組織再編の契約書にどのような事項を記載するか

コーポレート・M&A

 当社グループには複数の子会社が存在していますが、この度、グループ内で組織再編を行うことを検討しています。合併、分割、株式交換・株式移転などの組織再編については、法定の事項を記載した契約書等を作成する必要があると聞いたことがあります。具体的にどのような内容を記載しなければならないのでしょうか。

 吸収合併、吸収分割、株式交換の場合には、概要、契約書に以下の事項等を定める必要があります。

  • 組織再編の当事者に関する事項
  • 組織再編の対価の内容や割当等に関する事項
  • 組織再編の効力発生日


 吸収分割の場合は、承継対象となる権利義務も定める必要があります。
 新設合併、新設分割、株式移転の場合も、それぞれ、吸収合併、吸収分割、株式交換の場合とおおむね共通しますが、組織再編によって設立される新会社の基本的事項(定款で定める事項、設立時役員の氏名)等の記載も必要です。

解説

目次

  1. 組織再編における契約書・計画の作成
  2. 法定の記載事項
    1. 合併の場合
    2. 会社分割の場合
    3. 株式交換・株式移転の場合
  3. 法定の記載事項以外で通常記載される事項

組織再編における契約書・計画の作成

 組織再編には、合併(吸収合併・新設合併)、会社分割(吸収分割・新設分割)、株式交換・株式移転があります。これらの組織再編を行うには、各組織再編に関する契約書・計画を作成することが必要になります。
 組織再編に関する契約書・計画に記載が必要な事項は会社法に定められています。また、それ以外にも実務上、契約書・計画に記載される事項がありますので、以下では、これらについて説明します。

法定の記載事項

合併の場合

 合併には、吸収合併と新設合併の2つがあります。
 吸収合併は、一方の会社が他の会社に権利義務のすべてを承継して消滅するものです(会社法2条27号)

吸収合併

 新設合併は、2社以上の会社が新たに設立する会社に権利義務のすべてを承継して消滅するものです(会社法2条28号)  

新設合併

 吸収合併を行うにはその当事者間において吸収合併契約を、また、新設合併を行うにはその当事者間において新設合併契約をそれぞれ締結する必要があります(会社法748条)。
 それぞれ会社法上記載が必要とされる事項はおおむね次のとおりです。

(1) 吸収合併の場合

 吸収合併の場合、吸収合併契約に以下の事項を定める必要があります(会社法749条1項)。吸収合併により消滅する会社を吸収合併消滅会社、存続する会社を吸収合併存続会社として説明します。

a. 当事者の商号、住所 会社法749条1項1号
b. 吸収合併消滅会社の株主に対して交付される吸収合併の対価と、株主への割当てに関する内容(もしあれば) 会社法749条1項2号・3号
c. 吸収合併消滅会社の新株予約権者に対して交付される吸収合併存続会社の新株予約権または金銭の内容と、新株予約権者への割当に関する事項(もしあれば) 会社法749条1項4号・5号
d. 吸収合併の効力発生日 会社法749条1項6号

(2)新設合併の場合

 新設合併の場合、新設合併契約に以下の事項を定める必要があります(会社法753条1項)。新設合併により消滅する会社を新設合併消滅会社、存続する会社を新設合併設立会社として説明します。

a. 新設合併消滅会社の商号、住所 会社法753条11項1号
b. 新設合併設立会社の定款で定める事項(目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数その他) 会社法753条11項2号・3号
c. 新設合併設立会社の役員の氏名 会社法753条11項4号・5号
d. 新設合併設立会社が、新設合併消滅会社の株主に対して交付する新設合併設立会社の株式の数等と、株主への割当に関する事項 会社法753条11項6号・7号
e. 新設合併消滅会社の株主に対して交付される新設合併設立会社の社債または新株予約権の内容と、株主への割当に関する事項(もしあれば) 会社法753条11項8号・9号
f. 新設合併消滅会社の新株予約権者に対して交付される新設合併設立会社の新株予約権または金銭の内容と、新株予約権者への割当に関する事項(もしあれば) 会社法753条11項10号・11号

会社分割の場合

 会社分割には、吸収分割と新設分割の2つがあります。
 吸収分割は、一方の会社が、他の会社に、事業に関して有する権利義務の全部または一部を承継させるものです(会社法2条29号)。

吸収分割

 新設分割は、単独または複数の会社が、新たに設立する会社に、事業に関して有する権利義務の全部または一部を承継させるものです(会社法2条30号)。

新設分割

 吸収分割を行うにはその当事者間において吸収分割契約を締結する必要があります(会社法757条)。
 新設分割を行うには新設分割を行う会社が新設分割計画を作成する必要があります(会社法762条)。
 それぞれ会社法上記載が必要とされる事項はおおむね次のとおりです。

