事業承継と種類株式の活用

コーポレート・M&A
関口 恭平弁護士 牛島総合法律事務所

 私(A)は、X社を経営しており、その全株式を保有しています。私の家族は、妻Bと子C・Dだけですが、そのうちDをX社の後継者にしようと考えています。私の財産はX社の株式しかなく、また、Dはその株式の買取資金を用意できないのですが、この場合、どのようにすれば、DにX社の経営を引き継がせることができるでしょうか。

 生前贈与や遺贈によりX社の全株式をDに承継させることが考えられますが、Aの財産はX社の株式しかないため、BとCの遺留分を侵害することになります。BとCがともに遺留分減殺請求をしたとき、Dは最大でも株式の62.5%しか保有できないことになります。この場合、株主総会特別決議事項についてDが単独で決定できず、会社の重要事項を決定できなくなるおそれがあります。そこで、種類株式を利用して、DにX社の経営を引き継がせることが考えられます。詳細は、以下をご参照ください。

解説

目次

  1. 生前贈与等と遺留分
  2. 種類株式の概要
  3. 事業承継における種類株式の利用
    1. 議決権制限株式の利用
    2. 拒否権付株式(黄金株)の利用
  4. おわりに

株式に対する遺留分減殺請求権の行使

生前贈与等と遺留分

 現経営者Aが生きているうちに生前贈与や遺贈等により、後継者Dに全株式を取得させることが考えられます。

 しかし、民法上、兄弟姉妹を除く相続人、すなわち配偶者、子、直系尊属には、「遺留分」が認められています。遺留分とは、一定の法定相続人が相続に際して取得することを法律上保障された相続財産の一部をいい、被相続人の自らの財産の自由な処分(生前贈与や遺贈等)を制限しています。遺留分を侵害する生前贈与や遺贈も当然に無効になるわけではなく、遺留分を主張したい兄弟姉妹を除く相続人は、自らの遺留分を侵害する被相続人による生前贈与や遺贈について遺留分減殺請求権を行使する必要があります。これによって、生前贈与や遺贈は、遺留分を侵害する限度で効力を失います。

 遺留分は、被相続人の財産の2分の1(直系尊属のみが相続人である場合には3分の1)とされており(民法1028条)、遺留分権利者が複数いる場合には、法定相続分に従って遺留分を有します。事例での各人の遺留分は、妻Bが4分の1、子CおよびDが各8分の1となります。

遺留分の割合

 被相続人Aには、X社株式しか財産がないので、AがDにX社の全株式を生前贈与ないし遺贈すれば、BおよびCの遺留分を侵害することになります。そのため、BおよびCが遺留分減殺請求権を行使した場合、遺留分を侵害する限度でそれらの効力が失われ、Dは最大でも株式の62.5%しか保有できないことになります。その結果、議決権の3分の2以上の賛成を要する株主総会特別決議事項についてDが単独で決定できず、会社の重要事項を決定できなくなるおそれがあります。

 そこで、このような不都合を回避する方法として、種類株式を利用することが考えられます。

種類株式の概要

 会社法では、一定の事項につき権利内容等の異なる株式(以下「種類株式」といいます)の発行が認められています(会社法108条)。

 具体的には、①配当優先株式、②残余財産分配優先株式、③議決権制限株式1、④譲渡制限株式、⑤取得請求権付株式、⑥取得条項付株式、⑦全部取得条項付株式、⑧拒否権付株式(黄金株)、⑨種類株主総会により取締役・監査役を選任できる株式の9つです。また、これらの内容を併せ持つ株式を発行することも可能です。

 なお、種類株式の導入は、定款変更が必要であるため、株主総会の特別決議が必要です(会社法108条2項、466条、309条2項11号)。

事業承継における種類株式の利用

 事業承継で利用される種類株式として代表的なものは、③議決権制限株式と⑧拒否権付株式(黄金株)です。以下、事例に即して具体的に検討します。

議決権制限株式の利用

議決権の代わりに金銭的利益を与える方法

 後継者Dへの事業承継において重要なのは、Dに3分の2以上の「議決権」を取得させることです。そのため、仮にBおよびCが株式を取得するとしても、その株式の議決権が制限されているのであれば、Dへの事業承継へ支障は生じません。すなわち、BおよびCが取得する株式を議決権制限株式とすれば、目的は達せられます。ただし、議決権が制限されることにつき何らの配慮もないとすれば、非後継者であるBおよびCの不満やDとの対立を招くことになりかねません。そこで、BおよびCが取得する議決権制限株式に、議決権が制限されることに代わるメリットを付与することで、納得を得ることが考えられます。

 具体的には、BおよびCが取得する③議決権制限株式を、同時に①配当優先株式や②残余財産分配優先株式とすることで、配当や残余財産の分配において、Dが取得する普通株に優先させるものとし、議決権が制限されている点を補うことが考えられます。また、③議決権制限株式を⑤取得請求権付株式とすることで、将来、あらかじめ定めた金額で会社に株式を買い取らせる権利を付与することも有効です。

議決権制限株式の利用

議決権の保有者をコントロールする方法

 他方、たとえば、いまだ後継者が確定していない場合等には、③議決権制限株式と⑥取得条項付株式を組み合わせることで、将来の状況の変化に応じて議決権の多数を保有する者をコントロールすることもできます。

 具体的には、後継者の候補全員に⑥取得条項付きの③議決権制限株式を譲渡しておき、将来、後継者が決定した際に、その者の議決権制限株式のみを普通株式に転換することで、後継者のみに議決権が制限されていない株式を与えることが可能です。

拒否権付株式(黄金株)の利用

 ⑧拒否権付株式(黄金株)とは、株主総会、取締役会等の決議事項について、その決議のほか、種類株主総会の決議を必要とする株式をいいます。たとえば、株主総会における取締役の選任決議について、過半数の議決権を有する者が賛成したとしても、この点についての拒否権付株式を保有する者は、種類株主総会の決議でこれを否決できることになります。

 後継者が未熟である、または暴走することが懸念される場合には、拒否権付株式を用いることによって、合併等の組織再編行為や役員の選解任などの人事上の権限についての拒否権を現経営者に残し、後継者の事業経営にブレーキをかけることができるようにしておくことが可能です。これにより生前贈与が促進され、計画的な事業承継が可能となります。

 また、拒否権付株式は親族外承継を行う際にも有益です。親族以外の役員等に株式を譲渡する場合、オーナー一族に合併や事業譲渡等について拒否権を与えることで、親族以外に事業承継することに対するオーナー一族側の心理的負担を減らすことができます。

 なお、拒否権付株式(黄金株)は強力な効果を有するため、それを④譲渡制限株式としておく、または「相続」を取得条件とした⑥取得条項付株式としておくなど、第三者の手に渡らないよう手当てする必要があります。

おわりに

 以上のとおり、たとえば、③議決権制限株式であるとともに①配当優先株式でもある種類株式を導入した後、Aが生前贈与や遺言を利用して、非後継者B・Cにはその種類株式を、後継者Dには議決権のある株式を譲渡ないし遺贈すれば、B・Cの納得感を得つつ、後継者Dに議決権を集中させることができ、後継者Dへの事業承継を行うことができます。

 もっとも、種類株式の内容やその導入は専門的かつ複雑であり、種類株式の利用が適さないケースもあるので、事業承継を計画するにあたっては、事業承継に精通した弁護士に相談すべきです。


  1. 公開会社における議決権制限株式の発行限度は発行済株式の総数の2分の1以下ですが、非公開会社の場合には発行限度はありません(会社法115条)。 ↩︎

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