消滅時効についての民法改正の概要

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西中 宇紘弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 令和2年(2020年)4月1日から施行されている「民法の一部を改正する法律」(以下、「改正民法」といいます)では、消滅時効に関する規定についても大幅に改正されたと聞きました。どのような改正がされたのか概要を教えて下さい。

 消滅時効制度に関して改正民法において、改正前民法から大きく変更がされた点は以下の4点です。

  1. 債権の消滅時効期間が、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することができる時から10年間に変更された。
  2. 「中断」という概念が「更新」に、「停止」という概念が「完成猶予」にそれぞれ変更された。
  3. 「更新」事由と「完成猶予」事由の整理が行われた。
  4. 協議による時効の完成猶予に関する規定を新設した。

解説

目次

  1. 消滅時効とは
  2. 債権の消滅時効期間
    1. 民法の改正内容
    2. 改正による影響
  3. 「中断」と「停止」から「更新」と「完成猶予」へ
    1. 改正内容
    2. 改正による影響
  4. 「更新」事由と「完成猶予」事由の整理
    1. 改正内容
    2. 改正による影響
  5. 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予
    1. 改正内容
    2. 改正による影響
  6. 時効に関する経過措置

消滅時効とは

 ある事実状態が一定の期間継続した場合に、その事実状態を尊重して権利の取得や消滅を認める制度が「時効」です。

 時効には、取得時効と消滅時効の2種類の制度があります。このうち「消滅時効」とは、ある権利が行使されない状態が一定期間継続した場合に、その権利の消滅を認める制度です。

 消滅時効の対象となる権利は、債権と債権または所有権以外の財産権であり、権利ごとに定められた消滅時効期間が経過して時効が完成したうえで、当事者によって時効が援用されると権利が消滅します。

 改正民法では、民法において定められている消滅時効に関する規定について大きく改正が行われました。本稿では、その改正内容について解説します。

債権の消滅時効期間

民法の改正内容

改正民法第166条(債権等の消滅時効)
  1. 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

    一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

    二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

  2. 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
  3. 前2項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

 改正民法においては、債権者が権利を行使できる時(客観的起算点)から10年が経過したときに加えて、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年が経過したときも、債権は時効によって消滅するとされています(改正民法166条1項)。

 改正前民法では、債権の消滅時効の原則的な時効期間を、「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年と定め(改正前民法166条、167条)、その上で商行為によって生じた債権については5年間(改正前商法522条)とし、その他職業別に短期間の時効期間を別途定めていました(改正前民法170条~174条)。

 したがって、改正民法においては、主観的起算点から5年間による消滅時効を認める点が改正前民法から大きく変わった点になります。また、職業別の短期消滅時効期間を定めている改正前民法170条~174条は削除されました。さらに、商事債権の時効期間を5年間と定めていた改正前商法522条の規定も削除されています。

 以上により、債権の種類ごとに、まちまちになっていた時効期間は、原則として「主観的起算点から5年間・客観的起算点から10年間」に統一されることになりました。

時効期間は原則として「 主観的起算点から5年間・客観的起算点から10年間」に統一

改正による影響

 改正民法においては、客観的起算点と主観的起算点の2つを認めていることから、一見すると時効管理が大変になるように思いますが、契約に基づく履行請求権について言えば、通常は期限が到来した場合に債権者はそのことを認識しているため、客観的起算点と主観的起算点は一致します。そのため、原則的な時効期間は債務の履行期から5年となります。これは、商事債権については、改正前商法による結論と同じです。

 また、商品の売掛金債権や工事請負代金債権など、改正前民法において短期消滅時効の対象となっている債権については、消滅時効期間が長期化することになります。

「中断」と「停止」から「更新」と「完成猶予」へ

改正内容

 改正前民法においては、消滅時効の進行や完成を妨げる事由として、「中断」と「停止」を定めていました。「中断」とは、時効進行中に時効の基礎となる事実状態の継続が破られたことを理由に、それまで進行してきた時効期間をリセットして1から時効期間を再スタートさせるもの、「停止」とは、時効完成の直前に、権利者による時効中断を不可能又は著しく困難にする事情が生じた場合に、その事情が解消された後一定期間が経過する時点まで時効の完成を延期するものです。

