会社支配に必要な株式数は何%か
コーポレート・M&A 公開 更新当社は、創業社長である私が立ち上げたベンチャー企業で、私が100%株式を保有していましたが、ベンチャーキャピタルから出資を申し込まれ、新株を割り当てることになりました。将来的には、上場も視野に入れていますが、当社の支配権を確保しておくためには、何%程度の株式を保有しておけばよいでしょうか。
一般的には、議決権の過半数を確保しておく、また、第三者に拒否権を持たれないようにしたいのであれば、議決権の3分の2以上を確保しておく、ということができますが、会社のステージ、状況によって必要な株式比率は変わってきます。
上場会社の場合、20~30%を保有していれば、実質的に会社支配を行うことも可能であり、もっと少ない比率で事実上の支配株主となっている場合もあります。
解説
会社を支配するには過半数、さらに強固なものにするには3分の2の議決権
一般に、会社の支配権を確保しているという状況とは、取締役会の過半数をコントロールできる状況をいうものと考えられます。そして、株式会社の取締役は、株主総会において議決権の過半数をもって選任しますので(会社法341条1項)、総議決権の過半数を有していれば、会社支配権を有しているということができます。
加えて、総議決権の3分の2以上の株式を有していれば、株主総会の特別決議事項(会社法309条2項)についても単独で可決できますので、株式併合(会社法180条)などを用いて他の株主が保有する株式を1株に満たないものとして排除し(「スクイーズアウト」といいます)、100%株主に戻ることも可能です。
議決権行使率を考慮に入れた場合の支配について
もっとも、これは全株主が議決権を行使した場合であっても確実に取締役を選任するために必要な株式比率であり、実際には、もっと少ない比率でも取締役の選任議案を可決することができる場合も多くあります。
未上場の会社であっても全株主が議決権を行使するとは限りませんし、上場会社の場合は、議決権を行使しない株主が少なくありません。
上場会社の定時株主総会に関するアンケート調査結果を集計した「株主総会白書2020年版」(旬刊商事法務2256号135頁)によれば、議決権を行使した株式の総議決権に対する割合(議決権行使率)が80%以下の会社がほぼ半数であり、議決権行使比率が50%以下の会社も15.8%あったとのことです。
このような会社であれば、総議決権の30~40%の株式であっても、実際に行使される議決権の過半数を有していることとなり、実質的に支配権を有しているといえます。
安定株主の存在
さらに、会社支配権の有無を考える上では、いわゆる安定株主の存在も考慮する必要があります。
安定株主とは、会社提案議案に賛成してくれることが期待できる株主のことで、支配株主やその親族のほか、従業員個人や従業員持株会、取引金融機関や取引先などが想定されます。
もちろん、平成26年2月に導入されたスチュワードシップ・コードの影響等もあり、従業員との関係が悪化している場合や業績が芳しくないような場合には、これらの株主がすべて会社提案議案に賛成してくれるとは限りませんが、敵対的買収がなされたような場合に、これらの株主が敵対的買収に賛成することは一般的には稀であると言えます。
したがって、会社の状況や場面にもよりますが、自ら保有する議決権数に、これらの安定株主が有している議決権も加算して考えることができるかと思います。
「株主総会白書2020年版」(旬刊商事法務2256号105頁)によれば、安定株主が保有する議決権の総議決権に対する割合(安定株主比率)は、60%台の会社が17.9%、50%台の会社が23.1%、40%台の会社が19.3%、30%台の会社が14.5%、20%台の会社が9.8%、10%台の会社が6.9%であったとのことです。
おわりに
以上のとおり、会社支配権を確保しておくために何%の株式を保有しておけばよいかについては、会社の議決権行使率や、あなた以外の会社提案議案に賛成してくれる株主の割合によります。
上場会社の場合、オーナー社長などが20~30%程度(場合によってはそれ以下)の株式で支配株主となっている場合もありますが、未上場の会社の場合は、議決権行使比率が上場企業よりも高く、また、人間関係が濃密であることから、かえって、現在は安定株主である株主が数年後には敵対株主になるという場合もよくあることですので、過半数の株式をご自身で押さえておく方がよいかもしれません。
未上場の時点では、もし株主と敵対関係となった場合でもスクイーズアウトによって排除できる議決権の3分の2以上を維持するかどうかが検討のポイントになってくるものと思われます。
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