重要な業務執行とは?取締役会の専決事項を解説

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大澤 武史弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 取締役会設置会社である当社では、遊休資産となっている土地(簿価1億8,000万円)を売却して営業資金に充てようという話が出ていますが、この売却について代表取締役の一存で決めようとしています。取締役会の決議を経ずに行うことは法律上問題ないのでしょうか。

 監査役(会)設置会社であり、取締役会設置会社である会社においては、法令および定款によって株主総会の権限とされた事項を除いて、重要な業務執行の決定は取締役に委任することはできず、取締役会の決議をもって決定しなければなりません(会社法362条4項)。「重要な財産の処分」は、原則として、取締役会の決議を必要とします(同項1号)。

 ただし、「重要な財産の処分」であるかどうかは、最高裁において「当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべき」とされており、その重要性の判断基準は明確ではありません。本件でも、単純に土地の価額のみでは判断できず、貴社の総資産等の種々の事情に照らして、取締役会の決定を求めるのにふさわしい程度に「重要」であるかの検討が必要です。

解説

目次

  1. 「重要な業務執行」に関する会社法の定め
    1. 取締役会の専決事項とは何か
    2. 取締役会決議を欠いた場合の対処法、効力
  2. 重要な財産の処分および譲受け
    1. 財産の処分・譲受けの具体例
    2. 「重要な」をどう判断するか
  3. 多額の借財
    1. 借財の具体例
    2. 「多額の」をどう判断するか
  4. その他の重要な業務執行
    1. 会社法362条4項における位置付け
    2. 何が「その他の重要な業務執行」に該当するか
  5. 取締役会付議基準の策定
    1. 取締役会付議基準を策定しておくメリット
    2. 裁判例における付議基準の扱い
    3. 実務上の注意点

「重要な業務執行」に関する会社法の定め

取締役会の専決事項とは何か

 監査役(会)設置会社であり、取締役会設置会社である会社においては、法令および定款によって株主総会の権限とされた事項を除いて、重要な業務執行の決定は取締役に委任することはできず、取締役会の決議をもって決定しなければならないとされています(会社法362条4項)。このように、取締役会での決議が求められ、他の会社機関にその決定の委任をすることができない事項を「取締役会の専決事項」といいます。

 これは、取締役会設置会社の取締役会には、会社のガバナンス上、重要な役割を果たすことが期待されており、その1つの表れとして、重要な経営事項についての慎重な決定が求められるとともに、代表取締役の専横を防止するために、一定の重要な業務執行の決定について、必ず法定の要件を充足した取締役会の決議をもって決定することが要求されるということを意味します。

会社法362条(取締役会の権限等)
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
  1. 重要な財産の処分及び譲受け
  2. 多額の借財
  3. 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
  4. 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
  5. 第676条第1号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
  6. 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
  7. 第426条第1項の規定による定款の定めに基づく第423条第1項の責任の免除

 また、会社法362条に該当する業務執行事項の決定を下部機関に委ねる定款の定めは無効と解されています 1。他方、取締役会設置会社における取締役会の専決事項であっても、定款の定めによって(会社法295条2項)、上部機関である株主総会の決議事項とすることは原則として妨げられないと解されています 2

 裏を返せば、取締役会の専決事項以外については、取締役会規則・規程あるいは個別の取締役会決議によって、その事項の決定を代表取締役、経営会議等の下部機関に委ねることができることとなります(株主総会で決議しなければならないと法定されている事項は当然に除きます)。

 なお、専決事項につき、取締役会の決議では、基本的部分について決定することまででも足り、必ずしも具体的方法、細目等についてまでを決定する必要はなく、これらを特定の取締役に委任することも可能であると考えられています 3

