ベトナムにおける副業・兼業に関する規制や社会保険等、および業務委託との関係

国際取引・海外進出
盛 一也弁護士 明倫国際法律事務所

 ベトナムで労働者は副業・兼業をすることができますか。また、使用者は労働者の副業・兼業を制限することができますか。
 さらに、もしも副業・兼業が可能な場合、社会保険等や労働時間の扱い、および業務委託との関係等についても教えてください。

 ベトナム労働法では原則として労働者による副業・兼業は禁止されていないため、労働者は副業・兼業をすることが可能です。他方で、使用者は労働者と合意のうえで副業・兼業を禁止することができる場合もあります。

 また副業・兼業を行う労働者に対する社会保険・健康保険・労災保険などについては、それぞれの特別法で定められています。一方で、勤務時間や残業時間、休暇等の制限については、副業・兼業をする労働者のためには個別的に定められておらず、それぞれの労働契約で定めた規定に従うこととなります。

 加えて、主たる労働契約以外に業務委託契約を締結することも、法律上特段の制限等がないため、可能といえます。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 労使間の合意による副業・兼業の制限について
  3. 労働者が副業・兼業をする場合の社会保険等や労働時間規制について
    1. 社会保険等の取扱いについて
    2. 残業規制や休暇等の取扱いについて
  4. 業務委託との関係等について

はじめに

 ベトナム労働法によれば、労働者は複数の使用者と労働契約を締結することができる(同法19条1項)とされていますので、法律上、副業・兼業が認められているといえます。他方で、労働者は、締結した労働契約の内容を十分に履行できることを保証する責任を負います(同項但書)。そのため、法律上は、副業・兼業は禁止されていませんが、労働者は、副業・兼業を行うことによってすでに締結済みの労働契約の履行を怠ることは認められていません。以上より、労働者はすでに締結済みの労働契約について労務の提供に支障が出ない範囲で副業を行うことができるものといえます。

 なお、日本の労働法においても労働者が就業時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由とされており、労務提供上の支障がある場合や企業秘密等が漏洩する場合などに副業・兼業を制限しうるものの、副業・兼業は原則として自由に認められるものといえます。

労使間の合意による副業・兼業の制限について

 個別の労働契約において、労働者が競争相手のために勤務しないことが合意されたのであれば、労働者はこの合意に拘束されると考えられています。

 労働法10条1項 1 および勤務法9条6項 2 の原則からすると、労働者は、一方的に労働者の副業・兼業を禁止する権限を有していませんが、労働者と合意したうえで、競争相手との契約締結制限条項を労働契約に挿入することは可能です。

 また、労働法21条2項によっても、副業・兼業を合意によって制限することが可能であることが裏付けられます。同項によれば、「勤務する労働者が法令の規定に従った営業秘密・技術秘密に直接関係する場合、使用者は営業秘密・技術秘密の保護の内容・期限・違反があった場合の権益および損害賠償に関して、書面で労働者と合意をする権利を有する」とされており、秘密保持等の観点から労働者の副業・兼業を制限できる旨を規定しています。

 仮に労働者が労使で定めた副業・兼業禁止に違反することになれば、使用者は、法律・就業規則・契約内容などに基づき、懲戒処分を行うことができます。加えて、特段法律上の制限がないため、労働契約書上にて、労働者が副業・兼業を行った場合(第三者との間で業務委託/労働契約を締結した場合)に副業・兼業先や(副業・兼業先の営業秘密を損なわない限り)業務時間・業務内容などを申告させるよう定めることは可能だと考えられます。

労働者が副業・兼業をする場合の社会保険等や労働時間規制について

社会保険等の取扱いについて

 副業・兼業を行う労働者に対する社会保険・健康保険・労災保険などについては、それぞれの特別法で定められています。

 まず、社会保険について、社会保険法2条1項によれば、1か月以上の労働契約を締結した労働者は、社会保険に加入しなければなりません。複数の労働契約を締結した場合、最初に締結した労働契約のみに従って社会保険に加入するものとするとされています(同法第85条4項)。

 次に、健康保険については、3か月以上の労働契約を締結した労働者は、健康保険に加入しなければなりません(健康保険法12条)。複数の労働契約を締結した場合、最高額の給与を定める契約に従って健康保険に加入するものとされています(同法13条)。