 改正民法においては、これら「中断」と「停止」という概念を、意味内容はそのままにそれぞれ更新」と「完成猶予という言葉に変更しました。

 この変更は、意味内容と語感を一致させる趣旨です。すなわち、改正前民法の「中断」という言葉は、その時点で一旦止まり再度その時点から進行することをイメージさせ、「停止」という言葉は、その時点で確定的に止まることをイメージさせるため、それぞれの意味内容と照らし合わせれば必ずしも法律専門家以外の一般の方にわかりやすい言葉ではありませんでした。
 そこで、「中断」については、リセットするという意味内容をより端的に表現する「更新」という言葉に、「停止」については時効の完成を延期するという意味内容をより端的に表現する「完成猶予」という言葉にそれぞれ変更されたのです。

「中断」と「停止」から「更新」と「完成猶予」へ

改正による影響

 概念の変更にすぎないため、改正による影響はほぼないものと思います。

「更新」事由と「完成猶予」事由の整理

改正内容

改正民法第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
  1. 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

    一 裁判上の請求

    二 支払督促

    三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停

    四 破産手続参加、再生手続参加又は更正手続参加

  2. 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了したときから新たにその進行を始める。

 また、言葉の変更とともに、「更新」事由とされるものと「完成猶予」事由とされるものの整理も行われています。改正民法の条文は上記のとおり規定されています。

 当該規定からもわかるとおり、改正民法においては、権利行使の意思を明らかにしたと評価できる事実が生じた場合を「完成猶予」事由に、権利の存在について確証が得られたと評価できる事実が生じた場合を「更新」事由に割り振っています

 改正前民法においては、①請求、②差押え、仮差押又は仮処分、③承認が時効中断事由として規定されていましたが、これらは以下のとおり整理されました。

(1) 請求

 裁判上の請求や、支払督促、和解及び調停の申立て破産手続参加等は、全て「完成猶予」事由とされ、その手続が継続している間は時効が完成しないとしながら、取下げ等によって手続が途中で終了した場合は、その終了の時から6ヶ月が経過するまでは時効が完成しないとされています(改正民法147条1項)。そして、これらの手続が途中で終了することなく、確定判決が下る等して権利が確定したときは「更新」事由となるとされています(改正民法147条2項)。

 改正前民法においても、裁判上の請求・支払督促・和解の申立て又は調停の申立て・破産手続参加等が取下げ等により途中で終了した場合は、時効の中断の効力は生じないとしており(改正前民法149条~152条)、改正民法の内容は、実質的には改正前民法のルールを維持するものといえます。

 また、催告は、「完成猶予」事由とされ、催告の時から6ヶ月を経過するまでは時効が完成しないとされています(改正民法150条1項)。催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告には、時効完成猶予の効力は認められない旨が明文で規定されています(改正民法150条2項)。第1項については、改正前民法のルールを維持するもので、第2項については判例法理を明文化するものと整理できます。

(2) 差押え、仮差押又は仮処分

差押え
改正民法第148条(強制執行手続等による時効の完成猶予及び更新)
  1. 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
     一 強制執行
     二 担保権の実行
     三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
     四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
  2. 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了したときから新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律上の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りではない。

 差押えとは、強制執行手続の中で、執行機関が債務者の財産の処分を禁止し、その財産を確保する行為のことです。改正民法では、強制執行手続の中の一行為である「差押え」を更新事由とは定めず、端的に、強制執行手続本体を「完成猶予」事由としています(改正民法148条1項)。

 また、強制執行等の手続の終了を「更新」事由と定め、取下げ等によって途中で終了した場合は、例外的に「更新」事由に当たらないと規定しています(改正民法148条2項)。この点も、実質的には改正前民法のルール(改正前民法154条等)を維持するものと整理できます。