(1)吸収分割の場合

 吸収分割の場合、吸収分割契約に以下の事項を定める必要があります(会社法758条)。吸収分割により権利義務を承継させる会社を吸収分割会社、承継する会社を吸収分割承継会社として説明します。

a. 当事者の商号、住所 会社法758条1号
b. 吸収分割承継会社に承継される吸収分割会社の権利義務の内容 会社法758条2号
c. 吸収分割会社または吸収分割承継会社の株式を吸収分割承継会社に承継させるときは、その株式に関する事項 会社法758条3号
d. 吸収分割会社に対して交付される吸収分割の対価の内容(もしあれば) 会社法758条4号
e. 吸収分割会社の新株予約権者に交付される吸収分割承継会社の新株予約権の内容と、新株予約権者への割当に関する事項(もしあれば) 会社法758条5号・6号
f. 吸収分割の効力発生日 会社法758条7号
g. 吸収分割会社が、吸収分割の対価である吸収分割承継会社の株式を株主に承継させる場合にはその旨(いわゆる人的分割あるいは分割型分割と呼ばれる手法です) 会社法758条8号

(2)新設分割の場合

 新設分割の場合、新設分割計画に以下の事項を定める必要があります(会社法763条1項)。
 新設分割により権利義務を承継させる会社を新設分割会社、承継する会社を新設分割設立会社として説明します。

a. 新設分割設立会社の定款で定める事項(目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数その他) 会社法763条1項1号・2号
b. 新設分割設立会社の役員の氏名 会社法763条1項3号・4号
c. 新設分割設立会社が承継する新設分割会社の権利義務の内容 会社法763条1項5号
d. 新設分割設立会社が、新設分割会社に対して交付する新設分割設立会社の株式の数等と、新設分割会社への割当に関する事項 会社法763条1項6号・7号
e. 新設分割会社に対して交付される新設分割設立会社の社債または新株予約権の内容と、新設分割会社への割当に関する事項(もしあれば) 会社法763条1項8号・9号
f. 新設分割会社の新株予約権者に対して交付される新設分割設立会社の新株予約権の内容と、新株予約権者への割当に関する事項(もしあれば) 会社法763条1項10号・11号
g. 新設分割会社が、新設分割設立会社の株式を株主に承継させる場合にはその旨(いわゆる人的分割あるいは分割型分割と呼ばれる手法です) 会社法763条1項12号

株式交換・株式移転の場合

 株式交換は、株式会社が、他の会社との合意により当該他の会社の発行済株式の全部を取得するものです(会社法2条31号)。

株式交換

 株式移転は、単独または複数の会社が、新たに設立する会社に、発行済株式の全部を取得させるものです(会社法2条32号)。

株式移転

 株式交換を行うにはその当事者間において株式交換契約を締結する必要があります(会社法767条)。
 株式移転を行うには株式移転を行う会社が株式移転計画を作成する必要があります(会社法772条)。
 それぞれ会社法上記載が必要とされる事項はおおむね次のとおりです。

(1)株式交換の場合

 株式交換の場合、株式交換契約に以下の事項を定める必要があります(会社法768条1項)。株式交換により完全子会社になる会社を株式交換完全子会社、完全親会社になる会社を株式交換完全親会社として説明します。

a. 当事者の商号、住所 会社法768条1項1号
b. 株式交換完全子会社の株主に対して交付される株式交換の対価に関する内容と、株主への割当に関する事項(もしあれば) 会社法768条1項2号・3号
c. 株式交換完全子会社の新株予約権者に対して交付される株式交換完全親会社の新株予約権の内容と、新株予約権者への割当に関する事項(もしあれば) 会社法768条1項4号・5号
d. 株式交換の効力発生日 会社法768条1項6号

(2)株式移転の場合

 株式移転の場合、株式移転計画に以下の事項を定める必要があります(会社法773条1項)。株式移転により完全子会社になる会社を株式移転完全子会社、完全親会社になる会社を株式移転設立完全親会社として説明します。

a. 株式移転設立完全親会社の定款で定める事項(目的、商号、本店の所在地および発行可能株式総数その他) 会社法773条1項1号・2号
b. 株式移転設立完全親会社の役員の氏名 会社法773条1項3号・4号
c. 株式移転設立完全親会社が、株式移転完全子会社の株主に対して交付する株式移転設立完全親会社の株式の数等と、株主への割当に関する事項 会社法773条1項5号・6号
d. 株式移転完全子会社の株主に対して交付される株式移転設立完全親会社の社債または新株予約権の内容と、株主への割当に関する事項(もしあれば) 会社法773条1項7号・8号
e. 株式移転完全子会社の新株予約権者に対して交付される株式移転設立完全親会社の新株予約権の内容と、新株予約権者への割当に関する事項(もしあれば) 会社法773条1項9号・10号

法定の記載事項以外で通常記載される事項

 実務上、法定の記載事項以外にも組織再編の契約書・計画に定められるものがあります。主に以下のものがあげられますが、あくまで個別ケースでの必要性によります。

  • 組織再編を承認する株主総会の有無や期日に関する条項
  • 組織再編の当事者が組織再編の効力発生日までの間に善管注意義務を負う旨の条項
  • 組織再編に関する契約書・計画の終了に関する条項(たとえば株主総会による承認が得られなかった場合、組織再編に必要な許認可が得られなかった場合には、当事者の合意なく自動的に契約書・計画が終了する旨)
  • (会社分割の場合)吸収分割会社・新設分割会社が、吸収分割承継会社・新設分割設立会社に競業避止義務を負う旨の条項

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