在宅勤務時の通勤定期代支給の判断基準 規定例から「同意書」例まで

人事労務
岸田 鑑彦弁護士 杜若経営法律事務所

 当面の間、従業員は在宅勤務としています。1か月にわたってまったく会社に出社しない従業員もいますが、通勤手当は支払わなければならないのでしょうか。

 賃金規程の定め方によります。通勤手当を交通費の「実費」の趣旨として支給する旨の規定がある場合は、通勤手当の支払いは不要です。まずは賃金規程の通勤手当(通勤交通費・定期代)に関する支給ルールを確認します。そして在宅勤務の頻度等を勘案し、定期代と交通費の実費精算のどちらが合理的かを判断しましょう。また今後の在宅勤務を想定して通勤手当の支給ルールの見直しも検討すべきです。  

解説

目次

  1. 通勤手当に関する考え方
  2. 通勤手当を通勤費の「実費」の趣旨として支払うことが明記されている場合
  3. 通勤手当を通勤費の「実費」の趣旨として支払うことが明記されているが、「1か月定期代」など支給方法が特定されている場合
  4. 通勤手当を交通費の実費とは無関係に一律で支給している場合
  5. 雇用契約書や賃金規程に通勤手当の支給ルールが明記されていない場合
  6. 通勤手当の支給に関する規定例
  7. 在宅勤務期間中における通勤手当の支給に関する同意書の例

通勤手当に関する考え方

 労働基準法上、使用者は、通勤に関する費用の支払いを義務付けられていません。しかし、各社が人材獲得や福利厚生の観点から、独自にルールを設けて支給しているのが通勤手当です。この通勤手当をどのように支払うかは労使の合意(賃金規程)に基づきます。基本的には賃金規程に通勤手当の支給ルールが規定されているため、その内容を確認してください。

通勤手当を通勤費の「実費」の趣旨として支払うことが明記されている場合

 通勤手当は、従業員ごとに、その利用する公共交通機関の種類、経路を申告させ、会社が最も経済的かつ合理的な経路を認定し、その経路に相当する額を支給するのが一般的です。

 たとえば「通勤手当は、通勤に公共交通機関を利用する者に対して、その運賃、時間、距離等の事情に照らし、会社が最も経済的かつ合理的と判断した通勤経路及び方法によって算出し、支給する」と規定している場合です。

 このように、通勤手当が通勤費の「実費」の趣旨であることが明確な場合には、1か月の在宅勤務により実費が一切発生していない以上、通勤手当の支給は不要となります。

 なお会社によっては、定期代の6か月相当額をあらかじめ支給しているケースもあります。そのような場合には、定期の払い戻しをするか否かの検討が必要になります。払い戻しに関しては従業員の判断に任せず、会社で指示をしてください。

 また、完全な在宅勤務ではなく、週の半分は出勤するなど、通勤費が発生する場合は、定期代の支給と出社した日の交通費の実費精算のどちらが安いかを考慮して支給方法を判断すべきです。

通勤手当を通勤費の「実費」の趣旨として支払うことが明記されているが、「1か月定期代」など支給方法が特定されている場合

 上記2とは、通勤手当が通勤費の「実費」の趣旨であることは同じであるものの、支給方法が「1か月定期代」などと特定されている点で異なります。

 この場合でも、通勤手当が通勤費の実費の趣旨である以上、在宅勤務により実費が一切発生していない場合は通勤手当を支給する必要はないと考えます。

 問題は、週1回は出勤日があるなど、実費が発生する場合です。通勤手当をどのように支払うかは労使の合意(賃金規程)に基づくため、会社が、実費の支払い方法として、1か月定期代を支給すると特定している以上、この規定に基づき1か月定期代を支給する必要があると考えます。

 そのため今後はこのような在宅勤務を想定して「在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を賃金支給日に支給するものとする」(厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」20頁)のような支給ルールを定めた方がよいでしょう。

 なお、このような支給ルールの変更は、従業員の同意を得て行うのが望ましいです(下記「在宅勤務期間中における通勤手当の支給に関する同意書」参照)。もっとも、あくまで通勤費の実費の支給方法の問題であり、本来、従業員がそれによって得や損をする性質のものではないため、このような規定の変更については不利益変更ではないか、仮に不利益変更だとしても不利益の程度が小さいと考えることもできます。

通勤手当を交通費の実費とは無関係に一律で支給している場合

 従業員の通勤経路や費用に関係なく、一律に「通勤手当」と称して支給している場合には、そもそも通勤手当が交通費の実費の趣旨として支払っているものとはいえないため、仮に在宅勤務で全く出社していない場合でも支給をしなければならないと解されます。

雇用契約書や賃金規程に通勤手当の支給ルールが明記されていない場合

 これまでの会社での取扱いや当事者の認識などを踏まえて、上記2から4のどの運用に近いかを判断せざるを得ません。

 なお、賃金規程に通勤手当に関する支給ルールの規定がなくても、たとえば欠勤控除に関する規定において「1か月間、欠勤などで通勤の実態が一切ない場合は通勤手当を支給しない」等の手がかりになる規定があることもありますので、念のため、通勤手当の部分だけではなく、欠勤控除に関する規定の部分もご確認ください。


通勤手当の支給に関する規定例

(通勤手当)
  1. 通勤に電車、バス等の交通機関を利用する社員には、通勤に係る実費支給を目的として1か月定期代相当額の通勤手当を支給する。
  2. 通勤の経路及び方法は、最も合理的かつ経済的であると会社が認めたものに限る。また、場合によっては1か月定期代相当額の通勤手当ではなく、経費精算で実費を支給することがある。
  3. 在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を賃金支給日に支給するものとする。

在宅勤務期間中における通勤手当の支給に関する同意書の例



在宅勤務期間中における通勤手当の支給に関する同意書



株式会社●●
代表取締役 ●● 殿

 私は、在宅勤務期間中における通勤手当の取り扱いに関し、貴社から通勤手当の支給方法の変更に至る経緯・理由、在宅勤務実施予定期間、及び通勤手当の支給方法について説明を受けましたので、当該取り扱いについて同意いたします。

【在宅期間中における通勤手当】
  1. 在宅勤務実施予定期間:令和●年●月●日~令和●年●月●日

  2. 在宅勤務期間中における通勤手当の取り扱い
    在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に●日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を給与支給日に支給するものとする。


令和   年   月   日

            所 属

 

  氏 名               印 




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