ベトナム労働法が定める昇給・待遇制度と、実務上の決定方法

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盛 一也弁護士 明倫国際法律事務所

 ベトナムで昇給や待遇制度をどのように定めるのが適当ですか。また昇給が義務付けられるケースなどはありますか。

 ベトナム労働法では原則として使用者と労働者の合意により昇給や待遇制度が決定されます。従って、ベトナムビジネスを促進するためにも、労働者のモチベーションアップにつながるような制度を定めるのが適当といえます。他方で、地域ごとに定められた最低賃金が上昇する場合や、試用期間中に低額に定めた賃金について労働契約の効力が発生する際に、昇給が必要になること等には注意が必要です。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 昇給制度等
  3. 昇給以外の待遇等について
  4. 最低賃金引上げの流れ
  5. 最後に

はじめに

 ベトナム労働法では、労働者の賃金の昇給は、基本的には、労働契約の締結時における、当事者による合意で決定されます(労働法103条)。しかし、次の2つの場合では、合意の内容にかかわらず、使用者は、労働者の賃金の昇給を義務付けられます。

 1つ目は、労働者が試用期間中において労働契約で定める賃金額より低い賃金を定める場合です(ただし、労働法26条の規定によれば、試用期間中の労働者の賃金は、当該業務賃金の85%以上でなければなりません)。具体的には、試用期間中に労働契約よりも低額の賃金について合意をした場合で、試用期間が終了し、その後に労働契約の効力が生じるケースです。これは、昇給というよりも、通常の賃金に復活するものと評価できます。

 2つ目は、地域最低賃金が上昇する場合です。労働法90条によれば、賃金が最低賃金を下回ることは許されないとされています。また、政令No.90/2019/ND-CPの5条によれば、労働者が見習いまたは職業訓練を必要とする仕事を行う場合、当該労働者は、その地域の最低賃金より少なくとも7%高い賃金を支払わなければならないとされています。

 そのため、最低賃金が上昇することによって、労働者の賃金を上昇させなければならない場合が発生することになります。政府が規定する地域の最低賃金よりも低い賃金を労働者に支払う場合、使用者は以下のレベルに従って罰金を科される場合があります(政令No.12/2022/ND-CP号17条3項)。

  • 1人〜10人の労働者に対する違反:2,000万ドン〜3,000万ドン(約12万円〜17万円)
  • 11人〜50人の労働者に対する違反:3,000万ドン〜5,000万ドン(約17万円〜29万円)
  • 51人以上の労働者に対する違反:5,000万ドン〜7,500万ドン(約29万円〜44万円)

昇給制度等

 ベトナム労働法では、上記の定めを除き、昇給制度に関する強行法規は存在しないため、昇給期間、昇給条件、昇給額などの詳細を当事者の合意に委ねているといえます。
 労働法21条1項eによると、労働契約において昇給および昇給制度を含めなければならないとされていることからも、昇給制度は労働契約の主要な内容の1つといえます。また、通達No. 10/2020 / TT-BLDTBXH号3条6項では、昇給制度について次のように規定しています。すなわち、昇給の条件、期間、上昇額などは、両当事者の合意、または集団労働協定ならびに使用者の規定(たとえば、賃金表、賃金テーブルなど)に基づき行われます。したがって、労働契約を締結する際、労働者と使用者は、昇給の条件と期間などを具体的に合意するか、労働協約または使用者の規定に従って昇給することに同意する旨を記載できます。昇給額や昇給レベルが使用者の賃金表や賃金テーブルと密接な関連を有するので、労働法93条1項に基づき作成された賃金表や賃金テーブルは、昇給の重要な根拠になります。

 ところで、合意された昇給条件を労働者が完全に満たしていても、使用者が昇給しない場合、民事制裁のみならず、政令No.12/2022/ND-CP号17条の規定に従って行政制裁としての罰金を科されることがあります。この罰金は、使用者が違反した労働者の数に基づいて決められます。具体的には、次のとおりの罰金を科される可能性があります。

  • 1人〜10人の労働者に対する違反:500万〜1,000万ドン(約3万円〜6万円)
  • 11人〜50人の労働者に対する違反:1,000万〜2,000万ドン(約6万円〜12万円)
  • 51人〜100人の労働者に対する違反:2,000万〜3,000万ドン(約12万円〜17万円)
  • 101人〜300人の労働者に対する違反:3,000万〜4,000万ドン(約17万円〜23万円)
  • 301人以上の労働者に対する違反:4,000万〜5,000万ドン(約23万円〜29万円)

昇給以外の待遇等について

 昇給は労働者に対する待遇措置の1つですが、このほかにも、労働者に対する待遇措置には、使用者との合意内容により様々なものがあり得ます。ベトナム労働法およびその下位法令等では、待遇制度を詳細に定めていませんが、実務上、賞与、手当、祝金、見舞金、賃料支援などの物質的な待遇、および職場環境改善、業務訓練、柔軟な勤務時間などの精神的な待遇が適用されている場合も多く見受けられます。

