ホワイトカラー犯罪とデジタル証拠

IT・情報セキュリティ

 ホワイトカラー犯罪という言葉を聞きますが、現代の企業において、特に、どのような類型のホワイトカラー犯罪が注目されていて、また、注目されるべきなのでしょうか。また、企業が、そのような犯罪について司法取引を行うということも考えなければならないのではないかと報道されていますが、具体的には、どのようなことになるのでしょうか。

 ホワイトカラー犯罪の典型としては、会社の役職員が会社の組織や事業の中で行う詐欺罪、横領罪、背任罪や、公務員による賄賂罪などが挙げられますが、企業が経済活動を行う過程で行われる税法違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反の罪などの財政経済犯罪が注目されています。
 2016年の刑事訴訟法の改正により、捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる日本版司法取引制度)が導入されました。今後、企業は役職員や他の企業の犯罪に係る刑事事件の捜査に協力して、企業自らの刑事処罰の減免を求めるといった場面も増加することが予想されます。

解説

目次

  1. 「ホワイトカラー犯罪」とは
  2. ホワイトカラー犯罪における証拠収集について
  3. ホワイトカラー犯罪対策の重要性の拡大
  4. 日本版司法取引制度の導入
  5. 日本版司法取引制度による影響
※本記事は、高橋郁夫・鈴木誠・梶谷篤・荒木哲郎・北川祥一・斎藤綾・北條孝佳/編集「デジタル法務の実務 Q&A」(日本加除出版、2018年)の内容を転載したものです。

「ホワイトカラー犯罪」とは

 ホワイトカラー犯罪とは、社会的地位の高い人物がその職業・地位を利用するなどして行う犯罪をいいます。典型的には、会社の役職員が会社の組織や事業の中で行う詐欺罪(刑法246条)、横領罪(同法252条、業務上横領罪は同法253条)又は背任罪(同法247条)や、公務員による賄賂罪(同法197条以下)などが挙げられますが、企業が経済活動を行う過程で行われる税法違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反の罪などの財政経済犯罪も含まれます。また、組織ぐるみのホワイトカラー犯罪においては、多くの場合、犯人隠避(刑法103条)や証拠隠滅(同法104条)といった組織的な隠ぺい行為を伴うことが多々あります。

 ホワイトカラー犯罪の特徴としては、犯罪の構成要件が複雑であり、かつ、当該行為が様々な経済活動の一部として行われることが多いため、そもそも犯罪に該当するかどうかの判断が困難であるということがあります。また、自由経済秩序を保護法益とする独占禁止法における私的独占のような類型では、犯罪が行われたこと自体が顕在化しにくく、さらに、企業の利益のために行われ、組織ぐるみで犯罪が発覚しないように工作される場合もあるため、発覚が困難であるという特徴もあります。

 そして、デジタル社会においては、業務のほとんどが電子メールや電子ファイルなどの電子データによるやりとりがなされるため、ホワイトカラー犯罪が発生した場合に、組織的に証拠としての電子データの改ざんや消去が行われることが少なくありません。捜査機関は多数のデジタル証拠を証拠として押収し、膨大な電子データの中から決定的な証拠を抽出し、分析しなければならないといった課題が生じています。特に、メールサーバやファイルサーバ等、大容量を有するサーバのデータを全てコピーすることは現実的ではありませんので、当該サーバの管理者の協力が不可欠になっています。

ホワイトカラー犯罪における証拠収集について

 一般的な犯罪の捜査では、まずは警察がそのほとんどを行い、警察は捜査した事件を検察官に送致し、検察官が必要に応じて更に捜査を行った上で刑事訴追をするか否かの判断を行います。
 他方、賄賂罪や財政経済犯罪では、警察が関与せず、検察官が「独自捜査」を行うこともあります。
 警察・検察官いずれの捜査活動においても、令状に基づく逮捕・勾留や捜索・差押えといった強制処分の方法を用いて、証拠収集がなされます。
 ホワイトカラー犯罪の特色として、警察・検察官といった捜査機関ではなく、国税局、公正取引委員会、証券等監視委員会などの法執行機関が証拠収集を行う場合があります。

 刑事処罰を科すことを目的とする捜査とは異なるものとして、行政機関が、行政上の処分(税法上の更正処分や、インサイダー取引に対する課徴金納付命令など)を行うことを目的とする「行政調査」があります。また、行政機関が、刑事訴追を行う検察官に対し、情報提供や刑事告発を行うかを判断するために調査を行う「犯則調査」があります。犯則調査は、実質的には捜査機関が行う捜査に近く、令状に基づく臨検・捜索・差押えが認められていますが、行政調査では、質問に対する虚偽答弁や、立入検査の妨害について刑事罰が科されるという、間接強制によってその実効性が担保されています。

ホワイトカラー犯罪対策の重要性の拡大

 近年、企業のコンプライアンスが強調されている中で、企業の役職員が関与するホワイトカラー犯罪が発生した場合、当該企業に対するレピュテーションダメージは甚大なものとなります。そして、特に財政経済犯罪の分野においては、法改正が続いており、また、法執行機関による摘発も積極化しているため、企業にとって、財政経済犯罪への対策及び対応の重要性が増しているものといえます。

