定款変更が必要となる事項と株主総会議事録の記載例
コーポレート・M&A 更新当社(株式会社)は、現状の事業に加えて、暗号資産の売買・交換を取り次ぐFinTech(フィンテック)事業にも進出予定です。同業務には内閣総理大臣の登録を受ける必要があると聞いており、かかる登録の申請に先立ち、当社定款における「目的」を変更しようと考えています。
このような定款変更を株主総会で決議するにあたり、注意すべき事項はありますか。また、株主総会の議事録にはどのように記載すればいいでしょうか。
事業の中には、当該事業を営むにあたって、届出、登録、認可、許可または免許(以下、あわせて「許認可」といいます)が必要になる場合があります。そのような許認可の手続においては、許認可を申請した会社の定款に法人の目的として当該事業を営むことが含まれているかどうかが審査項目となっていることもあります。たとえば、暗号資産交換業の場合、内閣総理大臣の登録を受ける必要があり(資金決済法63条の2)、その登録時の審査においては定款に法人の目的として暗号資産交換業を営むことが含まれているかが留意事項として挙げられています。
定款変更には株主総会の決議が必要であり、この決議には議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる賛成(特別決議)が必要となります。また、株主総会の議事録の作成においては、特別決議の要件を満たしていることがわかるように注意するほか、変更後の定款の内容をわかりやすく記載すべきです。
解説
目次
株式会社の定款変更の手続
定款変更が必要となる事項
定款は株式会社の基本規則であり、その内容を変更するには定款変更の手続が必要となります。設例にある会社の「目的」以外にも、たとえば、以下のような事項を変更するには、定款変更をしなければなりません。
- 商号(会社名)
- 本店の所在地
- 役員の任期
定款変更に必要な手続の流れ
株式会社の定款変更には、原則として株主総会決議(特別決議)が必要となります(会社法466条、309条2項11号)。特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を必要とする決議です。
定款変更の効力は、原則として株主総会で議案が承認された時点で生じるとされています。定款変更にあたって登記申請が必要な場合は、株主総会で当該変更が承認されたという議事録を法務局に提出し、登記申請をする必要があります。
なお、変更事項によっては登記申請以外の手続(税務署への届出など)が必要になる場合もあります。たとえば、事業年度等の変更の場合においては、税務署長等への異動届出書の提出が必要になります。
大まかな流れは以下のとおりです。
- 定款変更の株主総会決議(特別決議)
- 株主総会の議事録作成
- 変更登記の申請 ※必要に応じて
- 税務署長等への届出 ※必要に応じて
- 変更定款の保管
本稿では、上記のうち②株主総会の議事録を作成するにあたって注意すべき点や記載例を中心に解説します。
株主総会議事録の作成方法や注意点
作成期限等
株主総会の議事については、会社法により議事録の作成および備え置きが義務づけられています(会社法318条)。
会社法は議事録の作成期限を特に規定していません。もっとも、会社法は、会社の登記事項に変更が生じた場合は2週間以内に変更の登記を行うことを求めており(会社法915条)、登記手続には議事録が必要となりますので、会社の登記事項に変更を生じさせる決議が行われた場合、議事録も2週間以内に作成する必要があることになります。
定款変更に関する事項の記載方法
株主総会の議事録には、変更にかかる定款の内容を記載する必要があります。その記載方法には特段の定めはありませんが、一般的には以下の2つに大別されます。
- 変更前の定款の内容と変更後の定款の内容を併記し、変更(新設)部分に下線を引く(下記3-2および5-2の記載例)
- 変更後の定款の内容のみを記載する(下記4-2の記載例)
いずれの方法でなければならないということはありませんが、事後的に過去の定款内容を確認する必要が生じる場合がありますので、過去の内容を確認しやすい①の方法をおすすめします。
罰則
議事録の備え置きを怠った場合、100万円以下の過料に処される場合があります(会社法976条8号)。
株式会社の目的事項の変更
実務上のポイント
株式会社の定款には、事業の目的が記載されています(会社法27条1号)。
株式会社の行為が定款記載の会社の目的の範囲外であるとして無効と判断される可能性はほぼ皆無と考えられていますが、許認可事業への新規進出を計画している場合、許認可申請に際して所轄官庁から定款の目的事項に当該事業が記載されていることを求められることがあります。
許認可事業は、たとえば以下のようなものが挙げられます。
許認可が必要な事業と目的の記載例
