位置情報等の活用と法規制

IT・情報セキュリティ
永井 徳人弁護士 光和総合法律事務所

 個人の位置情報やそれを活用する技術にはどのようなものがありますか。
 また、位置情報等を消費者の行動分析等に利用する場合には法的にどのような問題が生じますか。

 近時、GPS、携帯電話の基地局やWi-Fiのアクセスポイント等から取得する個人の位置情報が様々なサービスに利用されています。こうした位置情報は、プライバシー性が高いため、位置情報を活用する場合には、個人情報保護法をはじめとしたプライバシー保護の観点が必要です。

解説

目次

  1. 位置情報とその活用シーン
  2. 位置情報の種類と技術的背景
  3. 位置情報を利用する際の法的な留意点
※本記事は、高橋郁夫・鈴木誠・梶谷篤・荒木哲郎・北川祥一・斎藤綾・北條孝佳/編集「デジタル法務の実務 Q&A」(日本加除出版、2018年)の内容をもとに一部追記、改訂、抜粋のうえ転載したものです。

位置情報とその活用シーン

(1)位置情報の現状

 位置情報は、人間や、その取り扱っている機器の位置を示す情報と定義することができます。

 1990年代には、GPS 1 の位置情報を用いたカーナビゲーションシステム(いわゆる「カーナビ」)が市販される等、位置情報は、従来から、一般消費者の間でも利用されてきました。そして、2010年代前半に、スマートフォンが爆発的に普及し、多くの機種にGPSが搭載されている現在、位置情報の重要性は、ますます高まっています。

(2)位置情報の活用

 近年、急速に普及するスマートフォンに蓄積される利用者情報のうち、位置情報の利活用に対する要望が高まっています。ユーザとしては、自己の位置情報(例えば、GPS機能)を利用することにより、付近の地図や店舗情報、天気予報など様々な情報を取得することができるようになっています。また、ビッグデータの利活用により、道路等が整備され、あるいは商業施設の新規展開等が促されるなど、地域全体が活性化し、社会生活全体の質が向上することが期待されます。位置情報を活用することで、例えば、「ユーザが今いる場所にタクシーを呼ぶ」といったアプリもあります。このようにユーザの利便性の向上に役立つのはもちろんですが、緊急時における安否確認や捜索活動など主として救命・救急活動のために活用したいとの要望も高まっています。さらに、位置情報は、マーケティングデータとしても、高い価値を持ちます。多くの消費者が肌身離さず持っているスマートフォンの位置情報を取得すれば、「いつ、どこにいたか」が分かり、さらに他のアプリの状況やユーザの情報等も組み合わせれば、「誰が(どのような属性の人が)、いつ、どこで、何をしていたか」まで分かります。こうした位置情報等のデータの蓄積は、有益なマーケティングデータとなり、消費者の行動パターンの分析やターゲティング広告 2 等、様々なシーンで活用されます。例えば、「あるユーザが昼頃に特定のレストランの近くを通った際に、そのレストランのランチのクーポンを配信する」といったサービスも可能になります。

位置情報の種類と技術的背景

 スマートフォン等で利用される位置情報としては、次のようなものが挙げられます。

(1)GPS

 GPSは、上記のとおり、カーナビ等でも使われているシステムです。

基地局に係る位置情報

出典:総務省「緊急時等における位置情報の取扱いに関する検討会 報告書 位置情報プライバシーレポート
~位置情報に関するプライバシーの適切な保護と社会的利活用の両立に向けて~」(平成26年7月)7頁
(以下、「位置情報プライバシーレポート」という。)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000303636.pdf

 ユーザの端末は、複数の人工衛星から信号を受信し、その信号を基に、現在地を計算します。衛星とユーザ端末との間で、直接、位置情報自体が送受信されているわけではありません。

 障害物等で衛星からの電波を受信しにくい場合等には、測位に誤差が生じるため、室内よりも屋外の方が、精度が高くなる傾向にあります。一般的には、数mから10m以上の誤差が発生することもあると言われていますが、最近では、衛星の配置により電波の受信状況を改善することで、数センチ程度の誤差にまで精度を上げることも可能になりつつあると言われています 3

位置情報プライバシーレポート

(出典:「位置情報プライバシーレポート」)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000303636.pdf

(2)携帯電話基地局の情報

 携帯電話は、最寄りの基地局を経由して通信しますが、通話やデータ通信等を行っていないときでも、微弱な電波を発して基地局と交信し、どの基地局のエリア内にあるかが把握されています。そのため、基地局には、その基地局のエリア内にいる携帯電話端末の情報が蓄積されています。

