事前に事業承継の対策をしないことのリスク

コーポレート・M&A
百田 博太郎弁護士 牛島総合法律事務所

 私は会社(非上場会社)を創業し、長年オーナー社長を務めてきました。もう私も歳ですし、後継者への承継の準備を始めなければならないと考えているのですが、今まで、何をすればよいのか分からないまま過ごしてきてしまいました。現状、会社の事業承継について、どのようなリスクがあるのでしょうか。

 何も対策をしないまま認知症になる等して意思能力を欠いたり、または死亡してしまった場合、意図した後継者への事業承継が実現困難になるリスクがありますので、事前の対策が重要です。具体的には、法定後見人制度、法定相続、遺言、親族外承継に関するリスクがありますので、以下をご参照ください。

解説

目次

  1. 中小企業における事業承継に潜在するリスク
    1. 対策をしないまま意思能力を欠くリスク
    2. 対策をしないまま死亡するリスク
    3. 親族外承継が困難になるリスク
  2. 法定後見人制度の問題点
    1. 意思能力を欠いた場合の問題点
    2. 法定後見人の選任
  3. 法定相続の問題点
  4. 遺言の問題点
  5. 親族外承継の留意点
  6. 円滑な事業承継を実現するためには

中小企業における事業承継に潜在するリスク

 中小企業における事業承継とは、オーナー社長が所有する自社株をその相続人等に承継させることをいうのが通常です。これは、日本の中小企業においては、所有と経営が分離していない企業が大半であるためです。

 オーナー社長は、大株主としても、代表取締役としても、会社に影響力を持つのが通常です。しかし、そんなオーナー社長も、年齢を重ねるにつれ老化し、いつか死亡します。それは、いつ訪れるかは分からないことですが、その時に備えて事業承継の準備をしておかないと以下のようなリスクが生じることとなります。

対策をしないまま意思能力を欠くリスク

 オーナー社長は、健常時においては、大株主として、代表取締役として、または個人として、自由に財産の処分や法律行為をすることができますが、老化して認知症になる等して意思能力を欠いたときには、単独で有効に財産の処分や法律行為をすることができなくなってしまい、会社を動かせなくなってしまいます。

 この場合、通常は法定後見人が選任されることになりますが、法定後見人制度については一般的に後記2に記載する問題点があります。

対策をしないまま死亡するリスク

 また、非上場会社のオーナー社長が経営権の承継の準備をしないまま死亡した場合、相続人が複数いるときは、会社の株式は法定相続人全員の共有となります。その法定相続人間で争いがある場合には、誰が後継者になるかが定まらない事態となり、会社経営が不安定な状態になります。これを避けるため、あらかじめ遺言をして株式を特定の相続人に帰属させることが考えられますが、遺言についても一般的に後記4に記載する問題点があります。

親族外承継が困難になるリスク

 また、そもそも、近年の少子化、家庭環境の変化などにより、中小企業においても、親族内に後継者がいないケースが増加しています。そういった場合、生え抜きの従業員などから後継者を選定して承継することになります。

 しかし、オーナー社長が承継の準備をする前に認知症となって意思能力を欠く、または死亡してしまった場合には、オーナー社長の保有する株式は最終的にその親族等に法律の定めに従い相続されることから、後継者候補は、当該株式を相続した相続人を説得するなどして、その相続人から株式を任意に譲り受けるか、定款に相続人等に対する売渡請求(会社法174条)に係る規定があれば同請求を利用すること(もっとも、脚注1記載のとおり手続きは煩雑になります)などに拠らない限り、経営権を承継できません。そのため、オーナー社長の相続人の意向次第で、オーナー社長が生前思い描いていた事業承継ができなくなるおそれがあります(後記5参照)。

法定後見人制度の問題点

意思能力を欠いた場合の問題点

 オーナー社長が認知症になって意思能力を欠いたとしても、オーナー社長が株主であることに変わりはありません。しかし、意思能力を欠いてしまうと、オーナー社長は、もはや有効に株式を譲渡できず、また、株主総会に出席して議決権を行使することもできません。

 そのため、オーナー社長がきわめて多数の株式を保有しているときには、定足数を満たさず、有効な株主総会の決議ができなくなるおそれがあります。特にオーナー社長が3分の2以上の議決権を保有している場合には、役員(取締役・監査役)の選任や、定款変更等の重要事項の決定に際して必要となる特別決議2において定足数を3分の1未満とすることができないことから(会社法341条、309条2項)、新たな役員を選任することも、会社の重要事項を決定することもできなくなってしまい、会社の経営に支障が生じてしまいます。

法定後見人の選任

 こういった場合、オーナー社長の親族が家庭裁判所に法定後見人の選任を申し立てることになります。選任された法定後見人は、株主総会に出席し、議決権を行使することができます。
 とはいえ、これだけでは、肝心の経営権承継が実現できません。少なくとも、後継者に株式を譲渡することなどが必要です。

