募集株式の発行等を行う場合の株主総会議事録の記載例

コーポレート・M&A 更新
和氣 礎弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所

 当社はすべての株式の譲渡に制限を付している非公開会社(公開会社でない株式会社)です。このたび、新事業への進出を検討しており、そのための資金を新株の発行により調達したいと考えています。新株発行には株主総会決議が必要であると聞いていますが、株主総会議事録の作成において注意すべき点はありますか。

 非公開会社における新株の発行には、株主総会の特別決議が必要となります。そのため、株主総会議事録は、特別決議の要件を満たしていることが分かるように作成する必要があります。

 また、定款には「発行可能株式総数」が記載されているところ、現行の「発行可能株式総数」を超えた数の発行を行う場合、株主総会において定款の変更もあわせて行う必要があり、株主総会議事録にもかかる定款変更に関する決議を記載する必要があります。

解説

目次

  1. 新株の発行
  2. 募集事項の決定
    1. 募集事項とは
    2. 引受人の確定の2つの方法
    3. 株主総会議事録の記載例
  3. 発行可能株式総数を超えて新株を発行する必要がある場合
    1. 発行可能株式総数の変更
    2. 株主総会議事録の記載例
  4. スタートアップ(ベンチャー)企業による資金調達
    1. スタートアップ(ベンチャー)企業による資金調達における留意点
    2. 株主総会議事録の記載例

新株の発行

 株式会社の資金調達方法の1つとして、募集株式の発行等(新たな株式の発行および自己株式の処分)があります(会社法第2編第2章第8節)。

 募集株式の発行等に関し、発行等を行う株式会社においては、①「募集事項の決定」(会社法199条1項)、および②引受人の確定が必要となります。
 ①については、原則として株主総会の特別決議が必要となりますが(会社法199条2項)、株式会社が公開会社である場合は有利発行でなければ取締役会決議で足ります(会社法201条1項)。②についても、原則として株主総会の特別決議が必要となりますが、取締役会設置会社においては取締役会決議で定めることで足ります(会社法204条2項または205条2項)。

 以下では、定款に特別な定めのない非公開会社が譲渡制限株式を発行等することを念頭において説明します。

募集事項の決定

募集事項とは

 上記1のとおり、非公開会社が募集事項の決定をするに際しては、株主総会の特別決議が必要となります(会社法199条2項、309条2項5号)。
 ここで、株主総会決議による決定が必要な「募集事項」とは以下の事項をいいます(会社法199条1項各号)。ただし、株主総会決議によって募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することも認められており(会社法200条1項)、実務上は委任されることも多いです。

① 募集株式の数
② 募集株式の払込金額またはその算定方法
③ 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨ならびに当該財産の内容および価額
④ 募集株式と引換えにする金銭の払込みまたは財産の給付の期日またはその期間
⑤ 株式を発行するときは、増加する資本金および資本準備金に関する事項

 そのため、株主総会議事録にも上記事項を株主総会においてどのように定めたかを記載する必要があります。また、株式を引き受ける者にとって「特に有利な金額」で発行を行う場合、発行に関する株主総会にて、その金額で募集することを必要とする理由を説明する必要があります(会社法199条3項)。かかる説明がなされた場合は、その内容も株主総会議事録に記載することとなります。

 なお、株式の発行を株主割当ての方法(既存の株主に対しその有する株式の数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を与える方法)で行う場合、募集事項に加えて以下の事項を株主総会決議で定める必要があります(会社法202条1項・2項・3項4号、309条2項5号)。

⑥ 株主に募集株式の割当てを受ける権利を与える旨
⑦ 募集株式の引受けの申込みの期日

引受人の確定の2つの方法

 募集株式の引受人の確定には以下の2通りの方法があります。

  • 方法①:引受人となろうとする者が株式会社に対し申込みを行い、それに対して株式会社が割当てを行う(会社法203条、204条)

  • 方法②:総数引受契約を締結する(会社法205条)

 手続に先立って割当先を(事実上)決めているような場合であれば、上記の方法②をとることによって、方法①の手続を省略することが可能であり、実務上は方法②がとられることも多いです。

(1)申込みおよび割当ての方法による場合

 上記の方法①をとる場合、以下の手続を実施することとなります。

a. 株式を引き受けようとする者への募集事項等の通知(会社法203条1項)
b. 引き受けようとする者による引受けの申込み(会社法203条2項)
c. 発行会社による割当ての決定(会社法204条1項・2項)
d. 発行会社による割当て数の通知(会社法204条3項)

 なお、上記cは原則として株主総会の特別決議で定めることとなりますが、取締役会設置会社においては、取締役会決議で定めることで足ります(会社法204条2項かっこ書)。

(2)総数引受契約を締結する方法

 上記の方法②は、募集株式を引き受けようとする者がその総数の引受けを行う契約を締結する場合にとる方法であり、原則として、締結する総数引受契約を株主総会の特別決議で承認する必要があります(会社法205条2項)。なお、取締役会設置会社においては、取締役会決議で定めることで足りるのは方法①の場合と同様です(会社法205条2項かっこ書)。

 なお、「総数引受契約」という名称ではありますが、1度の株式発行において複数人が株式を引き受ける場合であってもこの方法を採用することは可能です(3-2もご参照ください)。

株主総会議事録の記載例

【株主総会議事録記載例:総数引受契約を締結する方式で取締役会非設置会社の場合】

第◯号 募集株式の発行および割当ての件
 議長は、当社が計画している◯◯事業進出の資金調達を行うため、以下のとおり株式を発行したい旨説明した。議長が本議案を議場に諮ったところ、満場一致をもって、これを承認可決した。

