政策保有株式に関する方針等はどのように開示するのがよいか

コーポレート・M&A 公開 更新

 コーポレートガバナンス・コードの原則1-4は、上場会社に対し、政策保有株式に関する方針等を開示・説明するよう求めていますが、具体的にどのように開示・説明するのがよいでしょうか。

 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方を含めた、政策保有に関する全体的な方針を示すとともに、政策保有株式の保有に経済合理性があることや、企業価値向上に資するような基準に基づき議決権を行使していることを、具体的に開示・説明することが期待されています。

解説

目次

  1. 政策保有株式とは何か
  2. 政策保有に関する方針の開示
  3. 政策保有の適否の検証、検証内容についての開示
  4. 政策保有株式に係る議決権行使の基準とこれに沿った対応
  5. 開示事例

政策保有株式とは何か

 コーポレートガバナンス・コードの原則1-4は、政策保有株式について、次の事項の開示を求めています。

【原則1-4 いわゆる政策保有株式】

 上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
 上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

 ここでいう「政策保有株式」が何であるかは、本原則において定義されていませんが、一般的には、上場会社が純投資(もっぱら株式の価値の変動または配当の受領によって利益を得ることを目的とすること)以外の目的で保有している株式のほか、企業内容等の開示に関する内閣府令における「みなし保有株式」などの、上場会社が直接保有していないものの、上場会社の実質的な政策保有株式となっているものも含まれます。また、いわゆる株式の持合いケース(上場会社同士が互いの株式を相互に持ち合うケース)のみならず、一方の上場会社が他方の上場会社の株式を一方的に保有するのみのケースも含まれると考えられています 1

政策保有に関する方針の開示

 本原則第一文は、上場会社に対し、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示するよう求めています。
 従前、政策保有株式については、上場会社にとっては、他の上場企業との提携等を通じて事業上の利益につながるとの考え方が示される一方で、株主や投資家(特に海外投資家)にとっては、①利益率・資本効率の低下や財務の不安定化を招くおそれがあるといった経済合理性に関する懸念や、②株主総会における議決権行使を通じた監視機能が形骸化するおそれがあるといった議決権行使に関する懸念が示され、事業上どのような意味合いがあるのかが必ずしも明確ではないとの指摘がなされていました 2


 こうした指摘を踏まえ、2015年6月に策定されたコーポレートガバナンス・コードにおいては、政策保有に関する方針を開示するよう上場会社に求めることにより、上場会社と市場との対話を促そうとするアプローチが採られました。その後、同コードは、2018年6月に改訂され、本原則第一文については、政策保有株式は可能な限り縮減すべきとの投資家側からの指摘を踏まえ、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など」が当該方針の中に含まれることが明示されることとなりました。

     「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方」の内容としては、

  • 「保有コストなどを踏まえ、どのような場合に政策保有を行うか」
  • 「検証結果を踏まえ、保有基準に該当しないものにどのように対応するか」
  • 等を示すことになると考えられています 3

 なお、文言上、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など」は、例示のようにも読めますが、これは例示でなく、「縮減に関する方針・考え方など」を示さない場合には、同原則への「エクスプレイン」として、その理由を十分に説明することが必要とされています 4

政策保有の適否の検証、検証内容についての開示

 本原則第二文は、上場会社に対し、①毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、②そうした検証の内容について開示することを求めています。
 これは、前述した株主や投資家にとっての経済合理性に関する懸念に対応した措置といえます。

 本原則第二文についても、2018年6月に改訂がなされており、改訂前は、「そのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通し」を検証することが求められていましたが、改訂後は、当該検証にあたって、「保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等」を具体的に精査することが求められることとなりました。また、検証の対象について、改訂前は、「主要な政策保有」とされ、必ずしも個別銘柄一つずつについてでなく、ある程度グルーピングすることもあり得るとされていましたが、改訂後は、「個別の政策保有株式」についての検証が求められることとなりました。

 「検証」は少なくとも年に1回は取締役会で行うことが求められ、その際には、個別の銘柄について、保有の目的、保有に伴う便益やリスク、資本コスト等に関する情報を基に、保有の適否を検討する必要があります。

     また、「検証の内容」についての開示にあたっては、必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証の結果を開示することは求められていません。
     一方で、単に「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった、一般的・抽象的な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえ、たとえば、

  • 「保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか」
  • 「設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか」
  • 「議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか」
  • 等について、具体的な開示が行われることが期待されています 5

政策保有株式に係る議決権行使の基準とこれに沿った対応

 本原則第三文は、上場会社に対し、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うよう求めています。
 これは、前述した株主や投資家にとっての議決権行使に関する懸念に対応した措置といえます。

 本原則第三文については、2015年6月のコーポレートガバナンス・コード策定時から規定されていましたが、「基準」については内容が明確性に乏しい場合があり、内容をより充実させた上で開示を求めるべきとの指摘や、政策保有株式にかかる議決権行使の適切性の確保を図っていくべきではないかといった指摘がなされたことから、2018年6月の同コードの改訂において、議決権行使について適切な対応を確保するために、「具体的な」基準の策定・開示を求めるとともに、その基準に沿った対応を行うことが明確化されました。