 取締役会の専決事項については、会社法362条4項のほかに規定があり、まとめると下表のとおりです。

主な取締役会の専決事項

会社法362条4項
① 重要な財産の処分および譲受け 1号
② 多額の借財 2号
③ 支配人その他の重要な使用人の選任および解任 3号
④ 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止 4号
⑤ 募集社債に関する重要な事項として法務省令で定める事項 5号
⑥ 適正な内部統制に必要なものとして法務省令で定める体制の整備 6号
⑦ 定款の定めに基づく役員等の責任免除の決定 7号
⑧ その他の重要な業務執行 柱書
その他の会社法
自己株式の取得価格等の決定 157条2項
株式の分割 183条2項
株式無償割当て 186条3項
株主総会の招集の決定 298条1項・4項
競業および利益相反取引の承認 356条1項、365条1項

 取締役会の専決事項のうち、実務上判断に迷うことが多いと思われる上記①・②・⑧については、2以下で詳しく説明します。

 なお、指名委員会等設置会社および(社外取締役が過半数を占める)監査等委員会設置会社については、執行役(会社法416条4項)または取締役(会社法399条の13第5項・6項)への委任が一部可能とされていますが、本稿では割愛します。また、取締役が6名以上で、かつ、取締役のうち1名以上が社外取締役である取締役会設置会社である場合には、上記の取締役会の専決事項のうち、①「重要な財産の処分及び譲受け」と②「多額の借財」に限り、あらかじめ選定した3人以上の取締役(特別取締役)のうち議決に加わることができるものの過半数をもって議決できる旨、取締役会で定めることができるとされますが(会社法373条1項)、本稿では割愛します。

取締役会決議を欠いた場合の対処法、効力

(1)取締役会の決議を経るべき事項の欠缺を認識した場合

 取締役会の専決事項について、代表取締役が取締役会の決議を経ないで業務執行を行った場合はどうなるでしょうか。事後に承認して追認することができるかについては、事態が切迫しており承認を求めていては会社に損害を与えるような場合を除いて原則としてできないとする見解もありますが、利益相反取引における場合と同様、事後的追認を認めることが相当とする指摘もあります。実務上、取締役会の決議を経るべき事項の欠缺を認識した場合には、可及的速やかに決議を行うべきとされます 4

(2)取締役会決議を欠いて重要な財産の処分がなされた場合

 取締役会決議を欠いて重要な財産の処分がなされた場合の効力について、最高裁は、原則としてこのような処分も有効としつつ、①相手方が決議を経ていないことを知り、または、②知り得べかりしときは無効であるとしています(最高裁昭和40年9月22日判決・民集19巻6号1656頁)。

取締役会決議を欠いて重要な財産の処分がなされた場合の効力

(3)取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合

 株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、当該会社以外の者が取締役会の決議を経ていないことを理由にその無効を主張することは、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、許されないこととなります(最高裁平成21年4月17日判決・民集63巻4号535頁)。

株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合

 また、取締役会の決議を欠いて業務を執行した代表取締役については、任務懈怠責任を負う可能性があり(会社法423条)、取締役の解任事由にも該当し得ることとなります(会社法854条1項)。

重要な財産の処分および譲受け

財産の処分・譲受けの具体例

 会社法362条4項1号は、「重要な財産の処分および譲受け」を取締役会の専決事項と規定しています。
 ここでいう「財産の処分」には、財産の売却、出資、貸与、担保としての提供、債権の放棄、債務の免除等が含まれると解されており 5、その他実施・使用許諾、寄付、事実上の廃棄処分、取壊し等も含まれるとされます 6

 また、「財産の譲受け」には、不動産、動産、有価証券、知的財産権等の譲受けのほか、設備投資、知的財産権の実施権・使用権等の設定、技術・ノウハウ等の導入契約などが含まれるとされます。さらには、相当多額の権利金または保証金の授受を伴い、長期間の拘束を受ける重要な財産の「賃借」も財産の譲受けに含まれ得ると解されています 7

財産の処分 財産の譲受け
  • 売却
  • 出資
  • 貸与
  • 担保としての提供
  • 債権の放棄
  • 債務の免除 等
  • 不動産、動産、知的財産権の譲受け
  • 設備投資
  • 知的財産権についての実施権・使用権等の設定
  • 技術・ノウハウ等の導入契約の締結
  • 相当多額の権利金または保証金の授受を伴い、長期間の拘束を受ける重要な財産の「賃借」

