「コンプライ・オア・エクスプレイン」とは
コーポレート・M&A 公開 更新コーポレートガバナンス・コードにおける「コンプライ・オア・エクスプレイン」について教えてください。
「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」とは、「遵守(コンプライ)せよ、さもなくば、説明(エクスプレイン)せよ」というもので、当事者に対し、コーポレートガバナンス・コードを遵守するか、遵守しないのであれば、その理由を説明することを求めるものです。
解説
目次
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はじめに
コーポレートガバナンス・コードの基本的な性格として挙げられるのは、「プリンシプルベース・アプローチ」と「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式を採用しているという点です。
「プリンシプルベース・アプローチ」とは、「原則主義」というもので、法律や規則等によるルールベース・アプローチ(細則主義)の規制に対し、詳細な細則は制定せず、抽象的な原則だけを定め、その原則を踏まえてどのように行動すべきかについては、当事者の合理的な判断に委ねるという規制手法のことをいいます。
本稿では、「コンプライ・オア・エクスプレイン」について、説明したいと思います。
「コンプライ・オア・エクスプレイン」とは
「コンプライ・オア・エクスプレイン」は、当事者に対し、コーポレートガバナンス・コードを遵守(コンプライ)するか、遵守しないのであればその理由を説明(エクスプレイン)することを求めるものです。
コーポレートガバナンス・コードの適用を受ける各社は、自らの個別事情に照らして、遵守することが適当でないと考える原則があれば、その理由を十分にエクスプレインすれば、一部の原則を遵守しないことも当然に許容され、取引所の実効性確保措置(特設注意市場銘柄への指定、改善報告書の徴求、公表措置、上場契約違約金が有価証券上場規程の第5章に定められています)の対象となることはありません。
他方で、コーポレートガバナンス・コードを遵守せず、遵守しない理由も説明しない場合には、取引所規則が定める企業行動規範に違反したこととなり、実効性確保措置の対象となります。
コーポレートガバナンス・コードの各原則に対するエクスプレインの内容の当否等については、法令のように明確な基準があるわけではありません。
エクスプレインの内容が適切かどうか、合理的かどうかの評価は、基本的には、株主などの判断に委ねられます。
取引所が実効性確保措置をとるとすれば、コーポレートガバナンス・コードの原則を実施していないことが客観的に明らかであり、かつ、上場企業がその理由説明を拒絶するような場合や、理由の説明が明らかに虚偽であるような場合等に限られると考えられています1。
【コーポレートガバナンス・コードの特徴的な性格】
開示事項と「コンプライ・オア・エクスプレイン」
各原則のなかには、特定の事項について「開示」することを求められているものが11原則あります。
この11原則については、「開示すること」がコンプライであり、開示しない場合にはその理由についてエクスプレインが必要となります。
開示する方法については、そのための記載欄がコーポレートガバナンス報告書に新設されました。
この記載欄に開示すべき内容を記載する代わりに、有価証券報告書、ウェブサイト、事業報告、株主総会参考書類などで公表済みの内容を参照するという方法でもよいとされています2。
以下は、開示が求められている事項のリストです。
原則1-4 | 政策保有に関する方針 政策保有株式の保有の適否についての検証の内容 政策保有株式の議決権行使基準 |
原則1-7 | 関連当事者間取引についての適正手続の枠組み |
原則2-6 | 企業年金の積立金の運用についての人事面や運用面における取組みの内容 |
原則3-1 | 経営理念等や経営戦略、経営計画 コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針 経営陣幹部・取締役の報酬決定の方針・手続 経営陣幹部・取締役・監査役の指名の方針・手続 経営陣幹部・取締役・監査役の個々の選任・指名についての説明 |
補充原則4-1① | 経営陣に対する委任の範囲の概要 |
原則4-9 | 独立社外取締役の独立性判断基準 |
補充原則4-11① | 取締役会の構成についての考え方 |
補充原則4-11② | 取締役・監査役の兼任状況 |
補充原則4-11③ | 取締役会全体の実効性についての分析・評価の結果の概要 |
補充原則4-14② | 取締役・監査役に対するトレーニングの方針 |
原則5-1 | 株主との対話促進のための体制整備・取組みに関する方針 |
説明事項と「コンプライ・オア・エクスプレイン」
各原則のなかには、特定の事項について「説明」することを求められているものもあります。
この「説明」の方法については、「開示」の場合と異なり、特定の媒体は指定されていないため、必ずしもコーポレートガバナンス報告書に記載することが求められるものではなく、「説明」の手法や様式等は、各社における合理的な判断に委ねられていると考えられます。
会社としては、このような「説明」の内容をコーポレートガバナンス報告書に記載するほか、アニュアルレポートまたは自社のウェブサイト等に記載することや、株主総会における口頭での説明を行うことなどが考えられます3。
「コンプライ・オア・エクスプレイン」が求められる範囲
コーポレートガバナンス・コードにおいて、「コンプライ・オア・エクスプレイン」が求められるのは、78の原則全てについてです。
コーポレートガバナンス・コードには、「開示」も「説明」も求めていない原則がありますが、各原則に規定される内容は、コーポレートガバナンス・コードにおける重要性の高い会社の方針に関するものが多いことから、コーポレートガバナンス・コード以外の各種の制度において、コーポレートガバナンス・コードの各原則に関する実施状況等について、何らかの説明等が必要になることも当然に想定されます。
たとえば、株主総会で株主からコーポレートガバナンス・コードの各原則についての実施状況や会社・取締役会の考え等を質問されることも考えられます。その場合は、コーポレートガバナンス・コードでは、「開示」も「説明」も求められていない原則であっても、株主総会における説明の趣旨に基づき、しかるべく対応をすべき場合もあると考えられます4。
エクスプレインの方法
エクスプレインの方法については、東京証券取引所のコーポレートガバナンス報告書にそのための記載欄が2015年に新設され、実施しない原則を特定し、遵守しない理由の説明を記載することになりました。
その説明のなかでは、自社の個別事情に加え、今後の取組予定や実施時期の目処などを記載することも考えられます。
また、全ての原則を遵守していれば、その旨を記載することとされています5。
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佐藤寿彦「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備の概要」旬刊商事法務2065号(2015年)59頁、中村直人ほか「コーポレートガバナンス・コードの読み方・考え方」(商事法務、2015年)8頁、澤口実ほか「コーポレートガバナンス・コードの実務[第2版](商事法務、2016年)」18頁、27頁 ↩︎
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中村直人ほか「コーポレートガバナンス・コードの読み方・考え方」(商事法務、2015年)9頁 ↩︎
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由布志行ほか「『コーポレートガバナンス・コード原案』の解説[Ⅱ]旬刊商事法務2063号(2015年)57頁注16、澤口実ほか「コーポレートガバナンス・コードの実務[第2版](商事法務、2016年)」36頁 ↩︎
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中村直人ほか「コーポレートガバナンス・コードの読み方・考え方」(商事法務、2015年)8頁、澤口実ほか「コーポレートガバナンス・コードの実務[第2版](商事法務、2016年)」38頁 ↩︎
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佐藤寿彦「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備の概要」旬刊商事法務2065号(2015年)59頁、中村直人ほか「コーポレートガバナンス・コードの読み方・考え方」(商事法務、2015年)8頁、9頁 ↩︎

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