 1. 発行する募集株式の種類および数:普通株式(譲渡制限株式)◯◯株
 2. 募集株式の払込金額:1株あたり ◯◯円

総額 ◯◯円

 3. 募集株式の払込期日:◯◯年◯月◯日
 4. 増加する資本金および資本準備金の額:資本金 ◯◯円

資本準備金 ◯◯円

 5. 払込先銀行口座: 東京都◯◯区◯◯

◯◯銀行◯◯支店

口座番号;◯◯

口座名義:◯◯株式会社

 6. 割当先および割当株式数(ただし、総数引受契約の締結を条件とする):
割当先 割当株式数
A社 ◯◯株
B社 ◯◯株
C社 ◯◯株
第◯号議案 総数引受契約締結の件
 議長は、第◯号議案の募集株式の発行について、当社と各割当先との間で、別紙◯※1 の内容(ただし、当事者欄等は各割当て先に応じて変更する。)の総数引受契約を締結したい旨説明した。議長が本議案を議場に諮ったところ、満場一致をもって、これを承認可決した。

※1 本記載例では別紙は省略しています。

発行可能株式総数を超えて新株を発行する必要がある場合

発行可能株式総数の変更

 上記1のとおり、新株の発行にあたっては、原則として、募集事項等を株主総会決議で定めれば足ります。もっとも、定款上定められている「発行可能株式総数」(会社法113条)を超えた新株の発行が必要となる場合には、新株の発行に関する決議に先立ち(またはあわせて)、発行可能株式総数の変更(=定款変更)が必要となります。

株主総会議事録の記載例

 株主総会議事録には以下のように記載することが考えられます。

【株主総会議事録記載例:発行可能株式総数を変更する場合】

第◯号議案 定款変更の件
 議長は、第◯号議案として提案している募集株式の発行および割当てを可能とするために、定款の規定を以下のとおり変更したい旨説明した。議長が本議案を議場に諮ったところ、満場一致をもって、これを承認可決した。  
現行定款 定款変更案
第◯条
 当会社の発行可能株式総数は30,000株とする。
第◯条
 当会社の発行可能株式総数は50,000株とする

※ 定款変更の決議が必要な場合、「募集株式の発行および割当ての件」の決議議案よりも前に決議する(たとえば、定款変更を第1号議案として決議し、発行議案を第2号議案として決議する)こととなります。

スタートアップ(ベンチャー)企業による資金調達

スタートアップ(ベンチャー)企業による資金調達における留意点

 これまで日本では複数回の「ベンチャーブーム」が存在したといわれていますが、現在ではスタートアップ企業を設立してビジネスを行うことが広く行われています。スタートアップ企業による資金調達は募集株式の発行等によってなされることが多いです。

 スタートアップ企業による資金調達では様々な種類株式の発行等がなされるのが一般的です(この点については磯崎哲也『起業のエクイティ・ファイナンス(増補改訂版)』(ダイヤモンド社、2022年)や桃尾・松尾難波法律事務所編『ベンチャー企業による資金調達の法務(第2版)』(商事法務、2022年)等が詳しいです)。

 このような種類株式の発行等を行う場合においても、株主総会議事録の記載が大きく変わるわけではありません。しかしながら、①新たに種類株式を発行する際には当該種類株式の内容、発行可能株式総数等を定める定款変更が必要になること、②種類株式の内容については資本政策を含めた慎重な検討が必要となることには注意が必要です。

株主総会議事録の記載例

【株主総会議事録記載例:これまで普通株式のみを発行していた株式会社がA種優先株式を初めて発行する場合】

第◯号 定款変更の件
 議長は、第◯号議案として提案しているA種優先株式の発行および割当てを可能とするために、定款の規定を以下のとおり変更したい旨説明した。議長が本議案を議場に諮ったところ、満場一致をもって、これを承認可決した。  
現 行 定款変更案※1
第◯条
 当会社の発行可能株式総数は10,000株とする。
第◯条
 当会社の発行可能株式総数は11,000株とし、各種類の株式の発行可能株式総数は、次のとおりとする。
 普通株式    10,000株
 A種優先株式   1,000株
(新設) 第◯条
 当会社のA種優先株式の内容は別紙◯※2 のとおりとする。
第◯号
 議長は、本議案についての概要を説明し、別紙◯※3 に定める内容のA種優先株式を以下のとおり発行したい旨および当該発行の理由が適時の資金調達を行うためである旨を説明し、議場に諮ったところ、満場一致をもって、これを承認可決した。

 1. 募集株式の数:A種優先株式◯◯株
 2. 募集株式の払込金額:1株あたり ◯◯円

総額 ◯◯円

 3. 募集株式の払込期日:◯◯年◯月◯日
 4. 増加する資本金および資本準備金の額:資本金 ◯◯円

資本準備金 ◯◯円

 5. 払込先銀行口座: 東京都◯◯区◯◯

◯◯銀行◯◯支店

口座番号;◯◯

口座名義:◯◯株式会社

 6. 割当先および割当株式数(ただし、総数引受契約の締結を条件とする):
割当先 割当株式数
A社 ◯◯株
B社 ◯◯株
第◯号議案 総数引受契約締結の件
 議長は、第◯号議案の募集株式の発行について、当社と各割当先との間で、別紙◯※4 の内容(ただし、当事者欄等は各割当先に応じて変更する。)の総数引受契約を締結したい旨説明した。議長が本議案を議場に諮ったところ、満場一致をもって、これを承認可決した。 

※1 この「定款変更案」部分はあくまで記載例であり、変更後の定款の条数がずれるような場合にはかかる条数ずれを調整する内容を「定款変更案」に記載する必要がある等、実際の利用においては当該事案にあわせた調整が必要となります。

※2〜4 本記載例では別紙(A種優先株式の内容、総数引受契約の内容)を省略しています。

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