タイにおけるモバイルゲームの現状と、モバイルゲームをリリースする場合の法的留意点

国際取引・海外進出
細川 怜嗣弁護士 森・濱田松本法律事務所 シンガポールオフィス パヌパン・ウドムスワンナクン 森・濱田松本法律事務所 バンコクオフィス ティラパット ソムバットサタポンクル 森・濱田松本法律事務所 バンコクオフィス

 タイのモバイルゲーム市場は急激な成長を遂げており、日本のアニメや漫画のキャラクターのウケもよく、自社のモバイルゲームをタイでリリースすることを考えています。その際に法的な観点で気をつけるべきポイントを教えてください。

 タイでモバイルゲームをリリースする際に、主に関係する法律としては、賭博法、個人情報保護法、消費者保護法、外国人事業法となります。日本の法律と異なるタイ特有のルールが定められており、注意が必要です。

解説

目次

  1. タイのゲーム市場
  2. アプリ内課金型・広告型それぞれに関わる法規制
  3. タイ賭博法
    1. モバイルゲームに関する規制
    2. 近時の動きと今後の動向
  4. タイのデジタル資産規制(NFTゲーム関連)
  5. タイ個人情報保護法
  6. タイ消費者保護法
  7. タイ外国人事業法

タイのゲーム市場

 2021年、世界のゲーム市場は1,780億ドルまで拡大し 1、そのうちモバイルゲームが52%を占めています 2。特にコロナ禍の影響で在宅で過ごす機会も増え、今後もゲーム市場は更なる成長が見込まれています。

 グローバルゲーム市場調査会社Newzooによれば、2020年のタイのスマートフォンユーザー数は世界のトップ20位に入ります。いわゆるゲーマー人口は約2,800万人であり、タイのゲーム市場の規模は約270億バーツ(約900億円)ともいわれ、そのうちモバイルゲームが71%を占めています 3
 アジアにおけるタイのゲーム市場規模は、日本、中国、韓国に続く形で拡大しており、新規ゲームのリリースも増加傾向にあります。また、もともと日本の漫画やゲーム文化の影響を受けて親日的な若者も多いタイは、日本のゲーム関連企業にとっても有望なマーケットとなっています。

アプリ内課金型・広告型それぞれに関わる法規制

 タイにおけるゲームのビジネスモデルは他国と大きく異ならず、多種にわたります。ここ最近は下記4で紹介するNFTゲームも注目を集めつつありますが、現状はフリーミアムモデル(無料プレイ)が主流になっていると思われます。フリーミアムモデルの中でもいくつかバリエーションが分けられ、大きく分類しますと、①アプリ内課金型と②広告型の2種類に分けられます。
 留意すべき点はそれぞれのモデルごとに異なり、①アプリ内課金型のうち、特にガチャ制はタイ賭博法に注意する必要があります。他方、②広告型については、現在リリースされているモバイルゲームの中では、パーソナライズド広告がよく用いられており、非パーソナライズド広告よりも効率的な宣伝効果が期待できる反面、タイ個人情報保護法に注意する必要が出てきます
 以下でそれぞれ解説します。

タイ賭博法

モバイルゲームに関する規制

 アプリ内課金型のうち、ガチャ制はタイ賭博法との関係に注意する必要があります。

賭博法との関係で注意すべきガチャ制モバイルゲームの整理

種類 賭博法との関係 対処法
ランダム型ガチャ アイテムやカードがランダムに出るガチャ) ランダムではあるが何らかの商品を獲得できるため、特に問題視されていない
コンプリート型ガチャ 特定のピースが揃った場合にのみ特定のアイテムを取得できるガチャ ピースが揃わなければアイテムを獲得できない可能性があるという特徴から、賭博法に抵触する可能性あり 特定のプレイの回数に達した場合には、プレイの結果を問わず、最終的に確実に商品をもらえる仕組みであれば、賭博に当たらないという見解あり

 上記の表の通り、ガチャは大きく2種類に分類できます。
 ランダム型ガチャ(アイテムやカードがランダムに出るガチャ)は広く行われており、ランダムではあるが何らかの商品を獲得できるため、特に問題視されていません。他方、他の国での議論と同様に、特定のピースが揃った場合にのみ特定のアイテムを獲得できるいわゆるコンプリート型ガチャは、特定のピースが揃わなければ何もアイテムをゲットできないという点で賭博的要素があることから、タイ賭博法に抵触するおそれがあるとされています。