| 業種 | 目的の記載例 |
|---|---|
| 製薬業 | 医薬品、医薬部外品、動物用医薬品、試薬、工業薬品、農薬その他化学的製品の製造、販売および輸出入 |
| 銀行業 |
|
| 旅行業 | 旅行業法に基づく旅行業 |
上記のような許認可事業への新規進出を検討している場合、余裕をもって定款変更を行っておくべきといえます。
定款変更に関する記載例
以下は、設例にあるように、株主総会において「暗号資産交換業」を目的に追加する議案が承認された場合の議事録の記載例です。
第●号議案 定款一部変更の件
議長は、本議案についての概要を説明し、弊社のノウハウを活かし暗号資産交換業に進出することを目的として、定款の規定を以下のとおり変更したい旨提案し、慎重に審議した結果、満場一致をもって、本議案は原案どおり可決された。
| 現行定款 | 定款変更案 |
|---|---|
| 第●条 当会社の目的は、次の事業を営むことを目的とする。 ① 販売促進活動に関するコンサルティング業務 ② コンピューターソフトウエアの開発及び販売 ③ 前各号に附帯する一切の業務 |
第●条 当会社の目的は、次の事業を営むことを目的とする。 ① 販売促進活動に関するコンサルティング業務 ② コンピューターソフトウエアの開発及び販売 ③ 暗号資産交換業 ④ 前各号に附帯する一切の業務 |
本店の所在地の変更
実務上のポイント
株式会社の定款には、株式会社の本店の所在地が記載されています(会社法27条3号)。定款に記載が必要となるのは、独立の最小行政区画である市町村(東京都の特別区を含み、政令指定都市にあっては市)までであり、それより詳細な住所(東京都●●区●●町1-2-3等)までは記載不要です(ただし、定款に詳細な住所を記載することも可能です)。
そのため、本店の所在地の変更に際して定款変更が必要となるのは、原則として独立の最小行政区画外に本店の所在地を移す場合のみとなります。もっとも、定款に詳細な住所まで記載している場合、独立の最小行政区画内での本店の所在地の変更であっても、定款の変更が必要となるので注意してください。
定款変更に関する記載例
議長は、本議案についての概要を説明し、定款の第●条の本店所在地に関する規定を以下のとおり変更したい旨提案し、慎重に審議した結果、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数の賛成をもって、本議案は原案どおり可決された。
定款第●条 当会社は、本店を東京都●●区に置く。
役員の任期の変更
実務上のポイント
役員の任期は、定款に特段の定めがない場合、取締役は2年、監査役は4年となります(会社法332条1項本文、336条1項)。しかし、公開会社でない株式会社に限り、定款に定めを置くことで、10年に延長が可能です(会社法332条2項、336条2項)。役員の再任においては登記手続が必要となるところ、その手間および費用を削減するため、中小企業においては任期を10年にしていることが多いです。
もっとも、任期を延ばすことにより、解任時の賠償義務の範囲が広がる可能性があるといったデメリットもあるため、注意が必要です。正当な理由なしに役員を解任した場合の損害賠償の範囲は、解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益の額と考えられています。ただし、かかる範囲を2年間分の報酬に限定した裁判例もあります(東京地裁平成27年6月29日判決・判時2274号113頁)。
なお、役員の任期中に任期が変更された場合、かかる変更の効果は現任の役員にも及びます(会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(通達)第3、3、(1)、ウ、(ウ)平成18年3月31日付け法務省民商第782号)。
定款変更に関する記載例
第●号議案 定款一部変更の件
議長は、本議案についての概要を説明し、定款に、取締役の任期に関する規定を以下のとおり新設し、規定の新設に伴い条数の変更を行いたい旨提案し、慎重に審議した結果、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数の賛成をもって、本議案は原案どおり可決された。
| 現行定款 | 定款変更案 |
|---|---|
| (新設) |
第●条 取締役の任期はその選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 2 任期満了前に退任した取締役の補欠として選任された取締役の任期は、前任者の任期の満了する時までとする。 |
| 第●条~第×条(条文省略) | 第(●+1)条~第(×+1)条 (現行どおり) |
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