景品表示法とは?基礎をわかりやすく解説

競争法・独占禁止法
古川 昌平弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

目次

  1. 景品表示法の概要
  2. 景品規制
  3. 不当表示規制
    1. 不当表示とは何か
    2. 不当表示規制のポイント
  4. 景品表示法に違反した場合のリスク
    1. 行政処分
    2. 差止請求
    3. 信頼性の毀損、対応コスト
  5. アフィリエイト広告、ステルスマーケティングに関する法規制
 本稿では、主に企業において、新たに一般消費者向け広告表示に関する業務に関与することとなった法務担当者や、それらの方々の教育に関与する方々、さらに改めて基礎を学び直そうとされる方々を主な読者と想定して、景品表示法の基礎について概観します。

景品表示法の概要

 景品表示法(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」。以下引用時には単に「法」といいます)は、商品・役務の取引に関連する不当な「景品類」や不当「表示」による不当な顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の規制について定め、一般消費者の利益を保護することを目的としています(法1条)。

 景品表示法には「目次」があり 1、全体を概観する際や、現在検討している事項がどの点に影響するかなどを考える際に有用です。なお、2023年5月11日に、景品表示法の改正法が成立し、施行後は目次も変更されますが、さしあたり、本稿は、当該改正前の現行景品表示法を前提に整理します。当該改正法は、基本的に、公布日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます(改正法附則1条)。

景品表示法の目次

(漢数字は算用数字に改めています)

第1章 総則(1条−3条)
第2章 景品類及び表示に関する規制
 第1節 景品類の制限及び禁止並びに不当な表示の禁止(4条−6条)
 第2節 措置命令(7条)
 第3節 課徴金(8条−25条)
 第4節 景品類の提供及び表示の管理上の措置(26条−28条)
 第5節 報告の徴収及び立入検査等(29条)
第3章 適格消費者団体の差止請求権等(30条)
第4章 協定又は規約(31条・32条)
第5章 雑則(33条−35条)
第6章 罰則(36条−41条)
附則

 景品表示法の主な内容は「第2章 景品類及び表示に関する規制」にて定められ、その規制対象は、「景品類の制限及び禁止」(法4条)および「不当な表示の禁止」(法5条)で定められています。

 景品表示法は消費者庁が所管し、その運用は表示対策課の所掌事務とされています(消費者庁組織令12条1号)。刊行時の表示対策課長を編著者とする『景品表示法』と題する解説書が随時刊行されており、信頼性の高い結論を知ることができます。表紙が鮮やかな緑色であることから「緑本」と呼ばれることがあり、本稿でも、西川康一編著『景品表示法〔第6版〕』(商事法務、2021)について「緑本」の呼称を用いて引用します。

景品規制

 景品規制に関し、景品表示法は、①内閣総理大臣 2 の指定により「景品類」を定義すること(2条3項)、②同大臣が不当な顧客誘引防止のために必要と認めるときに、景品類の価額の最高額・総額、種類・提供の方法などの事項の制限や提供禁止を行えることを定めています(4条)。
 これを受けて、①「景品類」を定義する告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」。「定義告示」とも呼ばれます)および②具体的な規制内容を定める告示(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」、「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」)が制定されています(当該告示を前提に、業種別に、景品類の最高額を調整(増減)すること等を内容とする業種別告示も制定されています(現在、4つの業種に関するものが存在し、具体的には、新聞業、雑誌業、不動産業、医療品医薬品業等です。本稿では、基本的な告示に絞り、業種別告示については省略します)。また、各告示の考え方を明確にするため「運用基準3 が設定されています。

 「景品類」とは、「顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する経済上の利益」のうち、正常な商慣習に照らして、値引、アフターサービスまたは付属物と認められる経済上の利益に当たらないものをいいます(定義告示1)。

 事業者が、取引に付随して経済的利益を提供する場合、原則として「景品類」となり、景品規制の適用を受けます。
 その場合、「懸賞」の方法で提供するときには、最高額を取引価額の20倍と10万円のいずれか低いほうまでとし、それらの総額を「懸賞に係る取引の予定総額」の2%以内に収める必要があります(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限2項および3項)。また、懸賞以外の方法で提供するときには、適用が除外される場合や業種別の特別な定めが適用される場合を除き、最高額を取引価額の20%と200円のいずれか高いほうまでとする必要があります(一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限1項および2項)。

不当表示規制

不当表示とは何か

 景品表示法は、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するという目的の下、事業者を対象として、(A)「自己の供給する商品又は役務の取引」について(法5条柱書)、(B)優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示に基づく不当表示のいずれかに当たる表示を(C)「してはならない」(禁止)と定めています(法5条1~3号)。この(A)~(C)を満たす場合に、景品表示法の表示規制に違反すると判断されます。