 タイ賭博法は、賭博活動を以下のように分類し、規制について区別しています。

賭博の種類 規制方法
① リストAの賭博活動 バカラ、シックボー、動物の拷問に該当する活動 原則全面的に禁止
② リストBの賭博活動 ポーカー、ボートレース、ロット、ビンゴ、電気機械等を使う賭け 事前に当局からの許可を取得すれば可能
③ リストA・リストB
以外の賭博活動
特に例示の記載はなく実質的に判断される 政令の特段の許可がなければ、一切禁止

 ①は同法添付リストAとして記載される賭博活動であり、原則全面的に禁止されます。②は同法添付リストBに記載される賭博活動であり、事前に当局からの許可を取得すれば可能です。③はリストA・Bに列挙されていない賭博活動についてのキャッチオール条項であり、政令に基づく特段の許可がない限り一切禁止されます。

 したがって、タイにおいていわゆる賭博行為に該当するゲームを提供する場合は、基本的には当局の許可をとる必要がありますので、注意が必要です。

近時の動きと今後の動向

 この点について、近時の動きとして、2019年に、ゲームセンターのクレーンゲーム機が「賭博」に該当し賭博法に違反するという理由で取締りが一時的に強化されました。これについてはその後、2020年にタイ内務省が、クレーンゲーム機が賭博に該当するか否かに関する当局見解を公表しており、その内容が参考になります。
 当該見解では、一般的なクレーンゲーム機はプレイヤーとマシンのオーナーとの間の賭けとなることから、リストBの第28項(電気機械等を使う賭け)に該当し、許可を事前に取得する必要があるが、他方で、特定のプレイの回数に達した場合には、プレイの結果を問わず、最終的に確実に商品をもらえる仕組みであれば、賭博に当たらないとされています。

 この見解はアプリ内課金型の賭博行為該当性についても大きな示唆を与えると考えられます。つまり、いくら課金をしてもピースが揃わないような設計となっている場合には、コンプリートガチャは「賭博」に該当する可能性があります。そこで、この見解を参考に、一定の数のガチャを購入した場合には、仮にピースが全て揃わなかったとしても、アイテムを獲得できる仕組みとすることで、「賭博」とみなされるリスクを軽減できると考えられます。

 この点は、今後のモバイルゲームの広がりなどを受けて、新たな告示や政令が公表されたり、判例が蓄積されることを待つ必要がありますが、現時点で考えられるものは上記の対応策だと考えられます。
 なお、タイでは、賭博はセンシティブな話題であり、社会問題等をきっかけにして解釈が大きく変わることもあり得るため、常に動向をフォローする必要があります。

タイのデジタル資産規制(NFTゲーム関連)

 最近、世界的に注目を集めている新しいビジネスモデルはPlay-to-Earnモデルです。簡単にいえば、ゲームをプレイすることによって、転売できるアイテムやトークンのNFT(Non-Fungible Token)を入手し、これらのアイテム・トークンを転売することにより収入を得ることができるモデルです。このような転売(二次流通)が可能となったのはブロックチェーン技術によるもので、Play-to-EarnモデルのゲームはNFTゲームの特徴ともいえます。

 タイでNFTゲームをローンチする際には、タイのデジタル資産を規制する法令に留意する必要があります。
 タイでは、2018年発行の緊急勅令(Emergency Decree on Digital Asset Business B.E. 2561 (2018) )がデジタル資産事業を包括的に規制しています。当該規制上、「デジタル資産」は、「暗号通貨」(cryptocurrency)および「デジタルトークン」(digital token)と定義されています。デジタルトークンは、投資目的のデジタルトークン(investment token)と、特定の商品やサービスと交換する目的のデジタルトークン(utility token)の2種類に分けられます。さらに、利用目的によって、即利用可能なもの(ready-to-use utility token)とそうでないもの(not ready-to-use utility token)の2種類があります。整理すると以下の図のとおりとなります。

