株主総会における議決権行使の代理人資格を株主に限定することは認められるか
コーポレート・M&A当社の定款には、株主総会における議決権行使の代理人資格を株主に限定する規定があります。この定款の規定に従い、株主ではない法人株主の従業員、地方公共団体の職員、親族や知人等が株主の代理人として出席することを拒否しても問題ないでしょうか。
議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款の定めがある場合でも、株主総会の出席を認めても特に撹乱される恐れがないのに、その定めを形式的に適用して一律に株主以外の者を代理人とすることを認めずに株主総会への出席を拒否することは、違法と評価される場合があります。
解説
代理人資格を株主に限定する旨の定款規定の有効性
多くの上場会社の定款では、株主総会において株主の代理で議決権を行使することができる者を、その会社の株主に限定する旨の定めを置いています。
こういった議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款の定めは、「総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たもの」であるから「合理的な理由による相当程度の制限」であるとして適法であるとされています(最高裁昭和43年11月1日判決)。
法人株主の従業員・地方公共団体の職員等の代理人としての出席
法人や地方公共団体が株主である場合、原則から言うと、株主総会に出席して議決権を行使するのは、法人の代表者や地方公共団体の長ということになります。
もっとも、現実には、そのような法人の代表者や地方公共団体の長が株主総会に出席できないことのほうが多く、従業員や職員が出席することになります。この場合、当該従業員や職員は、その法人や地方公共団体の代理人として出席していることになります。
そこで、定款に代理人を株主に限定する旨の規定がある場合、当該規定との関係が問題となります。この点、当該規定の趣旨は、上記1のとおり「総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止」することにありますが、法人の従業員や地方公共団体の職員は当該法人等の職務として出席するにすぎませんから、通常これによって総会が撹乱されることは考えられません。
したがって、法人の従業員や地方公共団体の職員の場合は、代理人としての出席を認めても定款の規定の趣旨に反することにはなりませんし、むしろ、株主総会が攪乱され会社の利益が害される特段のおそれがないのであれば、出席を認めないことが違法と判断される可能性が十分にありますので、出席を認めるべきと考えられます。
親族や知人の代理人としての出席
株主から、高齢または病気等の理由により本人による議決権行使が著しく困難であることを理由に、親族や知人を代理人として株主総会に出席させるよう求められる場合があります。この場合、親族や知人が代理人として出席したとしても、株主総会を撹乱しようとすることは通常は考えにくいことから、代理人としての出席を認める取扱いをしても問題はないでしょう。同族会社において、病気または高齢の株主の親族が代理人として議決権を行使したという事例に関して、会社が定款の規定を形式的に適用して非株主による議決権の代理行使を拒否することはできないとした裁判例もあります(大阪高裁昭和41年8月8日判決)。
他方で、法人や地方公共団体の従業員・職員と異なり、親族や知人の場合は、その者の身分や素性が必ずしも会社にとって明らかでないこと、株主本人との関係も容易に証明できず、不正な意図を持った第三者を入場させてしまう可能性があることから、原則どおり、定款の規定に従って代理人としての出席は認めないという取扱いをすることも考えられます。
特に、大勢の株主が来場し、迅速に受付処理を行わなければならない状況下において、個別の代理人について身分や素性を確認し、信頼できる者であるかどうかを実質的に判断するのが現実的には困難である場合には、そのような画一的な取扱いにも十分合理性があると考えられます。
ただし、総会の撹乱のおそれがないのに議決権行使が認められなかったとして、当該株主から株主総会決議取消の訴えを提起される可能性もありますので、そのようなリスクを回避するため、柔軟な対応をすることも考えられます。会社として、どのような取扱いが適切かは、当該会社の規模や株主の分布状況等によっても異なるでしょう。
株主でない弁護士の代理人としての出席について
実務上よく問題となるのが、「株主ではない弁護士を株主の代理人として出席させることを認めるべきか」という点です。定款の定めに基づき株主ではない弁護士が株主の代理人として株主総会に出席することを拒絶できるか否かについては、法律に規定がなく、最高裁判例もない状況です。さらに、下級審の裁判例では、これを適法とした裁判例と違法とした裁判例があり、判断が分かれている状況です。

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