会社支配に必要な株式数は何%?乗っ取りを防止するには?
コーポレート・M&A 更新当社は、創業社長である私が立ち上げたベンチャー企業で、私が100%株式を保有していましたが、ベンチャーキャピタルから出資を申し込まれ、新株を割り当てることになりました。将来的には上場も視野に入れていますが、乗っ取りも心配です。会社の支配権を確保しておくためには、何%程度の株式を保有しておけばよいでしょうか。
会社支配権を確保しておくために何%の株式を保有しておけばよいかについては、会社の議決権行使率や、あなた以外の会社提案議案に賛成してくれる株主の割合によります。
一般的には、議決権の過半数を確保しておく、また、第三者に拒否権を持たれないようにしたいのであれば、議決権の3分の2以上を確保しておくことで支配権を確保できますが、会社のステージ、状況によって必要な株式比率は変わってきます。
上場会社の場合、20~30%を保有していれば実質的に会社支配を行うことも可能であり、もっと少ない比率で事実上の支配株主となっている場合もあります。
未上場の会社の場合は、議決権行使比率が上場企業よりも高く、また、人間関係が濃密であることから、かえって、現在は安定株主である株主が数年後には敵対株主になるという場合もよくあることですので、過半数の株式をご自身で押さえておくほうがよいかもしれません。また、もし株主と敵対関係となった場合でもスクイーズアウトによって排除できるよう、議決権の3分の2以上を維持するかどうかという点も、検討のポイントになってくるものと思われます。
解説
目次
会社支配とは何か
議決権とは
議決権とは、株主総会において議案に投票する権利のことで、原則として株式1株につき1個の議決権があります(会社法308条1項)。もっとも、以下のような例外があります。
まず、株式の内容として議決権がない場合です。①種類株式として、完全無議決権株式や議決権制限株式が発行される場合、これらの株式については議決権がありません。
次に、保有者によって議決権が認められない場合です。②株式会社が自らが発行する株式を保有している場合、当該株式は自己株式となり、議決権が認められません(会社法308条2項)。
また、③ある会社・組合等(A)の総株主の議決権の4分の1以上をある株式会社(B)が有する場合、Aが有するBの株式には議決権が認められません(会社法308条1項括弧書)。これらの株式は、保有者が変われば、議決権が復活します。
最後は、株式の数によって議決権が認められない場合です。④定款で定めることで、一定の数の株式をもって1個の議決権を行使することができる旨を定めることが可能であり(会社法188条1項、308条1項但書)、このような単元株式制度を採用している会社では、単元未満株式には議決権が認められません(会社法189条1項)。上場会社においては、100株を1単元とすることとされているため、100株で1個の議決権を有することになります。単元未満株式では議決権が認められませんが、単元に相当する株式を保有すれば議決権が認められます。
議決権比率、持株比率、出資比率の関係
上記のとおり、株式会社が発行する株式には、議決権が認められないものがありますが、そういったものを除いた議決権の総数を総議決権の数や議決権総数といいます。その数を分母とする議決権の比率を議決権比率といいます。新株予約権など行使すれば議決権が認められる株式となるもの(潜在株式)についても分母に含めて計算されている場合もありますが、この場合は「潜在株式を含む」などと記載されていることが多いと思います。
他方、株式の内容として議決権がない①の場合を除くすべての株式の数を分母とする株式の割合を、持株比率といいます。これは、上記②③④の場合は、譲渡等をすれば、議決権が認められることになるため、分母に含めるものです。議決権比率と同様、潜在株式についても分母に含めて計算されている場合もあります。
このほかに似た用語として出資比率という言葉もありますが、この言葉は出資する際の比率という意味で用いられており、議決権比率と同じ意味で使われている場合も持株比率と同じ意味で使われている場合もあります。
会社を支配するために必要な議決権
一般に、会社の支配権を確保しているという状況とは、取締役会の過半数をコントロールできる状況をいうものと考えられます。そして、株式会社の取締役は、株主総会において議決権の過半数をもって選任しますので(会社法341条1項)、総議決権の過半数を有していれば、会社支配権を有しているということができます。
加えて、総議決権の3分の2以上の株式を有していれば、株主総会の特別決議事項(会社法309条2項)についても単独で可決できますので、株式併合(会社法180条)などを用いて他の株主が保有する株式を1株に満たないものとして排除し(「スクイーズアウト」といいます)、100%株主に戻ることも可能です。
上記のとおり、議決権は、現在は認められないものであっても、第三者に譲渡がなされたり、潜在株式の行使がなされたりした場合には、議決権が復活するので、議決権総数が増加し、その結果、議決権比率が低下することになります。
そのため、会社を支配するために必要な議決権を検討する上では、これらの株式についても念頭においておく必要があります。
実質的な会社支配権を確保しておくための方策
議決権行使率を考慮に入れた場合
もっとも、これは全株主が議決権を行使した場合であっても確実に取締役を選任するために必要な比率であり、実際には、もっと少ない比率でも取締役の選任議案を可決することができる場合も多くあります。未上場の会社であっても全株主が議決権を行使するとは限りませんし、上場会社の場合は、議決権を行使しない株主が少なくないからです。
上場会社の定時株主総会に関するアンケート調査結果を集計した「株主総会白書2023年版」(旬刊商事法務2344号126頁)によれば、議決権を行使した株式の総議決権に対する割合(議決権行使率)が80%以下の会社が54.6%であり、50%以下の会社も21.0%あったとのことです。
このような会社であれば、総議決権の30~40%の株式であっても、実際に行使される議決権の過半数を有していることとなり、実質的に支配権を有しているといえます。
安定株主比率を考慮に入れた場合
さらに、会社支配権の有無を考える上では、いわゆる安定株主の存在も考慮する必要があります。安定株主とは、会社提案議案に賛成してくれることが期待できる株主のことで、支配株主やその親族のほか、従業員個人や従業員持株会、取引金融機関や取引先などが想定されます。
もちろん、平成26年2月に導入されたスチュワードシップ・コードの影響等もあり、従業員との関係が悪化している場合や業績が芳しくないような場合には、これらの株主がすべて会社提案議案に賛成してくれるとは限りませんが、敵対的買収がなされたような場合に、これらの株主が敵対的買収に賛成することは一般的には稀であるといえます。
したがって、会社の状況や場面にもよりますが、自ら保有する議決権数に、これらの安定株主が有している議決権も加算して考えることができるかと思います。
「株主総会白書2023年版」(旬刊商事法務2344号105頁)によれば、安定株主が保有する議決権の総議決権に対する割合(安定株主比率)は下表のとおりであったとのことです。
70%以上 | 4.4% |
---|---|
60%台 | 16.2% |
50%台 | 22.5% |
40%台 | 16.9% |
30%台 | 15.7% |
20%台 | 10.7% |
10%台 | 7.6% |
10%未満 | 3.3% |
無回答 | 2.7% |

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