 そもそも単なる個別財産の譲渡ではなく、一定の事業のために組織化され、有機的一体として機能する事業の重要な一部の譲渡あるいは他の会社の事業の全部の譲受けに該当する場合には、株主総会の決議が必要とされており(会社法467条1項2号・3号)、本号の適用はないと指摘されています 8
 もっとも、これと異なる見解もあり、当該株主総会の決議に先立ち、少なくとも株主総会の招集の決定についての取締役会が必要であることから、実務上は、事業譲渡契約締結の時点で取締役会の決議を要すると解して運用することが相当であると考えられています 9

「重要な」をどう判断するか

 何が「重要な」財産の処分であるかは、代表取締役にその決定を委任することが適当でなく、取締役会の決定を求めるのにふさわしい程度に、その会社にとって重要性を有する場合に、本号が適用されることとなります。結局のところ、個々の具体的な事案において、当該財産の量的要素のみならず、質的要素からも検討を要し、総合的判断に基づいて本号の該当性が判断されることとなり、解釈に委ねられています。

 なお、想定し得る範囲で「重要な」財産の処分とは何かについての類型を整理し、取締役会付議基準に定めておくことは、実務上有用だと考えられます(取締役会付議基準については後述5をご参照ください)。

(1)裁判例

 会社法362条4項1号の該当性については、最高裁において、次のように判示されています。

 重要な財産の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である。(最高裁平成6年1月20日判決・民集48巻1号1頁)

(2)量的基準の参考例

 重要性の目安として、東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2016)が示した以下の量的基準が参考になります。ただし、あくまで、各会社の規模、事業の状況、財産の状態およびその金額の大小、財産の所有目的、処分行為の態様等から各会社において取締役会の決議を経るのが相当か否かという観点から決せられるべき、とされているところであり、量的要素に過度に依拠して、形式的に該当性の有無を判断すべきでないことには留意が必要です。

  1. 寄付金についての「重要」の基準については、「会社の貸借対照表上の総資産額の0.01%に相当する額程度」
  2. 債務免除についての「重要」の基準については、「会社の貸借対照表上の総資産額の0.1%に相当する額程度」
  3. 上記以外の財産の処分および譲受けについての「重要」の基準は、「会社の貸借対照表上の総資産額の1%に相当する額程度」

多額の借財

借財の具体例

 会社法362条4項2号は、「多額の借財」を取締役会の専決事項と規定しています。
 ここでいう「借財」は、会社における金銭債務を負担する行為を意味し、銀行融資等の借入れのほか、約束手形の振出、為替手形の引き受け、債務保証、保証予約、デリバティブ取引等も含まれ得ると解されており、また、一連の取引の場合には、1件ごとの金額のみでなく累積残高も考慮されると考えられています 10。そのほか、ファイナンス・リース契約、ファクタリング(償還義務を負担するもの)や準消費貸借契約、立替金債務負担行為、違約金契約、消滅時効完成後の債務の承認・時効利益の放棄などの債務負担行為も「借財」に含まれるとされています 11

「多額の」をどう判断するか

 借財が「多額」であるかどうかは、2-2の重要な財産の処分の場合と同様に、単に額面で一律に決せられるものではなく、会社規模によっても異なり得るものであり、結局は、当該事案の事実関係をもとに種々の要素を考慮して総合的に判断されるべきものとされています。

 なお、想定し得る範囲で「多額の」借財とは何かについての類型を整理し、取締役会付議基準に定めておくことは、実務上有用だと考えられます(取締役会付議基準については後述5をご参照ください)。

(1)裁判例

 会社法362条4項2号の該当性については、東京地裁において、次のように判示されています。

多額の借財に該当するか否かについては、当該借財の額、その会社の資産及び経常利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断されるべきである(後略)。
(東京地裁平成9年3月17日判決・判時1605号141頁)

