Googleのサービスを利用したインターネット上の違法行為に対する米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用
IT・情報セキュリティYouTube上での他人の著作物の無断利用などGoogleのサービスを利用した違法行為が行われた場合、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)を利用して、違法行為者の当該サービスにおけるアカウント情報を取得することができますか。
可能です。最短で申し立てた即日に開示命令が発令されることがあり、迅速な権利救済が可能となります。
解説
目次
インターネット上の違法行為で利用されるGoogleのサービスの類型
別稿「サイバー犯罪における米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の活用」において、米国の証拠開示制度(ディスカバリー)の一般的な要件および利点をご紹介しました。
本項では、近時最も相談の多い類型であるGoogleが提供するサービスにフォーカスして、実務上の留意点をご紹介します。
Googleが提供するサービスは多岐にわたりますが、インターネット上の違法行為という文脈においては、以下のようなサービスが利用される傾向にあります。
- Google Maps上での誹謗中傷
- YouTube上での他人の著作物の無断利用
- Gmailを使った脅迫行為
違法行為が行われる際には、いずれも匿名(または偽名)でアカウントが作成されることが多いため、容易にはアカウント保有者が判別しないという点で共通します。
米国の証拠開示制度(ディスカバリー)で主張する権利の類型
証拠開示制度(ディスカバリー)を定める合衆国連邦法典第28編1782(a)(標題「外国及び国際法廷並びにその当事者のための援助」)は、要件の1つとして、「ディスカバリーが外国裁判所での手続のために用いられること(the proceeding is before a foreign "tribunal," and)」を要求していることからもわかるとおり、直接的には米国法(連邦法および州法)に基づく権利の侵害ではなく、外国裁判所において認定され得るであろう当該外国法に基づく権利の侵害を主張することになります。
たとえば、アカウント保有者による行為が、日本法における名誉権、著作権、営業権、プライバシー権といった権利を侵害していることを主張することになります。
ただし、その際の留意点として、米国法と日本法とで概念や要件が異なる権利については、可能な限り詳細な主張をすることが裁判官によるスムーズな理解につながり、ひいては認容命令の迅速な発令につながる実務上の印象です。
開示命令を求める申立書提出後の流れ
申立から裁判所の命令まで
申立書を提出すると、裁判官による審査を受けます。以前は、約1か月後にヒアリング(日本の仮処分手続における債権者面接に近いイメージです)を設定されて、申立書の内容について質問を受け、その後に命令が下されることがありました。
最近では、裁判例が集積してきたためか、ヒアリングが設定されることはなく、申立書の提出から数日以内に命令が下されることもあり、筆者の実務経験上、即日に認容命令が下されたこともあります(午前に申し立て、その日の夕方に発令)。
裁判所の認容命令からGoogleによる開示まで
裁判所から認容命令が発令されると、同命令および召喚状(Subpoena)をGoogleに対して送付します。
これらの書類を受け取ったGoogleは、アカウント保有者に対して、電子メールにて、21日間の期間を定めて異議を提出することが可能である旨の照会をします。
同期間においてアカウント保有者から異議の提出がなかった場合には、Googleから同じく電子メールにてアカウント保有者に関する情報が届きます。
Googleから開示を受けた後の手続
アカウント保有者がGoogleのどのサービスを使っていたとしても、各サービスの前提としてGoogleアカウントの作成が必要であり、当該アカウントに登録した以下の情報が開示されます。
- 氏名
- Gmailアドレス
- 以外の連絡用メールアドレス
- アカウント作成日時
- SMS用電話番号
- IPアドレス
この中で特に有用なのが、「⑤SMS用電話番号」です。アカウント作成にあたってSMS(ショートメッセージサービス)で認証番号を受け取るための電話番号であるため、他の情報と比べて信用性の高い情報となります。
この電話番号が、被害者においてすでに保有している知人または顧客の電話番号と一致すれば、この時点でアカウント保有者を特定できることになります。
また、そうでなくとも、この電話番号について、弁護士法23条の2に基づく照会制度を利用することで、当該電話番号に関する契約者の氏名、住所といった情報を入手することが可能になります。
最後に
以上のとおり、現状においては、Googleアカウントについて証拠開示制度(ディスカバリー)の活用する場合、最短で3週間程度でアカウント保有者を特定することが可能になっています。
そのため、早急にアカウント保有者を特定する必要性が高い事案については、非常に有用な制度となっています。

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