不当表示の概観

不当表示の概観

※ 1 景品表示法5条1号および2号は、「不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる」表示であることも要件としています。もっとも、上記「概観」で示すいずれかに当たる場合は、通常その要件は認められると考えられており、わかりやすさの観点から省略しています(緑本65頁)。

※ 2 景品表示法5条1号は、実際の商品・役務の内容よりも「著しく優良であると示す表示」と定めていますが、実質的には、「著しく優良であると一般消費者に誤認される表示」を禁止するものと整理されています(緑本61頁)。

※ 3 誤認される「おそれ」があり、不当に顧客を誘引する「おそれ」があるとして指定されており、告示により指定された表示に該当するか否かを判断する際、個別の表示について誤認されるものであったかは問われません。

※ 4 ①「無果汁の清涼飲料水等についての表示」(昭和48年公正取引委員会告示第4号)、②「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号)(原産国告示)、③「消費者信用の融資費用に関する不当な表示」(昭和55年公正取引委員会告示第13号)、④「不動産のおとり広告に関する表示」(昭和55年公正取引委員会告示第14号)、⑤「おとり広告に関する表示」(平成5年公正取引委員会告示第17号)(おとり広告告示)、⑥「有料老人ホームに関する不当な表示」(平成16年公正取引委員会告示第3号)、⑦「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号、2023年10月1日施行)

不当表示規制のポイント

 不当表示規制のポイントとして、以下の点が挙げられます。詳細は別稿にて解説予定です。

  1. 「表示」とは何か
    不当表示規制の対象となる「表示」には、口頭なども含めてあらゆる広告が含まれます。

  2. 誰が不当表示規制の適用を受けるのか
    「供給」している者は、不当表示規制の対象となり得ます。小売業者だけでなく、製品流通過程にある者はすべて不当表示規制の対象となり得ます(表示行為者となり得る)。表示行為をしたか否かは、表示内容の決定に関与したかで判断されます。

  3. 優良誤認表示や有利誤認表示に該当する表示はどのようなものか
    以下のような場合、優良誤認表示または有利誤認表示に該当します。
    • (a)表示内容(=表示全体から一般消費者が通常受ける印象・認識)と、(b)実際の商品・役務の内容や取引条件との間に相違があり、(a)が(b)よりも優良・有利
    •  かつ
    • 当該相違が、社会一般に許容される程度を超えて一般消費者による商品・役務の選択に影響を与える
    何を表示しているのかは、表示内容全体から一般消費者が受ける印象・認識を基礎として判断され、打消し表示に関しても、一般消費者の印象・認識を基に考えることになります。

  4. 不実証広告規制に注意
    特に商品・役務の優良性を訴求しようとする場合には、合理的な根拠資料が必要です。

景品表示法に違反した場合のリスク

 景品表示法に違反した場合のリスクとして、同法上に定められたものは下表のとおりです。

手続 主体 対象行為
措置命令(法7条1項) 消費者庁・都道府県 (1) 景品規制に違反する行為
(2) 以下①~③いずれかの表示行為
 ① 優良誤認表示
 ② 有利誤認表示
 ③ 告示により指定された不当表示
課徴金納付命令(法8条1項) 消費者庁 以下①②いずれかの表示行為(課徴金対象行為)
 ① 優良誤認表示
 ② 有利誤認表示
差止請求(法30条1項) 適格消費者団体 以下①②いずれかの表示行為
 ① 優良誤認表示に相当する表示
 ② 有利誤認表示に相当する表示

 景品表示法のうち表示規制に違反した場合、措置命令などの行政処分を受けるにとどまらず、自社ビジネス自体への信頼性を大きく毀損させてしまう可能性もあります。景品表示法という法律の問題であることに加え、このようなリスクの重大さも考慮すると、一般消費者向けのキャンペーンや広告表示について、法務部門の関与は不可欠といえるでしょう。

行政処分

 優良誤認表示等の不当表示を行った場合、消費者庁や都道府県に当該不当表示を認定され、必要があると判断されるときに、措置命令を受けます(法7条1項、法施行令23条1項)。命令するか否かについて消費者庁等に裁量があり、裁量的行政処分と位置付けられます。

 また、優良誤認表示または有利誤認表示を理由に措置命令を受けた場合、所定の例外事由に該当しない限り、消費者庁から課徴金納付命令を受けます(法8条1項)。告示により指定された不当表示(前記 3−1(1)の不当表示類型のうち③)を行った場合には、課徴金の対象とはなりません。景品表示法の課徴金制度の詳細については、下記の関連記事をご参照ください(2023年の景品表示法改正については今後対応予定です)。