(2)量的基準の参考例

 多額の目安として、ここでも東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2016)が示した以下の量的基準が参考になります。とはいえ、やはり各会社の規模、事業の状況、財産の状態等から各会社において取締役会の決議を経るのが相当か否かという観点から決せられるべき、とされている点は同じです。以下の基準のみによって一律に判断していては、リスクが高く、取締役会での慎重な議論が求められ、代表取締役の専横を防止する必要のある借財について、取締役会での決定なく実行されてしまうおそれがあることにはくれぐれも注意が必要です。

  1. 金銭借入・ファイナンスリース契約・ファクタリング(償還義務を負担するもの)についての「多額」の基準については、「会社の貸借対照表上の総資産額の1%に相当する程度」または「資本金の3%ないし12%に相当する程度」を目安とし、
  2. 債務保証についての「多額」の基準については、「会社の貸借対照表上の総資産額の0.3%ないし0.5%に相当する程度」または「資本金の2%ないし6%に相当する程度」

その他の重要な業務執行

会社法362条4項における位置付け

 会社法362条4項各号に定められた事項は、「次に掲げる事項その他の重要な業務執行」と規定されているとおり、限定的列挙ではなく、あくまで例示的列挙です。同項各号と同程度の重要性があると判断される業務執行事項の決定は「その他の重要な業務執行」の決定として、取締役会の決議によらなければならず、代表取締役や経営会議等の下部機関に委ねることはできません

何が「その他の重要な業務執行」に該当するか

 「その他の重要な業務執行」に該当するかは、つまるところ、会社法362条4項各号所定の業務執行事項と同程度の重要性があると判断される業務執行事項であるか、ということになります。たとえば、年間事業計画の決定、年間予算の設定・変更、主力製品の決定・変更、年間新規採用予定人員の決定等が「その他重要な業務執行」に該当すると解されています 12
 とはいえ、具体的に何が「その他重要な業務執行」に該当するかは各社の規模や業種によって異なり、その判断基準は明確ではありません。個別的事案ごとにその都度判断するとすれば、恣意的な運用のおそれもあり、代表取締役の専横を防止するという法の趣旨に反することも否定できません。

 実務上、想定し得る範囲で取締役会付議基準を策定し、一定の類型を整理して、該当性判断の一貫性を持たせることが望ましいと考えられています。

 付議基準において「その他の重要な業務執行」に該当すると整理されているものとしては、以下のようなものが挙げられます 13。とはいえ、これに限られるものではなく、会社に与える影響に鑑み、各社の実情に応じて付議事項が定められています。

  1. 年間事業計画
  2. 年間予算
  3. 年間採用人数
  4. 労働条件の妥結
  5. 就業規則の変更
  6. 新製品の開発・発売
  7. 新規事業への進出
  8. 従来事業の廃止・変更
  9. 経営方針変更
  10. 経営戦略の設定
  11. 訴訟の提起
  12. 和解・調停の可否
  13. 業務提携
  14. 子会社の運営・経営方針・人事
  15. 商取引契約
  16. 貸付その他与信行為
  17. 社内規程の整備

取締役会付議基準の策定

取締役会付議基準を策定しておくメリット

 2〜4で述べたとおり、会社法が規定する取締役会の専決事項たる「重要な財産の処分および譲受け」「多額の借財」「その他の重要な業務執行」は、いずれも当該決定を行う会社(規模や業種)ごとに、また、当該処分あるいは借財ごとに、個別の事情を斟酌して総合的に決されるものであって、一概に判断できるものではありません。
 しかしながら、これでは、実務上、保守的に判断すれば、いたずらに取締役会の決議事項が肥大化してしまい、効率的で実効性ある取締役会の運営に支障を来すこととなります。また、恣意的な運用のおそれもあり、代表取締役の専横を防止するという法の趣旨に反することも否定できません。

