取締役の利益相反に関する報告はどのように行うか

コーポレート・M&A
本行 克哉弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 当社は、甲が代表取締役を務めていますが、先般、取締役乙が当社の株式を買い集めるためにX銀行から1,000万円の借入を行うことになり、この借入債務について、当社がX銀行との間で保証契約を締結しました。この保証契約については、すでに当社の取締役会で事前に承認されていますが、事後の報告は、誰がいつ頃どのように行えばよいのでしょうか。
 また、仮に、この保証契約について事前の取締役会の承認を経ていない場合には、取締役会において事後承認を行うことはできるのでしょうか。

取締役の利益相反に関する報告

 甲か乙のいずれかが、取引後遅滞なく、承認された条件に従って保証契約を締結した旨を取締役会において報告すれば足りると考えられます。
 また、仮に、保証契約について取締役会の事前の承認を経ることを怠った場合には、事後承認を得ることで、当該保証契約を当初から有効とすることはできると考えられます。しかし、取締役の法令違反による任務懈怠責任を直ちに免責するものではありません。

解説

目次

  1. 取締役の利益相反とは
  2. 事後報告制度
    1. 事後報告制度の趣旨
    2. どのように報告すればよいか
    3. いつ報告を行えばよいか
    4. 報告は誰が行えばよいか
  3. 事後承認の可否

取締役の利益相反とは

 取締役は、自身が会社と直接取引を行う場合に、一切の私心を拝することは期待し難く、その地位を利用し、会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図る危険があります。また、会社と第三者が行う取引であっても、設例のように会社と取締役との利益が相反するものが存在します。
 そこで、会社法は、このような利益相反取引について、取締役会設置会社の場合には取締役会の事前の承認を要求して、会社の利益保護を図っています(会社法356条1項・365条1項)。
 詳しくは「取締役の利益相反取引について取締役会の承認が必要となるのはどのような場合か」をご参照ください。

事後報告制度

事後報告制度の趣旨

 取締役会設置会社において、利益相反取引をした取締役は、その取引後遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告する必要があります(会社法365条2項)。このような事後報告制度は、取引後において、利益相反取引による会社への影響をチェックすることを趣旨とするものです。
 報告すべき重要な事実は、事前承認を受ける際に開示した事実と異なるところがない場合には、当初の開示事実と異ならない旨、あるいは実績を示して説明することで足りると考えられています1

どのように報告すればよいか

 設例では、事前承認の際に開示していた保証条件(借入金額、借入時期、返済期間、返済方法、約定利率、他の連帯保証人の有無、他の担保の有無等)と異ならない内容で保証契約締結に至ったということであれば、例えば、「平成○年○月○日開催の取締役会にて承認された利益相反取引について、同取締役会で承認された条件に従って、平成○年○月○日に○○銀行との間で保証契約の締結に至った」旨を報告すれば足りると考えられます。
 このような報告の内容は、取締役会議事録に記載しておく必要があります(会社法369条3項、会社法施行規則101条3項6号イ)。

いつ報告を行えばよいか

 また、取引後に報告を行うタイミングについてはケースバイケースとなりますが、業務執行状況の報告の規定(会社法363条2項)に準じて3か月に1回以上とする見解があり、一応の目安になります。毎月取締役会が開催されている会社であれば、取引後に開催される取締役会にて報告を行えば足りると考えられます。

報告は誰が行えばよいか

 設例では、甲が報告を行うべきか、乙が報告を行うべきかについて見解が分かれています。上記のような事後報告制度の趣旨からすれば、利益が相反する関係にある乙が報告を行うべきと考えられますが、実務上は、甲が乙に代わって取締役会で報告を行うこともあり、甲乙いずれかが報告することで足りるものと考えられます。

事後承認の可否

 利益相反取引を行うにあたって、事前の取締役会の承認を受けていなかった場合には、事後的に取締役会において承認を受けることで、当該取引を当初から有効なものとして扱うことができると考えられます(東京高裁昭和34年3月30日判決・東高民時報10巻3号68頁)。
 もっとも、会社法上は、事前承認を受ける必要があると規定されており、これを怠った取締役は、法令違反による任務懈怠責任を負うことになり、この責任が、事後承認によって免除されるわけではありません。

 ただ、万が一事後的に利益相反取引によって会社に損害が生じたとしても、適正に事後承認が行われた場合には、事前承認を怠った取締役の任務懈怠と会社に発生した損害との間の相当因果関係が否定され、損害賠償債務を負わないという結論もあり得ます2。したがって、万が一事前承認を受けることを失念したまま利益相反取引を行ってしまった場合には、次善の策として、速やかに重要な事実を詳細に開示して適正に取締役会において事後承認を受けておくべきであると考えられます。


  1. 東京弁護士会会社法部編「新・取締役会ガイドライン」264、265頁(商事法務、2014年) ↩︎

  2. 岩原紳作編・会社法コンメンタール(9)267頁[森本滋](商事法務、2014年) ↩︎

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