 1つの携帯電話基地局がカバーするエリアは、使用する電波の周波数等によっても異なりますが、その範囲で位置を特定でき、概ね数百m前後の誤差であると言われています。

 携帯電話の普及率が100%を超える 4 現代において、上記のような携帯電話基地局が保有する位置情報は、誰がどこにいるかを把握するための有効な手段となります。

(3)Wi-Fiの位置情報

 スマートフォン等、Wi-Fi(無線LAN)に接続して通信できる端末は、Wi-Fiの機能がOFFになっていない限り、特定のWi-Fiのアクセスポイントに接続して通信していないときでも、付近のWi-Fiのアクセスポイントの電波を受信しています。この際に取得される情報とWi-Fiアクセスポイントの所在地のデータベースを照合することにより、その端末の位置情報が特定されます。つまり、ある地点に存在するWi-Fiアクセスポイントの近くにいることが特定されるわけです。

 このWi-Fiアクセスポイントの所在地のデータベースには、公衆無線LAN等の所在地の情報が登録されている他、端末から送信されてくるWi-Fiアクセスポイントの情報等を基に、随時、情報がアップデートされています。

(4)ビーコン

 ビーコンは、低電力のBluetooth 5(BLE 6))等を用いてビーコン端末が定期的に発射する電波を、スマートフォン等のアプリが受信することで、位置情報等を取得する仕組みです。ビーコンの電波は、数cmから10m程度といった近距離までしか届かず、固定の地点に設置されたビーコン端末に近付くと、その電波を受信し、位置が特定されます。そのため、屋内でも活用しやすく、例えば、「スマートフォンを持ったある顧客が、店舗内の特定の棚の前にいる」といった状況まで特定することができます。

 2013年に、iPhoneに、ビーコンの技術を利用した「iBeacon」が標準搭載されたことから注目を集め、Android端末でもビーコンの仕組みが使われるようになっています。

(5)複数の手段の組み合わせ

 上記のような手段は、それぞれ、GPS衛星、携帯電話基地局、Wi-Fiアクセスポイント、ビーコン端末からの電波が受信できる場所でしか利用できません。また、その精度も上記のとおり様々ですが、複数の手段を組み合わせることによって、位置情報の精度を上げることができます。

 GPSの位置情報に加えて携帯電話基地局の情報を補助的に使用するA-GPS 7 や携帯電話基地局情報とWi-Fiアクセスポイント情報を組み合わせて使用する例などが見られます。なお、AppleやGoogle等が管理するデータベースでは、携帯電話基地局とWi-Fiアクセスポイントの両方の情報が登録されており、iPhone等のiOS端末やAndroid端末の位置情報を割り出すために利用されています。

位置情報を利用する際の法的な留意点

(1)プライバシー・個人情報

(a)プライバシー・個人情報保護の必要性

 上記1のように、位置情報は、ユーザの利便性を高める一方で、個人の行動履歴が事業者に筒抜けになってしまいます。そのため、ユーザのプライバシーを侵害しないように配慮する必要があります。

 基本的に位置情報単体では個人情報に該当しませんが、特定の個人を識別できる情報(ユーザの氏名、氏名等と容易に照合できるユーザID等)と紐付けられた位置情報は、全て個人情報に該当します。また、氏名等と紐付いていなくても、あるユーザについて長期間の位置情報が蓄積された結果、自宅と勤務先が特定できて、そのユーザ個人を識別できるような情報については、個人情報に該当する可能性があります。こうした個人情報に該当する位置情報については、個人情報保護法にしたがった取扱いが必要になります。具体的には、下記(b)、(c)のような取扱いのほか、漏えい等を防止する措置(安全管理措置)等の対応が必要です。さらに、外国人顧客を含むサービス等の運営状況等によっては、日本国内の法令のみならず、EU一般データ保護規則(GDPR 8))のように、域外適用される法令もありますので、注意が必要です。

 なお、携帯電話事業者をはじめとする電気通信事業者(電気通信事業法2条5号)が、位置情報を取得し利用する場合には、個人情報保護法のほか、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」9 の規定も確認する必要があります。

 また、個人情報に該当しない位置情報であっても、上記のとおり、プライバシー性の高い情報ですので、そのデータを活用したり、第三者に提供したりする際には、十分なプライバシー保護の観点から、個人情報に準じた取扱いをすることが望ましいと言えます。特に、上記のように、どこからが特定の個人を識別できる情報(=個人情報)か、線引きが難しくなるようなケースでは、個人情報に該当する可能性がある前提で取り扱う必要があるでしょう。

(b)位置情報を利用する方法

 個人情報に該当する位置情報を自社で利用する場合には、ユーザに通知等した利用目的の範囲内で利用する必要があります。この範囲を超えて利用するには、原則として、ユーザの同意を改めて得る必要があります。しかし、多くの場合、サービス等の契約締結後のユーザから改めて網羅的に同意を取得することは容易ではありません。そのような場合には、個人を特定できないように匿名化する等して利用することも考えられます。

 また、個人情報に該当しない位置情報も含め、あらかじめプライバシーポリシー等を定めてユーザに提示し、そのポリシーにしたがって取り扱うことが望ましいと言えます。位置情報をどのように利用するかについて、法的には同意の取得義務がないケースであっても、利用規約やプライバシーポリシー等で明示し、同意を得ておくことは、ユーザとのトラブルやレピテーションリスクを回避する上で有益です。

