広告で「No.1」と表示をする場合にどのような調査が必要か

競争法・独占禁止法

 「売上No.1」、「顧客満足度No.1」といった、一番であることを強調する広告(No.1広告)に、「当社調べ」といった注意書きがあるのを見かけることがあります。このようなNo.1広告が景品表示法に違反しないようにするためには、どのような調査をすればよいのでしょうか。

 No.1表示は客観的な調査に基づいていなければならず、客観的な調査といえるためには、①関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家の多数が認める方法、又は、②社会通念上及び経験則上妥当な方法、による必要があります。この要件を満たす限り自社による調査でもよく、第三者機関に依頼することは必ずしも必要ではありません。

解説

目次

  1. No.1広告の問題点
  2. 「No.1表示に関する実態報告書」
  3. 具体例
    1. 調査対象者の無作為抽出性
    2. 調査対象者数
  4. まとめ

No.1広告の問題点

 事業者が、その商品役務の優位性を消費者にアピールするために、その売上実績、商品の効果・効能、顧客満足度等の各種指標に基づき、「No.1」「第1位」「トップ」「日本一」といった広告をすることがあり、「No.1広告」あるいは「No.1表示」とよばれます。何らかの指標でNo.1であることは必ずしもその商品役務の品質が優れたことを保証するものではないのですが、このような「No.1広告」は消費者にとっては非常にわかりやすいものであるために、事業者にとっては非常に魅力的な広告方法であるといえます。

 ただ、事業者に魅力的な広告方法であるだけに不当表示が行われやすく、またNo.1であるからこそ広告として意味がある(No.2やNo.3では意味がない)ことが多いので、場合によってはNo.1の前提を複雑に限定した、わかりにくい広告がなされるおそれもあります。
 またNo.1であることを謳うということは、競合他社の売上実績や商品の効果・効能、顧客満足度等もわかっていなければならないはずであり、自社の商品役務の売上(「1時間に10個以上売れています」)や性能(「かぜのウィルスを99%カット」)を広告する場合とは異なり、どのような調査に基づいていれば不当表示にならないのか、という問題があります。

「No.1表示に関する実態報告書」

 そこで公正取引委員会事務総局の「No.1表示に関する実態報告書」(以下「実態報告書」といいます)では、No.1表示が不当表示とならないためには、①No.1表示の内容が「客観的な調査」に基づいていることと、②調査結果を正確かつ適正に引用していることの両方を満たす必要がある、とされています。
 そして、「客観的な調査」といえるためには、(i)当該調査が関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施されていること、又は、(ii)社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施されていること、が必要であるとしています。

 たとえば健康食品の特定の成分の測定方法などでは、「関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法」や「関連分野の専門家多数が認める方法」があることが多いと思われますが、顧客満足度のような抽象的な指標の場合にはそのような方法がなく、「社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法」という要件をみたすかどうかを検討せざるをえません。
 ところが、実態報告書では、「社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法」については、「表示の内容、商品等の特性、関連分野の専門家が妥当と判断するか否かなどを総合的に勘案して判断する」とのみ記載されており、規範としてはきわめて抽象的であるうえ、表示の「内容」や商品の「特性」がどのように調査の客観性の判断において考慮されるのか、明らかではありません。

具体例

 そこで実務上は、実態調査報告書が客観的な調査とはいえない場合(いわば「ネガティブリスト」)としてあげているケースに該当しないかを基準に判断していくことになります。

  1. 顧客満足度調査の調査対象者が自社の社員や関係者である場合または調査対象者を自社に有利になるように選定するなど無作為に抽出されていない場合(調査対象者の無作為抽出性)
  2. 統計的に客観性が十分確保されるほど調査対象者数が多くない場合(調査対象者数)
  3. 自社に有利になるような調査項目を設定するなど調査方法の公平性を欠く場合(調査項目の公平性)

 以下、よく問題になる 1 と 2 について解説します。

調査対象者の無作為抽出性

 顧客満足度調査の調査対象者が自社の社員や関係者である場合が「客観的な調査」といえないことはいうまでもありませんが、自社の商品役務の購入者が調査対象者である場合にも「客観的な調査」とはいえないおそれがあります。なぜなら、自社の商品役務の購入者は自社の商品役務が気に入っているから購入しているのであり、そのような調査対象者群に自社の商品役務と競合他社の商品役務を並べてどれに一番満足しているかを尋ねれば、自社の商品役務が気に入っていると回答する可能性が高いからです。

調査対象者数

 たとえば顧客満足度の調査では、厳密には、一定の商品役務の顧客全員に対して調査をするか(全数調査)、少なくとも顧客全員の過半数が自社の商品役務に最も満足していると回答しない限り、「顧客満足度No.1」とは表示できないはずです。しかし実際にはそのような調査をすることは不可能なので、一定の標本(sample)とよばれるデータを取り出してデータ全体の特徴を推定することが認められています。

 では具体的に調査対象者は何人いればよいのでしょうか。
 これは、一概には言えませんが、たとえば100人程度の調査でも、1位の自社と2位の他社の差が十分に大きく、統計誤差を考慮してもなお自社が1位であることが統計学的に確実であるといえるのであれば、「客観的な調査」と認められるでしょう。
 具体的には、自社の商品に満足している顧客が調査対象の90%(1位)で、2位の競合他社が80%で、統計誤差が3%の場合、自社の顧客満足度は87%~93%、当該競合他社の顧客満足度は77%~83%なので、自社の顧客満足度が1位であることは確実であるといえます(なお、サンプル数が1,500人程度の場合、統計誤差は±3%程度であるとされています)。これに対して統計誤差が5%程度の調査対象者数では、自社が2位となる可能性があるので、不当表示のおそれがあります。

まとめ

 実態調査報告書では、「当該調査が自社調べの場合には、客観的なものとはいえない独自の基準で調査が行われることが多いと考えられ、景品表示法上問題となりやすい」とされています。実態調査報告書も、「問題となりやすい」と述べているだけであり、自社調べであるからといって必ず不当表示になるとは述べていませんが、自社で調査を行う場合には調査の客観性が保たれるよう、十分に注意することが必要です。

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