仮差押え又は仮処分
改正民法第149条(仮差押等による時効の完成猶予)
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
 一 仮差押え
 二 仮処分

 仮差押え又は仮処分は、改正前民法では中断事由とされているところ、改正民法では、「完成猶予」事由とされています(改正民法149条)。
 裁判上の請求等や強制執行等とは異なり、「更新」事由に該当する場合はありません。これは、仮差押えや仮処分の暫定性を考慮すれば、未だ権利の存在に確証が得られたと評価することはできず、「更新」事由とすることは効果として過大であると考えられたためで、この点は改正前民法の内容を実質的に変更するものと整理できます。

(3)承認

改正民法第152条(承認による時効の更新)
  1. 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
  2. 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

 承認については、改正民法においても、「更新」事由とされており、改正前民法からの実質的な変更はありません(改正民法152条)。

更新 権利行使の意思を明らかにしたと評価できる事実が生じた場合
  • 裁判上の請求
  • 支払督促
  • 和解および調停の申立て
  • 破産手続参加等
  • 承認
完成猶予 権利の存在について確証が得られたと評価できる事実が生じた場合
  • 催告
  • 仮差押
  • 仮処分

改正による影響

 基本的には、改正前民法における解釈や判例法理を整理して明文化するものであるため、大きな影響はないものと思います。  

協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

改正内容

改正民法第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
  1. 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。

    一 その合意があった時から1年を経過した時

    二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時

    三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、との通知の時から6箇月を経過した時

  2. 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
  3. 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第1項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
  4. 第1項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前3項の規定を適用する。
  5. 前項の規定は、第1項第3号の通知について準用する。

 改正民法においては、協議を行う旨の合意をすることが、「完成猶予」事由の一つとして新設されました(改正民法151条1項)。

 すなわち、権利についての協議を行う旨を書面で合意した場合、合意から1年間(これより短い協議期間を定めたときはその期間)、時効の完成が猶予されます

 協議を行う旨の合意を書面でしたことによって時効の完成が猶予されている間に、再度協議を行う旨の合意を書面で行った場合、当初の時効期間満了予定時から5年間を超えない範囲内では再度の完成猶予の効力を持つとされています(改正民法151条2項)。他方、催告によって時効の完成が猶予されている間に協議を行う旨の合意をした場合、及び協議を行う旨の合意を書面でしたことによって時効の完成が猶予されている間に催告を行った場合は、それぞれ、時効の完成は猶予されないとされています(改正民法151条3項)。

改正による影響

 債務者が債務の存在を認めているわけではないが、債権者との間で協議する意思を有しているような場合に、やむを得ず訴訟の提起を行うという選択以外に、協議を行う旨の合意を書面ですることで、1年間は時効の完成を猶予して、協議するという選択をすることができることとなりました。これによって、無用な訴訟提起のコストを減らすことが可能になります。

時効に関する経過措置

 最後に、以上に述べた改正民法の消滅時効に関する規定がそれぞれいつから適用されるのかについて説明します。

 上記2で述べた債権の消滅時効期間に関する改正内容は、施行日(2020年4月1日)前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む)には、適用されません(改正附則10条4項、同条1項)。すなわち、施行日前に債権が生じた場合はもちろん、施行日後にある契約に基づいて債権が生じた場合であっても、当該契約が施行日より前に締結されていた場合には、改正民法の規定は適用されず、なお旧民法が定める消滅時効期間の適用を受けることになります。

  また、上記3~4において述べた時効完成の障害事由にかかる改正内容は、施行日(2020年4月1日)前に中断や停止事由が生じた場合については適用されず、旧民法が定める規律が適用されることになります(改正附則10条2項)。逆に言えば、施行日前に発生した債権であっても、施行日以後は改正民法の更新・完成猶予の規定が適用されることになります。

 上記5で述べた協議を行う旨の合意による時効完成猶予の改正内容は、施行日(2020年4月1日)前に協議を行う旨の合意が書面でされた場合については適用されません(改正附則10条3項)。

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