(c)位置情報を第三者に提供する方法

 位置情報を利用等するパターンとしては、①自社で取得した位置情報を自社のサービス等で利用する場合のほか、②自社で取得した位置情報を第三者に提供する場合、③第三者が取得した位置情報の提供を受けて自社で利用する場合が考えられます。②、③のように、位置情報が第三者に提供される場合、その位置情報が個人情報に該当すれば、原則として、ユーザの同意が必要です。

 また、匿名化する等して個人情報でない形態で、位置情報を第三者に提供することも効率的な方法です。提供先でターゲティング広告等に利用する場合には、個人情報のまま提供せざるを得ないケースも多いと考えられますが、消費者の行動パターンの分析等に用いるだけであれば、必ずしも特定の個人を識別する必要がないケースも十分に考えられます。このように、提供先での利用目的との関係やユーザから同意を取得する煩雑性等を考慮して、どのような方法をとるか選択するとよいでしょう。

(2)通信の秘密

 携帯電話基地局の情報のうち、通話やメール等の通信の際に用いられる位置情報は、通話やメール等の内容自体でなくても、通信の秘密(電気通信事業法4条1項)として保護されます 10。一方で、通話やメール等の通信をしていない際に、携帯電話端末と基地局との交信により把握される位置情報は、個々の通信にかかわるものではないため、通信の秘密の対象外となります。

出典:総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン
(平成29年総務省告示第152号。最終改正平成29年総務省告示第297号)の解説」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000603940.pdf

 また、電気通信事業者がWi-Fiのアクセスポイントを設置している場合、端末のユーザがWi-Fiアクセスポイントを経由して外部と通信する際に取得される位置情報は、通信の秘密に該当します。一方で、端末とWi-Fiアクセスポイント間の交信により取得される位置情報は、通信の秘密には該当しません。

 通信の秘密に該当する位置情報を、通信以外の目的に利用したり、第三者に提供したりするには、ユーザから有効な同意を取得する必要があります。なお、この同意については、利用規約等による包括的な同意では、不十分と考えられており、同意取得の方法については慎重に検討する必要があります 11

(3)犯罪捜査での活用

 GPS、携帯電話基地局等の位置情報は、国内外の犯罪捜査等にも活用されていますが、上記のとおり、プライバシー等との関係で、捜査機関がどのような手続を経る必要があるか問題となることもあります。2017年には、最高裁判決において、令状なしで行われたGPSによる捜査について違法と判断されています 12

 また、捜査機関が犯罪捜査のために携帯電話の位置情報を取得する際には、令状に基づき「検証」として行うのが日本国内における実務上の扱いとなっています 13

 アメリカでは、元CIA職員のスノーデン氏のリークにより、諜報機関である国家安全保障局(NSA)が世界中の50億台の携帯電話の位置情報を追跡していたことが明らかとなっています。海外の捜査機関では、携帯電話基地局になりすまして位置情報を収集するシステムを用いている例も報告されています。海外においても、こうした捜査が令状なしに行えるか、問題となっています。

デジタル法務の実務 Q&A
  • 参考文献
  • デジタル法務の実務 Q&A
  • 著者:高橋郁夫・鈴木誠・梶谷篤・荒木哲郎・北川祥一・斎藤綾・北條孝佳/編集
  • 定価:本体 4,400円+税
  • 出版社:日本加除出版
  • 発売年月:2018年11月

  • ※上記テキストリンクは、BUSINESS LAWYERS LIBRARYの当該書籍ページへ遷移いたします。

  1. Global Positioning System ↩︎

  2. 個別のユーザの情報を分析し、広告の対象となる商品に興味を持ちそうなユーザに対象を絞って広告を行う手法。 ↩︎

  3. 内閣府宇宙開発戦略推進事務局ウェブサイト「みちびき(準天頂衛星システム)」参照 ↩︎

  4. 2017年6月末時点の国内の携帯電話の契約数は、約1億6,411万件(総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ」)。 ↩︎

  5. 近距離で通信するための規格。 ↩︎

  6. Bluetooth Law Energy ↩︎

  7. Assisted-GPS(補助GPS) ↩︎

  8. General Data Protection Regulation ↩︎

  9. 平成29年4月18日総務省告示第152号(最終改正平成29年9月14日総務省告示第297号) ↩︎

  10. 東京地判平成14年4月30日(刊行物未登載) ↩︎

  11. 「位置情報プライバシーレポート」 ↩︎

  12. 最判平成29年3月15日(刑集71巻3号13頁) ↩︎

  13. 「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」34条3項、35条2項。判タNo.35石渡聖名雄「逃走中の被疑者の所在把握等のため、通信事業者内設置の装置から将来の携帯電話の位置情報を探索するために同装置の検証許可状を発布する際留意すべき事項」参照 ↩︎

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