 実際に、企業が捜査・調査を行う関係機関からの事情聴取、資料提出などの要請を受けた場合、当該関係機関に事実誤認などがあるときは早期にこれを是正して、不当な処罰を受けないようにしなければなりません。他方で、捜査・調査に係る事実が認められる場合は、令状に基づく強制処分であるか、任意の捜査・調査であるかにかかわらず、企業は、関係機関に対して誠実に対応し、協力することが重要です。さらに、2016年の刑事訴訟法の改正により、捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる日本版司法取引制度)が導入されましたので 1、この制度を有効に活用しなければならない場面が生じてくるでしょう。

 そのためには、犯罪事案に限らず企業不祥事全般にいえることであり、また、日本版司法取引制度が導入される以前からも同様ですが、早期の徹底した社内調査の実施により、正確な事実関係の把握をすることが必要となります。

日本版司法取引制度の導入

 日本版司法取引制度は、検察官が、「特定の犯罪」について、弁護士の同意を条件に、被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述等をし、検察官が不起訴や特定の求刑等をする旨の合意ができるものです。この制度は、「他人の犯罪」に関する捜査協力をすることと引換えにするものであり、「自己の犯罪」についての捜査協力をしても、司法取引を利用することができないことに留意が必要です。なお、企業などの法人も、被疑者・被告人となり得るため、企業もこの日本版司法取引における合意の主体となり得るといわれています 2

 日本版司法取引において、被疑者・被告人が提供できる取引の内容は、①捜査機関の取調べに際して真実を述べること、②証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること、③捜査機関による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすることとされています(刑訴法350条の2第1項1号)。

 他方、検察官が提供できる取引の内容は、①公訴を提起しないこと、②公訴を取り消すこと、③特定の訴因及び罰条により公訴を提起し、又はこれを維持すること、④特定の訴因若しくは罰条の追加若しくは撤回又は特定の訴因若しくは罰条への変更を請求すること、⑤求刑において特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること、⑥即決裁判手続の申立てをすること、⑦略式命令の請求をすることとされています(刑訴法350条の2第1項2号)。

 また、手続としては、検察官との合意には弁護人の同意が必要とされ(刑訴法350条の3第1項)、また、その協議の段階から弁護人が関与することが必要であり(刑訴法350条の4)、合意内容は書面により明らかにしなければなりません(刑訴法350条の3第2項)。その合意書面は、当該被疑者に対する被告事件の公判で取調べの対象となり(刑訴法350条の7第1項)、また、その他人の刑事事件の公判での取調べの対象ともなりますので(刑訴法350条の8、同法350条の9)、司法取引をした事実とのその内容は、公開される可能性が高いということになります。

 なお、協議の結果、被疑者・被告人と検察官との合意が成立しなかった場合の取扱いについては、協議において行った他人の犯罪事実についての供述は、その供述自体が証拠隠滅などに当たる行為である場合を除いて、証拠とすることができないものとされています(刑訴法350条の5第2項、同3項)。もっとも、かかる供述を手掛かりとして、捜査機関が更に捜査を行い新たな証拠(いわゆる「派生証拠」)を得た場合には、当該派生証拠を公判の証拠とすることは禁止されていないと考えられますので、注意が必要となります。

日本版司法取引制度による影響

 この制度の対象となる「特定の犯罪」(刑訴法350条の2第2項)には、詐欺罪、横領罪、背任罪、賄賂罪のほか、租税法違反、独占禁止法違反、金融商品取引法違反の罪その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるものとされており、ホワイトカラー犯罪とされる罪が広く含まれ、また、企業が関連する犯罪で問題となることの多い犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪も含まれるため、企業の犯罪に対する捜査手法が大きく影響を受ける可能性があります。

 例えば、企業が関わる犯罪においては、まず会社の下位の従業員から供述を引き出し、それをもとに企業の上層部や企業自体の刑事責任を追及していく「突き上げ捜査」と呼ばれる捜査手法が行われます。この突き上げ捜査において、下位の従業員について不起訴を条件とすることで、これまで以上に企業の上層部や企業自体の犯罪行為への関与についての供述を引き出しやすくなります。

 そうすると、企業の上層部及び企業自体としては、犯罪を組織ぐるみで隠蔽することが困難となることに加え、かえって、捜査機関による事案解明に協力することで刑事責任を軽減できるようになります。

 したがって、社内で犯罪の疑いを検知した場合には、自発的に社内調査を行い、捜査に先行又は並行して事案の解明を進めることが望ましい場合も増えてくることが予想されます。

 なお、日本版司法取引制度が適用される場合には、役職員と役職員との間、又は役職員と企業との間で利益相反が生じることが予想されますので、企業から社内調査を受任した弁護士としては、利益相反関係への留意が必要となります。

デジタル法務の実務 Q&A
  • 参考文献
  • デジタル法務の実務 Q&A
  • 著者:高橋郁夫・鈴木誠・梶谷篤・荒木哲郎・北川祥一・斎藤綾・北條孝佳/編集
  • 定価:本体 4,400円+税
  • 出版社:日本加除出版
  • 発売年月:2018年11月

  • ※上記テキストリンクは、BUSINESS LAWYERS LIBRARYの当該書籍ページへ遷移いたします。

  1. 2018年6月1日に施行されました。 ↩︎

  2. 平成27年5月20日付第189回衆議院法務委員会第15号議事録(林眞琴法務省刑事局長発言) ↩︎

この実務Q&Aを見ている人はこちらも見ています

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する