 行政処分の対象となった違反事例についてみると、「不当な表示の禁止」(法5条)違反を理由とした措置命令は年間40件前後行われている一方、「景品類の制限及び禁止」(法4条)に関しては、消費者庁は 4、これまで措置命令(行政処分)を行ったことがありません。このような状況を踏まえると、現実的な法務リスクとしては表示規制のほうが高いといえるでしょう(ただ、それは相対的なものですし、景品規制に関しても後記4-3のような事実上のリスクが存在しますので、適切に設計する必要があります)。

差止請求

 優良誤認表示や有利誤認表示に相当する表示をした場合、適格消費者団体による差止請求の対象となる可能性もあります(法30条1項)。適格消費者団体とは、「不特定かつ多数の消費者の利益のために」「差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する」消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人をいいます(消費者契約法2条4項)。2023年2月末現在で全国に23団体が存在します。

信頼性の毀損、対応コスト

 消費者庁や都道府県 5 が表示規制違反を理由に措置命令や課徴金納付命令(課徴金納付命令は消費者庁のみ)を行う場合、それは消費者庁や都道府県のウェブサイト上で公表され、それ以降、様々な媒体で報道され、長期間閲覧可能な状態が続きます。近年では、これに呼応して、一般消費者を含む様々な方々が、SNSなどを通じ、措置命令対象事案や企業自体の姿勢などについて鋭く言及を行う場面も増えています(たとえば、2022年、消費者庁が、外食寿司チェーン店運営事業者に対し、おとり広告告示(上記「不当表示の概観」※3)違反を理由として措置命令を行った際には、命令直後から多くの報道がなされるほか、一般消費者のSNS等で数々の指摘が行われるなどしました)。

 これに対し、景品規制違反について、前述のとおり措置命令(行政処分)がほとんど行われていない実情がありますが、消費者や競争事業者、消費者庁から指摘を受ける可能性はあり、実際に景品規制に違反している場合には、当該キャンペーンの中止・変更を迫られ、事後的な対応に相当程度の労力や金銭的支出を伴う可能性があります。

アフィリエイト広告、ステルスマーケティングに関する法規制

 近年、インターネット広告が一般的になったことで、考え方を整理する必要のある問題や、従来の景品表示法では規制しきれない問題が生じてきました。その代表的なものが、アフィリエイト広告と、ステルスマーケティングに関する問題です。

 アフィリエイト広告については、2022年に「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」および「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」が改正され、事業者に求められる措置が示されました。
 ステルスマーケティング(ステマ。広告であるにもかかわらず広告であることを隠す行為)については、2022年12月28日に「ステルスマーケティング検討会 報告書」が公表され、2023年3月28日に、ステマを規制する新たな告示および運用基準が公表されました。同告示は2023年10月1日から施行され、同日以降に同告示に定められた不当表示を行う場合(同日より前から継続して行う場合を含みます)は、違法行為となります。
 詳細については別稿にて解説予定です。


  1. 制定当初は景品表示法に目次は存在しませんでしたが、課徴金制度導入を内容とする2014年11月改正法が2016年4月1日に施行された際に「目次」が定められました。 ↩︎

  2. 本文記載の①「景品類」の定義および②景品規制に関する告示の制定は、内閣総理大臣の権限とされ、消費者庁長官への委任の対象外とされています(法33条1項、景品表示法施行令14条)。本文で後述する指定告示に基づく不当表示についても同様です。 ↩︎

  3. 景品規制に関する告示および運用基準は、消費者庁ウェブサイト上で公表されています(「告示」、「景品表示法関係ガイドライン等」)。 ↩︎

  4. 大阪府は、2019年に総付景品規制を理由に新聞社1社および新聞販売所を営む計3名に対し措置命令を行っています(「株式会社産業経済新聞社ほか産経新聞販売店2店」「毎日新聞瓢箪山南販売所、同北山本販売所、同八尾北販売所」)。さらに、2023年3月にも措置命令が行われました(「株式会社産業経済新聞社」)。景品規制違反を理由とする措置命令もないわけではありません。 ↩︎

  5. 景品表示法は、現在、調査や行政処分(措置命令や課徴金納付命令)の主体として「内閣総理大臣は」と定めていますが、当該権限は基本的に消費者庁長官に委任されています(法33条1項)。本稿では、読みやすさの観点から、消費者庁長官を「消費者庁」と示します。また、措置命令権限を有する都道府県知事を「都道府県」と示します。 ↩︎

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