 しかしながら、法定後見人は裁判所の監督の下、被後見人(オーナー社長)の財産を管理することとなりますが、その運用は大変硬直的なものとなっています。すなわち、法定後見人の財産管理は、維持・保全を中心に行われ運用や処分をしないのが通常です。そのため、法定後見人が選任されると、遺産分割が完了するまで、被後見人が保有する財産を法定相続人は譲り受けること(例:後継者に株式を譲渡すること等)も、活用すること(例:不動産を賃貸し活用すること等)もできないことになります。

 このように、現在、法定後見人制度は使い勝手の悪い制度となっており、これを避けるために、 任意後見契約や信託契約を締結することが考えられます。

法定相続の問題点

 相続が発生すると、遺産のすべてが法定相続人の共有となります(民法898条)。共有状態の遺産は、遺産分割が完了するまで法定相続人全員の同意がなければ処分することができません。遺産分割協議は長期化するリスクがあり、遺産分割未了の間は株式の最終的な帰属が決まらないため、会社経営は不安定になります。

 また、遺産分割は法定相続分を基準になされるので(法定相続分については図参照)、一般に、以下の問題点があるとも指摘されています。

  1. 法定相続分よりも多い額の財産を取得しようとするときは、代償金を他の相続人に支払う必要が生じる場合がある。
  2. 遺産中に不動産や自社株が含まれていると、それらの評価額がその他の遺産に比して高額となり得るため法定相続分の割合で分割することが難しくなる。
  3. 不動産の評価、自社株の評価、取得する財産の内容について、相続人間で争われる可能性がある。

図 各相続人の法定相続分

ケース 配偶者 直系尊属 兄弟姉妹
配偶者と子がいる場合 1/2 1/2
配偶者がいるが、子がおらず、直系尊属がいる場合 2/3 1/3
配偶者がいるが、子・直系尊属がおらず、兄弟姉妹がいる場合 3/4 1/4

 そのため、何も対策がされないまま法定相続が開始した場合、被相続人の生前の意思を活かすことができません。また、 このような法定相続が何世代も続くと株式が広範囲に分散し、権利者を確定することが困難な株式が発生するおそれも高くなります3

遺言の問題点

 法定相続の問題点を避けるために生前に遺言をしておくことが考えられますが、一般的に遺言には、以下の問題点があると指摘されています。これらは、いずれも円滑な事業承継の支障となり得るものです。

  1. いつでも遺言の撤回や書換えが自由である(内容の矛盾する第二遺言がなされるリスクがある)。
  2. 遺言が偽造された場合、後に偽造を立証することは困難である。
  3. 遺言の効力が争われた事例は多数あり、裁判になると長期化が必至である。

親族外承継の留意点

 親族外承継の場合には、後継者がそもそも法定相続人でないため、事前の対策なく相続されることとなれば、株式を承継した親族が、後継者候補への承継に納得しない限り、後継者候補は株式を取得することができず、そのため、オーナー社長の望む事業承継は実現できません。

 したがって、オーナー社長は、意思能力を欠くなどして有効な法律行為を行うことができなくなる前に、親族外承継を実現できるようにしておく必要があります。そして、そのための手法としては、種類株式民事信託等の活用が考えられます。

円滑な事業承継を実現するためには

 これまで述べてきたとおり、オーナー社長が何も対策をせずに意思能力を欠いた、または死亡した場合には、法定後見人制度や法定相続等を用いることになりますが、そこには種々の問題点があるため、これによっては円滑な事業承継を実現できないおそれがあります。

 もっとも、これらの問題点に対しては、任意後見制度、種類株式や民事信託等を適切に利用することで、対応できるものと思われます。具体的な対策については、他の記事で解説させていただきますが、オーナー社長の置かれた状況により解決方法はさまざまであり、また、複雑な内容となることもありますので、経営権の承継に不安をお持ちの方は、事業承継に精通した専門家に早期に相談することが不可欠でしょう。


  1. 相続人等に対する売渡請求(会社法174条)により、会社が相続人から株式を買い取ることになり、当該株式は自社株になります。したがって、後継者候補が元々株式を保有している場合には、その持株割合が上がることになり、支配権をとれることもあるでしょう。他方、売渡請求のみでは後継者候補が支配権を獲得するには至らない場合、売渡請求による買取後に、後継者候補に対する第三者割当(会社法199条)を行ってオーナーの意図した事業承継を実現することが考えられます。この場合、第三者割当には株主総会特別決議(会社法199条2項、309条2項5号)が必要となりますが、オーナーの相続人は売渡請求により株主でなくなっているため、オーナーの相続人以外の株主が後継者候補を支持しているのであれば、さしたる支障はないでしょう。もっとも、相続人等に対する売渡請求による売買価格の決定が協議でまとまらず請求から20日以内に裁判に至った場合(会社法177条2項)には、売買価格決定の裁判が終わるまでは、事業承継が進まなくなってしまうことに注意が必要です。 ↩︎

  2. 特別決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数の賛成で決議します(会社法309条2項柱書)。なお、定足数を定款で変更することができますが、3分の1未満にすることはできません(会社法309条2項柱書)。 ↩︎

  3. 1株でも権利者不明の株式があると、将来会社を売却することができない可能性があるため、注意が必要です。 ↩︎

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