メキシコの公証制度の解説
国際取引・海外進出メキシコには公証制度がありますか。また、メキシコでビジネスを営むにあたり公証制度の利用は必要ですか。
メキシコにもいわゆる公証制度があります。会社設立、委任状作成、通知・催告、対抗要件具備などの様々な場面でNotario Públicoという公証人類似の法律専門家による公証・立会い等が必要ですので、メキシコでビジネスを営むにあたり公証制度の利用は必要です。
解説
はじめに
メキシコにはNotario Públicoという公証人類似の法律専門家が存在する。Notario Públicoの役割については下記で説明するが、メキシコでは様々な場面でNotario Públicoによる公証・立会い等が必要となる。一方で、Notario Públicoについて日本語で説明した記事があまりなく、不明な点が多いためか、Notario Públicoの関与を必要とする法的手続を敬遠される日本企業の方が少なくないように思われる。そこで、本稿では、メキシコのNotario Públicoについて説明するとともに、日本の公証制度や米国のNotary Publicとの相違も指摘する。
Notario Públicoとは何か
Notario Públicoはメキシコ政府により認証された法律専門家である。米国のNotary Publicと名称が類似しているが、その地位は異なる。メキシコのNotario Públicoには法律の学位取得者のうち、各州が要求する要件を満たし試験にも合格した者がなることができるのであり、その地位は高い(その点で、日本の公証人に類似している)。メキシコのNotario Públicoは公的地位を有しており、面前に現れた関係当事者すべてに対して公平中立であることが求められている 1。弁護士等と兼任することはできない。米国のNotary Publicと異なり、通常は法律事務所に常駐していない。Colegio Nacional del Notariado Mexicanoのウェブサイトによれば、2022年8月時点においてメキシコ内に4,100名以上のNotario Públicoが存在するようである 2。
Notario Públicoは各州ごとに任命されるのであり、ある州のNotario Públicoとなるためには当該州が定める要件を満たす必要がある 3。各州(およびメキシコ市)の法がNotario Públicoの役割、機能、権限および義務等について規定している 4。Notario Públicoはその管轄州においてのみ役割を果たすことができるのであり、管轄州外において公証等の職務を行うことは原則としてできない 5。上記のとおり、メキシコ全体におけるNotario Públicoの人数も多くはないため、州によってはNotario Públicoの人数が限定的である。適時に公証等のサービスを受けるためにはNotario Públicoを確保することが重要であり、このためメキシコの大手法律事務所はNotario Públicoとの関係を築き、適時にコンタクトできるようにしているようである。
Notario Públicoの役割
上述のとおり、Notario Públicoは様々な役割を果たすが、主な役割は下記のとおりである。
- 会社設立の公証と有効化 6
- 定款変更の公証 7
- 株主総会または取締役会決議により代理権を授与した場合の議事録等の公証と決議の有効化 8
- 固定資本の増加の公証 9
- 株主への払戻しによる減資の際の払戻先株式の確定手続の立会い 10
- 期限の定めのない契約上の支払義務に関して債権者が行う支払催告の立会い 11
- 労働紛争で法人を代理する権限の公証 12
- 特定の類型の委任状の公証 13
- 海外で付与された委任状の公証
- 共有物の譲渡の通知の公証 14
- 債権譲渡の通知の立会い 15
- 一定額以上の価値の不動産の譲渡の公証 16
- 賃貸不動産の所有権の譲渡通知の公証 17
- 抵当権設定の公証 18
- 質権設定の第三者対抗要件を具備するための公証 19
以上に加え、メキシコ法に則って作成された文書やメキシコの公文書等がメキシコ外で用いられる場合には、かかる文書に対してアポスティーユ等がなされる前にNotario Públicoによる公証がなされる必要があることが少なくない。
さいごに
上記のようなNotario Públicoの関与はメキシコでは非常によくみられるものである。しかしながら、このような法的手続を敬遠される日本企業の方は少なくないように思われ、一方でメキシコの弁護士はこのような日本企業の懸念を十分に理解できていないように思われる。本稿が日本企業とメキシコの弁護士の相互理解を助け、一層円滑なコミュニケーションと案件進行に寄与するのであれば幸甚である。
(注)本稿は、メキシコの法律事務所であるBasham, Ringe y Correa, S.C.のEduardo González Jiménez 弁護士の協力を得て作成しております。
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https://www.notariadomexicano.org.mx/el-notariado-en-mi-vida/el-notario/ ↩︎
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同上 ↩︎
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同上 ↩︎
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同上。たとえば、メキシコ市の法律は以下で確認可能である。https://colegiodenotarios.org.mx/normativa ↩︎
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https://www.notariadomexicano.org.mx/el-notariado-en-mi-vida/el-notario/。もっとも、州によっては、たとえば管轄州外に所在する土地の取引であっても、契約書への署名が管轄州内でなされていれば管轄州のNotario Públicoによる公証を認めている(例:ケレタロ州の法28条)。 ↩︎
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メキシコ会社法(Ley General de Sociedades Mercantiles)5条および10条 ↩︎
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メキシコ会社法5条 ↩︎
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メキシコ会社法10条 ↩︎
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メキシコ会社法72条。固定資本と可変資本については「【連載】メキシコ会社法の解説 第2回」の2−4 (3) を参照。 ↩︎
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メキシコ会社法135条 ↩︎
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連邦民法(Código Civil Federal)2080条および連邦商法(Código de Comercio)360条 ↩︎
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連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)692条 ↩︎
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たとえば連邦民法44条 ↩︎
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連邦民法973条 ↩︎
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連邦民法2033条および2036条 ↩︎
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連邦民法2317条および2320条 ↩︎
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連邦民法2409条 ↩︎
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各州の民法の定めによる。たとえばケレタロ州の民法2816条は、被担保債権の額が一定額以上である場合には担保権設定に公証が必要であるとしている。 ↩︎
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各州の民法の定めによる。たとえばケレタロ州の民法2759条は、質権設定それ自体には公証を要求していないが、第三者対抗要件具備のために公証等を要求している。そのため、実務上は質権設定のための契約書(contrato de prenda)はNotario Públicoの面前で署名されることが多い。 ↩︎

アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業