 最後に、労災保険については、労働衛生安全法43条によれば、1か月以上の労働契約を締結した労働者は、労災保険に加入しなければなりません。しかし、納付責任は、労働者ではなく、使用者にあることに注意する必要があります。使用者は、締結した労働契約のすべてに従い、労働者のために、労災保険に加入するものとされています(同法43条2項)。

残業規制や休暇等の取扱いについて

 勤務時間や残業時間の制限については、副業・兼業をする労働者のためには、個別的に定められていません。
 そもそも、労働時間や残業時間の規制は、使用者が労働者を搾取することを防ぐために、労働者ではなく使用者に対して定められるものです。つまり、この規制に違反した場合、処分を受けるのは、労働者ではなく使用者です。そのため、副業・兼業をする労働者は、すべての労働契約の内容を履行することを確保できる限り、それぞれの労働契約に従って勤務・残業をすることができ、またそれぞれの使用者が法定勤務時間や残業時間の制限を遵守すれば良いことになります。
 たとえば、2つの仕事をする労働者は、(もちろん、すべての労働契約の内容の履行を確保できることを条件とすることを前提としています)、業種によりますが、一般的に年に400時間(200×2)か600時間(300×2)まで残業をすることができます。国防・治安や緊急事態に関する仕事(労働法108条)以外においては、使用者が残業時間・場所・内容について労働者と合意しなければならないため、法律は、労働者の勤務を制限する必要もないと考えられています。

 休暇時間についても同様です。すなわち、労働者は、それぞれの労働契約で定めた規定に従い、休暇を取ることができます。

業務委託との関係等について

 主たる労働契約以外に業務委託契約を締結することも、法律上特段の制限等がないため、可能といえます。

 業務委託契約は、民法上の契約であるため、民法の規定に基づき締結・履行・終了されるものとされています。業務委託契約と労働契約は、共通点が多いため、多くの場合に、これらを区別するのは安易ではありません。しかし、業務委託契約と労働契約の根本的な違いは、契約当事者の業務指導・支配関係にあると考えられます。すなわち、労働契約は、労働成果のみに注目するものではなく、労使関係を成立させ、労働過程において労働者を使用者の業務指導・規則に服従させるものである一方、業務委託契約は、委託成果を第一の注目事項とし、その成果を作り出す過程において受託者に大きな裁量を与えるものです。これらの労働契約該当性の判断は日本の労働法等の考え方と類似のものといえますが、具体的な事案で、使用者・委託者が成果の作り出す過程において、どの程度労働者・受託者を支配・指導したいか・する必要があるか等の考慮要素を元に個別的に判断されるものであり、今後の裁判例等の積み重ねによる明確化を待つ必要があります。

 また、業務委託契約を締結した者が社会保険・健康保険・労災保険に加入する必要がないことから、業務委託契約を利用することで労使関係を隠匿する者がままみられます 3。このようなケースが発見されると、違反者は、政令28/2020/NĐ-CP号第8条に基づく行政処分を課されることに留意する必要があります。

 現在、副業・兼業をする労働者の統計はありませんが、一箇所の賃金だけで生活水準を維持できない労働者が多いため、ベトナムでは一般的に副業・兼業を行う人が多いとされています。しかし、多くの場合は、書面による労働契約や業務委託契約が締結されていないのが実情のようです。労働者の法律知識が欠けることも理由の1つですが、ベトナムの賃金や税金の管理制度が整備されておらず、労働者や使用者の実際の支出を徹底的に監督できていないために自己での事業を行いやすく、また使用者がいれば、使用者の方でも契約締結義務を簡単に回避できることが要因となっています。

副業・兼業しやすい業種は、拘束時間があまり求められない製造業やサービス業があげられますが、さらに近時では、コロナ禍のため、インターネットを利用した販売業のほか、保険仲介業や証券仲介業等が流行しているようです。


  1. 「職業選択の自由があり、法律が禁止しない限り、いかなる使用者に対しても、いかなる場所でも勤労をすることができる」 ↩︎

  2. 「労働者、使用者に困難・妨害を惹起する、またはその権利および合法的利益を損なう行為を厳禁する」 ↩︎

  3. ベトナム政府によるニュースサイト(https://baochinhphu.vn/truong-hop-nao-ap-dung-hop-dong-khoan-viec-102244857.htm) ↩︎

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