 「適切な対応を確保するための具体的な基準」は、たとえばROE基準等、必ずしも機械的・形式的に議決権の行使内容が導かれるような基準のみが想定されているわけでなく、政策保有の目的に鑑み、ある程度抽象的な基準も許容されているものと考えられます。例として、以下のような議案の場合には賛成するかの判断を慎重に行う旨の方針を議決権行使基準として定めることが挙げられていますが 6、基本的に、株主価値の毀損につながるおそれがある議案の場合には、慎重な判断なくして賛成することは困難でしょう。

  1. 業績の著しい悪化が一定期間継続している場合
  2. 重大な不祥事があった場合
  3. 株式の保有を決めた時点と比べて取引関係に重大な変動があった場合
  4. 支配株主等の利益と相反する議案である場合
  5. 支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策に関わる議案である場合

 また、前記したコーポレートガバナンス・コードコードの改訂において、「具体的な」基準の策定・開示を求められることになった経緯に鑑みると、政策保有先企業および自社の企業価値向上に資する議決権行使の方針・考え方が示され、実施された議決権行使が当該方針・考え方に沿っていたかを事後的に検証し得るような基準であることが期待されているのではないかと思います。

開示事例

 具体的な開示事例は、各社が公表しているコーポレート・ガバナンスに関する報告書等で確認することができますが、比較的詳細に開示している、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社のコーポレート・ガバナンスに関する報告書(2018年6月27日公表)における該当記載を参考までに紹介します。

(1)[原則1-4]いわゆる政策保有株式
a. MS&ADインシュアランスグループとしての政策株式の保有に関する方針について
政策株式とは、運用収益の安定的な確保、資産価値の長期的な向上及び発行体等との総合的な取引関係の維持・強化を目的として、長期保有を前提に投資する株式をいいます。
株価変動の影響を受けにくい強固な財務基盤の構築や資本効率性の向上の観点から、政策株式の保有総額を削減する方針とします(注1)。
成長性、収益性等から経済合理性を検証し(注2)、取引関係強化等の中長期的な視点も踏まえた上で保有の妥当性が認められない場合には、発行体企業の理解を得ながら、売却を進めます。
保有の妥当性が認められる場合にも、市場環境や当社の経営・財務戦略等を考慮し、売却することがあります。
(注1)グループとして2017年度から2021年度の5年間で5,000億円の政策株式を削減する予定としており、順次売却を進めていきます。2017年度末で1,513億円を売却し、2018年度以降も着実に取組みを進めます。
(注2)三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保が保有している主要な政策株式(貸借対照表計上額が資本金額の100分の1を超える両社保有の銘柄を有価証券報告書に記載しています。)について、経済合理性の検証を実施し、当社の取締役会へその結果を報告しています。

b. 政策株式に係る議決権行使について適切な対応を確保するための考え方について
政策株式の議決権行使に関する基本的な考え方は以下のとおりです。
(a)議決権行使の基本的な考え方
議決権の行使は投資先企業の経営に影響を与え、企業価値の向上につながる重要な手段と考えております。定型的・短期的な基準で画一的に賛否を判断するのではなく、中長期的な企業価値向上、株主還元向上につながるかどうか等の視点に立って判断を行います。
(b)議決権行使のプロセス
議決権行使にあたっては、投資先企業において当該企業の発展と株主の利益を重視した経営が行われているか、反社会的行為を行っていないか等に着目し、以下のような項目について議案ごとに確認を行います。さらに必要に応じて個別に精査した上で、当該企業との対話等の結果を勘案し、議案への賛否を判断します。
<主な議案の種類および精査事項>
・株主還元(剰余金処分案において配当性向が低位等)
・役員の選解任(業績不振、不祥事等が発生、社外取締役が選任されていない等)
・役員の報酬、退職慰労金(業績不振、不祥事等が発生等)
・新株予約権の発行(付与対象者が社外監査役等)
・定款変更(株主の権利を大きく損なう可能性のある変更等)
・買収防衛策
・事業再編 等
(c)議決権行使結果の公表
スチュワードシップ活動を推進するにあたり、中長期的な視点で投資先企業の企業価値向上や持続的成長を促す観点から継続的かつ建設的な対話を行い、認識の共有や問題の改善に繋げていくことが重要であると考えております。
したがって、スチュワードシップ活動をご理解いただくため、議決権を行使した議案の主な種類ごとの集計に加えて、不賛同事例などを公表してまいります。
なお、個別の投資先企業ごとの議決権行使結果は、当該企業との建設的な対話等に影響等を及ぼす可能性があるため、公表を控えさせていただきます。


  1. 東京証券取引所「『フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について』に寄せられたパブリック・コメントの結果について」No.210等の「コメントに対する考え方」 ↩︎

  2. 油布志行ほか「『コーポレートガバナンス・コード原案』の解説[Ⅱ]」(旬刊商事法務2063号、2015年)52頁 ↩︎

  3. 前掲注1・No.246等の「コメントに対する考え方」 ↩︎

  4. 前掲注1・No.246等の「コメントに対する考え方」 ↩︎

  5. 前掲注1・No.221等の「コメントに対する考え方」 ↩︎

  6. 前掲注2・58頁 ↩︎

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