デジタル資産の分類

デジタル資産の分類

 タイでNFTゲームをローンチする場合、上記のデジタル資産の適用対象となるかを個別具体的に検討する必要があります。そもそもデジタル資産に該当しない場合、当該規制の適用を受けないこととなる一方、デジタル資産に該当した場合には、該当する種類によって、規制の内容が変わってきます
 また、タイの証券取引委員会はデジタル資産の分野の規制や解釈を頻繁にアップデートしており、定期的に法規制の進展を確認する必要があります。

タイ個人情報保護法

 次に、(これは厳密にはゲームのビジネスモデルを問いませんが)特に広告型のゲームにおいてパーソナライズド広告を導入する等、タイに所在するプレイヤーの個人情報を取り扱う場合、タイの個人情報保護法に留意する必要があります。
 タイ個人情報保護法は2019年に制定されたものの、その規定のほとんどの効力発生は延期されていましたが、2022年6月1日についに全面施行されました。現在、同法の詳細を定める下位規則が段階的に公表・制定されている状況ですが、同法に対応する体制を構築し始めている事業者は多くなってきています。

 タイ個人情報保護法の規定上、タイに拠点のない日本のゲーム会社でも、以下の要件を満たした場合には、同法の規制対象となります

(i) タイ所在者にサービス・商品を提供する場合
(ii)タイ国内における行動の監視を行う場合

 つまり、日本のゲーム会社がタイのゲームプレイヤーから直接、ユーザーID、デバイスID、過去の購入履歴、連絡先などの個人情報を取得する場合には、利用規約やPrivacy Policy等において法令上求められている通知事項を記載したり、場合によっては、本人から個人情報の収集・利用・開示についての同意を取得するステップを新たに設けるなど、タイ個人情報保護法の要請に基づく対応を施す必要が出てきます。

 タイ個人情報保護法は、欧州の個人情報保護法制であり厳格なルールを規定するGDPRをベースに作成されており、日本の個人情報保護法よりも厳格なルールが設けられている点もあるため、留意が必要です。たとえば、個人情報の取得にはいわゆるセンシティブ情報でなくとも基本的に同意を取得する必要があり、当該同意は明確・個別に取得する必要があるなどの点です。
 パーソナライズド広告においては、ゲーマー(データ主体)の検索・行動情報等を取得して活用することとなるため、この点についても利用規約やPrivacy Policyにおいて利用目的を通知するとともに、事前に明確な同意をとる必要が出てきます。

タイ消費者保護法

 日本の景品表示法に該当する法律はまだないものの、一般消費者向けの宣伝・広告の内容を規制するタイ消費者保護法にも留意する必要あります。現時点では、ゲームに適用される特有の規制はありませんが、公正な内容や誤解されるおそれのある記載の禁止等、一般的な広告内容を規制する規定が適用されます。
 特にガチャ制の内容説明に関する記載においては、「賭博」と示唆する用語の使用には注意する等、その正確性が重要なポイントとなります。

タイ外国人事業法

 以上のような個別法の観点とは別に、ゲームのビジネスモデルの種類を問わず、タイにおいて事業を行う外資企業一般に適用される外国人事業法(Foreign Business Operations Act)も常に念頭に置く必要があります
 タイ国外の法人(日本の企業を含む)や、外国法人が半数以上の株式を保有しているタイで設立された会社も、外国人事業法上の「外国人」に該当し、外国人事業許可(Foreign Business License (FBL))またはその代替の許認可を取得しない限り、原則として外国人事業法に列挙されている事業(外資規制事業)をタイ国内で営むことはできません。そして、ゲームの提供は、外資規制事業の一つである「その他サービス」に該当すると考えられます。

 タイ国内に拠点は作らずタイ国外からタイの消費者にサービスを提供するという、いわゆる完全なオフショアでの事業提供についてそもそも外国人事業法が適用されるのかという点については、実際のタイ当局による取締りのリスク等も勘案して、グレーゾーンとして事業が行われているという実態もあるように見受けられます。ただこの点は、今後の当局の方針転換や規制強化などによりリスクも変わってくるように思われますので、注意が必要です。

 また、モバイルゲームのタイでの事業展開について、モバイルゲームの提供という業種で上記の許認可の取得に成功した例もありますので、事業の性質上難しい可能性が高いものの、正攻法で許認可取得を行うというのも選択肢として考えられます

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