株主提案撤回の申し出を受けたときの対応方法
コーポレート・M&A当社の来たる株主総会に向けて株主提案をしていた提案株主から、株主提案を撤回したい旨の連絡を受けました。このような場合、当社としては、どのように対応したらよいのでしょうか。
提案株主の意向を尊重して、提案の撤回に同意することもできます。しかし、あえて撤回には同意せず、当該株主提案を株主総会に上程して否決することも考えられます。
撤回に同意する場合の対応方法は、株主提案の撤回が株主総会招集通知の発送の前か後かによって異なります。
解説
撤回に応じる義務
株主による株主提案権の行使は会社に到達したときに効力を生じ、それ以降は招集通知発送前であっても会社の同意なくして撤回できないと考えられています。
したがって、会社としては、株主から撤回の連絡があったとしても、これに応じる義務はありません。撤回に同意せずにそのまま上程して否決することも選択肢の1つとして考えられます。
そうすることにより、次の株主総会以降、同一議案の提案があった場合、泡沫提案の連続提案制限(会社法304条ただし書・305条4項)を適用して株主の提案を拒むことができます。
撤回に応じる場合の対応
上記のとおり、会社としては、提案株主からの株主提案の撤回に応じる義務はありませんが、会社の判断として任意に撤回に応じることは可能です。ただし、その場合には、後の紛議を避けるため、提案株主から、撤回意思を明確に記載した書面の提出を求めるべきでしょう。また、提案の撤回に応じる場合には、原則として、取締役会の決議が必要と考えられています。その上で、招集通知の発送の前後に応じて、以下のように対応することが考えられます。
招集通知発送前に提案が撤回された場合
招集通知発送前に提案が撤回されて、会社がそれに応じた場合、当該提案は当初からなかったものとして取り扱うことになります。この場合、当該招集通知に株主提案を記載しないことで足り、それ以上に何かする必要はありません。
招集通知発送後に提案が撤回された場合
撤回に応じた旨の株主への通知
招集通知発送後に提案が撤回された場合、会社がそれに応じるには、株主総会の前日までに株主にその旨を通知する必要があります。この点、株主提案の議案は株主総会参考書類の記載事項ですので(会社法施行規則93条)、上場会社においては、WEB修正(会社法施行規則65条3項)を用いることにより、株主提案の撤回に応じた旨を株主に通知することができると考えられます。
WEB修正については、「株主総会招集通知に誤りがあった場合の対応について」もご覧ください。
また、仮に株主提案の撤回が株主総会の前日や当日に行われた等のやむを得ない事情により株主総会の前日までに通知ができない場合(この場合は株主提案の撤回に応じる旨の取締役会決議も間に合わないことになります)でも、総会当日に議場で株主の承認を得て撤回することは可能と考えられます。
保守的な運営方法案
なお、一旦招集通知を発送した以上は、総会の日の2週間前までに法定の要件を満たした招集通知を再発送しない限り、その後の撤回は認められないとの見解もあります。もっとも、この見解を前提にしても、総会当日に、議場で株主の承認を得て撤回することはできるとされています。株主総会運営において保守的に行うということであれば、この方法を採用したほうが望ましいでしょう。

桃尾・松尾・難波法律事務所
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