合併の事前届出制度とは
コーポレート・M&A当社は、東京都内においてB事業を展開しており、直前の事業年度の単体の売上高は103億円、連結売上高は205億円です。このたび、神奈川県内の同業の企業を吸収合併の手法によって買収することを検討しています。同社の直前の事業年度の単体の売上高は35億円、連結売上高は52億円ですが、この場合に公正取引委員会への届出は必要となるのでしょうか。必要な場合、どのような事項を届け出る必要があるのでしょうか。
合併をしようとする会社のうち、いずれか1社の属する企業結合集団(その会社、その会社の子会社、その会社の最終親会社およびその最終親会社の子会社から成る集団)に係る国内売上高の合計額が200億円を超え、かつ、他の会社の属する企業結合集団に係る国内売上高合計額が50億円を超えるため、公正取引委員会に対する届出が必要となります。届出事項としては、吸収合併の概要や当事会社とその親会社・子会社・関連会社等の状況、企業結合集団の間での商品・役務の競合の状況等があります。
解説
合併の届出要件
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」といいます)15条2項本文により、合併をしようとする会社のうち、いずれか1社に係る国内売上高の合計額(以下「国内売上高合計額」といいます)が200億円を超え、かつ、他のいずれか1社に係る国内売上高合計額が50億円を超える場合には、公正取引委員会に対する事前の届出が必要となります。
この「国内売上高合計額」とは、会社の属する企業結合集団に属する各会社の国内売上高をそれぞれ合計したものをいいます(独占禁止法10条2項)。また、「企業結合集団」とは、以下の4種類の会社から成る集団をいいます(独占禁止法10条2項・6項・7項。【図1】参照)。
② ①の子会社(会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社が他の会社等の財務および事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等)
③ ①の最終親会社(①の親会社であって他の会社の子会社でないもの)
④ ③の子会社(ただし、①および②を除きます)
【図1:企業結合集団】
ただし、グループ内再編として同一企業結合集団内で合併が行われる場合(すべての合併会社が同一の企業結合集団に属する場合)には、届出は不要です(独占禁止法15条2項ただし書)。
届出に必要な書類
届出としては、合併に関する計画届出書とともに、添付書類として届出会社(合併当事会社のすべて)の定款、合併契約書の写し、届出会社の最近一事業年度の事業報告・貸借対照表・損益計算書、届出会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有する株主の名簿、合併に関する株主総会決議等があれば、その議事録の写し、届出会社の属する企業結合集団の最終親会社の有価証券報告書等を提出する必要があります(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則5条3項)。
合併に関する計画届出書には、吸収合併の概要や当事会社とその親会社・子会社・関連会社等の状況、企業結合集団の間での商品・役務の競合の状況等を記載することが要求されています。届出書の具体的な様式(合併の場合は様式第8号)や記載要領は、公正取引委員会のホームページに掲載されています。
届出前相談
届出書の提出を予定している会社は、届出を行う前に、公正取引委員会に対して届出書の記載方法等に関する相談(届出前相談)を任意で行うことができます。たとえば、届出書において届出会社等の国内の市場における地位を記載する項目があるところ、その記載を行うために、「一定の取引分野」に関する公正取引委員会の考え方等の届出書に記載すべき内容に関連した相談が可能とされています。届出前相談を利用して、届出書のドラフトのチェックを受けることも可能です。ただし、公正取引委員会が届出前相談において独占禁止法上の判断を回答することはありません(公正取引委員会ホームページ内の届出制度Q&Aの「届出前相談について」のQ2に対する回答参照)。
合併は公正取引委員会に届出書が受理されてから原則30日間は行うことができず(独占禁止法15条3項、10条8項)、かつ、届出書の提出日と受理日は異なるため、届出書の提出は少なくとも合併の効力発生日の40日程度前に行うことが推奨されています。届出書をすみやかに受理してもらうためには、正式届出の少なくとも10日程度前までには公正取引委員会に届出書のドラフトチェックを受けておくことが望ましいでしょう。

三宅坂総合法律事務所
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