株主総会決議の瑕疵(不存在、無効、取消)を争う訴訟の訴えの利益

コーポレート・M&A
山口 敏寛弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所

 当社の直近の株主総会決議について株主から決議取消しの訴えが提起されました。その決議の手続には瑕疵があったと言わざるを得ないため、判決となった場合には、その訴えが認容される可能性が高いと考えています。そのため、今からでも可能であれば、この瑕疵を補うために何らかの手続をとり、当社敗訴の判決が下されないようにしたいと考えています。
 株主総会決議取消しの訴えが適法に受理された後、その訴えを却下してもらう方法はありますか。あるとすればどのような方法でしょうか。

 株主総会決議の取消しや無効確認・不存在確認の実益が事後的に消滅した場合、決議取消しの訴えや無効確認・不存在確認の訴えは「訴えの利益」を欠くことを理由に却下されることになります。たとえば、判例上、以下のような場合に、株主総会決議取消しの訴えの利益が消滅するものと判断されています。

① 役員選任決議の取消しの訴えが提起された後、その決議によって選任されたすべての役員が任期満了により退任した場合
② 役員報酬決議の取消しの訴えが提起された後、その決議と同一内容で、かつその決議が行われた時に遡って効力を有するものとする再決議が行われた場合
③ 株式発行決議の取消しの訴えが提起された後、その決議に基づく株式の発行が行われてしまった場合

 したがって、たとえば問題となっている貴社の株主総会決議が役員報酬決議であれば、再度株主総会を招集して上記②のような再決議を得ることが考えられます。

解説

目次

  1. 訴えの利益とは
  2. 株主総会決議取消しの訴えの利益
    1. 訴えの利益が消滅する場合
    2. 例外的に訴えの利益が消滅しない場合
  3. 株主総会決議無効確認・不存在確認の訴えの利益
    1. 確認の利益
    2. 確認の利益が否定される場合

訴えの利益とは

 訴訟を行うためには「訴えの利益」が認められる必要があります。訴えの利益とは、ある法律上の紛争について判決を求めるに足りるだけの利害関係のことをいいます。訴えの利益は、口頭弁論終結時まで継続して存在している必要があり、いったんは適法に継続した訴えであっても、事後的に訴えの利益を欠くことになった場合には、却下されることになります。

株主総会決議取消しの訴えの利益

訴えの利益が消滅する場合

 株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項)の場合、原告適格が認められる限り、原則として訴えの利益が認められます(原告適格に関する詳細は、「株主総会決議の瑕疵(不存在、無効、取消)を争う訴訟の原告適格」を参照ください)。

 もっとも、株主総会決議を取り消す実益が消滅した場合、取消しの訴えは、訴えの利益を欠くものとして却下されることになります。たとえば、判例上、以下のような場合に、取消しの訴えの利益が消滅するものとされています。

  1. 役員選任決議の取消しの訴えが提起された後、その決議によって選任されたすべての役員が任期満了により退任した場合(最高裁昭和45年4月2日判決・民集24巻4号223頁
  2. 役員報酬決議の取消しの訴えが提起された後、その決議と同一内容で、かつその決議が行われた時に遡って効力を有するものとする再決議が行われた場合(最高裁平成4年10月29日判決・民集46巻7号2580頁
  3. 株式発行決議の取消しの訴えが提起された後、その決議に基づく株式の発行が行われてしまった場合(最高裁昭和37年1月19日判決・民集16巻1号76頁

例外的に訴えの利益が消滅しない場合

 ただし、上記1の判例は、訴えの対象となっている決議によって選任されたすべての役員が任期満了により退任した場合であっても、「特別の事情」が認められるのであれば、訴えの利益は否定されない旨判示しています。

 そして、学説上は、先行決議の効力を否定した場合に後行決議の効力にも影響が及ぶ場合には、この「特別の事情」が存在するものとして、訴えの利益は失われないとする見解が有力です。たとえば、仮に取消事由のある株主総会決議(先行決議)により選任されたすべての取締役が退任し、さらに新取締役を選任する株主総会決議(後行決議)が行われた場合であっても、先行決議が取り消されれば後行決議の招集手続に瑕疵があると判断され、後行決議の効力ひいては現任の取締役の地位に影響が及ぶ場合には、「特別の事情」が認められ、訴えの利益は否定されないと考えることができます。

 また、上記2の判例に関しても、「特別の事情」が認められるのであれば訴えの利益は否定されない旨判示されています。そのため、瑕疵の存在が問題となっている決議について、再決議をすれば必ず先行決議の取消しの訴えの利益が失われるということではなく、あくまで個別の事案に即して判断されることになりますので、注意してください。

株主総会決議無効確認・不存在確認の訴えの利益

確認の利益

 株主総会決議無効確認の訴えと不存在確認の訴え(会社法830条1項、2項)には、民事訴訟法の一般原則どおり、訴えの利益が必要とされます。一般に、確認訴訟の訴えの利益は「確認の利益」と呼ばれます。

 決議無効確認の訴え・不存在確認の訴えの確認の利益は、おおむね、株主総会決議の存否を確定することが、現在の権利関係をめぐる紛争の抜本的解決のために必要である場合に認められます。この点、①決議無効確認の訴え・不存在確認の訴えが、決議の存否に関する争いから派生する権利関係を抜本的に解決するために、法が特に認めた制度であること、および②取消しの訴えについて訴えの利益が認められる場合に、より瑕疵の程度が大きい無効確認の訴え・不存在確認の訴えについて訴えの利益が認められないのは不均衡であることからすれば、取消しの訴えの提訴権者(株主等。会社法831条1項柱書前段)が原告となる限り、原則として、これらの訴えの確認の利益は認められると考えてよいでしょう

確認の利益が否定される場合

 もっとも、取消しの訴えの提訴権者である株主等が訴えを提起する場合であっても、確認の利益が否定される場合があります。たとえば、判例上、無効な株主総会決議に基づいて新株発行が行われた場合には、新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)によらなければ新株発行を無効にすることはできないことから、その決議の無効確認の訴えを提起しても、確認の利益は否定され、訴えは却下されるものとされています(最高裁昭和40年6月29日判決・民集19巻4号1045頁)。

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