最高裁昭和62年9月18日判決・労判504号6頁)は、次のような判断により、人事部長による退職願の受理を承認の意思表示として、撤回を認めませんでした。つまり、人事部長に「退職願に対する退職承認の決定権があれば、人事部長が退職願を受理したことをもって雇用契約の解約申込に対する会社の即時承諾の意思表示がされたものというべく、これによって雇用契約の合意解約が成立したものと解する」としました。

退職願の受理権限の有無

 結局、退職願を受け取った者が、退職の受理(退職の承認)の権限を持つかどうか、そしてそれを正式に(いわゆる「預り」でなく)受け取ったかどうかが決め手となります。たとえば、上記最高裁判決後でも常務取締役観光部長には単独で退職承認を行う権限はなかったとして、常務による退職願の受理の翌日になされた退職願の撤回が有効と認められた例も出ています(岡山電気事件・岡山地裁平成3年11月19日判決・労判613号70頁)。

退職願の受理権限の有無

離職票の交付や、退職金の異議無き受領と合意解約

 離職票の交付や、退職金の異議無き受領をもっての合意退職の成否につき、裁判例の中で、フリービット事件(東京地裁平成19年2月28日判決・労判948号90頁)では、原告が、他職員への引継ぎや、就職活動をしている行動状況から、原被告間で退職する旨の合意が成立していると見ることもできるが、正式な退職に関する書面等が交わされておらず、原告が当該確約の存在を否定している以上、被告と原告との間における合意退職の存在の主張には理由がないとされました。
 その一方で、ライオン交通事件(東京地裁平成23年3月30日判決・労経速2106号25頁)では、交通事故と欠務状態を踏まえ、退寮のうえ、自己都合退職の趣旨の離職票に署名押印したことから、合意退職により労働契約が終了したとされています。
 しかし、後者の一般化は危険です。実際、オクダソカベ事件(札幌地裁平成27年1月20日判決・労判1120号90頁)では健康保険任意継続手続きもまた退職を前提とした行動とはいえないから、雇用契約の合意解約の成立は認められないとされています。
 原則的には、離職票への署名押印や、退職金の異議なき受領のみでは、解雇承認の合意の成立を認めるのは困難と見た方が無難でしょう。

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