 労働法103条によれば、補助金、手当の制度および労働者を奨励する制度は、労働契約、集団労働協約または使用者の規定において合意されるとされています。また、賞与の規則については、事業所の労働者代表組織がある職場ではその意見を参考に、使用者が決定して職場で公表・公開されるものとしています(労働法104条2項)。このため、賞与や補助金の支給は、基本的に使用者の裁量、または使用者と労働者の合意によって決められるものです。

 一方で、使用者が労働者の利益を得る制度について待遇制度と表現している場合であっても、実際には使用者単独のまたは使用者および労働者の義務に過ぎない場合もあります。たとえば、社会保険、健康保険などへの加入は、多くの労働者募集情報に待遇制度として記載され、労働者が利益を得られるものです。しかし、各種の保険の加入は労働者および使用者の義務であるため、待遇措置とはいえません。また、ハラスメントを防止したり、労働安全・衛生を保障したりするための職場環境改善措置は、待遇というよりも使用者の義務に該当する場合が少なくありません。

 職務訓練に関する措置も複数の分野で義務付けられるものであり、それを実施することは待遇措置であるといえません。たとえば、弁護士は毎年最低8時間の職務訓練を受けなければなりません(通達No.02/2019/TT-BTP号5条1項)。弁護士職務訓練を行うのは、ベトナム弁護士連合会、地方の弁護士会、弁護士業の教育機関であり(同通達4条)、弁護士法人は、その直属の弁護士が訓練を完了できるように配慮等を講じなければなりませんが(同通達10条)、これは待遇措置であるとはいえないでしょう。もちろん、法律で求められる以上に労働者に利益を与える措置を行うのであれば、待遇措置になるといえます。

 このように、昇給を含む労働者に対する待遇措置は、法律に強制されることがほとんどなく、使用者・企業側によって決められることが基本です。これらの措置は労働者による貢献を促進し、企業の発展に寄与するものであるため、企業の状況および労働者・職員の希望に基づき、適切な待遇措置を講じるべきであることはいうまでもありません。

最低賃金引上げの流れ

 ところで、最低賃金の引上げは、国家賃金評議会(Hội đồng tiền lương quốc gia)の提案に基づき、政府によって決定されるものです(労働法91条)。
 最低賃金は、2009年度から2019年度にかけて、毎年、1度は引き上げられてきましたが 1、2020年度と2021年度はコロナ禍の影響で2019年度の額がそのまま維持されていました。しかし、2022年4月12日、国家賃金評議会は、2022年7月1日から最低賃金の6%の引上げを政府に提案することを決定しました 2。国家賃金評議会で合意があったことから、近日中に、政府は、政令で2022年度の最低賃金引上げを決定すると考えられます。

 なお、国家賃金評議会は、17名 3で構成され、政府首相によってその設立が決定されます 4。国家賃金評議会の主要な任務は、毎年、最低賃金の引き上げを議論し、政府に提案することであり、同評議会の決議は多数決で決められます。

 労働契約上の賃金の具体的な金額は、最低賃金以上の金額を定めて法定の要件をみたす限りで、労働者と使用者の合意により定められます。この時、賃金、賞与と各種の手当のバランスも労働者と使用者の合意により定められます。年金や退職金などの社会保険は、契約上の賃金に基づき計算されるため、賃金を低い金額で設定すれば社会保険に支払われる金額も低くなることになりますが、そのような定め方も違法になるものではありません。

 なお、個人所得税は、賃金のみならず、基本的には、賞与や手当も課税所得として考慮されるため(通達111/2013/TT-BTC号2条)、賃金、賞与と各種の手当のバランスの割当てに左右されるものではありません。同様に、法人税(企業所得税)の計算についても、労働者に対する賞与や各種手当が企業の費用として処理され得るので(通達 78/2014/TT-BTC号6条)、賃金、賞与と各種の手当のバランスの割当ては法人税(企業所得税)の計算に影響を及ぼしません。

最後に

 以上のとおり、昇給・待遇措置については労働契約の基本的な内容であり、使用者はその内容を十分に理解し、労働者のパフォーマンスを発揮できるような方策を決定することが望ましいものといえます。


  1. https://luatvietnam.vn/tin-phap-luat/tong-hop-muc-luong-toi-thieu-vung-qua-cac-nam-230-17768-article.html 参照 ↩︎

  2. https://moit.gov.vn/tin-tuc/bao-chi-voi-nguoi-dan/chot-de-xuat-trinh-chinh-phu-tang-luong-toi-thieu-vung-6-.html 参照 ↩︎

  3. 現在、議長は労働傷病兵社会省の次長、3名の副議長は、ベトナム労働組合総会の副会長、ベトナム商工会副会長およびベトナム組合連盟副会長です。その他の委員は、労働傷病兵社会省の代表4名、ベトナム労働組合総会の代表4名、雇用者を代表する各組織の中央委員会の代表3名、独立の専門家2名です。 ↩︎

  4. https://baochinhphu.vn/thanh-lap-hoi-dong-tien-luong-quoc-gia-102289879.htm 参照 ↩︎

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