飲み会自粛の要請を無視して新型コロナに罹患した従業員への対応
人事労務当社では、新型コロナウイルス感染予防の観点から3名以上での夜の飲食を控えるように要請していました。ところが当社従業員6名が仕事終わりに居酒屋とカラオケに行き、その後、参加者の中から新型コロナウイルス陽性者が数名出てしまいました。しかも当初、従業員は「飲み会はしていない」とウソの報告をしていました。このような従業員に対して処分等はできるのでしょうか。
私生活上の行為であっても、会社の社会的信用性や企業秩序に影響を与えるような場合は注意指導することはできますが、人格を否定するような注意指導は避けてください。また、新型コロナウイルスに感染したという結果の責任を問うのではなく、夜の飲み会を控えるように要請していたのに従わなかったという行為や会社の調査に対して虚偽の事実を報告したという行為を問題にして注意指導すべきです。
解説
私生活上の行為に対する注意指導の可否
新型コロナウイルス感染予防の観点から、夜の飲み会等を自粛するよう従業員に通達している企業が多くあると聞きます。
本来、仕事から離れた私生活の領域においては、基本的に従業員本人の自由であり、会社が細かく指示することはできません。仕事終わりの私的な飲み会についても同様で、本来は会社が細かく指示すべきことがらではありません。
もっとも、私生活上の行為であっても、その行為によって会社の社会的信用性や企業秩序を低下させたり、会社に損害を与えたりしたような場合は、注意指導や懲戒処分等の対象になり得ます。たとえば、従業員が休みの日に刑事事件を起こし、報道がなされて会社名などが明らかになったような場合などです。
「社員・従業員が新型コロナに感染した際の労務対応チェックリスト– 初動から対外的発表まで」で解説したとおり、従業員の新型コロナウイルスへの感染がわかった場合、会社は、濃厚接触者の特定、濃厚接触者への自宅待機などの指示、社内の消毒の実施、社内社外への報告、場合によってはその他の従業員の出社制限や営業そのものの停止といった様々な対応を迫られます。
したがって、新型コロナウイルス感染予防や企業防衛の観点から、夜の飲み会を自粛するよう要請することは業務上必要であり許容されると考えます。また、病院など院内感染により多大な影響を及ぼすような業種においては、場合によっては要請にとどまらず、業務命令として夜の飲み会をしないよう指示する必要性もあるのではないかと考えます。
結果ではなく行為を問題にする
カラオケボックスなどの一定の空間において複数名が同時に感染したというように、感染場所が推定できる場合もありますが、「いつ、どこで感染したか」が明確に特定できない場合もあります。したがって、従業員に対する注意指導の対象は、新型コロナウイルスに感染したという結果の責任を問うのではなく、夜の飲み会を控えるように指示していたのに従わなかったという行為や会社の調査に対して虚偽の事実を報告したという行為を問題にして注意指導すべきです。
では、注意指導するとして懲戒処分までを検討すべきでしょうか。あくまで私生活上での問題であること、夜の飲み会を控えるようにとの要請にとどまること、新型コロナウイルス感染やその後の社内感染までの責任(因果関係)を問えるか否かは微妙な問題です。そのため、飲み会を実施した者の役職、頻度、内容、理由、会社からの聴取に対して虚偽の報告をしたか否か等を総合して、厳重注意にとどめるか、懲戒処分を行ったとしても譴責などの軽めの処分で反省を促すことが望ましいと考えます。なお、病院など多大な影響を及ぼすような業種において、かかる業務指示に違反したという場合には、上記の事情を考慮し、要請にとどまる場合よりもやや重い懲戒処分を検討すべき場合もあろうかと思います。
また、会社からの聴取に対して虚偽の報告をするなど、悪質な事案では、人事考課や賞与査定の際の考慮要素とすることも検討すべきです(この事案だけで賞与を大幅に減額すると、査定の妥当性の問題に発展するため、あくまで一要素にとどめるべきです)。
注意指導の方法を間違えない
このような事案において問題になるのは、注意指導の方法です。たとえば、社内の一斉メールで固有名詞を出して非難したり、「こんな時期に飲み会を開くなんて人としてどうかと思う」、「神経を疑う」などの個人の人格を否定するような発言をしてしまうと、注意指導の必要性があったとしても、別途、注意指導の方法が不適切であったとの指摘を受ける可能性があります。あくまで問題となった行為について注意指導を行うこと、個別に注意指導すること、社内に対しては抽象的にそのような夜の飲み会を控えるよう改めて周知徹底するという対応を心がけてください。
まとめ
新型コロナウイルス感染予防は、従業員一人ひとりの心がけと会社の予防対策の徹底にかかっています。会社も、従業員が夜の飲み会を実施していたことや、そこで新型コロナウイルス感染者が出たという結果を責めてしまいがちですが、本稿で説明したとおり適切に注意指導を行い、さらなる感染予防の周知徹底を行っていただければと思います。
【関連するBUSINESS LAWYERS LIBRARYの掲載書籍】
『新型コロナウイルス影響下の人事労務対応Q&A』
編著等:小鍛冶広道
出版社:中央経済社
発売日:2020年07月29日
BUSINESS LAWYERS LIBERARYで読む
『社員の問題行為への適正な対応がわかる本―初動対応から懲戒処分等・再発防止策の実行に至るまで―』
発売日:2019年09月10日
出版社:第一法規
編著等:牛嶋・和田・藤津法律事務所 牛嶋 勉 和田 一郎 藤津 文子 吉永 大樹 著
BUSINESS LAWYERS LIBERARYで読む
『不祥事発生! 中小企業向け 社内調査の進め方』
発売日:2021年06月07日
出版社:労働新聞社
編著等:瓦林 道広
BUSINESS LAWYERS LIBERARYで読む

杜若経営法律事務所