 そこで、多くの企業では、取締役会規則として取締役会の付議基準を定めておき、「重要な」財産の処分であるか、「多額」の借財であるか、「その他の重要な業務執行」とは何かについての一定の明確化を図っています。
 もちろん、付議基準で会社に発生するすべての類型を網羅しておくことは不可能であり、取締役会の決議の要否に個別の判断がまったく不要となるものではなく、一定程度個別に判断すべき事案は残ります。しかしながら、かかる基準が合理的なものである場合、裁判所の判断においてもこれを尊重する可能性が高いと解されていることから、実務上有用であると考えられています。
 実際、あらかじめ具体的な金額(基準)による合理的な付議基準を策定しておくことで、恣意的な運用を回避し、会社による該当性判断の一貫性を保持することができますし、取締役会に上程するか否かの判断の場面での悩みを相当程度小さくすることは可能であると考えられます。

裁判例における付議基準の扱い

 名古屋地裁平成27年6月30日判決・金判1474号32頁では、「1件1億円以上の契約案件」が会社の職務権限基準表上、取締役会付議事項に該当するとされているところ、かかる会社(原告)の「職務権限基準表上に定められている取締役会決議事項は、原告にとって『重要な業務執行』(会社法362条4項)を類型化したものと解するのが相当である」とし、実質的に1件1億円以上となる支出があったと見るべき契約締結およびこれに基づく金員支出に際して、取締役会決議を経なかったことは、「重要な業務執行」について取締役会決議を要求する会社法362条4項に違反する、と判示しました。

 内規である付議基準であっても、策定された以上は、裁判においても該当性判断において尊重され、違反したことによる法令違反が問われたものであり、付議基準の運用が適切になされることの重要性を示唆するものといえそうです。

実務上の注意点

 取締役会付議基準を策定しておくメリットは5-1で述べたとおりですが、それはあくまで、その基準が合理性を有するものであり、当該基準に沿った適切な運用がなされているという前提の下で成り立つものです。
 たとえば、当該基準に定められた量的要素が会社規模等に照らして著しく高額に過ぎ、法が期待する取締役会の決議を不当に免れることとなっているような場合には、たとえ社内の付議基準に照らして取締役会の決議を要しない事項であっても、会社法上「重要な」といえる実質があるものについては、やはり取締役会の決議は必要と解されますので、留意が必要です。

 取締役会付議基準を定める場合には、当該会社の規模等に照らして適切な基準となっているかについて、専門家等のアドバイスも受けながら検討することが重要です。また、制定後も、取締役会への付議事項が肥大化していないか、個々の付議事項が十分に審議されているかなど、取締役会の議論の充実化の観点から付議基準を適宜見直していくことが肝要です。


  1. 落合誠一編『会社法コンメンタール第8巻 機関(2)』(商事法務、2009) ↩︎

  2. 江頭憲治郎『株式会社法〔第8版〕』(有斐閣、2021) ↩︎

  3. 東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2016) ↩︎

  4. 山田和彦・倉橋雄作・中島正裕『取締役会付議事項の実務〔第2版〕』(商事法務、2016) ↩︎

  5. 龍田節・前田雅弘『会社法大要〔第3版〕』(有斐閣、2022) ↩︎

  6. 東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2016) ↩︎

  7. 東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2016) ↩︎

  8. 落合誠一編『会社法コンメンタール第8巻 機関(2)』(商事法務、2009) ↩︎

  9. 山田和彦・倉橋雄作・中島正裕『取締役会付議事項の実務〔第2版〕』(商事法務、2016) ↩︎

  10. 江頭憲治郎『株式会社法〔第9版〕』(有斐閣、2024)、龍田節・前田雅弘『会社法大要〔第3版〕』(有斐閣、2022) ↩︎

  11. 東京弁護士会会社法部『新・取締役会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2016) ↩︎

  12. 前田庸『会社法入門〔第13版〕』(有斐閣、2018) ↩︎

  13. 別冊商事法務編集部編『別冊商事法務334号 会社法下における取締役会の運営実態』(商事法務、2009)参照 ↩︎

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